死神の浮力 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 7695
感想 : 486
  • Amazon.co.jp ・本 (538ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167906474

作品紹介・あらすじ

シリーズ累計115万部、大ヒット作待望の文庫化!娘を殺された作家は、無罪になった犯人への復讐を計画していた。人間の生死を判定する〝死神〟の千葉は、彼と共に犯人を追うが――。

感想・レビュー・書評

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  • 娘を殺された山野辺夫妻は、無罪判決を受けた犯人・本城への復讐を計画。そこへ死神で調査部員の千葉が山野辺のもとへ訪れ【死】の可否判断を行う。復習は成功するのか?そして山野部自身の【死】の判定は?死神と人間界のやり取りが描かれた長編ミステリ。

    前読「死神の精度」に続き連読。
    今から674日前の私に『小説読むのなら伊坂幸太郎だったら大方間違いないよ』と薦めてくれた友人に心から感謝したい。

    伊坂幸太郎、恐れ入った。
    本作品、500ページを超える作品だったため、若干の中弛みはあったものの総括面白かった。連作短編だった死神の精度も良かったが、長編もしっかり楽しめた。

    本作は死神の千葉が7日間の調査によって対象者の死に可否を下す…という設定から、Day 1〜Day 7に加えプロローグとエピローグで構成されている。

    人気作家・山野辺の小学生だった娘が毒殺、しかし犯人の本城は証拠不十分により無罪判決。司法の裁きではなく、自らの手で制裁を企てる山野辺夫妻のセリフに行動に、娘を持つ親として感情を持っていかれた。作中には愛娘が死するまでの描写もあり、なかなか辛かった。

    ただ、その中でも救いは山野辺夫人の存在だ。
    時に主人と共に怒りと悲しみを共有しつつ、主人や千葉と冗談を交えたトークにはホッコリさせられた。何よりサバサバとした性格が良い。素敵なご婦人なのである。

    そして、本作最大の魅力は死神の精度からブレない死神・千葉の一貫したキャラ設定だ。

    過去に参勤交代の経験談を語るシーンは、思わず声を出して笑ってしまった。そして如何なる苦境のシーンでも『ところで音楽は聴けないのか』と気にするところは、もはやコメディである。

    一方で前作に続き本作でも、数多くの千葉語録があった。

    愛娘との思い出を回想し涙を流す運転中の山野辺に対して千葉が放つ。

    「目にワイパーでもつけておけ」

    慰めより沁みる。

    「絶対と言い切れることがあるとすれば、人は死ぬ、ということだけだ。人は必ず死ぬ」

    知ってる。知ってるけど沁みる。

    そして、夫婦の復讐劇の顛末、山野辺の8日目、エピローグどれも秀逸過ぎて善きが過ぎる。

    千葉が憑く対象者も、そして読者はある種死神に救われる物語なのではないだろうか。取り分け私個人としては今もなお感慨に耽る作品である。


    そろそろ今秋に受験する資格試験勉強の準備をはじめなければいけないこのタイミングで、また好きな著者が1人増えてしまった。本棚にずらりと並ぶ未読の伊坂幸太郎作品たち。さて困った。さてはて困ったぞ。

    • Kaniさん
      akodamさん、頑張れ!!
      (๑•̀o•́๑)۶ FIGHT☆ͦ
      akodamさん、頑張れ!!
      (๑•̀o•́๑)۶ FIGHT☆ͦ
      2022/06/05
    • みたらし娘さん
      akodamさん✩
      こんばんは!いつもありがとうございます(^^)
      【死神の浮力】読み終わりました〜!
      参勤交代、わたしも笑いました笑
      千葉...
      akodamさん✩
      こんばんは!いつもありがとうございます(^^)
      【死神の浮力】読み終わりました〜!
      参勤交代、わたしも笑いました笑
      千葉のキャラだからこその面白さですね笑

      面白さだけじゃなくて、犯人の怖さとか、死への考え方とか、最後は切なさもあってとても楽しめました!
      ありがとうございました(*´ω`*)
      2022/06/19
    • akodamさん
      みたらし娘さん、おはようございます!

      本作、読み終えたのですね!
      長編故の感情のアラカルトを、みたらし娘さんと同じように私も堪能しました。...
      みたらし娘さん、おはようございます!

      本作、読み終えたのですね!
      長編故の感情のアラカルトを、みたらし娘さんと同じように私も堪能しました。千葉シリーズ、続編してほしいです。゚(゚´Д`゚)゚。

      コメントとご報告ありがとうございました^ ^
      2022/06/20
  • 終始続くズレがたまらなく面白いです。人のために面倒くさいことしたいですよね。敬意です。

  • 死神の千葉さん、再来!
    ミュージックをこよなく愛し、渋滞を憎む。そんな彼は参勤交代が嫌いだったという(笑)
    死神の仕事は、調査対象を観察し、「可」か「見送り」か判定すること。もし「可」ならば、8日目に対象は死ぬことになるが、今回は特例があるらしい。

    たっぷりの長編で、前作を上回るトンチンカンな千葉節を堪能できる。
    そして、千葉の死神的能力も遺憾なく発揮される。素手に触れた人を昏倒させ、拷問にも顔色ひとつ変えず、超聴力で聞こえるはずのない声を聞き、自動車と同じスピードで自転車を漕ぎ…

    もっとも、飄々としたやり取りに笑えても、あらすじは重くて苦しい。

    千葉の調査対象になったのは作家の山野辺。山野辺夫妻は、小学生の一人娘を無惨に殺され、犯人の本城への復讐を計画していた。
    本城はゲームのように人を支配して「理不尽な不幸」を楽しむサイコパスだった。そもそも裁判の証拠すら本城が計画的に作ったものであり、無罪となって釈放された後、山野辺夫妻を出し抜いていたぶろうとする。
    千葉は山野辺夫妻に接触し、復讐のための7日間を共に行動する。

    時々挿入される娘の生前のエピソード。夫妻は娘を思って涙を流す。癒えない悲しみには胸が痛くなる。
    「人は必ず死ぬ」けれど、こんな事件で、子が親より先に死ぬのは本当にやるせない。
    山野辺のお父さんのように、「じゃあ、俺が先に行って、怖いかどうか見てこよう」って、言わせてほしい。

    本城もまた死神の調査対象となっていることがわかっていて、どういう結果になるのか、夫妻の復讐は果たせるのかと、最後までページを捲る手が止まらなくなる。
    仇を討てばそれでよいという将軍の言葉、娘の描いた絵本の内容、記者が投げつけたなつみ饅頭、情報部のミスによる還元キャンペーン、そしてタイトルにもある「浮力」等々、あぁ、こんな最初から伏線が張られていたのだなと、毎回驚いてしまう。
    伊坂さんらしく、スピーディーな展開と、キレのある台詞が最初から最後まで楽しめる。重いけれどおすすめだ。

    ★4.5

  • 死神シリーズの続編。
    私は死神の千葉さんの大ファンです。千葉さんのとんちんかんな返事に今作品もたくさん笑わせてもらいました。

  • 対象の人物を調査し、
    死ぬかどうか「可」「否」を判断する
    死神が主人公のシリーズ二作目
    今回は長編(前作は短編集だった)

    主人公の千葉(死神には配属される地域の、あたりに馴染みのある地名をつける事が多いらしい)は、娘を殺されてしまった男を調査することになり、犯人への復讐に同行することになる。
    彼が調査する日はだいたい雨が降っている。

    伊坂幸太郎さんの作品では
    自分の脳内で「音楽がかかる」作品が
    何作か(斉藤和義や、サンボマスター
    ビートルズとか色々)
    「死神」シリーズもその一つ

    私の場合は「ジョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ハートマン」の
    「They Say It's Wonderful」で

    「ラッシュライフ」を読んだ後に題名と同名の曲の入ったアルバムを買いに行ったこと、この曲が使われているauのcmが雨の場面だった事
    そのせいかいつも同じ曲が頭をよぎる。

    死神達が長い間人間を観察し
    昔のことには詳しいのに、現代のことだと勘違いを起こすのがなんだか違和感があったが、そんなに人間に興味がないからなのだろうと納得する。

    何というか…「死神の精度」のときとは違い長編なので仕方がないのだが、長い…(前作の時はむしろ、早く感じたり…バリエーションを楽しんでいた)
    千葉が話す「以前に、人間達を観察したときに仕入れた知識」の説明が何回も入ってくるのが、ちょっと読んでて辛かった。また、調査対象の男も同様の振り返りがあり扱うテーマに沿った内容であるものの「知識披露」の繰り返しの様に感じてしまった。
    なんかリズムを崩してるような…

    読んでる間、小雨が降り続いてる様なモヤモヤ感

    「どのような基準で可否を判定するのか?」明確な基準がないまま判定している状態が何年も続いているのが不思議、なのに仕事に対しては「ちゃんとしなくては」という千葉、他の死神達よりも真面目
    彼らの考え方を想像するのがなかなか楽しい。
    不明なとこが多いけど。

    死神達は、音楽を好む。
    隙あらばカーラジオやラジカセなどで音楽を聴こうとする千葉
    この本は連休中、外出先に持ち歩いて読んでいて、隙あらば本を読もうとして妻に怒られてしまったので、なんか少しだけリンクしていた。

  • あの時の父はこう言った。「じゃあ、俺が先に行って、怖いかどうか見てこよう」(489p)

    私の父親は、そんな優しいことは言ってくれなかった。ある日見舞いに行くと、「死んでいくとはこういうことなんだな。やっとわかったよ」と悟ったようなことを言っていたかと思えば、ある日行くと「痛い、怖い、怖い、痛い。そばにいておくれ」と泣きつき、ある日行くと「ありがとう」と生涯言ったこともないような殊勝なことを言っていた。ある日行くと昏睡状態に入っていて、二度と目を覚まさなかった。

    伊坂幸太郎の死神千葉シリーズは先が見えない。先が見えないからこそ、死は怖く、いつの時代も人間にとっては最大の難問になっている。

    でも、この本を読んで私は「はっ」と思った。父はあの三ヶ月間で、行って帰ってきてくれていたんだ、と。

    • kuma0504さん
      まことさん、ありがとうございます。
      実は、書評を書き出した段階では、「私の父親は、そんな優しいことは言ってくれなかった」というのがテーマだっ...
      まことさん、ありがとうございます。
      実は、書評を書き出した段階では、「私の父親は、そんな優しいことは言ってくれなかった」というのがテーマだったんです。
      でも、8年前のあの時のことを思い出して書いていると、はっと、気がついてしまいました。
      膵臓癌の父親の看護は、とても大変だったけど、とっても貴重な体験をさせてもらったとホントにあの時思っていました。もちろん、後悔もたくさんありますが、それも時間が癒してくれます。
      3日後に父親の十三回忌があります。
      2020/03/25
    • まことさん
      kuma0504さん♪

      この作品を、先に逝く父親と、子供の物語としてとらえたところが素晴らしいと思います。
      kuma0504さん♪

      この作品を、先に逝く父親と、子供の物語としてとらえたところが素晴らしいと思います。
      2020/03/25
    • kuma0504さん
      まことさん、
      肝心の小説の中身の方は、今すっかり忘れております(^_^;)。
      まことさん、
      肝心の小説の中身の方は、今すっかり忘れております(^_^;)。
      2020/03/25
  • 【死神の精度】の続編。
    今回は娘を殺された夫婦と共に千葉が犯人を追う。

    相変わらずの千葉節?というのか笑
    参勤交代の話とかロミオとジュリエットの話とか好き笑
    どうなるのか気になってのめり込んだけど、犯人の結末とか、チャリンコのとこ(めちゃめちゃ好きだけど笑)とか、ちょっとぶっ飛びすぎてるなあと思ったので星4つ。
    でも面白かった〜!!

    最後は切ない(´・ω・`)
    面白いし、さらに前作よりも"死"ということをすごい考えさせられる話だった。

    【死神の精度】【死神の浮力】2冊まとめておすすめです!

    • akodamさん
      みたらし娘さん、おはようございます!
      私の本作レビューへのコメントと読了のご報告ありがとうございました(´∀`*)

      私も伊坂幸太郎デビュー...
      みたらし娘さん、おはようございます!
      私の本作レビューへのコメントと読了のご報告ありがとうございました(´∀`*)

      私も伊坂幸太郎デビューして間もないですが、初読が死神シリーズで良かったなぁと、みたらし娘さんのレビューを読んで改めて思いました。素敵なレビューをありがとうございました^ ^
      2022/06/20
  • サイコパス、本城に愛娘を殺された山野辺夫妻の復讐劇。山野辺さんの死は「可」かどうか死神千葉さんが調査に取り憑く?お話。

    前作に続き人間とはズレた感性の千葉さんの言動が、たまらなく面白い。
    次々と本城から仕掛けられる罠、緊張感ある中の千葉さんが繰り出す言動...
    死神界の寿命還元キャンペーンがこんなオチになるとは⁉︎

    山野辺さんのお父さんが、本当に怖いかどうか先に見てくるの件は何かウルっとしました。
    後半の本城を追いかけるカーチェイス?はドキドキでした‼︎

    オモシロかったです♪

  • 通勤電車の中で何度くすくす笑って、
    何度うるうるしたか…
    電車の中の伊坂作品…、至福の時間です❣️

  • 前回は短編だったけれど、今回はがっつり長編てしたね。
    死神なのを隠し人間に合わせて取り繕う態度や会話のやりとりが相変わらずちょっとズレていて面白おかしいです。
    視点が千葉さん側、山野辺さんとコロコロ変わりながら進んでいきます。

    サイコパスとのやり取りでヤキモキする部分もありますが、突拍子もない千葉さんのやり取りで流れが変わったりします。

    復讐心に燃える家族とのやりとりはありつつも、ちょっと気が抜ける。面白かったです。

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著者プロフィール

1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒。2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、デビュー。04年に『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治文学新人賞、短編「死神の精度」で日本推理作家協会賞(短編部門)、08年『ゴールデンスランバー』で本屋大賞と山本周五郎賞、14年『マリアビートル』で大学読書人大賞、20年『逆ソクラテス』で柴田錬三郎賞を受賞。その他の小説に『クジラアタマの王様』『フーガはユーガ』『ホワイトラビット』『AX』『サブマリン』『陽気なギャングは三つ数えろ』『火星に住むつもりかい?』『重力ピエロ』『グラスホッパー』などがあるほか、阿部和重氏との合作『キャプテンサンダーボルト』、八組の作家による文芸競作企画「螺旋プロジェクト」から生まれた『シーソーモンスター』がある。

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