ジョイランド (文春文庫 キ 2-48)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167906665

作品紹介・あらすじ

巨匠が放つノスタルジックで切ない青春ミステリー遊園地でアルバイトを始めた大学生のぼくは、幽霊屋敷に出没する殺人鬼と対決する……もう戻れない青春時代を美しく描く巨匠の新作。

感想・レビュー・書評

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  •  2013年刊。
     ジャンルは「ミステリー」ということらしい。が、半ばほど読んでもなかなかミステリーらしさは無い。60代の筆者が21歳の頃の夏から秋にかけての体験を回想し、叙述していく内容は「青春小説」である。大学生の彼がジョイランドという遊園地で働くのだが、その遊園地の中の幽霊屋敷には本物の幽霊が出るという。その幽霊の正体は以前そこで殺害された女性の霊なのだそうで、彼女を殺したのは誰か、ということが本作の「ミステリー」としての主眼となる。幽霊が出てくるからいつものキングのホラーとしての色彩も濃いはず。
     しかし、このエピソードは当面、物語の核の部分には無くて、150ページを超えてもまだまだストーリーは青春物語であって、失恋の痛手やら、夏に出会った人々との交流が丁寧に描かれ続ける。従って小説の大半は「怪奇」や「謎」への求心力に支えられているわけではないのだが、ぐいぐいと読ませるキングの語りは本当に見事だ。
     ここには、キング特有の一人称独白体の魅力が溢れている。そのモノローグ体は典型的なアメリカ人の語りを示しているようにかねてから私は感じていた。モノローグの肉薄性、リアルさ、重さという点で共通性を感じるのはドストエフスキーだ。ドストエフスキーの小説内のモノローグも、私は当初ロシア人の典型的な語り口なのかなと感じていたが、よく考えたらそれはロシア人の普遍的な語りというよりも、やはりドストエフスキー個人のそれなのだった。キングの場合もやはり、アメリカ人の普遍というよりも、キング個人の体質が現れているのだろう。
     モノローグの魅力に加えて、順次描かれていく小エピソードの配列の仕方が、「読ませる小説」特有の巧みな技に則っているのに違いない。読み進むにつれて引き込まれ、読者は語る主体に導かれて彼の経験を一体となって経験していくのである。
     ようやくミステリーらしくなっていくのは小説の残り3分の1くらいになってからだ。徐々に過去の殺人事件についての謎解きに引き込まれ、同時に「幽霊の出現」というキングらしい超自然現象のカラーも明確になっていく。クライマックスは実にサスペンスフルだ。最後の最後に、ああ、これはミステリーだったと納得させられる構造になっている。
     ミステリーであり、ホラー要素もあるが、読者の記憶に残る全体的な印象やエピソードはやはり、みずみずしい青春小説のそれである。それは輝かしく、同時に痛みを伴っており、切実で愛おしいような追憶だ。
     これはスティーヴン・キングの傑作だと思う。

  • 傑作!キングの本なので反射的に購入してしまったけれど、正直なんの期待もなかった。
    いや、面白いではないか、泣けるではないか!
    女の子としたい盛りの大学生の主人公は冒頭で振られてしまう。夏のバイト先として選んだ遊園地で不気味な体験と素敵な経験をする。筋ジストロフィーにかかった男の子とのふれあいは泣かせる要素満載。ホラー要素をちょっぴり効かせたミステリーで痛いところをえぐるのだけれど、最近のキング、人間に対して優しくなってない?厳しい状況を描くなかにも優しさが溢れている感じ。出張帰りの新幹線の中で泣いてしまった。ささくれ立った心にしみる、穴場的傑作。

  • これはミステリーなのか、青春モノなのか。
    21歳の夏に『ぼく』は失恋を経験し、ジョイランドでのバイトを通じて人助けを経験し、初体験を経験し、連続殺人犯に殺されそうになったり、様々な経験をする。
    ぼくが経験する全てが瑞々しく、自分がその年代だった頃に投影して、こういう感じわかるなぁと切なくなります。
    ジャンルとしては、青春ミステリーってことになるのかな。映像化してもヒットしそう。オススメです。

  • 2021.1.5

    うーん。スタンドバイミーって感じ。
    ただ、2/3読み終わっても面白く感じられなくて、結局最後まで面白いと思えなかった。
    翻訳が微妙。デヴが犯人に辿り着く過程や、何度も出てきた「白じゃない」の意味が曖昧。(後者に関してはわたしが見落としているのかも。飽きてきてババーっと読んでしまったから笑)

    唯一、昔ながらの遊園地をマイクと一緒に巡っているところは、なんだかノスタルジックな雰囲気を味わえて良かった。

  • 大学生時代の遊園地バイトでの甘酸っぱい青春、そこで起きた恐ろしい事件を回想形式で振り返るという、フォーマットこそスタンドバイミーと似通ってはいるが、焼き直し感は感じずウェルメイドな一級品の青春ミステリに仕上がっている。恋愛要素が特に最初の不安感を孕んだ失恋のくだりから、沢山の大人に囲まれて働いて、周囲の信頼を勝ち取っていくさまは、自身のバイト経験を振り返って共感することが多く、恋愛だけではなく仕事の青春という側面もある。主人公が絶妙にモテない等身大の男子大学生というのもあって、語り口はロマンチックに過ぎるが、友達の彼女との間に一瞬芽生えた、タイミングの違いによる恋愛の萌芽などは、青春期の恋心の切なさを非常に的確に捉えている。シングルマザーとも恋仲になるが、そこに未来がないのは互いに分かっており、年上の女性に対する思慕や恋慕で留める筆致がまた小憎らしくて素晴らしいのだ。アニーの言う「住む世界が違う」はまさにその通りで、世界の違いを認識したその瞬間に、青春は終わる。ただ、一瞬でも重なり合った世界と生まれた感情は紛れもない本物であり、人生にはそういった運命的な出会いが訪れる瞬間が何度かある。そしてそれは、振り返ったときにしか分からないものなのだろう。話の核となる遊園地の殺人鬼の話も面白く、荒唐無稽な怪談に過ぎない話が、徐々に輪郭ができて実体化する恐怖はまさしくモダンホラーの帝王ならではの筆運びで、犯人こそ分かったものの、後半の怒涛の展開は流石の一言である。主人公は幽霊が見えない、というのがまさか最後の最後まで貫くとは思わなかった。また、善意が裏切られることなく、最後の最後でその善意が主人公の身を助けたというのが、個人的には一番の感動ポイントだった。こういう無駄に思えた善意がちゃんと報われる話は大好きである。クライマックスの映画的なスペクタクル、一抹の悲しみ、そしてエンディングの凧のシーンは感涙必死である。潰れた遊園地、アニーの言葉、それらが青春の終わりを実感させるのだ。キング作品は久しぶりに読んだが、一番キング作品を読んでいた高校〜大学時代にタイムスリップしてしまったかのような、そんな思い出深い一冊だった。これからもキングを読むと固く決意すると同時に、やはりキングは稀代のストーリーテラーであると認識した一冊である。

  • キングの『ドクター・スリープ』という本を入手した。いつもの様に訳者あとがきを先に読むと、なんとズバリ「前作『シャイニング』を先に読むべし」と書いてあった。『シャイニング』は未読だったので、アマゾンプライムで15秒後には観始められる映画『シャイニング』を観た。でも、どうにも納得行かなくて『ドクター・スリープ』はしばし置いて、本書『ジョイランド』を読んだ。ところが『シャイニング』の印象が強すぎてなんとも『ジョイランド』には入り込めないままに読み終わってしまった。こういう感想もたまにはいいだろm(_ _)m

  • 2018年1月30日読了。彼女との別れを引きずる大学生・デヴは、バイト先の遊園地「ジョイランド」に現れる幽霊の噂を聞き…。青春ミステリ、「遊園地」という舞台で独特の用語が飛び交い、男女との友情・労働で流す汗・年上の女性への思慕・そして体験する超常現象、などの要素を懐かしさを喚起する固有名詞を取り混ぜつつ怒涛のように進めるキングの筆はさすが…。圧倒的な横綱相撲で素直に寄り切られた、という感じ。癖のある人生の師匠(のおっさん)、教え導くべき子ども、そして女性。思春期の男にはそのどれもが必要だ、ってことかな…自分はどうだったか。

  • ロンドンの空港でペーパーバックを購入して読んでいたがそのうちに日本語版が出版されこちらに切り替えた。テイスト的には『スタンド・バイ・ミー』に近いか。個性的で魅力的な登場人物の中で古めいた遊園地を舞台に物語が紡がれていく。ホラー主軸ではないがそれがロマンスの周辺にスパイス的にちりばめられて飽きさせない。そして忘れてはいけないのは藤田新策。もう還暦を迎えたであろう氏の素晴らしい装丁はいまだに健在。ジャケ買いと言われても差し支えない。

  • 私の好きなタイプのキング作品だった。
    (個人的な好みだが、SF展開のキングは好きではない。)

    過ぎ去った≪古き良き時代≫を懐かしみ、慈しむ心が感じられて、かと言って「あの頃は良かった」と言うわけでもなく。
    私にはキング作品が持つそういう雰囲気がどことなく心地良いのだ。
    別に70年代のアメリカにいた訳でもないのに。

    人に薦めやすいキング作品とも言えるかも。
    映像化もしやすそう。

  • 遊園地「ジョイランド」で働く青年のひと夏の物語。一応メインの筋書きとしては、ホラーハウスで起こった殺人とそこに出るという幽霊の噂、そして事件の犯人探しというミステリではあるのですが。読んだ印象では、あくまでもそれは要素に過ぎないような気も。ひたすら主人公の素晴らしくそして苦くもある青春の物語でした。
    この主人公がなんだか好感もてるなあ。失恋しそうなのに気付かないふりをしてうじうじしてるところとか、少し笑えてしまうのだけれど。ジョイランドでの仕事にやりがいを見出して生き生きしていくさまにわくわくさせられました。そして不思議な少年との出会いも微笑ましくて素敵。完全に幸せばかりではなかったけれど、清々しい物語でした。

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著者プロフィール

1947年メイン州生まれ。高校教師、ボイラーマンといった仕事のかたわら、執筆を続ける。74年に「キャリー」でデビューし、好評を博した。その後、『呪われた町』『デッド・ゾーン』など、次々とベストセラーを叩き出し、「モダン・ホラーの帝王」と呼ばれる。代表作に『シャイニング』『IT』『グリーン・マイル』など。「ダーク・タワー」シリーズは、これまでのキング作品の登場人物が縦断して出てきたりと、著者の集大成といえる大作である。全米図書賞特別功労賞、O・ヘンリ賞、世界幻想文学大賞、ブラム・ストーカー賞など受賞多数。

「2017年 『ダークタワー VII 暗黒の塔 下 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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