火花 (文春文庫 ま 38-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167907822

感想・レビュー・書評

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  • 私は芸能人の書いた小説を評価してこなかった。出版業者が話題作りに、3割がた下駄を履かせて賞を与えていると感じたからだ。実際、過去の作品ではそういった作品は多く存在したと思う。故に又吉直樹の「火花」も忌避していた。しかし、読んでみて驚いた。巧みな表現を捻り出そうして、何を書いているのかわからない文章や無理な比喩表現を使うことなく、世間とのズレに困惑しながら憧れの神谷先輩をちゃんと描き切っていた。ただ、神谷先輩以外との絡みが弱く、感動までには導いていなかったが… 。
    やはり、食わず嫌いはダメだと猛省した一冊でした。

  • お笑い(漫才)は大好きでよく見ます。
    ピースの漫才はちゃんと見たことないけど、何故か又吉さんのことは昔から好きな部類に属しています。
    又吉さんの小説にずっと興味はあったが、芥川賞系はあまり得意ではないのでなかなか手が伸びなかったが、やっと読む機会に恵まれました。

    結果、火花好きかも。純文学?には疎い私が読みやすかったし、期待以上だったので又吉さんの文学的センス好みかもしれない。

    正直、The現実思考の女の自分からすると神谷さんの良さはほとんどわからないが、徳永と神谷さんの関係性には惹かれるものがあった。

    いちばん好きなのは、やはりスパークスのラスト漫才のシーン。ちょっとでも好きだった芸人さんがラスト舞台にこんな漫才されたらぼろぼろ泣いてしまうにきまってる。

    哀愁ただよわせてるなぁ〜。芸人の苦悩が文章にしみてて好きでした。

    又吉さん、面白かったので他も読んでみよう。

  • なんだかんだ読まずに来ましたが、ようやく読むことにしました。読まないで判断なんかしないぜとかなんとか言いながら、やはり芸人で人気にあやかっての受賞なのではないかと勘繰っていた自分に気が付きました。誠にすみません。
    自分の中にくすぶっている何かを吐き出したいという文章で、ある意味上手い下手を超えた所に有る表現としての本気がここには有ります。ファーストアルバムにしかないパワーに似た物と言ってもいいかもしれません。酷評している人が沢山いるのもわかります。ラストでちょっとへっぽこな所もあるかもしれません。でもこれを否定する根拠が誰にあるのか僕にはちっともわかりません。
    お笑いの世界というものがどんなものか分かりませんが、笑いを突き詰めていくと狂うしかないのはギャグ漫画の世界を見ていても明らかで、そんな中から文学として見せてくれた窓が今まであったでしょうか。これがもし何分の一でもお笑いの世界を表しているならとても美しい世界です。ぱっと消えてく火花みたいに、リスクだらけの夢を追いかける夢と絶望だらけの世界を駆け抜ける沢山の若者やおっさんやおばさんたち。そんな世界を垣間見せてくれたとても美しい物語でした。

    • ありんこゆういちさん
      ありがとうございます!去年のM1で錦鯉が王者になりましたが、夢をあきらめないというのは簡単に言うけれど、とてつもない自己のすり減らし方なんだ...
      ありがとうございます!去年のM1で錦鯉が王者になりましたが、夢をあきらめないというのは簡単に言うけれど、とてつもない自己のすり減らし方なんだろうなと思います。自分で限界を決めるしかない中で、どこまでも自分をぶつけ合って一瞬の火花を飛ばす。いつか着火して燃え上がると信じて毎日研鑽している芸人さん達、本当にすごいです。年取ってくるとお笑いの背後に見える人間性迄見てしまって素直に笑えない瞬間もありますね(;^_^A
      2022/03/15
    • マチダひかルさん
      テレビの向こうで道化を演じている芸人さんたちも一人の人間であり、それぞれに人生があるのだということを見せてくれる作品でした。夢を追ったってそ...
      テレビの向こうで道化を演じている芸人さんたちも一人の人間であり、それぞれに人生があるのだということを見せてくれる作品でした。夢を追ったってそのほとんどは叶わない。だからこそ夢をかなえた人がより一層輝くのかもしれませんが。私もお笑いが好きでM-1見ました。こう考えてみると〈夢を諦めなかった〉錦鯉の二人、本当にすごいんですね。
      2022/03/19
    • ありんこゆういちさん
      そうですね!個人的にはオズワルドを応援していたのですが、錦鯉が優勝した時はこちらも思わずホロリとしたし、感動でしたね!!
      そうですね!個人的にはオズワルドを応援していたのですが、錦鯉が優勝した時はこちらも思わずホロリとしたし、感動でしたね!!
      2022/04/22
  •  今更ながら、約5年前に話題になった本書を読んでみました。きっかけはYou Tube。又吉さんと児玉さんの文章読解や、有隣堂チャンネルでのコメントが面白かったから。(このレビューを又吉さんがご覧になるかわかりませんが、私もサルゴリラ児玉さんの語彙センスにハマった1人です。)

     さて本書ですが、芸人さんが書いた芸人の物語なので〝笑う〟場面が多いかなと勝手に思っていましたが、反対に〝泣く〟場面の描写が印象に残りました。

    ---------------------------------
    【本書より抜粋】
    主人公の徳永のお母さんのセリフ
    「なんで、あんたが泣いてるの?お姉ちゃん頑張ってるで」

    先輩の神谷のセリフ
    「徳永、なんでお前が泣いてんねん?」
    そう言って、神谷さんは笑った。
    ---------------------------------

     芸人さんの明るいトークの裏で、こんな世界もあるのかなとフィクションを楽しませてもらえた本でした。ちなみに、又吉さんの著書という先入観からか、本書を読んでいる間、又吉さんの落ち着いた声が私の脳内で再生されました。他の皆さんも同じだったかな‥。

  • 又吉直樹『火花』文春文庫。第153回芥川賞受賞作の文庫化。文庫化にあたり、受賞記念エッセイ『芥川龍之介への手紙』を収録。個人的には又吉直樹が書いた小説ということを頭から消し去って読んだ時、芥川賞に価する小説かと考えると、そこまでの小説ではないように思った。無論、読み手により価値の受け取り方は違うと思うが。

    自伝的私小説といった感じの青春小説。恐らく自身をモデルとしたと思われる売れない芸人の徳永は先輩芸人の神谷と出合い、迷いながらも、進むべきを道を模索する。

    若さ故の怖さ知らずで無謀な行動、焦燥と挫折、夢や希望といった忘れかけていた古い記憶を呼び覚ましてくれる小説だった。ストーリー、文書ともに、さすがに秀でたものを感じるが、歯切れの悪いラストが少し残念であり、せっかくの秀でたものを全て台無しにしているように思う。

  • 又吉さんの本を初めて読みました。
    1冊で諦めてしまいそうですが、あともう1冊くらいは読んでみようと思います。きっと。
    どれを読むか吟味します。
    どんな作家さんでも作品によって面白かったり面白くなかったりしますものね。
    期待しています。

  • 陰鬱で閉塞感と孤立感に満ちているけれど、俯瞰的視点に基づいたとても静かで穏やかな語り口が、ままならない人生への慈しみと周囲への愛を感じさせて、貰い泣き。そして、社会における今なお解消できない歪みというか、課題というか、むしろ真理ですらあることを、「笑い」との関係性に託して突きつきた、ラストのあの「オチ」展開よ…。とても短いシーンなのだけど、けっこう圧倒されてしまった。やるなあ…。

    売れない若手芸人・徳永の視点で、彼自身の人生と、彼が敬愛した特異な先輩芸人・神谷との10年間の軌跡を綴った、著者の又吉さんにとって私小説的な側面がありそうな本作。

    徳永と神谷の関係は、事務所の垣根を越えた馬が合う先輩後輩、というには少しいびつで。
    不安定な生活がいつまで続くか(続けられるか)わからない不安に付いてまわる閉塞感と孤独感の裏返しのようなある種の共依存、安らぎと言えば聞こえがいいけれど、無自覚な宗教性、というか「縋り」のようなものが感じられる。

    でも、だからこそ、一番恐れていたであろう「その時」を受け入れて進んだ徳永の姿は胸に迫るものがあるし、10年のくびきを取り除いた感のあるあの「オチ」シーンには、ものすごくハッとしてしまう。そして、それでも二人の縁はそこで終わらなかった点にも。

    明るく楽しいストーリーでは全くなく、どちらかというとエネルギーを削られるタイプのお話かもしれない。
    でも、救いのないただの鬱展開でもない。
    あの俯瞰視点と静かな語り口、そして、何気ないようで巧みに組み立てられた構成は一読の価値ありです。
    (又吉さんって、エッセイでもそうだったけど、時間に限りのある漫才のネタづくりで鍛えたためなのか、自然なようで実は緻密に組まれた構成が特に秀逸なんです。いつかは、構成特化型の連作短編小説希望。)

    「僕達は、二流芸人にすらなれなかったかもしれない。だが、もしも「俺の方が面白い」とのたまう人がいるのなら、一度で良いから舞台に上がってみてほしいと思った。「やってみろ」なんて偉そうな気持ちなど微塵もない。世界の景色が一変することを体感してほしいのだ。自分が考えたことで誰も笑わない恐怖を、自分で考えたことで誰かが笑う喜びを経験してほしいのだ。」


  • 売れない若手芸人の徳永が主人公。

    徳永は、天才肌の先輩芸人の神谷と出会い、彼の笑いとの向き合い方に、影響されていく。
    けれど、その笑いの先には、とてつもない孤独があった。
    面白いのに、どうしてこんなに哀しいのか。
    さまざまな感情が交錯する作品でした。

    1「捨てたらあかんもん、絶対に捨てたくないから、ざるの網目細かくしてるんですよ。ほんなら、ざるに無駄なもんも沢山入って来るかもしらんけど、こんなもん僕だって、いつでも捨てられるんですよ。捨てられることだけを誇らんといて下さいよ。」

    徳永は、自分が進んできた道を肯定するために、神谷さんの人生を全力で否定しなければならなかった。

    自分がおもしろいと思うモノを、少しでも多く表現するために、自分自身を市場に売り出さなければならない。
    たとえ一番おもしろい形ではないにせよ、市場に出されなければ、それは無かったことにされてしまうから。

    おもしろいことを考えるのが芸人であって、自分自身をブランディングすることは芸人のすることではない。
    確かに、神谷さんは間違っていない。
    けれど、多くの人間は、神谷さんのようにはなれない。

    2「僕達はきちんと恐怖を感じていた。親が年を重ねることを、恋人が年を重ねることを、全てが間に合わなくなることを、心底恐れていた。自らの意思で夢を終わらせることを、本気で恐れていた。全員が他人のように感じる夜が何度もあった。」

    追い詰められるような恐怖心に、とても共感しました。
    夢を終わらせなければならない時が近づいてくる。
    「全てが間に合わなくなる」その前に、夢を終わらせなければならない。
    夢の中に現実が押し寄せてくる恐怖。
    自分の人生の大半が、失敗に終わってしまう恐怖。
    夢を終わらせる瞬間は、果たしてどんな思いなのだろう。

    3「世界の景色が一変することを体感してほしい。
    自分が考えたことで誰も笑わない恐怖を、自分で考えたことで誰かが笑う喜びを経験してほしいのだ。」

    笑わせること。それは一見簡単そうに見える。
    誰しも一回は、誰かを笑わせた経験があるからだ。
    ただ、舞台の上ではまるで通用しない。
    例えば、ダウンタウンの漫才を素人が完コピしても、笑いの量は半分以下になる。
    自分のキャラ、声のトーン、服装や佇まい、喋り方、全てにマッチするネタ。そしてなおかつおもしろくなければならない。
    自分自身が舞台に立って、万人を笑わせることは、本当に難しいことなのだ。

    お笑いが中心の話でしたが、それ故の哀しさが、とても切ない作品でした。

  • 味の濃い小説という印象がまず先に立ったのです。しっかりと表現しながらも幅広い読者層に届くような文体がまずあって、繰り広げられるドラマも検討されていくテーマも最初の一歩目から最後のゴールへの一歩までしっかり味があるといいますか。まるで茶碗の中の米粒一つ一つがおいしいと味わうような読書でした。そこには、本書のクライマックスの部分とかぶるところでもあるのですが、純文学であっても商業性(広範囲にウケる面白み)を考えて取り入れている点が基本部分にあるのだろうと思いました。

    主人公の若手芸人・徳永が地方の営業で出合った先輩芸人・神谷に魅せられていきながら、そのなかでの葛藤や憤りまでをも受けて止めていく話というのが、一本の筋です。

    この本が世に出た時期と前後してしまいますが、今年の春に『コントが始まる』という芸人を主人公にしたテレビドラマがありました。とてもおもしろくて、胸をついてくるところもふんだんにある佳作だったなぁと今でも印象深く思い出すことができますし、とても楽しむことができたドラマだったのですが、このドラマを見ていたおかげで僕が本書に入り込みやすかったところはあると思います。芸人世界の日常って、わかりそうでわかっていませんが、その濃い空気感を知ったのはこのドラマによってのものでした。しかし、本来は、この『火花』あってこその『コントが始まる』だったのかなと、読了して感じるところです。

    あと、又吉さんの人生が実際にそうなのかもわからないですが、よい女性ばかりでてくるなぁというか、芸人さんの近くに現れる女性ってみんな素敵なのかなぁという感想を持ちました。なので、女性が手放しに「よい存在」と描かれていて、女性礼讃(まあ、芸人さんの下積みをささえてくれるのですから、その情には圧倒されているのかもしれない)みたいなところがちょっと気になりました。

    そしてやっぱり、笑いが巧みでした。技巧をみせびらかすでもなく才能に酔うでもなく、おもしろくてなんぼだ、っていうふうにおもしろさの度合いが重視されていると思ったし、それで話のなかでまったく浮いてないのですから、バランスの調整力も見事です。そこはやっぱり、さっきも書いたように商業性のある人だっていうことなんです。作為性を感じさせないで、作為的にやる。悪い意味ではないです。作為的にやったほうが、読者をおもしろがらせることができるからでしょう。そしてしっかりクライマックスで盛り上がるし、そこできちんと本質を描く。このハーモニーが作品を締め、徳永と神谷というキャラクターを昇華させたのではないかなぁ。

    『火花』は徳永視点の話でしたが、神谷視点でもなにかまた別の、ちょっと違うかたちのおもしろいものになりそうな気がしました。そういうところ、著者は考えた末にこの形に決めたのだろうとは思うのですが。

    というところですが、やっと読めて大満足の作品でした。

  • 説教臭さのようなものも多少あるが言葉選びのセンスとテンポ、そして漂う哀愁がいい

  • ◆全体の印象
    テレビに引っ張りだこな芸人とは異なり、そこまで売れることができなかった芸人の生き様がリアルに描写された作品でした。
    又吉さんも芸人であるからこそ、実体験も盛り込まれているのかなと思いました。
    世間に合わせるか、それとも、世間から逸脱した思考をするのか。人としての葛藤も描かれており、とても面白かったです。
    結果が出るかわからないことに、全力で取り組む芸人さん達は、とてもかっこいいですね!

    ◆印象に残った場面トップ3(引用)
    ①一つだけの基準を持って何かを測ろうとすると眼がくらんでしまうねん。たとえば、共感至上主義の奴達って、気持ち悪いやん?共感って確かに心地いいねんけど、共感の部分が最も目立つもので、飛び抜けて面白いものって皆無やもんな。阿呆でもわかるから、依存しやすい強い感覚ではあるんやけど、創作に携わる人間はどこかで卒業せなあかんやろ。他のもの一切見えへんようになるからな。これは自分に対する戒めなんやけどな。


    ②周りの評価気にしてても疲れるだけやん。極論、そこに書かれてることで、お前の作るもんって変わるの?
    →実際に、エゴサーチしてそれを気にしてしまう人に、誰かがこのセリフを言ってそう。笑

    ③必要がないことを長い時間をかけてやり続けることは怖いことだろう?一度しかない人生において、結果が全く出ないかもしれないことに挑戦するのは怖いことだろう。無駄なことを排除するということは、危険を回避するということだ。臆病でも、勘違いでも、救いようのない馬鹿でもいい、リスクだらけの舞台に立ち、常識を覆すことに全力で挑めるものだけが漫才師になれるのだ。それがわかっただけでもよかった。この長い月日をかけた無謀な挑戦によって、僕は自分の人生を得たのだと思う。

  • 面白かった.芥川賞の名に相応しい小説だと思う.あと,太宰っぽかった.
    太宰の小説を読んだ時,“文学”って難しくてお固いイメージが強いが,本当はもっと世俗的で生々しいものではないかと思った.だって,登場人物飲んだくれだよ?現代で言えばアル中ニート.「作家」「電気ブラン」と聞くとお洒落に見えるけど,現代で例えたら「芸人」「発泡酒」.ほら,どこがオシャレなのよ!もっと低俗で汚らしい舞台で,その人間の葛藤を描くのが文学なのかと.
    現代を舞台に“文学”を表現するなら,まさにこんな感じなんじゃないだろうか.

  • 2024/03/22読破 
    一言 芸人の苦悩、嫉妬、生き様

    感想 最後のエッセイの中の引用された2つの言葉がとても印象的でしたので、下記に記します。
     本編は又吉さんの知り合いか、空想か分かりませんが芸人の生き様を見ました。他人の才能に嫉妬する自分と、どうでもいいことに気をかける自分。やりたい理想はあるけど、理想を現実にできない自分を才能ある芸人との会話の中でいろんな感情が渦巻いているのを読み取りました。

    下記は印象に残った点

    p174 侏儒の言葉
    道徳は便宜の異名である。「左側通行」と似たものである。
    →道徳は多くの人が事故をおこなさいために必要なルール。あらゆる価値基準は疑ってよい

    p175 侏儒の言葉
    芸術の鑑賞は芸術家自身と鑑賞家との協力である。云わば鑑賞化は、1つの作品を課題に彼自身の創作を試みるのに過ぎない。

    →作品に向き合って理解する。理解して解釈をする。想像力を駆使して作品に向きあう。正解はない。

  • 神谷さん、最後はびっくりしましたが、自分を持っていて、
    『こんな男が近くにいたらいいのにな、』と思いました。
    結末は、なにしてんねやーって私もツッコミましたが。

    ラストの漫才は泣けました。(電車で読んでいたので、ちょっと大変でした。)
    笑いを武器に、見習わなきゃ。

    これが純文学なのか、これも純文学なのか、私もまだまだ文学への理解不足で、そこが楽しいです★

  • ああすごい泣いちゃったなあ、

    私がまだ青いからかもしれないけど、常に自分の中で創造と破壊を繰り返して刹那的に笑いを求める神谷がすごい眩しくかっこ良く見えてしまった。
    けどもしかしたら全然かっこよくなんかなかったのかもしれないと読後の今になって思う。
    彼はあまりにも自分に純真すぎるが故に屈折しまくっていた。
    その屈折光が伝播した先にいたのが徳永。
    徳永は独自の想像力で静かながらもどこか常に怯えて竦んでいるように感じられた。
    だから恐れを知らない神谷との組み合わせは正直しっくり来ないというか、正解ではなかったように感じる。
    互いに抱いていた思いは尊敬や畏怖だけではなくてきっと羨望、憎しみ、嫉妬、愛情と一口に言えるものではなかったんだろう。
    けど不器用な2人の絶妙なそのアンバランスさはとても居心地が良かった。

    数多の出会いや別れによって付いた傷だらけの、
    その荒削りな人生が愛おしい。

    お金や仕事、家族や恋人、社会的地位、それらによって形成される生活その全てを投げ打ってでも自分の信じた道を突き進むことは幸せなのか。
    自分の手で夢を終わらすのは諦めなのか妥協なのか。
    そもそも諦めるってなんだ、夢ってなんだ、なんのために生きてるんだと彼らがこちらに問いを投げかけてくるようで、終盤何度もページを捲るのをためらってしまった。
    歪に生き続ける彼らを見て、結局そんな問いを思い浮かべたところで一生正解になんて出会えないんだろうなと思うとどこか寂しくもあり安心もした。
    あほんだら、こんなん見せられたら生きるしかないじゃん。


    「エジソンが発明したのは闇」
    「エジソンを発明したのはくらい地下室」
    という彼らのメールのやり取りがなんだかすごいお気に入り。
    走り続けた先に光があるのかは分からないけど、走ったことで生じる風を心地良いと感じた人は少なからずいるし、私はこの本を読んで心にぼうっと希望みたいな、光みたいな何かが生まれた。
    光があれば影があるけど今ならそのどちらも愛せる気がする。

    筆者が漫才師だからか文章に血が通っているように感じられて良かった。
    滲み出る又吉さんなりの漫才や人生に対する哲学に少し触れられた気がして嬉しい。
    2010のM-1でのピースのネタ、ほんとに好きなんだよな。

  • お笑い芸人又吉直樹による第153回芥川賞受賞作品。

    主人公のお笑い芸人徳永と彼が尊敬する先輩芸人神谷とのお笑いに捧げた人生とそのやりとりが文学作品に落とし込められている。

    時々クスっと笑ってしまう徳永と神谷のやりとり、お笑い芸人というのは日常的に笑いで人生を豊かにしようという気持ちが常に働いているのが伝わる。

    芸人の世界も競争社会。面白い芸人が人気を博し、売れて行く。

    漫才は言葉が武器だ。漫才ブームの時のお笑いは爆笑を引き起こしたが、現代の爆笑が少ないと言われる世代のお笑いはどういうものなのか。果たして文学とお笑いは融合できるのか。

    単調な展開だったが、起承転結の結であるオチが秀逸に感じたので、良かったと思う。芥川賞の女性選評委員はオチがこうだからダメと言っていたが、男性読者は楽しいと思うオチである。

  • 芥川賞を受賞した又吉さんのデビュー作。
    映画化もされて話題になっていたので、
    気になり手に取りました。

    芥川賞の作品って、
    作家独特の世界観が色濃くて、いまいち内容を噛み砕けずいつも消化不良になってしまって、
    内容が強く印象に残る等もなく読み終わることが多かったけれど、
    又吉さんの作風はすごく読みやすい!

    火花のように一瞬の輝きを求めて
    自分の人生をかける姿はどの職業でも素敵です。
    夢を追うとは、
    努力以外にも才能や運、天性の愛され力が必要であること、
    自分の持っている武器だけでは勝てないこと、
    虚しい時期や将来への不安等、そういった恐怖とも戦う覚悟が必要だと思いました。

    読みやすい純文学だと思うので、
    ぜひ手に取ってみてほしい!
    他の作品も読んでみたくなりました。

  • 私はお笑いが好きで、
    中でも、
    「言葉」を操って人を
    笑わせる、
    「漫才」が大好きです。

    読んで良かった。

    感動と笑いがしっかり入ってましたね!

  • 純文学とは....??だが、単に又吉さんが好きで読んででみた。
    舞台で人を笑わせていても、影ではこんな努力や葛藤があるんだろうな。

  • 「劇場」に衝撃を受け速攻買いに走った。こちらも本当に傑作だと思う。

    「劇場」でも又吉の笑わせ力は冴えわたっていたが、「火花」はなにしろ主人公が売れない漫才師という設定だから手加減なし。冒頭から大喜利で「自分が飼っているセキセイインコに言われたら嫌な言葉はなんや?」(P.8)だから公共の場では到底読めない。それでいて文体やリズム感は思いっきり純文学。

    主人公は、先輩漫才師のセンスを天才と感じ師と仰ぐ。しかし、突き抜けすぎている先輩を横目にテレビで少しずつ頭角を現すのは主人公の方だった。本当は自分よりもずっと才能のある先輩こそ社会に認められてほしいのに、不器用すぎてそれができないことをもどかしく思う主人公の心が温かく切ない。

    私は名画「アマデウス」を思い出した。社会性ゼロの天才モーツアルトと、宮廷音楽家としての地位は盤石なサリエリ。天才を見抜く眼力はあっても自分自身は凡庸な才能しか与えられなかったことにサリエリは苦悩し、モーツアルトに嫉妬する。あれはあれですごい映画だったが、「火花」には「憧れ」はあっても「嫉妬」が出てこないのがすがすがしい(一方で「劇場」はその辺を容赦なく書いている)。

    その行きつく果て、主人公が先輩に切れるシーンは超名場面。「ジェンダー」と「笑い」というデリケートなトピックでここまで書けるのはすごい。

    この歳になって「新刊出たら発売日に買おう」という作家に再び出会えるとは。村上春樹「羊をめぐる冒険」、村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」、いずれも第3作が決定的だった。文春、新潮と交互に出すところもなんか春樹っぽい。楽しみ。

  • 私が漫才の面白さをあんまりわかってないからかな。徳永と神谷のやりとりにあんまり面白さを見いだせなくてむしろすこし恥ずかしく思ってしまった。作者は理屈っぽい人なんだろうな。
    でも他の人を批評することに関する神谷の発言はなるほどな~と思わされた。表現者だからこそより克明に描けるのかなと思った。
    少しだけ漫才を見てみようかなと思わされた。

  • 面白いを必死に追う芸人の苦労を垣間見る
    苦労した背景を見せドキュメンタリーにみせる笑いの取り方は私は嫌い
    プロは常に高楊枝で見栄を張る商売だと感じる

  • 「お笑い」というものに取り憑かれ、純粋に向き合い続けた人達の青春とも言えるであろう物語。
    作者自身が芸人さんなので、よりリアルに受け取れる。が、内容はなかなかずっしり重たい。芸人という世界の暗い部分が表現されていると思う。
    主人公は作者自身なのでは?と思うぐらい、イメージがピッタリ(笑)
    最後の展開にはビックリしたけれど、それだけ主人公の師匠は純粋だったのだなと思える出来事だったと思う。
    大人になってから純粋に自分らしく生きるということは難しいと痛感させられる作品でした。

  • 売れない芸人が特に努力することもなく過ごしていく日々が坦々と綴られているだけで、もう少し喜怒哀楽の描写が欲しかった。
    結末の展開に期待して読み進めたが、感情移入できないまま最後は神谷の奇行にうんざりして読了。
    私にはこの作品は合わなかった。

  • やっぱり、作中に出てくる関西弁得意じゃない〜泣
    そのせいで会話が全然頭に入ってこない〜泣
    ピース又吉さんの芥川賞受賞した作品ということで読んでみたが、やはり、私には芥川賞受賞作品は難しすぎる。。。
    とりあえず、芸人の生活が見れたり、知れない世界が知れたのは面白かった。でも、やっぱり、頭には入ってこない〜笑笑

  • 神谷さんから発せられる言葉で、考えさせられるものがいくつもある。

    神谷さんは、一般常識からは外れた感覚を持っているかも知れないけれど、一つの信念に対してとてもまっすぐだし、考え方はシンプルで面白いか面白くないか。だけれど、そこに対してとにかく考えに考え尽くしている。

    世間に流され、のうのうと生きている私よりも遥かに日常の一瞬一瞬に思考を巡らし、生きるエネルギーを使っていると感じた。

    だからこそ、私もその考え方、生き様はとてもかっこいいと思う。後半は辛かったけれど、そのような価値観を与えてくれたこのキャラクターがとても愛おしい。


    自分の今の生活に安住して、人を見下して生きることは、それ以上自分を成長させない。成長させる機会をみすみす逃している。それはとても可哀想なことだし、面白くない。
    人生寄り道することはあるけれど、そこに長く留まり続けることは時間の無駄

    と言う趣旨の言葉が特に印象的だった。

  • いわゆる大人として折り合いをつけ成長していく「僕」と清々しいまでに純粋な人間性を貫く「神谷さん」との対比によって、人が大人になることを考えさせられると同時に、忘れかけていく大切な基本的なことを思い出させる作品。(と私は感じた)

    個人的に好きだった神谷さんの台詞をピックアップ。特にネットで書き込んだ経験のない(これが初)私にとって多分、この本で出てくるような批判はしてないけど、無意識のうちに心の中のどこかで人を批判しているんだなと。これを読んでドキッとした。
    「レヴェルってなに?土台、俺達は同じ人間だろ?/人が嫌がることは、やったらあかんって保育園やからな。/ありがとう。ごめんなさい。いただきます。ごちそうさまでした。/そういう俺らを馬鹿にするのは大概が保育園で習ったこともできないダサい奴等やねん」


    「他を落とすことによって、今の自分で安心するという、やり方やからな。その間、ずっと自分が成長する機会を失い続けてると思うねん。可哀想やと思わへん?あいつ等、被害者やで。」

  • 若林の本につられて、今更読んだけどおもしろかった〜この世界に入ってみたい
    無謀な夢追っかけて現実は厳しいだろうけど希望だけはたくさんあって先が見えなくて楽しそうだなーー
    徳永の神谷への絶対の尊敬の気持ちも見てて愛おしい羨ましいそんな存在が欲しい

  • なんだかわかったようなわからないような。ただページを読む手を止めるとこの火花の世界観に戻れない気がして、一気読みしました。
    笑いってダサいとおもしろいが紙一重の世界なんだなと改めて思った。昔とがってたって言う芸人さんをよく見るけど、どうしてもそうなっちゃうんだろうな。

    神谷さんについて。お金とか女とか服とか身の回りのことは大雑把なくせに、笑いに関しては繊細さを感じる。なんとなくこれが文学だなぁーと思った。この繊細さを受け止められるほど目が細かいふるいを持っていないことが悔しい。

    あとがきで又吉先生が芥川龍之介に宛てた手紙、なぜかすごい心にグッときた。

  • 注目の漫才師さん、しばらく見ないと思っていると、解散してしまったり、ピン芸人として活動し始めていたり、構成作家に転職していたり、実家に帰って別の仕事についたり、何パーセントの方が漫才だけで飯が食えるようになるんでしょうか。

    そんな売れない芸人の葛藤を描いた問題作。その漫才師の又吉直樹さんが書いた小説。2015年の芥川賞受賞作品「火花」でおます。

    へそ曲がりのごまめですから、今頃読ませてもらいましたで。
    (NHKのドラマは見ましたが・・・)

    芸人さんは、たいへんですなぁ。

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著者プロフィール

又吉直樹(またよし・なおき)
1980年、大阪府寝屋川市生まれ。2003年より、お笑いコンビ「ピース」として活躍。2015年『火花』で第153回芥川賞受賞。代表作に『東京百景』『劇場』『人間』など。

「2021年 『林静一コレクション 又吉直樹と読む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

又吉直樹の作品

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