永い言い訳 (文春文庫 に 20-2)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167906702

作品紹介・あらすじ

妻が死んでも泣けない男のラブストーリー。映画化話題作

予期せず家族を失った者たちは、どのように人生を取り戻すのか――。人を愛することの「素晴らしさと歯がゆさ」を描ききった物語。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、愛する人を不慮の事故で突然亡くした人のその後に、どんな人生を思い浮かべるでしょうか?

    この世には思いがけず命を落とす不慮の事故が後を絶ちません。ツアーバスによる痛ましい事故など記憶に残る事故も思い浮かびます。そして、事故で不幸にも亡くなった人の多くに家族がいたはずです。そんな家族の視点から見れば、行ってきますと元気に見送った瞬間、それがまさかの最後の時間になってしまうとはよもや思わなかったはずです。

    予期せずいなくなった家族を思う感情の一方で、そんな家族がいなくなった後も日常を生きていく家族たち。報道で事故により亡くなった人たちの存在は意識しても、私たちは残された家族の存在までは見えません。そんな家族たちはその後何を思い生きていくのでしょうか?

    さてここに、『妻を突然事故で失った作家』のその後の人生を描いた物語があります。売れない時代を支えてくれた妻の存在。この作品はそんな作家が同じ様に妻を亡くした男性と知り合う様を見る物語。そんな出会いの先に作家の感情に変化が生じていくのを見る物語。そしてそれは、あなたが「永い言い訳」という書名の意味を深く噛み締めることになる物語です。

    『だいたい名前を言えば、人に一発で覚えられるだろ』、『だからそれが嫌なんだよ』と父親に自身の名前が不服であることを言い続けるのは主人公の衣笠幸夫(きぬがさ さちお)。『広島東洋カープの衣笠祥雄選手』と同じ名前であることをマイナス感情に思う幸夫はやがて作家となり『「津村啓」というペンネームを持』つことになります。そんな幸夫は『大学四年生になった』時、『就職活動の会社面接が一つ終わった帰り道、伸びすぎた髪を切ろうと通りがかりの美容室に飛び込』みました。そして、『首にケープを巻かれた時に』担当してくれた美容師が、大学の『同じクラス』だったものの後期に入って辞めてしまった同期生だと気づきます。『衣笠君と』呼ぶ彼女は『ずっと憧れてたのよ。子供の頃から人の頭をいじるのが好きで』と語りますが、幸夫は彼女の名前がどうしても思い出せません。結局、『平謝りで名前を尋ねると、彼女は笑い、夏子だよ。田中夏子です』と答えてくれました。そんな再会の先に結婚した二人。その後、出版社に就職した幸夫でしたが、『入社当初から文芸の担当に希望を出』すも叶わず、『週刊誌の女性グラビアページを担当』する中に『書くなら今だ』と退職し『退路を断』ちました。『賛成。でないとあなた、書く前に作家ってものが嫌いになっちゃうと思う』言ってくれた夏子が『自分の美容室を出すつもりで蓄財もしてきた』ことを背景に生活を支えてくれます。とは言え『書いても書いても、何の賞にも引っかからず…』という日々を送る幸夫でしたが、ようやく『作品が少しずつ人々の目に留まり始め』ます。そして、夏子が『家計を支える必要はなくなり、四年前にはついに自分の美容室も開』くことができました。しかし、『安堵という感情と引き換えに、私は私の生きている意味を、すっかり見失っ』てしまった夏子。
    場面は変わり、『毎年恒例にしてきた』『二人旅』で、ゆきちゃんとの待ち合わせ時間を気にする夏子。そんな夏子は、『リビングのテレビ』に映る幸夫の姿を見ます。そんな時『ついこないだ収録したのに、ずいぶんオンエア早いんだな』と帰宅した幸夫が部屋に入ってきました。『髪の毛どうするつもりなの』、『明後日パーティだから切らなきゃって言ってたよね』と訊く夏子は『三十分後には出る』と告げ、幸夫の髪の毛を切り始めました。『一体いつから、こんなに気詰まりな関係になったんだろう…さりげない会話の糸口が一つも見つからない』と思う夏子は、カットの後、『後片付けは、お願いね』と言い残すと家を後にしますが『それが、衣笠幸夫と衣笠夏子の、別れの挨拶となった』という瞬間になってしまいます。
    視点が変わり、『やっぱり不憫なもんよ。お前が言うか、と言われるだろうけど。だって売れない時代、十年近く、文句も言わずに旦那のこと食わせてきた挙げ句、こんな小娘に寝盗られちゃうってさ。哀れだよ』と思うのは『愛人』の『私』。そんな『私』が、チャンネルを変えると、『山形県の、なんちゃら村のなんちゃら峠で、スキーツアーの観光客を乗せたバスが下りのカーブを曲がり切れずに…』とニュース報道が流れます。『あーあーあ。と、先生と二人、声を揃え』て見る『私』は留守電が録音されるのを聞きます。『お尋ねしたいことがございますので、メッセージをお聴きになりましたら、おかけ直し頂けますか』という声は『山形県警のひとから』でした。
    再び視点は変わり、『戸沢村温泉ホテル支配人の浜口と申します…』という留守番メッセージを聞くのは大宮陽一。『チェックインされているお客様の中に、オオミヤ・ユキ様のお名前はございませんでした』というメッセージに衝撃を受ける陽一は息子の真平、娘の灯とともに事故現場へと向かいます。
    幸夫と陽一、ともに事故で妻を亡くした二人が繋がりを持ちながらそれからの日々を生きていく姿が描かれていきます。

    2016年本屋大賞で第4位にランクインしたこの作品。そんな作品は、”長年連れ添った妻・夏子を突然のバス事故で失った、人気作家の津村啓。悲しさを’演じる’ことしかできなかった津村は、同じ事故で母親を失った一家と出会い、はじめて夏子と向き合い始めるが…。突然家族を失った者たちは、どのように人生を取り戻すのか。人間の関係の幸福と不確かさを描いた感動の物語”と内容紹介にうたわれています。映画監督であり、脚本家でもあるという作者の西川美和さんが描かれたこの作品は同年に本木雅弘さん、深津絵里さんらが主演で映画化もされています。

    私は今回初めて西川さんが執筆された作品を読みましたが映像のプロでもいらっしゃる西川さんならではの文字表現にまず着目しました。それが一番感じられたのが、事故で亡くなった夏子の遺影を描写したこんな表現です。

     『数年前に美容業界の専門誌の取材を受けた時、プロのカメラマンに撮ってもらったもので、髪型も化粧も、普段に増してきちんと整えられ、ごく浅い被写界深度のフォーカスは、澄んだ瞳とまっすぐな鼻筋にのみにぴったりと合って、まるで映画の一場面から切り抜いてきたようだと思った』。

    『映画の一場面』というからには元の『映画』のイメージがあるはずであり、それは西川さんが普段から撮り慣れていらっしゃるものなのだと思います。また、そんな遺影を抱える幸夫が挨拶から車に乗り込むまでの表現には、映像が浮かび上がってくるかのような表現もなされていきます。

     『ぼく自身が途中で声を詰まらせると、今だとばかりに報道のカメラのシャッター音が蟬時雨のように連なった』。
       ↓
     『遺骨を抱えて用意された車に乗り込むまでの間もシャッターは鳴り止まず』
       ↓
     『中には直接マイクを向けて質問を投げかけてくる記者もいたが、軽く会釈を返すのみでぼくらは伏し目がちにその間をすり抜け、葬儀場を後にした』。
       ↓
     『動き出した車の後部座席からふとルームミラーを覗いて自分の顔を見ると、朝自分でセットした前髪が妙な分け目に割れて犬のちんこみたいに額に垂れ下がっていた』。
       ↓
     『ぼくは小さくため息をついた』。

    いかがでしょうか。ほんの一部分の抜き出しにも関わらずそこには映像が浮かび上がってきます。この作品はそのまま映画の原作でもあり文字から映像が出来上がっていく途上を見るようにも感じました。また、映像に繋がるのではなくあくまで文字の表現として魅せてくれる箇所も多々あります。巧みな比喩表現を三つご紹介します。

     ・『夏子は、不発弾のように埋まっている幸夫の才能に期待を寄せてくれる唯一の他人だった』。

     ・『幸夫くんは、寄せては来る波に怖じ気づくことなく、がむしゃらに迎え撃った。思ったより意気地があり、思ったより器用で、思ったより波に乗るのがうまかった』。

     ・『大きすぎる喪失に打ちのめされた人々はどこか川を隔てた向こうの住人のようで、よもや自分がその川を渡って対岸に行くようには思えなかったのである』。

    『不発弾』、『波』、そして『川』という三つの例えはなかなかに絶妙です。読んでいて心地の良い比喩表現の数々。映像視点だけでない魅力がこの作品にはあると思いました。

    一方で、この作品は、理解が難しいと感じさせる表現に全体が覆われているように思います。正直なところそれが何であるのかになかなか気づけなかったのですが、柴田元幸さんによる〈解説〉の次の一文が鮮やかに解き明かしてくださいました。

     “物語は複数の視点が入れ替わり立ち替わり現われる形で語られる”、”複数の語りがパズルのピースのようにピタッと合わさって最後は全体像がきれいに出来上がる、ということでもない”

    この作品では、章と言ってよいのかはわかりませんが、小見出しが二十ヶ所以上に付けられています。『妻』、『愛人』、『ぼく』、『奉公娘』、『編集者』…といったものとアイコンのようなイラストで区切られるものがあります。この小見出しによって視点が交代するのは分かるのですが、その切り替えがあまりに多いのと、今ひとつぼんやりとした切り替えにも思われる部分もあり、全体像が少々掴みづらいと感じました。

    そんなこの作品は衣笠幸夫(ペンネーム: 津村啓)と、大宮陽一という二人の男性が、同じバスの事故によって一夜にして妻を失うという共通点をキーに展開していきます。二人のうち、より比重が置かれるのは作家でもある幸夫です。作家でもある幸夫は、駆け出しの作家として売れない時代を、美容師として働く妻の夏子に支えられながら生きてきました。それが、作家として芽が出始めたことで二人の生活は一変します。『安堵という感情と引き換えに、私は私の生きている意味を、すっかり見失った』という夏子の一方で、夫の幸夫は妻の留守に愛人を自宅に招き入れるなど二人の心が冷えてしまった様が描かれていきます。幸夫にとってはそんな中での妻の急死という構図になります。一方で陽一は、息子の真平が私立中学受験に邁進する一方で、娘の灯はまだまだ手がかかる中、『中距離から長距離の輸送の仕事』を続け、妻の急死という状況に追い込まれました。物語では、そんな陽一の家庭に独り身の幸夫が手を差し伸べていく様子が描かれていきます。そんな中に幸夫に大きな変化が訪れます。

     『一体何だろうか。この突発的に現れた庇護欲と使命感と、そして充足感は。父性を飛び越して、母性に走ったか』。

    物語は作家でもある幸夫の新たな一面も描かれていきます。微笑ましいとさえ思う幸夫の変わりようが描かれていく場面はもしかするとこの作品の一番の読みどころかもしれません。

     『色々やって分かったけど、育児の大変さに比べれば、仕事なんてたかが知れてると思ったね。とにかく彼らは生きてるんだもん』

    そんな風に語る幸夫の変化には読者も驚愕させられます。そして、そんな幸夫は妻に対する思い、亡くしたからこそ初めて気づくことのできる感情の存在に気づいてもいきます。

     『自分を大事に思ってくれる人を、簡単に手放しちゃいけない。みくびったり、おとしめたりしちゃいけない。そうしないと、ぼくみたいになる。ぼくみたいに、愛していいひとが、誰も居ない人生になる』

    ”予期せず家族を失った者たちは、どのように人生を取り戻すのか ー”。まさかのバス事故により妻を失った二人の男性の心の動きを描いていくこの作品。そこには、喪失から再生へと至る人の思いのあり様が描かれていたのだと思いました。

     『それが、衣笠幸夫と衣笠夏子の、別れの挨拶となった』

    全く予期せぬ中に、妻との突然の別れを経験することになった二人の男性のそれからが描かれたこの作品。そこには、同じく妻を亡くしたといってもそれまでの前提が全く異なる二人の物語が描かれていました。映像が見えるかのような表現に魅せられるこの作品。視点の切り替えに少し戸惑うこの作品。

    『長い』ではなく、「永い言い訳」と付けられた書名に、人の届かぬ思いを強く感じる、そんな作品でした。

  • 言い訳と小さな嘘は、自分の気持ちを隠す盾みたいなものかなと思っている。
    突然の観光バス事故で、妻を失った作家。彼は、自己愛が強く自尊心が高く自己中心的な男。妻との関係も事故が起きる随分前から壊れ気味だった。
    突然の事故で何を失ったかも気付いていない。
    この作家は、涙を見せず感情に流されず冷静冷淡に描かれるが、そこから徐々に感情が動いていくところが絶妙なんです。
    同じ事故で一緒に旅行に行っていた妻の友人も亡くなっていた。作家は、彼女の残された子供達の世話を買って出る。子供達と過ごすことで、今まで手に入れた事がない充実感に満たされていく。
    そこでのP263の一行。-愛を得たのだそうである。-なんて厳しい一行。この作家の行く末に寒々として数日小説を放棄した。
    案の定、彼と子供達の蜜月は、彼の子供じみた言い訳で終焉を迎える。
    そして、もうひとりの主人公、子供達の父親は、作家とは対照的な男。感情的で情が深いが、相手の見えないところは慮れない。この父親が起こした事件の処理に尽力した作家は、これをきっかけに、新たな子供達との関係を築き始める。永い言い訳に身を任せていた作家はようやく死んだ妻と向き合いはじめる。
    感情の表現を修飾語によらず、言い訳の裏に秘そませ中年男の悲哀を読ませていただきました。

    • ゆーき本さん
      わたし衣笠好きなんですよね(´-ᴗ-⸝⸝ก )
      わたし衣笠好きなんですよね(´-ᴗ-⸝⸝ก )
      2023/04/07
    • おびのりさん
      ゆーき本さん、そうなのよ。好きなのよ。
      あの人に気遣いしているのが、バレるのが恥ずかしくて、していないように振る舞ってしまう屈折感。
      ゆーき本さん、そうなのよ。好きなのよ。
      あの人に気遣いしているのが、バレるのが恥ずかしくて、していないように振る舞ってしまう屈折感。
      2023/04/07
    • みんみんさん
      困ったちゃん♪不器用で愛しい(〃ω〃)
      困ったちゃん♪不器用で愛しい(〃ω〃)
      2023/04/07
  • 愛妻家とそうでない主人公の妻が不慮の事故で亡くなってしまう物語。

    ひとを愛することとは…ということを投げかけるストーリー。

    『長い』でなく『永い』言い訳の意味がわかったような気がします。

  • 西川美和さんの作品は今回初読み。

    人気作家の津村啓(本名:衣笠幸夫)は、ある日突然妻を不慮のバス事故で亡くす。長年連れ去った夫婦だが、2人に子供はおらず夫婦関係も冷め切っており、妻が亡くなったその日も幸夫は愛人と密会中だった。
    事故は妻が親友と旅行中に起きており妻の親友も亡くなってしまう。被害者の会で、妻の親友の夫大宮陽一と幸夫は出会うが、愛妻家で2人の子持ちで直情型の陽一と全く正反対の幸夫。ふとしたきっかけで、陽一の子供たちの世話をかって出ることになった幸夫だが・・・

    最後は心温まる何かが得られるような期待があって読み進めたが、再生だとか、救いだとかそういう互いの物語ではなかった。

    愛した人を亡くすということ、愛してくれた人を亡くすということ、遺された者の生き方、飾りごと抜きで真正面から向かい合わずにはいられない作品だった。読み手の思考を誘導せず、分かりやすい応えを導くのではなく、ただその心情を剥き出しに表現し訴えかけてくるので、心して読まないと迷子になりそうな危うさすら感じた。

    幸夫と陽一の気質が全く違うのに、場面によっては其々に共感してしまった。
    これが遺された者の変化なのかもしれないし、「長い」言い訳でなく「永い」言い訳ならば、きっと遺された者が生きている間は、その死に対する受け入れ方は変化し続けるんだろう。そして、いずれそれが亡くなった者への供養に繋がっていくんだろうと思う。

    それにしても、幸夫くん。
    なんとも不器用でシニカルだなぁ。
    作家になる為に、犠牲にして手に入れたものの価値って如何程だったんだろう・・・
    愛してくれたなっちゃんが生きている間に、もっと気付けた筈だし変わって欲しかったなぁと切なくなった。きっと、なっちゃんも沢山言い残したこと、話したかったことあっただろうなぁ。

    たとえいつ亡くなったとしても、どんな終わり方を迎えても、自分なりに納得出来るような生き方をしていきたいと思った。

  • 『永い言い訳』読了。
    すごくよかった。この一言に尽きる作品でした。主人公の気持ちがイマイチよく分からなかったけど、最後の方でグッとくるものがきた。
    最初はすごく重かったけど、成り行きで始まった子どもたちの触れ合いが絶妙に面白かった。ちょっと笑った。
    人ってひとりで生きていけんよねって思った。本当に辛い時は誰かに頼ることも必要だなと。私も人に頼ったり甘えたりするの苦手だから、なんとなくその辺は主人公の気持ちは分かるような気がする。極端にぶった斬るところあるから、、、
    でも、その辺の器用そうで不器用なところが面白かった。
    一見、冷徹そうに見える人って実はどう感情を表に出せばいいのか分からないだけなのかもしれないな…
    だんだん途中で人間味が出てきてそれで面白かったのかもしれんです。はい。

    2021.7.9(1回目)

  • 妻を亡くした男と、母を亡くした子供たち。
    それにまつわる人々の多視点による長篇。
    人には様々な顔や思いや過去があり、それは本人以外にはある一面のほかは知る由もないし、また他者からは自分が自分の思いもよらない人に映っているものなのかもしれない。
    人物の描写や様々なシチュエーションはどれも或いは特殊なのにリアリティがある。
    悲しくて苦しくて切ないけれどシニカルで何だかおかしい。
    全ての視点は繋がりそうで繋がることは無い。
    でもそういうものだし、それでいいし、自分で落としどころを見つけながらそれでも生きていくのだな、と思えました。
    そしてわたしは幸夫くんが何故か好きだし幸せな夫であって欲しいなと思いました。

  • 個人的には主人公の傲慢さとか高飛車な感じがあって全く好きになれませんでしたが、それが良いアクセントなのだろうなとも感じました。

    本作はバスの事故で突如、妻を失った主人公と同じような境遇にある家族との交流を描く物語。特に上手いなと思ったことは、この2人の対比です。方や、関係性が崩壊しつつあった夫婦に対し、もう一方は順風満帆で円満な家庭。ここに事故で妻が亡くなるという共通のファクターを入れることで、対比構造を保ちつつも、ラストの2人の考え方が際立っているように感じました。

    途中、主人公の鬱屈したものの見方や意地の悪い性格に嫌気が来てしまって読むペースが落ちたので、評価としてはまずまずって感じです…

  • 主人公の男性は妻の死を受けとめるまでここまで時間を要したんだなという印象が強く残った。
    身近な人の死を受けとめ受け入れて生きていくということはとても辛く自分の心を消費することであって並大抵のことではない。これでもういいなとかここまできたからなどということではないので本当に人それぞれである。
    命がなくなるということは物理的にも人の気持ちにも迷惑がかかる。
    本当にその通りだなと思いました。
    主人公幸夫は好ましいような性格ではないけれども読めば読むほど人間の陰の部分、負の部分が人間味溢れていて逆に共感できる部分であった。
    永い言い訳
    身近な存在ほど失ってみないと後悔も感謝も実感できない。
    言い訳し続けないように生きていきたい。

  • 持つべきものは家族。途中、何度も胸が熱くなった。大宮ではなく津村側になってしまっている現実の自分の姿に置き換え、後悔しながら読んだ。もはや手遅れかとは思うが、我々はまだ二人とも生きている。作者の他の作品も読んでみようと思う。

  • 私はまだ小説というものの読み方がイマイチわかってないのかな?
    人それぞれなのかもしれませんが、スムーズしっくりと表現を受け入れられる時もあるけれど、それが出来ない時が、辛い。

    読み始めたら、最後まで読まなくちゃと自分を奮い立たせるのだけど、、

    この小説はちょっと時間がかかった。
    主人公の男が最悪だから。
    (すでにここでこの小説から出られなくなってるんでしょうけどね。)

    しかもその男は小説家。

    不慮の事故で親族を亡くすのって辛い。
    でも、それを表現するには生きているときの関係が浮き彫りになる。

    悲しんでないわけじゃない、
    色々理由(言い訳)があって苦しいんだよね。

    私は真平くんと灯ちゃんと幸夫がメチャクチャに遊ぶシーンが好きだな。

    構成が面白くて、どんどんストーリーに飲み込まれるのもあった。

    結局、オススメの一冊。

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著者プロフィール

1974年広島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。在学中から映画製作の現場に入り、是枝裕和監督などの作品にスタッフとして参加。2002年脚本・監督デビュー作『蛇イチゴ』で数々の賞を受賞し、2006年『ゆれる』で毎日映画コンクール日本映画大賞など様々の国内映画賞を受賞。2009年公開の長編第三作『ディア・ドクター』が日本アカデミー賞最優秀脚本賞、芸術選奨新人賞に選ばれ、国内外で絶賛される。2015年には小説『永い言い訳』で第28回山本周五郎賞候補、第153回直木賞候補。2016年に自身により映画化。

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