- 文藝春秋 (2017年7月6日発売)
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感想 : 10件
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Amazon.co.jp ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784167908867
みんなの感想まとめ
言葉の創造とその背後にある人間の苦悩を描いた物語は、深い感動を呼び起こします。短編集の中でも特に表題作では、言葉を発することができない王子が、旅を通じて自己を理解し、言葉を得る過程が描かれています。古...
感想・レビュー・書評
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短編集なのだがどれも味わい深い。
特に表題作の『沈黙の王』が好きである。
ラストはまさしく王が神聖な存在である、ということを示していると思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「言葉を形に表す」
現在、当たり前のように用いている「文字」はなぜ作られたのか……。
表題作の「沈黙の王」では、うまく言葉を発することができない商(殷)王武丁が「文字」を作るまでの物語を、主人公の生き方に光を当てて描く。
歴史小説家が研究者ではない訳は、「事実」や「考察」「推測」をもとに、さらに想像を飛ばし、作家の求める「真実」を「創造」していくことにある。
この作者は、まるでそこにいたかのように「言い切った」短い描写を丹念に積み重ねて、読者を物語の中へ引き込んでいく。
読者は読んでいるうちに「きっとこうだったかもしれない」とすら感じなくなる。
わたしは、歴史小説家が語ることを許される表現のひとつに「好き嫌い」があると思う。その点でこの作家の好き嫌いは、私と同期する。
表題作短編「沈黙の王」で逆境のなか辛抱強く旅をする主人公の姿は、のちの長編大作『重耳』に重なり、収録短編「妖異記」の太史伯陽や鄭公友の生き方の爽やかさは、『妟子』や『楽毅』『香乱記』の感動につながる。
かつて、ずいぶんと読んできた作家の、ポッカリ空いた読み残しを埋め、久しぶりに「この作家好きだ」と思えた。 -
黙せる王は、苦難のすえ万世不変の言葉、すなわち文字を得る。
古代中国で初めて文字を創造した商の高宗武丁を描く表題作。
夏王朝初期、天下覇業の男達の権謀術数を記す「地中の火」。周王朝の興亡をたどる「妖異記」「豊饒の門」など。美姫の姿も艶めかしい壮大なロマン。
乱世、人はいかに生きるかを問う。
長編ばかり読んでいたので、久々感とともに新鮮な感じがします。
この中で私が一番好きなのは「沈黙の王」。
言葉を発することが出来ないというだけの理由で、王位を継ぐことを許されず、追放されて旅に出ることになった王子丁(子昭:後の高宗武帝)。
旅に出たことにより、自分の気持ちを理解して言葉として表現できる傅説と出会い、言葉を得ることが出来たということです。
当時の商王朝は、王は神々の声を聞いて、その言葉を伝えて王朝を運営していたのですから、言葉を発することが出来ないということが致命的だったのですね。
ちなみに、中国で最初の文字を作ったのは高宗武帝です。
「わしは言葉を得た。目にも見える言葉である。わしの言葉は、万世の後にも滅びぬであろう」
この高宗武帝の一言で『言葉』(字)を作る作業が始まりました。
象(かたち)を森羅万象から抽きだす
高宗武帝の言葉は、いまだに甲骨文で見ることができるのです。
言葉(字)を作るということを考えたこと自体が素晴らしい着想であり、すごく神秘的です。
言葉を発することが出来なかった高宗武帝だからこその着想だと思います。 -
中国の数千年前の古代を題材にした短編集
なかなかイメージがわかないほどの古い時代の人々を驚くほど生き生きと描いています。
歴史書では文字としてしか感じられないことを、私たちと同じように生きた人間として手触りを与えてくれて、とても嬉しくワクワクしました
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宮城谷昌光『沈黙の王』
伝説の夏王朝や、商(殷)、周、そして春秋時代の晋の王や名臣を題材にした短編集。
表題作の『沈黙の王』は現在の漢字に連なる、中国最初の文字を創った王の物語。他にも、弓矢を創った者やそれに対抗して盾を創った者の話など、どの短編も非常に満足のいくものでした。
夏王朝の話で登場した人物の名前が晋代の会話の中で出てくるなど、歴史小説ならではの時代を超えた人々の歴史の紡ぎ合いを垣間見ることができます。 -
短編集
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宮城谷作品に初めてチャレンジ。
紀元前、日本ではまだまだ国の形が定まっていなかった(あるいはまだ詳細がわからない!?)時代に、彼の大陸には既に国々があり、それを治める君主がいて、国を動かす臣下がいて…そして傾国の美女もいる…やっぱりスケールが違いました。
地名の知識がないのと、登場人物の多さと、特に名前の漢字の呼び方の難しさで思い切り読書スピードが落ちましたが、細かいことは気にせず読む、というスタンスで、なんとか読了。
どれも面白かったけれど、『象を森羅万象から抽き出せ』と、自身が話せなかったが故に文字を創ることを命じた高宗武帝の生い立ちを描いた「沈黙の王」、悩みながら賢人として君主を支えた「鳳凰の冠」が、特に印象に残ったかな。
でも、どの話の登場人物も、生きる道を模索し、悩んでいるし、家族や周囲の人々(君主とか、美女!とか…)に振り回されているし、大昔の話とは思えない親しみを感じたのでした。
それにしても、土地勘があれば、そして中国史に知見があれば、もっと面白く読めるに違いない。高校生の時に使っていた世界史資料集を発掘せねば!? -
1995年の作品だったんですね。
古代中国の歴史小説。短編集。
表題作「沈黙の王」が良かった。
祝詞は読み上げることが出来るのに、獣の咆哮のような声しか出せない丁。
彼に言葉が得られれば、戻って来ても良いという伝達を受け、旅に出る。
『図書館の魔女』のマツリカとキリヒトのような、運命的な出会い。(こちらは男だが。)
そして、文字というところに結び付く。
他の作品には、賢婦と邪婦?が目立つ。
主人公は男なのだけれど、必ず彼を惑わし、また導く女の存在がいる。
ラスト「鳳凰の冠」では、母親の嫉妬心と一族を滅ぼさんとする呪いの言葉があり。
一方、男を惑わし滅ぼすとした夏姫の娘は驚くほど清廉潔白だったり。
パターン化されてはいるんだけど、楽しく読める。 -
【中国古代小説の名作、新たに】中国で初めて文字を創造した武丁を描いた表題作はじめ、夏、商(殷)、周といった古代王朝を舞台にした傑作群が大きい活字で再登場。
著者プロフィール
宮城谷昌光の作品
