火花 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 5642
レビュー : 521
  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167907822

感想・レビュー・書評

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  • 又吉直樹『火花』文春文庫。第153回芥川賞受賞作の文庫化。文庫化にあたり、受賞記念エッセイ『芥川龍之介への手紙』を収録。個人的には又吉直樹が書いた小説ということを頭から消し去って読んだ時、芥川賞に価する小説かと考えると、そこまでの小説ではないように思った。無論、読み手により価値の受け取り方は違うと思うが。

    自伝的私小説といった感じの青春小説。恐らく自身をモデルとしたと思われる売れない芸人の徳永は先輩芸人の神谷と出合い、迷いながらも、進むべきを道を模索する。

    若さ故の怖さ知らずで無謀な行動、焦燥と挫折、夢や希望といった忘れかけていた古い記憶を呼び覚ましてくれる小説だった。ストーリー、文書ともに、さすがに秀でたものを感じるが、歯切れの悪いラストが少し残念であり、せっかくの秀でたものを全て台無しにしているように思う。

  • なんだかんだ読まずに来ましたが、ようやく読むことにしました。読まないで判断なんかしないぜとかなんとか言いながら、やはり芸人で人気にあやかっての受賞なのではないかと勘繰っていた自分に気が付きました。誠にすみません。
    自分の中にくすぶっている何かを吐き出したいという文章で、ある意味上手い下手を超えた所に有る表現としての本気がここには有ります。ファーストアルバムにしかないパワーに似た物と言ってもいいかもしれません。酷評している人が沢山いるのもわかります。ラストでちょっとへっぽこな所もあるかもしれません。でもこれを否定する根拠が誰にあるのか僕にはちっともわかりません。
    お笑いの世界というものがどんなものか分かりませんが、笑いを突き詰めていくと狂うしかないのはギャグ漫画の世界を見ていても明らかで、そんな中から文学として見せてくれた窓が今まであったでしょうか。これがもし何分の一でもお笑いの世界を表しているならとても美しい世界です。ぱっと消えてく火花みたいに、リスクだらけの夢を追いかける夢と絶望だらけの世界を駆け抜ける沢山の若者やおっさんやおばさんたち。そんな世界を垣間見せてくれたとても美しい物語でした。


  • 売れない若手芸人の徳永が主人公。

    徳永は、天才肌の先輩芸人の神谷と出会い、彼の笑いとの向き合い方に、影響されていく。
    けれど、その笑いの先には、とてつもない孤独があった。
    面白いのに、どうしてこんなに哀しいのか。
    さまざまな感情が交錯する作品でした。

    1「捨てたらあかんもん、絶対に捨てたくないから、ざるの網目細かくしてるんですよ。ほんなら、ざるに無駄なもんも沢山入って来るかもしらんけど、こんなもん僕だって、いつでも捨てられるんですよ。捨てられることだけを誇らんといて下さいよ。」

    徳永は、自分が進んできた道を肯定するために、神谷さんの人生を全力で否定しなければならなかった。

    自分がおもしろいと思うモノを、少しでも多く表現するために、自分自身を市場に売り出さなければならない。
    たとえ一番おもしろい形ではないにせよ、市場に出されなければ、それは無かったことにされてしまうから。

    おもしろいことを考えるのが芸人であって、自分自身をブランディングすることは芸人のすることではない。
    確かに、神谷さんは間違っていない。
    けれど、多くの人間は、神谷さんのようにはなれない。

    2「僕達はきちんと恐怖を感じていた。親が年を重ねることを、恋人が年を重ねることを、全てが間に合わなくなることを、心底恐れていた。自らの意思で夢を終わらせることを、本気で恐れていた。全員が他人のように感じる夜が何度もあった。」

    追い詰められるような恐怖心に、とても共感しました。
    夢を終わらせなければならない時が近づいてくる。
    「全てが間に合わなくなる」その前に、夢を終わらせなければならない。
    夢の中に現実が押し寄せてくる恐怖。
    自分の人生の大半が、失敗に終わってしまう恐怖。
    夢を終わらせる瞬間は、果たしてどんな思いなのだろう。

    3「世界の景色が一変することを体感してほしい。
    自分が考えたことで誰も笑わない恐怖を、自分で考えたことで誰かが笑う喜びを経験してほしいのだ。」

    笑わせること。それは一見簡単そうに見える。
    誰しも一回は、誰かを笑わせた経験があるからだ。
    ただ、舞台の上ではまるで通用しない。
    例えば、ダウンタウンの漫才を素人が完コピしても、笑いの量は半分以下になる。
    自分のキャラ、声のトーン、服装や佇まい、喋り方、全てにマッチするネタ。そしてなおかつおもしろくなければならない。
    自分自身が舞台に立って、万人を笑わせることは、本当に難しいことなのだ。

    お笑いが中心の話でしたが、それ故の哀しさが、とても切ない作品でした。

  • 「劇場」に衝撃を受け速攻買いに走った。こちらも本当に傑作だと思う。

    「劇場」でも又吉の笑わせ力は冴えわたっていたが、「火花」はなにしろ主人公が売れない漫才師という設定だから手加減なし。冒頭から大喜利で「自分が飼っているセキセイインコに言われたら嫌な言葉はなんや?」(P.8)だから公共の場では到底読めない。それでいて文体やリズム感は思いっきり純文学。

    主人公は、先輩漫才師のセンスを天才と感じ師と仰ぐ。しかし、突き抜けすぎている先輩を横目にテレビで少しずつ頭角を現すのは主人公の方だった。本当は自分よりもずっと才能のある先輩こそ社会に認められてほしいのに、不器用すぎてそれができないことをもどかしく思う主人公の心が温かく切ない。

    私は名画「アマデウス」を思い出した。社会性ゼロの天才モーツアルトと、宮廷音楽家としての地位は盤石なサリエリ。天才を見抜く眼力はあっても自分自身は凡庸な才能しか与えられなかったことにサリエリは苦悩し、モーツアルトに嫉妬する。あれはあれですごい映画だったが、「火花」には「憧れ」はあっても「嫉妬」が出てこないのがすがすがしい(一方で「劇場」はその辺を容赦なく書いている)。

    その行きつく果て、主人公が先輩に切れるシーンは超名場面。「ジェンダー」と「笑い」というデリケートなトピックでここまで書けるのはすごい。

    この歳になって「新刊出たら発売日に買おう」という作家に再び出会えるとは。村上春樹「羊をめぐる冒険」、村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」、いずれも第3作が決定的だった。文春、新潮と交互に出すところもなんか春樹っぽい。楽しみ。

  • 面白かった.芥川賞の名に相応しい小説だと思う.あと,太宰の影響を大きく受けていると感じた.
    太宰の小説を読んだ時,“文学”って難しくてお固いイメージが強いが,本当はもっと世俗的で生々しいものではないかと思った.だって,登場人物飲んだくれだよ?現代で言えばアル中ニート.「作家」「電気ブラン」と聞くとお洒落に見えるけど,現代で例えたら「芸人」「発泡酒」.ほら,どこがオシャレなのよ!もっと低俗で汚らしい舞台で,その人間の葛藤を描くのが文学なのかと.

    現代を舞台に“文学”を表現するなら,まさにこんな感じなんじゃないだろうか.そういう意味で,やはり私はこの本を「文学」と呼びたい.
    言葉が難しいというレビューが多いけれど,私は寧ろライトで読みやすい文章だと思った.ライトなのに文学.そこがスゴイ.

  • ある一人の売れない芸人と天才肌の先輩芸人の話。笑いとは何か人間とは何かを描いている。


    芥川賞をとった話題の本だし、短めだから読みやすいだろうと思ったが、自分には少し読みにくかった。

    使われている言葉や情景の表現は美しい。
    しかし、語彙力のない自分には普段目にしない言葉が時々ノイズとなってしまい読む流れが止まってしまった。

    読む前のイメージは大衆小説だったが、実際は純文学だった。又吉さんは本当に本が好きなのだろう。
    時間をおいてもっと本に触れてから読み直したい作品だ。

  • 私はお笑いが好きで、
    中でも、
    「言葉」を操って人を
    笑わせる、
    「漫才」が大好きです。

    読んで良かった。

    感動と笑いがしっかり入ってましたね!

  • ◯芥川賞受賞作という前提として読むと、どの辺りが?と思いながら、楽しんで読んでしまう。
    ◯出版社の賞だから、商業的な面もありなむと思っても、一縷の望みをかけて読んでしまう。
    ◯なるほど、芸人ならではの表現だなと思う。真剣な状況も、ボケとツッコミの掛け合いのような表現で出来ている。しかし、そうあることに溺れ、遂には溺れてしまう。

    ◯芸事を生業とする人なら共感できる。でも芥川賞の理由はよくわからない。

  • いわゆる大人として折り合いをつけ成長していく「僕」と清々しいまでに純粋な人間性を貫く「神谷さん」との対比によって、人が大人になることを考えさせられると同時に、忘れかけていく大切な基本的なことを思い出させる作品。(と私は感じた)

    個人的に好きだった神谷さんの台詞をピックアップ。特にネットで書き込んだ経験のない(これが初)私にとって多分、この本で出てくるような批判はしてないけど、無意識のうちに心の中のどこかで人を批判しているんだなと。これを読んでドキッとした。
    「レヴェルってなに?土台、俺達は同じ人間だろ?/人が嫌がることは、やったらあかんって保育園やからな。/ありがとう。ごめんなさい。いただきます。ごちそうさまでした。/そういう俺らを馬鹿にするのは大概が保育園で習ったこともできないダサい奴等やねん」


    「他を落とすことによって、今の自分で安心するという、やり方やからな。その間、ずっと自分が成長する機会を失い続けてると思うねん。可哀想やと思わへん?あいつ等、被害者やで。」

  • 面白かった。

    純粋で粗いものと、世間との折り合い、と見えました。

    神谷さんはすごいのだけど、それでいいのだろうか、と思う自分はやっぱりもう子どもではないんだと思った。

    どうか、世間、というものをただ敵と見ないで、
    と思っていたので、
    ラストはほっとしました。
    網を細かくすると余計なものも掬うけど、それも抱えて生きていく。
    何者かに、神になる必要はないんだと思う。

    最後の漫才は素晴らしかった。
    ところどころ本気で笑える掛け合いも、さすがでした。

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著者プロフィール

又吉直樹(またよし なおき)
1980年、大阪府寝屋川市生まれ。お笑いコンビ「ピース」のボケ担当。第153回芥川龍之介賞受賞作家。2009年6月せきしろとの共著、自由律俳句集『カキフライが無いなら来なかった』を刊行し、これが初の書籍となる。2010年12月に続編である『まさかジープで来るとは』、2011年11月初の単著『第2図書係補佐』をそれぞれ刊行。2015年1月7日に『文學界』2月号に初の中篇小説『火花』を発表し、純文学作家としてデビュー。3月に文藝春秋から『火花』が単行本化。同作が第28回三島由紀夫賞候補となり、第153回芥川龍之介賞受賞に至る2016年にNetflixと吉本興業によってネット配信ドラマ化2017年板尾創路監督により映画化された。2017年『劇場』刊行。2018年9月、毎日新聞夕刊で新聞小説「人間」を連載し、毎日新聞出版から2019年秋に発売予定となる。

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