漢和辞典的に申しますと。 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167908201

作品紹介・あらすじ

長年、漢和辞典の仕事をしている中で見つけた、漢字に関するさまざまな〝おもしろこと〞。8つの章(「食べる漢字と飲む漢字」「体育会系の漢字」「漢字で見る愛のいろいろ」「理数に国の漢字」「漢和辞典的人生訓」「ニュースの漢字」「季節はめぐる・漢字はうつろう」「漢和辞典編集者の悩み」で)、漢字にまつわる素朴な疑問・謎に迫ります。登場するのは各章20字×8で160字。どこから読んでも楽しめる、見開き構成。図版や楽しいイラストも満載。「秩序の『秩』は、収穫した穀物をきちんと積み上げること、の意。ここからピラミッド状の〈上下関係〉というイメージに」「男二つに女が挟まれる『嬲』(なぶる)。エロチックな妄想を書きたてるこの漢字を漱石が頻繁に用いていた⁉」「ピラフを表わす漢字がある!」「義援金、昔は義捐金(=貴重なものを世のために惜しげなく使う)と書くのが一般的だった。」「爆買い・爆笑・爆走…『爆』は単なる激しさではなく、大きな音まで伴う」などなど。漢字ってこんなに面白いんだ! と気づかせてくれる、どこからでも読めて、ためになるコラム集。

感想・レビュー・書評

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  • 「ピラフ」を漢字で表すと? 「木枯らし1号」というのに、なぜ「春一番」? 猫好きが高じて〝肉球〟を1文字で表す漢字を探してみたら……。そして何やらエロチックな妄想をかき立てる「嬲る」という漢字をたびたび使ったあの文豪とは!? 漢和辞典編集者の〝職業病〟から生まれた、漢字に関する面白くて役に立つコラム160本。
    (2017年)
    —- 目次 —-
    はじめに
    一 食べる漢字と飲む漢字
    二 体育会系の漢字たち
    三 漢字で見る愛のいろいろ
    四 理数の国の漢字たち
    五 漢和辞典的人生訓
    六 ニュースの漢字、気になる漢字
    七 季節はめぐり、漢字はうつろう
    八 漢和辞典編集者の悩み
    あとがき

  • 以前、この人の本を一冊読んだと思う。
    『漢和辞典に訊け』だったかな。
    その時以来、気になっていた疑問が本書で解決した。
    「円満字」さん、というお名前は本名なのか?という疑問だ。

    漢和辞典編集者、ということは、会社員の立場がある人として、あえてペンネームなのか、とも思っていたから。
    それで、今回分かったのは、これが本名といえば本名だったこと。
    「本名といえば」なのは、戸籍名としては旧字体だからだそうで、まあ、その字面の迫力と言ったら。
    本書の最後の方にこの話が出てくるのだけれど、いろいろインパクトがありすぎて、そこまでの本の内容が吹っ飛んでしまったほど。

    本書は、一字を取り上げ、見開き2ページでその字に関する面白いトピックを説明する構成。
    2008年から4年間、『朝日中学生ウィークリー』に掲載したコラムを中心にして再編したもの。

    大字(だいじ、改変を防ぐために用いる複雑な字)で四の書き表し方が「肆」であること自体知らなかったが、大字に変換するエクセル関数numberstringなるものが存在するとは!
    こんな具合に、知ってうれしいお話が随所にある。
    倍くらいの紙数を費やして、もうちょっとそこ、詳しく…と思わせるところで終わる。
    きっと捨てた題材がたくさんあるのだろうなあ。

  • 言葉や文字って面白い。故事来歴はもっと面白い。漢字に限って言えば、じっと眺めていて想像します。この漢字はこういう感じかしら。いやいやそんなことよりもっと深いものでした。


    まず目次から 

    1 食べる漢字と飲む漢字
    2 体育会系の漢字たち
    3 漢字で見る夢のいろいろ
    4 理数の国の漢字たち
    5 漢和辞典的人生訓
    6 ニュースの漢字、気になる漢字
    7 季節はめぐり、漢字はうつろう
    8 漢和辞典編集者の悩み


    私は子供の頃祖父母がいた山の中で育ちましたので、年上の叔父たちの教科書や読み古した本や、屋根裏にある、枚数が少し足りなくなって散らかった百人一首の札、古くなった雑誌や本を読んでいました。雑誌の漢字にはたいていルビが振ってありましたので、小学生になって田舎を出ても、あまり読みには困らなかったと思います。漢字テストでも覚えたものに合わないものは形から答えが判ることもありました。それも時が過ぎて霞んできていますが(-_-;)
    そんなこともあって、今でも漢字が好きなのですが、この本にはまったく見たことのない形や、別の読みや意味があってさすがに言語学者の研究成果、辞典編集に長く携わっている方の知識はなんて面白いものか、この本は何度読んでも飽きることがありません。

    少しご紹介します
    《回》魯迅の痛烈なインテリ批判
    魯迅の「孔乙己」という短編から。孔乙己(コンイーチー)は頭がいいと自惚れていたが官僚試験に受からず今では酒浸り。ウイキョウ豆のウイの字はどう書く?子供が答えると、じゃ「回」の字は?4通りの書き方ができるか。
    漢和辞典にあるのは3コ、残りは「康煕字典」から「□」の中に「目」と書いた文字が載っています。ただ魯迅はこの小説で細かい知識はあっても生活能力はからっきしないそんなインテリを批判したかっただけなのでしょうか。
    確かに、細かすぎる漢字の知識をいくら持っていても実生活では何の役にもたちませんものねぇ……。
    (これはこれから読むこの本を書かれた円満字さんの謙遜だと思いますが(^▽^))


    《幽》太宰治「斜陽」の稀有な世界。
    スープを飲んでいた「おかあさま」が、「あ。」と「幽かな叫び声をお挙げになった」
    「かすか」とは“あるかないかわからないくらい”という意味。
    今では「微か」と書くのが普通ですが、「幽」は紀元前1300年ぐらいに使われていた漢字の祖先「甲骨文字」ではもともと“火”に関係のある漢字で“明かりが薄暗くてよく見えない”という意味なのです。また「幽」には“存在しているかどうか怪しい”というイメージがあります。
    実際「斜陽」の「お母さま」もすぐさま「何事もなかったように」スープを飲み続けます、叫び声など、挙げなかったように。
    「幽」のイメージを踏まえて読むとなかなか印象的な感じの使い方ですよね。

    《愁》樋口一葉の孤独
    「愁」は「うれい」とよみます。「郷愁」「旅愁」いかにもさみしげな気配が漂ってきます。
    ところで樋口一葉は、この漢字を独特な意味合いで使います。たとえば「私は何(ど)んな愁(つ)らきことありとも、必ず辛抱しとげて、一人前の男になり」『にごりえ』
    「ひとには左(さ)もなきに我ばかり愁(つ)らき所為(しうち)をみせ」『たけくらべ』
    一葉は愁を憂いと読むことを知らなかったわけではありません。「つらい」と読ませる方が圧倒的に多い、のは確かです。「つらい」を「辛い」と書き表すこともありません。
    だれかと「つらさ」を分かち合う。「つらさ」にはそんな側面もあるはずです。一葉は、それを知らずに逝ってしまったのでしょうか……。

    《髭》二葉亭四迷の使い分け
    二葉亭四迷には言文一致の小説「浮雲」があります。
    物語は、お役人さんが、仕事を終えてぞろぞろ出てくる場面から始まります。当時の成人男性は髭を生やしているのが定番。
    「口髭、頬髯、あごの鬚、暴に興起(おや)した拿破崙(ナポレオン)髭に狆の口めいた瓦斯馬克(ビスマルク)髭、そのほか矮鶏髭、貉髭、ありやなしやの幻の鬚」
    「髭」は唇の上 「髯」は頬、「鬚」はあごから垂れたひげ。使い方はお見事。こう分けてしまうのももろ刃の剣、ひげはつながっているが、二葉先生の割り切り方も必要かも。

    と、中から作家関係の項目を選んでみました。

    目次に沿った様々な漢字の成り立ちや、生生流転(?)の様子まで。
    遠い時代に生まれて伝わった漢字の流れや、それぞれに刻んできた歴史、変化を繰り返した時代の不思議が詰まった面白い短編集のようでした。

    項目の後にちょっとしたコラムなのですが

    画数の一番多い漢字は 
    「龍」を四つ組み合わせて「テツ」と読みます。ほかにも凄い字が。それが中国では今も使われているなんて!

    画数の一番少ない漢字は
    一番長い読み方をする漢字は
    一番読み方の数が多い漢字は
    漢字の数が一番多い読み方は
    漢字の数が一番多い部首は
    漢字の数が一番少ない部首は

    という本で新年を楽しみました。

  • 書くのは正直面倒くさいけど、漢字を読むのはすごく好き。
    読み方、意味だけではなく、成り立ちというストーリーがあるのが素晴らしいと思う。
    さすが表意文字。
    表音文字ならこうはいかない。

    ただ、この本を病室のベッドで読んでいて、しみじみ年を感じてしまったのは、画数の多い似たような文字の違いがなかなか分からなくなっていたこと。
    目を近づけたり遠ざけたりしながら、間違い探しのように文字の違いを探す。…しんどい。
    漢字好きは若いうちの趣味なのかもしれない…なんてね。

    日ごろ漢和辞典を使うのは、目にした漢字の読み方や意味を調べるとき。
    しかし著者は「こんな意味の漢字はあるかな?」と調べものをしている様子。
    もしかしたら逆引きの漢和辞典が世の中にはあるのかしら?

    3000年も前に作られて、形を変えながら今も使われている漢字にはそれぞれ歴史の重みを感じるけれど、日々新しい言葉が生まれている今、新しい感じも時折生まれているらしい。
    それもまた漢字の歴史のうちか。

    ところで著者の苗字、本名なんですってよ。
    素晴らしい。

  • 漢字の面白い側面が少し見えた気がした。
    自分の名前の漢字があるとやっぱり気になった。期待する程のコラムでもないが、そんな字なんだなと感心した。
    色々やることが多い時に読書するには億劫ではあったが、子供が中学生くらいになったら、軽い気持ちで読んで欲しい本だった。

  • 「たおやか」は勉強になりました。他の字の解説が面白く紹介されています。

  •  円満字二郎という冗談のような著者名は本名だというから恐れ入る。漢字160字を取り上げての読みきりのエッセイ。ヒマつぶしやトリビア仕入れに読むには恰好だが、漢字そのものにまつわる解題ばかりではなく、脱線気味の内容に終始しているものもあり、玉石混淆といっては悪いが漢字フリークとしてはちと物足りないところもある。

  • 初めは期待ほど面白くなく退屈したが、だんだん面白くなってきた。
    しかしこの文体は好きになれない。慇懃無礼というか、小馬鹿にされているように感じる。

  • たかが漢字されど漢字。
    著者の知識の広さと深さ、着眼点に感服。

  • 今まで特に気にすることもなかった漢字のあれこれや、見慣れない漢字をふむふむと楽しむ。
    「一」の上下の空間なんて、気付きもしなかった。

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著者プロフィール

円満字二郎(えんまんじ・じろう):1967年生まれ。大学卒業後、出版社で国語教科書や漢和辞典などの編集を担当。2008年に独立。現在は、ライターとして漢字に関する辞書やエッセイなどを執筆するほか、東京や名古屋のカルチャーセンターで漢字に関する講座を持つ。著書に、『語彙力をつける 入試漢字2600 』(筑摩書房)、『漢字が日本語になるまで』(ちくまQブックス)、『漢字ときあかし辞典』『部首ときあかし辞典』『漢字の使い分けときあかし辞典』『四字熟語ときあかし辞典』(以上、研究社)、『漢字の動物苑』(岩波書店)など多数。

「2023年 『高校生のための語彙+漢字2000』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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