羊と鋼の森 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2018年2月9日発売)
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  • 本 ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167910105

作品紹介・あらすじ

第13回本屋大賞、第4回ブランチブックアワード大賞2015、第13回キノベス!2016 第1位……伝説の三冠を達成!
日本中の読者の心を震わせた小説、いよいよ文庫化!

ゆるされている。世界と調和している。
それがどんなに素晴らしいことか。
言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。

高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律の世界に魅せられた外村。
ピアノを愛する姉妹や先輩、恩師との交流を通じて、成長していく青年の姿を、温かく静謐な筆致で綴った感動作。

解説は『一瞬の風になれ』で本屋大賞を受賞した佐藤多佳子さん。

豪華出演陣で映画完成!
外村青年を山﨑賢人、憧れの調律師・板鳥を三浦友和、先輩調律師・柳を鈴木亮平、ピアニストの姉妹を上白石萌音、萌歌が演じています。6月8日公開。

「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」

感想・レビュー・書評

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  • そういえば子どもの頃、我が家にも調律師の方が見えた。上品で真面目な雰囲気の方だった。たぶん、2回。黒っぽい車を見送った記憶がある。
    この話は調律師の話である。先日読んだエッセイのクスッと笑える感じはどこにもない。「色彩をもたない多崎つくる」でなく、「外村青年」の成長物語だ。双子の女性との淡い恋が成長するわけでもなく、あくまでも調律を極めようとする青年のひたむきさが貫かれている。
    外村青年と和音さんのピアノは北海道の森に包まれて、琴線が響き合っていく。
    「何もないと思っていた森で、なんでもないと思っていた風景の中に、すべてがあったのだと思う」

    調律師が、ピアノの音を、そしてピアニストの力を引き出している存在であることをしみじみ感じさせる小説だった。

  • 羊と鋼の森というタイトルが、とても素敵だなあと思います。

    寒冷の村に生まれ、森に育てられた純粋青年。

    高校生の時、偶然見学することになったピアノの調律。それが、彼の進む道となる。
    調律師となり、その森に迷い込むけれど、根気よく歩き続け、きっと森を抜け出す。

    ピアノの音、調律の表現、ピアニストの卵達の心情、ところどころに使われる詩的な比喩。どれも選び抜いたような言葉でした。

    ピアノとピアニストと観客との間に居て、最高の状態で繋ごうとする静かに熱い人達でした。

    • hibuさん
      おはようございます!
      全体的に静謐な文章で自分の仕事に対する気持ちを整理することができました。とても澄み切った気持ちになる大好きな本です。
      ...
      おはようございます!
      全体的に静謐な文章で自分の仕事に対する気持ちを整理することができました。とても澄み切った気持ちになる大好きな本です。
      娘にプレゼントしました♪
      2023/12/25
    • おびのりさん
      おはようございます。
      本当にそうです。私も 青年の様に静かで謙虚でしかも堅実なそんな風に仕事に向かえば良かったなあー。生意気だったなー。好き...
      おはようございます。
      本当にそうです。私も 青年の様に静かで謙虚でしかも堅実なそんな風に仕事に向かえば良かったなあー。生意気だったなー。好きな仕事でもなかったなー。と、くるくる気持ちが変わりながら、読みました。
      素敵な父娘なんでしょうね。
      それも 羨ましい限りです。
      2023/12/25
  • 「このピアノは古くてね」
    「とてもやさしい音がするんです」
    「昔は山も野原もよかったから」
    「昔の羊は山や野原でいい草を食べていたんでしょうね。」
    「いい草を食べて育ったいい羊のいい毛を贅沢に使って、フェルトを作っていたんですね。今じゃこんなにいいハンマーは作れません」

     そうか、ピアノの中のハンマーはフェルト…つまり羊の毛で出来ているんだ。
    うちには電子ピアノしかないけれど、自然の物で作られた楽器って素晴らしいな。

     学校のピアノの調律にきた板鳥さんの仕事に惹かれて、調律師を目指した外村君。
    彼はピアノを習ったことは無く、調律の修行を始めるまで、クラシック音楽にも触れて来なかったが、板鳥さんの作った音から「音の森」の素晴らしさに惹かれて、自分の進む道だと確信したのだった。ピアニストを諦めて、調律師になった先輩のようにピアノのことをよく知っている自信は無かったが、北海道の田舎で育った外村はピアノの音は自分の身近にあった自然の森のなかのような所から生まれてくるのだというような確信があった。
    私はピアノの演奏を聴く時、曲とピアニストにしか注目してこなかったが、ピアノの音は森に似ていると思った。ピアニストは音楽の森を歩く人かもしれないが、その森を歩きやすくするために、木の枝を払ったり、道を整えたりして森を美しくしている調律師の方がいて、そしてピアノそのものも自然の中から選りすぐった物で作られていて、見えないところで美しい仕事をしている人がたくさんいるから、ピアノの演奏が美しくなるのだと思った。
    そして「見えない」仕事をしている人は「見えない」ことを喜んでされているのだと、コンサートピアノのように華やかな舞台のピアノでなくとも、自宅のピアノを喜んで弾く人の顔を見ることにも喜びを感じているのだと知った。
    ピアノの世界だけでなく、どんな仕事も見えないことをコツコツとする人たちによって守られている森のようだと思った。

  •  ブックオフで本を探していたらたまたまこの本を見つけました。帯には「本屋大賞」と書かれていました。最近の本ではないのですけど本屋大賞の本を読んで間違いはないので読んでみました。
     これは本屋大賞の本共通なんですけど文章がすごくきれいなんですよね。なんか惹きつけられるような。気づいたら読み終わっているような感覚。これだから読書はやめられないんですよね。
     ピアノや調律がテーマとなっているこの本。私はピアノも弾けないし音符もあやふやな音楽の経験がなかったです。なのでピアノの音は全て同じではなくひとつひとつ違って調律師という人たちが生み出しだのなのだと思うと奥深いです。
     この本は音楽を知らない人でも読んでいて面白いし、音楽に興味が湧いてくるのでとてもおすすめです!

  • R2.3.18 読了。

     「調律師をモチーフにした優れた仕事小説であると同時に、本作は、青年の成長物語である。そして、外村の自分探しの物語。(解説より)」「ふしぎなタイトルだと感じたが、羊と鋼はピアノを構成する素材だと知る。森は、外村が育った北海道の森であり、ピアノの調律で、正しい音、よい音を求めて、さまよう『森』、さらには、人生を生きることそのもののような深く、美しく、常に迷う危険、傷つく危険をはらんだ大きな世界としての『森』。(解説より)」。
     静かだけど情熱とひたむきな姿勢でピアノと向き合う外村。また、調律師の仕事についても知ることが出来た。宮下さんの美しい言葉がやはり心地良いですね。

    ・「知らないっていうのは、興味がないってことだから。」
    ・「一歩ずつ、一足ずつ、確かめながら近づいていく。その道のりを大事に進むから、足跡が残る。いつか迷って戻ったときに、足跡が目印になる。どこまで遡ればいいのか、どこで間違えたのか、見当がつく。修正も効く。」
    ・「才能という言葉で紛らわせてはいけない。あきらめる口実に使うわけにはいかない。経験や、訓練や、努力や、知恵、機転、根気、そして情熱。才能が足りないならそういうもので置き換えよう。」
    ・「才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れられない執念とか、闘志とか、そういうものと似てる何か。俺はそう思うことにしてるよ。」
    ・「音楽は人生を楽しむためのものだ。はっきりと思った。決して誰かと競うようなものじゃない。競ったとしても、勝負はあらかじめ決まっている。楽しんだものの勝ちだ。」
    ・「比べることはできない。比べる意味もない。多くの人にとっては価値のないものでも、誰かひとりにとってはかけがえのないものになる。」
    ・「もしかしたら、この道で間違っていないのかもしれない。時間がかかっても、まわり道になっても、この道を行けばいい。何もないと思っていた森で、なんでもないと思っていた風景の中に、すべてがあったのだと思う。隠されていたのでさえなく、ただ見つけられなかっただけだ。」

  • 映画のエンディングロール、ほんの少し前まで目の前に見えていたものの後ろにこれだけの数のプロの仕事が隠れていたことを知る瞬間。感動を届けてくれた無数の人たちがそこにいたことを知る瞬間。
    クラシック音楽が好きです。コンサートにも行ったことがあります。感動する音楽、深く心に入ってきた音。舞台の上の奏者がその全力をもって、全身全霊をもって私たちに対峙してくれたからこそ聴こえてきた本物の音。調律師という職業があるのは知っていました。でもあのコンサートで聴いた音の後ろに彼らの存在は見えませんでした。聴こえませんでした。その存在を感じさせないプロの仕事がそこにある。全く知らなかった奥深い世界がそこにありました。

    『この大きな黒い楽器を、初めて見た気がした。少なくとも、羽を開いた内臓を見るのは初めてだった。そこから生まれる音が肌に触れる感触を知ったのももちろん初めてだった。』高校生だった17歳の『僕』の人生が動く瞬間。そういった瞬間は突然に予告なく訪れます。

    貴方は本気で仕事に取り組んだことがあるでしょうか。仕事のプロになれ、上司から先輩から叱咤される日々を送っている人も多いと思います。プロという言葉から浮かぶもの、スポーツ選手であったり、俳優であったりそしてピアニストであったり、思い浮かべるプロは様々です。でもその彼らの後ろにもプロがいます。私も貴方も本気で仕事に取り組もうとしている人はみんなプロです。見えるプロと見えないプロの存在がどこの世界にもどこの森にもあります。

    どんな世界でもどんな分野でも全力を出して取り組む人は美しい。『柳さんは高い空を見上げた。青く澄んだ空の向こうに目指すところがあるみたいに。だとしたら、柳さんよりずっと下にいる僕は、柳さんよりもっともっと高く見上げなきゃいけない。』そう、どんな人にも空は遠い。人に認められるような仕事ができるようになっても空には手は届かない。タイプの異なる3人の先輩との関わりを通してその歩くべき道を模索する『僕』。『目指す音は人それぞれでしょう。一概には言えません。』そう、プロになればなるほどに、その目指すところは、目指すために選ぶ道は違ってきます。学んでも答えは自分で見つけるもの。それはその森に入った者の使命だから。

    森という言葉からは色々なものを思い浮かべます。生きとし生けるものの還る場所、包容力のある存在。『調律師になる。間違いなくそれもピアノの森のひとつの歩き方だろう。ピアニストと調律師は、きっと同じ森を歩いている。森の中の、別々の道を。』同じ森を歩く者にも歩き方があります。役割があります。森の向こうに見えるもの、頂を目指して歩く者たちの思い。でも深く森に入れば、奥深く入って行けば行くほどにその先の頂の姿は見えづらくなっていくものです。

    でも、自分が踏み込んだ、分け入った森、自分が信じで進んだからこそ、その森をもっと深く知りたいと思います。自分が歩くその森で何ができるのか、何を残せるのか、もっと本気で考えてみたいと思います。だからこそ、今の私の心にも『目指す場所というのは、どこのことだろう。少なくとも、僕にはまだ見えない。』という『僕』の思いが、言葉が響いてきました。

    目指すものが高ければ、目指す場所が遠ければ遠いほどに霞んで見えないその場所へ。自分も一歩づつ歩いていこうと改めて思いました。

    宮下さんの刻む特徴のある読点のふり方が読書に独特なリズム感を生んでいて、慣れるととても読みやすい作品でした。だからこそ、自然に身体が反応します。良い本に出会うと身体が自然と熱くなります。そう、とっても熱い思いを感じた、そんな作品でした。

    • megmilk999さん
      次に読むなら、何がオススメですか?
      次に読むなら、何がオススメですか?
      2022/06/21
    • さてさてさん
      はい、迷うことなく「スコーレNo.4」をおすすめします。これは、感動的な一作です。圧倒的な幸福感に包まれる傑作だと思います。次点は「よろこび...
      はい、迷うことなく「スコーレNo.4」をおすすめします。これは、感動的な一作です。圧倒的な幸福感に包まれる傑作だと思います。次点は「よろこびの歌」です。こちらは、「終わらない歌」へと続き、ワンセットで読まれるのが良いと思います。
      2022/06/21
    • megmilk999さん
      ありがとうございます♪読んでみます。楽しみです。
      ありがとうございます♪読んでみます。楽しみです。
      2022/06/24
  • 沁みる。
    胸が締め付けられる、込み上げてくるものがありました。

    親として子供に伝えたいことがたくさん詰まっていました。
    決して押し付けがましくなく、スーッと心に沁みるように入ってくる。
    とても素敵でした。

  • 著者、宮下奈都さん、ウィキペディアによると、次のような方です。

    ---引用開始

    宮下 奈都(みやした なつ、1967年 - )は日本の小説家。福井県福井市生まれ。福井県立高志高等学校卒業。上智大学文学部哲学科卒業。2004年、長男、次男に次ぐ、3人目の長女を妊娠中に執筆した『静かな雨』が第98回文學界新人賞佳作に入選し、小説家デビュー。

    ---引用終了


    で、BOOKデータベースによると、本作の内容は、次のとおり。

    ---引用開始

    高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律に魅せられた外村は、念願の調律師として働き始める。ひたすら音と向き合い、人と向き合う外村。個性豊かな先輩たちや双子の姉妹に囲まれながら、調律の森へと深く分け入っていくー。一人の青年が成長する姿を温かく静謐な筆致で描いた感動作。

    ---引用終了


    本作は、本屋大賞受賞作になります。
    そこで、最近10年の本屋大賞受賞作を確認しておきます。

    2015年 鹿の王
    2016年 羊と鋼の森
    2017年 蜜蜂と遠雷
    2018年 かがみの孤城
    2019年 そして、バトンは渡された

    2020年 流浪の月
    2021年 52ヘルツのクジラたち
    2022年 同志少女よ、敵を撃て
    2023年 汝、星のごとく
    2024年 成瀬は天下を取りにいく

  • 静謐な文章で心が落ち着く。
    山奥から出てきた高校生の外村。何事にも引っ込み思案で将来もあまり考えていなかったのが学校のピアノの調律に来た板取に出逢うことで調律師の道へ。
    こう言う主人公だと今まではあまり好きになれないのだが、僅かずつ成長していく姿を見て頑張れと思ってしまう。先輩の調律師達が良い人達だし、ピアノに情熱を傾ける双子の姉妹も良い。
    担当する客からキャンセルが続く原因は何だろうか。もっと主人公には自信を持って欲しいと思ってしまう。

  • 優しい物語でした。
    本を読んでるのにピアノを聴いているような
    ピアノと距離が近くなったような感覚。

    ここまでしっかりピアノに向き合ったお話は初めてで新鮮でした!

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著者プロフィール

1967年、福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。2004年、第3子妊娠中に書いた初めての小説『静かな雨』が、文學界新人賞佳作に入選。07年、長編小説『スコーレNo.4』がロングセラーに。13年4月から1年間、北海道トムラウシに家族で移住し、その体験を『神さまたちの遊ぶ庭』に綴る。16年、『羊と鋼の森』が本屋大賞を受賞。ほかに『太陽のパスタ、豆のスープ』『誰かが足りない』『つぼみ』など。

「2018年 『とりあえずウミガメのスープを仕込もう。   』 で使われていた紹介文から引用しています。」

宮下奈都の作品

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