火花 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 9423
感想 : 812
  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167907822

感想・レビュー・書評

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  • なんだかんだ読まずに来ましたが、ようやく読むことにしました。読まないで判断なんかしないぜとかなんとか言いながら、やはり芸人で人気にあやかっての受賞なのではないかと勘繰っていた自分に気が付きました。誠にすみません。
    自分の中にくすぶっている何かを吐き出したいという文章で、ある意味上手い下手を超えた所に有る表現としての本気がここには有ります。ファーストアルバムにしかないパワーに似た物と言ってもいいかもしれません。酷評している人が沢山いるのもわかります。ラストでちょっとへっぽこな所もあるかもしれません。でもこれを否定する根拠が誰にあるのか僕にはちっともわかりません。
    お笑いの世界というものがどんなものか分かりませんが、笑いを突き詰めていくと狂うしかないのはギャグ漫画の世界を見ていても明らかで、そんな中から文学として見せてくれた窓が今まであったでしょうか。これがもし何分の一でもお笑いの世界を表しているならとても美しい世界です。ぱっと消えてく火花みたいに、リスクだらけの夢を追いかける夢と絶望だらけの世界を駆け抜ける沢山の若者やおっさんやおばさんたち。そんな世界を垣間見せてくれたとても美しい物語でした。

    • ありんこゆういちさん
      ありがとうございます!去年のM1で錦鯉が王者になりましたが、夢をあきらめないというのは簡単に言うけれど、とてつもない自己のすり減らし方なんだ...
      ありがとうございます!去年のM1で錦鯉が王者になりましたが、夢をあきらめないというのは簡単に言うけれど、とてつもない自己のすり減らし方なんだろうなと思います。自分で限界を決めるしかない中で、どこまでも自分をぶつけ合って一瞬の火花を飛ばす。いつか着火して燃え上がると信じて毎日研鑽している芸人さん達、本当にすごいです。年取ってくるとお笑いの背後に見える人間性迄見てしまって素直に笑えない瞬間もありますね(;^_^A
      2022/03/15
    • マチダひかルさん
      テレビの向こうで道化を演じている芸人さんたちも一人の人間であり、それぞれに人生があるのだということを見せてくれる作品でした。夢を追ったってそ...
      テレビの向こうで道化を演じている芸人さんたちも一人の人間であり、それぞれに人生があるのだということを見せてくれる作品でした。夢を追ったってそのほとんどは叶わない。だからこそ夢をかなえた人がより一層輝くのかもしれませんが。私もお笑いが好きでM-1見ました。こう考えてみると〈夢を諦めなかった〉錦鯉の二人、本当にすごいんですね。
      2022/03/19
    • ありんこゆういちさん
      そうですね!個人的にはオズワルドを応援していたのですが、錦鯉が優勝した時はこちらも思わずホロリとしたし、感動でしたね!!
      そうですね!個人的にはオズワルドを応援していたのですが、錦鯉が優勝した時はこちらも思わずホロリとしたし、感動でしたね!!
      2022/04/22
  • 陰鬱で閉塞感と孤立感に満ちているけれど、俯瞰的視点に基づいたとても静かで穏やかな語り口が、ままならない人生への慈しみと周囲への愛を感じさせて、貰い泣き。そして、社会における今なお解消できない歪みというか、課題というか、むしろ真理ですらあることを、「笑い」との関係性に託して突きつきた、ラストのあの「オチ」展開よ…。とても短いシーンなのだけど、けっこう圧倒されてしまった。やるなあ…。

    売れない若手芸人・徳永の視点で、彼自身の人生と、彼が敬愛した特異な先輩芸人・神谷との10年間の軌跡を綴った、著者の又吉さんにとって私小説的な側面がありそうな本作。

    徳永と神谷の関係は、事務所の垣根を越えた馬が合う先輩後輩、というには少しいびつで。
    不安定な生活がいつまで続くか(続けられるか)わからない不安に付いてまわる閉塞感と孤独感の裏返しのようなある種の共依存、安らぎと言えば聞こえがいいけれど、無自覚な宗教性、というか「縋り」のようなものが感じられる。

    でも、だからこそ、一番恐れていたであろう「その時」を受け入れて進んだ徳永の姿は胸に迫るものがあるし、10年のくびきを取り除いた感のあるあの「オチ」シーンには、ものすごくハッとしてしまう。そして、それでも二人の縁はそこで終わらなかった点にも。

    明るく楽しいストーリーでは全くなく、どちらかというとエネルギーを削られるタイプのお話かもしれない。
    でも、救いのないただの鬱展開でもない。
    あの俯瞰視点と静かな語り口、そして、何気ないようで巧みに組み立てられた構成は一読の価値ありです。
    (又吉さんって、エッセイでもそうだったけど、時間に限りのある漫才のネタづくりで鍛えたためなのか、自然なようで実は緻密に組まれた構成が特に秀逸なんです。いつかは、構成特化型の連作短編小説希望。)

    「僕達は、二流芸人にすらなれなかったかもしれない。だが、もしも「俺の方が面白い」とのたまう人がいるのなら、一度で良いから舞台に上がってみてほしいと思った。「やってみろ」なんて偉そうな気持ちなど微塵もない。世界の景色が一変することを体感してほしいのだ。自分が考えたことで誰も笑わない恐怖を、自分で考えたことで誰かが笑う喜びを経験してほしいのだ。」

  • 又吉直樹『火花』文春文庫。第153回芥川賞受賞作の文庫化。文庫化にあたり、受賞記念エッセイ『芥川龍之介への手紙』を収録。個人的には又吉直樹が書いた小説ということを頭から消し去って読んだ時、芥川賞に価する小説かと考えると、そこまでの小説ではないように思った。無論、読み手により価値の受け取り方は違うと思うが。

    自伝的私小説といった感じの青春小説。恐らく自身をモデルとしたと思われる売れない芸人の徳永は先輩芸人の神谷と出合い、迷いながらも、進むべきを道を模索する。

    若さ故の怖さ知らずで無謀な行動、焦燥と挫折、夢や希望といった忘れかけていた古い記憶を呼び覚ましてくれる小説だった。ストーリー、文書ともに、さすがに秀でたものを感じるが、歯切れの悪いラストが少し残念であり、せっかくの秀でたものを全て台無しにしているように思う。

  • ◆全体の印象
    テレビに引っ張りだこな芸人とは異なり、そこまで売れることができなかった芸人の生き様がリアルに描写された作品でした。
    又吉さんも芸人であるからこそ、実体験も盛り込まれているのかなと思いました。
    世間に合わせるか、それとも、世間から逸脱した思考をするのか。人としての葛藤も描かれており、とても面白かったです。
    結果が出るかわからないことに、全力で取り組む芸人さん達は、とてもかっこいいですね!

    ◆印象に残った場面トップ3(引用)
    ①一つだけの基準を持って何かを測ろうとすると眼がくらんでしまうねん。たとえば、共感至上主義の奴達って、気持ち悪いやん?共感って確かに心地いいねんけど、共感の部分が最も目立つもので、飛び抜けて面白いものって皆無やもんな。阿呆でもわかるから、依存しやすい強い感覚ではあるんやけど、創作に携わる人間はどこかで卒業せなあかんやろ。他のもの一切見えへんようになるからな。これは自分に対する戒めなんやけどな。


    ②周りの評価気にしてても疲れるだけやん。極論、そこに書かれてることで、お前の作るもんって変わるの?
    →実際に、エゴサーチしてそれを気にしてしまう人に、誰かがこのセリフを言ってそう。笑

    ③必要がないことを長い時間をかけてやり続けることは怖いことだろう?一度しかない人生において、結果が全く出ないかもしれないことに挑戦するのは怖いことだろう。無駄なことを排除するということは、危険を回避するということだ。臆病でも、勘違いでも、救いようのない馬鹿でもいい、リスクだらけの舞台に立ち、常識を覆すことに全力で挑めるものだけが漫才師になれるのだ。それがわかっただけでもよかった。この長い月日をかけた無謀な挑戦によって、僕は自分の人生を得たのだと思う。


  • 売れない若手芸人の徳永が主人公。

    徳永は、天才肌の先輩芸人の神谷と出会い、彼の笑いとの向き合い方に、影響されていく。
    けれど、その笑いの先には、とてつもない孤独があった。
    面白いのに、どうしてこんなに哀しいのか。
    さまざまな感情が交錯する作品でした。

    1「捨てたらあかんもん、絶対に捨てたくないから、ざるの網目細かくしてるんですよ。ほんなら、ざるに無駄なもんも沢山入って来るかもしらんけど、こんなもん僕だって、いつでも捨てられるんですよ。捨てられることだけを誇らんといて下さいよ。」

    徳永は、自分が進んできた道を肯定するために、神谷さんの人生を全力で否定しなければならなかった。

    自分がおもしろいと思うモノを、少しでも多く表現するために、自分自身を市場に売り出さなければならない。
    たとえ一番おもしろい形ではないにせよ、市場に出されなければ、それは無かったことにされてしまうから。

    おもしろいことを考えるのが芸人であって、自分自身をブランディングすることは芸人のすることではない。
    確かに、神谷さんは間違っていない。
    けれど、多くの人間は、神谷さんのようにはなれない。

    2「僕達はきちんと恐怖を感じていた。親が年を重ねることを、恋人が年を重ねることを、全てが間に合わなくなることを、心底恐れていた。自らの意思で夢を終わらせることを、本気で恐れていた。全員が他人のように感じる夜が何度もあった。」

    追い詰められるような恐怖心に、とても共感しました。
    夢を終わらせなければならない時が近づいてくる。
    「全てが間に合わなくなる」その前に、夢を終わらせなければならない。
    夢の中に現実が押し寄せてくる恐怖。
    自分の人生の大半が、失敗に終わってしまう恐怖。
    夢を終わらせる瞬間は、果たしてどんな思いなのだろう。

    3「世界の景色が一変することを体感してほしい。
    自分が考えたことで誰も笑わない恐怖を、自分で考えたことで誰かが笑う喜びを経験してほしいのだ。」

    笑わせること。それは一見簡単そうに見える。
    誰しも一回は、誰かを笑わせた経験があるからだ。
    ただ、舞台の上ではまるで通用しない。
    例えば、ダウンタウンの漫才を素人が完コピしても、笑いの量は半分以下になる。
    自分のキャラ、声のトーン、服装や佇まい、喋り方、全てにマッチするネタ。そしてなおかつおもしろくなければならない。
    自分自身が舞台に立って、万人を笑わせることは、本当に難しいことなのだ。

    お笑いが中心の話でしたが、それ故の哀しさが、とても切ない作品でした。

  • 面白かった.芥川賞の名に相応しい小説だと思う.あと,太宰の影響を大きく受けていると感じた.
    太宰の小説を読んだ時,“文学”って難しくてお固いイメージが強いが,本当はもっと世俗的で生々しいものではないかと思った.だって,登場人物飲んだくれだよ?現代で言えばアル中ニート.「作家」「電気ブラン」と聞くとお洒落に見えるけど,現代で例えたら「芸人」「発泡酒」.ほら,どこがオシャレなのよ!もっと低俗で汚らしい舞台で,その人間の葛藤を描くのが文学なのかと.

    現代を舞台に“文学”を表現するなら,まさにこんな感じなんじゃないだろうか.そういう意味で,やはり私はこの本を「文学」と呼びたい.
    言葉が難しいというレビューが多いけれど,私は寧ろライトで読みやすい文章だと思った.ライトなのに文学.そこがスゴイ.

  • 味の濃い小説という印象がまず先に立ったのです。しっかりと表現しながらも幅広い読者層に届くような文体がまずあって、繰り広げられるドラマも検討されていくテーマも最初の一歩目から最後のゴールへの一歩までしっかり味があるといいますか。まるで茶碗の中の米粒一つ一つがおいしいと味わうような読書でした。そこには、本書のクライマックスの部分とかぶるところでもあるのですが、純文学であっても商業性(広範囲にウケる面白み)を考えて取り入れている点が基本部分にあるのだろうと思いました。

    主人公の若手芸人・徳永が地方の営業で出合った先輩芸人・神谷に魅せられていきながら、そのなかでの葛藤や憤りまでをも受けて止めていく話というのが、一本の筋です。

    この本が世に出た時期と前後してしまいますが、今年の春に『コントが始まる』という芸人を主人公にしたテレビドラマがありました。とてもおもしろくて、胸をついてくるところもふんだんにある佳作だったなぁと今でも印象深く思い出すことができますし、とても楽しむことができたドラマだったのですが、このドラマを見ていたおかげで僕が本書に入り込みやすかったところはあると思います。芸人世界の日常って、わかりそうでわかっていませんが、その濃い空気感を知ったのはこのドラマによってのものでした。しかし、本来は、この『火花』あってこその『コントが始まる』だったのかなと、読了して感じるところです。

    あと、又吉さんの人生が実際にそうなのかもわからないですが、よい女性ばかりでてくるなぁというか、芸人さんの近くに現れる女性ってみんな素敵なのかなぁという感想を持ちました。なので、女性が手放しに「よい存在」と描かれていて、女性礼讃(まあ、芸人さんの下積みをささえてくれるのですから、その情には圧倒されているのかもしれない)みたいなところがちょっと気になりました。

    そしてやっぱり、笑いが巧みでした。技巧をみせびらかすでもなく才能に酔うでもなく、おもしろくてなんぼだ、っていうふうにおもしろさの度合いが重視されていると思ったし、それで話のなかでまったく浮いてないのですから、バランスの調整力も見事です。そこはやっぱり、さっきも書いたように商業性のある人だっていうことなんです。作為性を感じさせないで、作為的にやる。悪い意味ではないです。作為的にやったほうが、読者をおもしろがらせることができるからでしょう。そしてしっかりクライマックスで盛り上がるし、そこできちんと本質を描く。このハーモニーが作品を締め、徳永と神谷というキャラクターを昇華させたのではないかなぁ。

    『火花』は徳永視点の話でしたが、神谷視点でもなにかまた別の、ちょっと違うかたちのおもしろいものになりそうな気がしました。そういうところ、著者は考えた末にこの形に決めたのだろうとは思うのですが。

    というところですが、やっと読めて大満足の作品でした。

  • 「劇場」に衝撃を受け速攻買いに走った。こちらも本当に傑作だと思う。

    「劇場」でも又吉の笑わせ力は冴えわたっていたが、「火花」はなにしろ主人公が売れない漫才師という設定だから手加減なし。冒頭から大喜利で「自分が飼っているセキセイインコに言われたら嫌な言葉はなんや?」(P.8)だから公共の場では到底読めない。それでいて文体やリズム感は思いっきり純文学。

    主人公は、先輩漫才師のセンスを天才と感じ師と仰ぐ。しかし、突き抜けすぎている先輩を横目にテレビで少しずつ頭角を現すのは主人公の方だった。本当は自分よりもずっと才能のある先輩こそ社会に認められてほしいのに、不器用すぎてそれができないことをもどかしく思う主人公の心が温かく切ない。

    私は名画「アマデウス」を思い出した。社会性ゼロの天才モーツアルトと、宮廷音楽家としての地位は盤石なサリエリ。天才を見抜く眼力はあっても自分自身は凡庸な才能しか与えられなかったことにサリエリは苦悩し、モーツアルトに嫉妬する。あれはあれですごい映画だったが、「火花」には「憧れ」はあっても「嫉妬」が出てこないのがすがすがしい(一方で「劇場」はその辺を容赦なく書いている)。

    その行きつく果て、主人公が先輩に切れるシーンは超名場面。「ジェンダー」と「笑い」というデリケートなトピックでここまで書けるのはすごい。

    この歳になって「新刊出たら発売日に買おう」という作家に再び出会えるとは。村上春樹「羊をめぐる冒険」、村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」、いずれも第3作が決定的だった。文春、新潮と交互に出すところもなんか春樹っぽい。楽しみ。

  • 芥川賞受賞作品。前半の神谷の漫才哲学は、まどろっこしく感じたが、天才:神谷を表しているんだろう、と解釈。「僕は神谷さんの優しい声に弱いのだ」そこに漂う哀しさと作品全体を包む切なさ、やるせなさ。又吉直樹、ピース又吉の優しいけど冷静な視線も見た気がした。ドラマは初回しか観てなかったのに、林遣都と波岡一喜が頭の中で映像化出演してきました。

  • ある一人の売れない芸人と天才肌の先輩芸人の話。笑いとは何か人間とは何かを描いている。


    芥川賞をとった話題の本だし、短めだから読みやすいだろうと思ったが、自分には少し読みにくかった。

    使われている言葉や情景の表現は美しい。
    しかし、語彙力のない自分には普段目にしない言葉が時々ノイズとなってしまい読む流れが止まってしまった。

    読む前のイメージは大衆小説だったが、実際は純文学だった。又吉さんは本当に本が好きなのだろう。
    時間をおいてもっと本に触れてから読み直したい作品だ。

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著者プロフィール

1980年大阪府寝屋川市生まれ。芸人。2015年に小説デビュー作『火花』で第153回芥川賞を受賞。2021年には、執筆活動の拠点として有料会員制オフィシャルコミュニティ『月と散文』を開設。テレビやラジオ出演のほか、YouTubeチャンネル『渦』での動画配信など多岐にわたって活躍中。著書に『劇場』、『東京百景』、『第2図書係補佐』などがある。

「2022年 『人間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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