羊と鋼の森 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 18203
感想 : 1461
  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167910105

作品紹介・あらすじ

第13回本屋大賞、第4回ブランチブックアワード大賞2015、第13回キノベス!2016 第1位……伝説の三冠を達成!日本中の読者の心を震わせた小説、いよいよ文庫化!ゆされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律の世界に魅せられた外村。ピアノを愛する姉妹や先輩、恩師との交流を通じて、成長していく青年の姿を、温かく静謐な筆致で綴った感動作。解説は『一瞬の風になれ』で本屋大賞を受賞した佐藤多佳子さん。豪華出演陣で映画完成!外村青年を山﨑賢人、憧れの調律師・板鳥を三浦友和、先輩調律師・柳を鈴木亮平、ピアニストの姉妹を上白石萌音、萌歌が演じています。6月8日公開。「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」

感想・レビュー・書評

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  • R2.3.18 読了。

     「調律師をモチーフにした優れた仕事小説であると同時に、本作は、青年の成長物語である。そして、外村の自分探しの物語。(解説より)」「ふしぎなタイトルだと感じたが、羊と鋼はピアノを構成する素材だと知る。森は、外村が育った北海道の森であり、ピアノの調律で、正しい音、よい音を求めて、さまよう『森』、さらには、人生を生きることそのもののような深く、美しく、常に迷う危険、傷つく危険をはらんだ大きな世界としての『森』。(解説より)」。
     静かだけど情熱とひたむきな姿勢でピアノと向き合う外村。また、調律師の仕事についても知ることが出来た。宮下さんの美しい言葉がやはり心地良いですね。

    ・「知らないっていうのは、興味がないってことだから。」
    ・「一歩ずつ、一足ずつ、確かめながら近づいていく。その道のりを大事に進むから、足跡が残る。いつか迷って戻ったときに、足跡が目印になる。どこまで遡ればいいのか、どこで間違えたのか、見当がつく。修正も効く。」
    ・「才能という言葉で紛らわせてはいけない。あきらめる口実に使うわけにはいかない。経験や、訓練や、努力や、知恵、機転、根気、そして情熱。才能が足りないならそういうもので置き換えよう。」
    ・「才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れられない執念とか、闘志とか、そういうものと似てる何か。俺はそう思うことにしてるよ。」
    ・「音楽は人生を楽しむためのものだ。はっきりと思った。決して誰かと競うようなものじゃない。競ったとしても、勝負はあらかじめ決まっている。楽しんだものの勝ちだ。」
    ・「比べることはできない。比べる意味もない。多くの人にとっては価値のないものでも、誰かひとりにとってはかけがえのないものになる。」
    ・「もしかしたら、この道で間違っていないのかもしれない。時間がかかっても、まわり道になっても、この道を行けばいい。何もないと思っていた森で、なんでもないと思っていた風景の中に、すべてがあったのだと思う。隠されていたのでさえなく、ただ見つけられなかっただけだ。」

  • 映画のエンディングロール、ほんの少し前まで目の前に見えていたものの後ろにこれだけの数のプロの仕事が隠れていたことを知る瞬間。感動を届けてくれた無数の人たちがそこにいたことを知る瞬間。
    クラシック音楽が好きです。コンサートにも行ったことがあります。感動する音楽、深く心に入ってきた音。舞台の上の奏者がその全力をもって、全身全霊をもって私たちに対峙してくれたからこそ聴こえてきた本物の音。調律師という職業があるのは知っていました。でもあのコンサートで聴いた音の後ろに彼らの存在は見えませんでした。聴こえませんでした。その存在を感じさせないプロの仕事がそこにある。全く知らなかった奥深い世界がそこにありました。

    『この大きな黒い楽器を、初めて見た気がした。少なくとも、羽を開いた内臓を見るのは初めてだった。そこから生まれる音が肌に触れる感触を知ったのももちろん初めてだった。』高校生だった17歳の『僕』の人生が動く瞬間。そういった瞬間は突然に予告なく訪れます。

    貴方は本気で仕事に取り組んだことがあるでしょうか。仕事のプロになれ、上司から先輩から叱咤される日々を送っている人も多いと思います。プロという言葉から浮かぶもの、スポーツ選手であったり、俳優であったりそしてピアニストであったり、思い浮かべるプロは様々です。でもその彼らの後ろにもプロがいます。私も貴方も本気で仕事に取り組もうとしている人はみんなプロです。見えるプロと見えないプロの存在がどこの世界にもどこの森にもあります。

    どんな世界でもどんな分野でも全力を出して取り組む人は美しい。『柳さんは高い空を見上げた。青く澄んだ空の向こうに目指すところがあるみたいに。だとしたら、柳さんよりずっと下にいる僕は、柳さんよりもっともっと高く見上げなきゃいけない。』そう、どんな人にも空は遠い。人に認められるような仕事ができるようになっても空には手は届かない。タイプの異なる3人の先輩との関わりを通してその歩くべき道を模索する『僕』。『目指す音は人それぞれでしょう。一概には言えません。』そう、プロになればなるほどに、その目指すところは、目指すために選ぶ道は違ってきます。学んでも答えは自分で見つけるもの。それはその森に入った者の使命だから。

    森という言葉からは色々なものを思い浮かべます。生きとし生けるものの還る場所、包容力のある存在。『調律師になる。間違いなくそれもピアノの森のひとつの歩き方だろう。ピアニストと調律師は、きっと同じ森を歩いている。森の中の、別々の道を。』同じ森を歩く者にも歩き方があります。役割があります。森の向こうに見えるもの、頂を目指して歩く者たちの思い。でも深く森に入れば、奥深く入って行けば行くほどにその先の頂の姿は見えづらくなっていくものです。

    でも、自分が踏み込んだ、分け入った森、自分が信じで進んだからこそ、その森をもっと深く知りたいと思います。自分が歩くその森で何ができるのか、何を残せるのか、もっと本気で考えてみたいと思います。だからこそ、今の私の心にも『目指す場所というのは、どこのことだろう。少なくとも、僕にはまだ見えない。』という『僕』の思いが、言葉が響いてきました。

    目指すものが高ければ、目指す場所が遠ければ遠いほどに霞んで見えないその場所へ。自分も一歩づつ歩いていこうと改めて思いました。

    宮下さんの刻む特徴のある読点のふり方が読書に独特なリズム感を生んでいて、慣れるととても読みやすい作品でした。だからこそ、自然に身体が反応します。良い本に出会うと身体が自然と熱くなります。そう、とっても熱い思いを感じた、そんな作品でした。

    • megmilk999さん
      次に読むなら、何がオススメですか?
      次に読むなら、何がオススメですか?
      2022/06/21
    • さてさてさん
      はい、迷うことなく「スコーレNo.4」をおすすめします。これは、感動的な一作です。圧倒的な幸福感に包まれる傑作だと思います。次点は「よろこび...
      はい、迷うことなく「スコーレNo.4」をおすすめします。これは、感動的な一作です。圧倒的な幸福感に包まれる傑作だと思います。次点は「よろこびの歌」です。こちらは、「終わらない歌」へと続き、ワンセットで読まれるのが良いと思います。
      2022/06/21
    • megmilk999さん
      ありがとうございます♪読んでみます。楽しみです。
      ありがとうございます♪読んでみます。楽しみです。
      2022/06/24
  • 静謐な文章で心が落ち着く。
    山奥から出てきた高校生の外村。何事にも引っ込み思案で将来もあまり考えていなかったのが学校のピアノの調律に来た板取に出逢うことで調律師の道へ。
    こう言う主人公だと今まではあまり好きになれないのだが、僅かずつ成長していく姿を見て頑張れと思ってしまう。先輩の調律師達が良い人達だし、ピアノに情熱を傾ける双子の姉妹も良い。
    担当する客からキャンセルが続く原因は何だろうか。もっと主人公には自信を持って欲しいと思ってしまう。

  • この仕事に、正しいかどうかという基準はありません。
    正しいという言葉には気をつけたほうがいい。

    この文章が、私の心にいちばん響きました。
    正しいという絶対的な基準がない世界で生きていくのは、私が想像するよりも、きっとずっと大変なことなのだろうと思います。
    まして、音という形のないものなら尚更でしょう。
    まるで薄暗い森の中を彷徨う思いです…。

    この作品に登場する人たちには、信念というか、こだわりというか、なにか「いっぽんの柱」のようなものがあったように思います。
    そんな彼らが、それぞれに迷いつつも、森の中を歩き進む姿に勇気をもらえる作品でした。

  • 森の匂い。夜になりかける時間の、森の匂い。それは黒いピアノの蓋の開いた森から流れでます。
    ぽつん、ぽつん、と単発だったピアノの音が、走って、からまって。葉っぱから木へ、木から森へ、音色になって、音楽になっていきます。
    わたしには、その音色は光のようで、粒や波となって降り注いでいるようにも思いました。
    それは外村くんが見つけた美しいもの。

    素直な子だなぁ。それが主人公の外村くんに対する第一印象でした。その印象は最後まで変わらないまま。そこへ、調律師としてひたむきに音と向き合ううちに、はじめの頃には見えなかった彼の一途な面や、意外と頑固なところなどが顔を出してきて、外村くんを形作っていったように思います。
    外村くんの先輩たちや、双子の姉妹、そして、調律師として向き合ってきたピアノやお客さんたち。彼ら彼女らと出会うことによって、今まで我を通したいと思ったことのない彼が“わがまま“とか”こども“とか言われて、やっと自分がどうしたいか、そんな対象となるものが出来たことに気づきます。外村くんは、どちらかといえば不器用な方だと思います。ひとつひとつ、気づいて、確認して、納得して、そして前に進む……そんな印象です。でも、それでいい、それがいいと思えるのです。
    こんなにも初めて出会った美しいものに真摯に向き合える彼の姿に、深く静謐な美しい森を感じました。

  • ピアノの世界のことがすごく詳しく描写されている。
    文章が繊細で、読んでいてとても気持ちがいい。
    ピアノに触ってみたくなりました。
    映画も是非見たいと思います。
    老若男女におすすめ。。

  • 初めての宮下奈都さん。
    文章が洗練されていて、格調高くて、とても美しいのですが、レベルが高すぎて、ところどころ理解できない箇所もあり、正直読んでいてしんどくなってしまうこともありました。

    たとえば、92ページの次のような箇所。
    (こうやって書き出してみると、少しわかった気も…)
    「自分が迷子で、神様を求めてさまよっていたのだとわかる。迷子だったことにも気づかなかった。神様というのか、目印というのか。この音を求めていたのだ、と思う。この音があれば生きていける、とさえ思う。十年も前に森の中で、自由だ、と感じたあのときのことを思い出す。身体から解き放たれることのない不完全さを持ちながら、それでも僕は完全な自由だった。あのとき、僕のいる世界の神様は木であり葉であり実であり土であったはずだ。今は、音だ。この美しい音に導かれて僕は歩く。」

    主人公の外村くんは、高校2年生の時、偶然、自分の高校の体育館にあるピアノの調律に来た調律師の板鳥さんの影響を受けて、調律師の道を歩むことを決意する。
    願い叶って、ある楽器店で調律師として働き始めたのはいいものの、「僕には調律の基本さえできていない」、(板鳥さんには)「なめられてるどころじゃない」と、挫けそうになったり、コンプレックスを抱いたりすることが多々あった。
    それでも、柳さんや秋野さんといった先輩調律師たちに囲まれ、1歩1歩成長していく…。

    「才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れられない執念とか、闘志とか、そういうものと似てる何か。俺はそう思うことにしてるよ。」
    柳さんのこの言葉、好きです。
    とても強く心に残りました。

  • 心が洗われるようなさわやかで清々しい作品でした。

    調律師が主人公とはななかなか渋い。ちょー裏方なんだけど、カッコいいんです。手で、耳で、いや全身で調律するんだけど、人間がやることだから「絶対」はないんだろう。でもプライドを持ち、極めようとする。あくまで目立たずに。

    ふたごの連弾! 聴いてみたかった。
    「ピアノを食べて生きていくんだよ」

    音楽が題材の作品、結構読んだ気がします。いよいよクラシックに手がのびそう。

  • 第13回本屋大賞
    第4回ブランチブックアワード大賞2015、
    第13回キノベス!2016 第一位
    伝説の三冠を達成した物語...だそうです

    一人の少年の成長物語
    高校生のとき、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会ってから、調律に魅せられた主人公外村。
    専門学校を経て、板鳥の勤める楽器店に就職し、調律師として働き始めます。
    そこで、先輩の柳、元ピアニストの秋野、凄腕の板鳥たちとのかかわり、エピソードの中で、腕を磨いていきます。
    そして、顧客の一人である双子の姉妹とのかかわり

    さわやかな物語となっていますが、ぶっちゃけ、たんたんと物語は進んで、ちょと物がりない。しかし、最後の結婚式に向けたピアノ演奏の件は印象的!

    本書で、ピアノ調律師という仕事の本質を初めて知りました。
    単純にピアノの音階合わせだけじゃないのね。
    そのプロフェッショナルな内容、仕事に驚きでした。(恥ずかしながら...)
    音を言葉で表現するのってすごい

    まさに羊と鋼の森の中で音と出会い、音を求めて、成長する物語でした。

  • 好きな道を選んでも、
    才能がないかもしれないという不安感。
    この道を行く事が間違ってるかもしれない。
    それでも前に進みたい気持ちはある。

    私も今の仕事に就いた時は
    このままこの道を進んでいいのか漠然とした恐怖感に苛まれていた。
    才能がない、向いてないと言われたらどうしよう。
    それでもこの道を進みたい気持ちと
    もっと他に向いてる道があるのではないかという気持ちとの板挟みに悩まされる日々。

    この本を読んで
    久しぶりにそんな気持ちを思い出した。
    働き始めてもうすぐ10年。
    昔は散々悩んでいたけど、
    それでも前に進み、
    言い訳せずに努力を出来ることが
    才能なのかなと今なら思う。

    久しぶりに初心に戻り、
    自分の仕事へのスタンスを振り返ってみようと思った。


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著者プロフィール

1967年、福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。2004年、第3子妊娠中に書いた初めての小説『静かな雨』が、文學界新人賞佳作に入選。07年、長編小説『スコーレNo.4』がロングセラーに。13年4月から1年間、北海道トムラウシに家族で移住し、その体験を『神さまたちの遊ぶ庭』に綴る。16年、『羊と鋼の森』が本屋大賞を受賞。ほかに『太陽のパスタ、豆のスープ』『誰かが足りない』『つぼみ』など。

「2018年 『とりあえずウミガメのスープを仕込もう。   』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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