世にも奇妙な人体実験の歴史 (文春文庫 S 19-1)

  • 文藝春秋
3.62
  • (19)
  • (44)
  • (36)
  • (6)
  • (4)
本棚登録 : 763
感想 : 44
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167907396

作品紹介・あらすじ

性病、コレラ、寄生虫……人類の危機を救った偉大な科学者たちは、己の身を犠牲にして、果敢すぎる人体実験に挑んでいた! 自身も科学者である著者は、自らの理論を信じて自分の肉体で危険な実験を行い、今日の安全な医療や便利な乗り物の礎を築いた科学者たちのエピソードを、ユーモアたっぷりに紹介します。 解剖学の祖である十八世紀の医師ジョン・ハンターは、淋病患者の膿を自分の性器に塗りつけて淋病と梅毒の感染経路を検証しました。十九世紀の医師ウィリアム・マレルは、ニトログリセリンを舐めて昏倒しそうになりますが、血管拡張剤に似た効果があると直感。自己投与を続けて、狭心症の治療薬として確立するもとになりました。二十世紀、ジャック・ホールデンは潜水方法を確立するために自ら加圧室で急激な加圧・減圧の実験を繰り返し、鼓膜は破れ、歯の詰め物が爆発したといいます。その他にも放射能、麻酔薬、コレラ、ペストなどの危険性の解明に、自らの肉体で挑んだマッド・サイエンティストたちの奇想天外な物語が満載。その勇気と無茶さに抱腹絶倒するうち、彼らの真の科学精神に目を開かされる好著です。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 人体実験、というとマッドサイエンティストだとか、戦時中の非人道的な行為、というイメージが先行する。
    確かに本書に出てくる実験はそういったものもある。
    だが、それを、なかったことにできる?
    自分に関係ない、と言える?
    誰にだって程度の差はあれ、興味はあるでしょう?

    私は空気抵抗の実験をしたことがある。仮説はこうだ。
    パラシュートが安全に脱出できるのなら、傘でも空気抵抗を実現できるはずだ。
    そして私は駐輪場の屋根から傘を両手に持って飛び降りた!
    最悪の結果にならなかったが、端的に言えば失敗した。
    他にも、「アルコールの摂取量による消化器官と判断力の変化に対する考察」を行ってみたこともある。
    が、そんな些細な実験と本書の内容を比べると、比べ物にならない。

    音速の壁、ソニックブームの恐ろしさは、思わず電車の中で身震いした。
    淋病と梅毒に同時に罹患するよう仕向けたり、炭疽菌を培養したり、漂流してみたり、ありとあらゆる実験がなされてきた!
    死骸を食べる実験の章では、日本人にはお馴染みの高級魚(矛盾?)フグも登場!

    それにしても、こんな人体実験の数々は、せいぜい20世紀初頭まで、そんなふうにどこか楽観的になってはいまいか?
    驚くべきことに2006年、臨床試験中の失敗が起きている。
    門外漢の私には、この実験方法が適切だったのかはわからない。
    また、募集を見てやってきた被験者たちに問題があったとも考えられない。
    当然、臨床試験そのものを否定するものでもない。
    しかし、言えるのは、人体実験は功罪併せ持つものであるということ。
    医学、科学に従事する人々には心から感謝と尊敬の念を抱くけれども、一方で、一般人の尊厳もやはり忘れてはならない。

    本書は、普段ノンフィクションを読まない人、ミステリやホラー好きな人にもおすすめ。
    不謹慎?
    いや、現実の奇妙さや恐ろしさから現代と自分を省みることができる。
    巻末の仲野徹氏の解説までしっかり読み込んでほしい。
    「NHK フランケンシュタインの誘惑」でも解説をされている先生だ。

  • どんな技術にも過去がある。
    それもちょっとおバカで探究心溢れる研究者の、ときにはドン引きするような、惹きつけられるような、青ざめるような冒険奇譚が隠されている。
    この本はその一端を記しているに過ぎないのでしょう。

    私の人体実験の記録として、電気柵が危ないと教えられたのですが、どうして危ないのか大人は教えてくれませんでした。そこで直接触れたところ、心臓がバクンと低く脈打ち、一瞬視界が失われました。
    大人も子どもも、触っては危ないです。

  • ある治療や医薬品などの効果を立証するには、最終的にはいわゆる臨床試験をするしかないわけであるが、この臨床試験とは別の言い方をすれば人体実験である、と言い換えることができる。

    もちろん、現在の臨床試験については厳密なプロトコルが定められ、安全性への最大限の配慮がなされているため、人体実験という言葉からイメージするような危険性は排除されているわけであるが、ともあれ、医学の発展というのが人体実験と共にあった、というのは一つの医学史の事実である。

    さて、本書は医学の発展のためにそんな人体実験を、主に自らの身体を差し出して実施した医学者たちの姿を描くノンフィクションである。こう書くとかなり硬い本のように見えるが、どちらかというと、自らの仮説を検証するために危険な人体実験を自らの身体で行う彼らの姿は、ある種のマッド・サイエンティストとも呼べるユニークさがあって大変面白い。

    扱われるテーマも、薬、麻酔、寄生虫、病原菌、電磁波とX線、血液、心臓(自身の心臓にカテーテルを刺す自己実験にはドキリとさせられる)など、多様。

    医学の歴史を面白く知りたい方におすすめ。

  • ある意味ちょっとおかしくないと実行に移せないような実験の数々。

    でも、こういう人たちがいて初めて分かったこともたくさんある。

  • 「自己実験という危険な行為を成し遂げた、偉大なる奇人に捧げるウィットに富んだ賞賛」

    語り口が軽妙で楽しく読めた。正義感や好奇心が振り切れると人間はここまでできるのか。先人たちに感謝。

  • 常人では考えられないような実験が、過去に行われていたことを知った。どう考えても、自分ではやろうと思えないことばかりであった。訳者あとがきにもあったが、「自己保存本能よりも知的好奇心が強い」という人間たちによって様々な実験が行われていたようだ。現在の医学(というよりも一般常識的)では考えられないような医療行為が行われていたが、そのような医療行為が現在行われていないのも、多くの研究者たちが人体実験を行なってきてくれたためであると思うと、人体実験を真っ向から否定しにくくなる(もちろん現在では倫理的にあり得ないことではあるが)。真っ当な医療をしてもらえる時代を作り上げてくれた多くの研究者たちに感謝したくなる良書であったと思う。

  • タイトルからマッドサイエンティスト、それも、冷酷に他人の身体を実験に使っている姿を想像する。確かにマッドなサイエンティストと言っていいのだろうが、真面目に、医学、科学の発展に挑んできた人たちだ。
    大半は、人体実験の対象は、自分自身だったりする。
    こうした、危険を顧みない行為があってこそ、今があることは否めない。

    すこし、タイトルが損やな。

  • タイトルに惹かれました。こういうタイトルの本って専門的過ぎて難しいものが多いんですが、これは比較的わかりやすく、とても面白かった。ガスマスクを作るために毒ガスを吸う、感染ルートを知るために菌を飲んだり、皮膚に塗ったりする科学者たち。
    そういう科学者がいてくれたおかげで今の予防接種や薬などがあるんですが、その実験の凄まじさに驚いてしまった。死と隣り合わせの実験がほとんど。その勇気も凄いが好奇心も凄い。

  • 人権を無視したような極悪非道な人体実験の歴史の本かと思いきや、崇高な科学者たちによる愛と勇気と狂気の献身列伝だった。わざと誤認させるようなタイトルにしているのかしら。

  • 2022/4/20読了
    知的好奇心、科学的興味から、時に命を危険に曝して、自分や他人を実験台にした無茶苦茶な方々のお話である。彼ら先人達のお陰で、今日、科学実験には、色々な倫理的制約が付きまとい、おいそれと危険なことは(たとえしたくても)出来なくなったのだ、と思いたい。

全44件中 1 - 10件を表示

トレヴァー・ノートンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×