羊と鋼の森 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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レビュー : 591
  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167910105

作品紹介・あらすじ

第13回本屋大賞、第4回ブランチブックアワード大賞2015、第13回キノベス!2016 第1位……伝説の三冠を達成!日本中の読者の心を震わせた小説、いよいよ文庫化!ゆされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律の世界に魅せられた外村。ピアノを愛する姉妹や先輩、恩師との交流を通じて、成長していく青年の姿を、温かく静謐な筆致で綴った感動作。解説は『一瞬の風になれ』で本屋大賞を受賞した佐藤多佳子さん。豪華出演陣で映画完成!外村青年を山﨑賢人、憧れの調律師・板鳥を三浦友和、先輩調律師・柳を鈴木亮平、ピアニストの姉妹を上白石萌音、萌歌が演じています。6月8日公開。「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」

感想・レビュー・書評

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  • 森の匂い。夜になりかける時間の、森の匂い。それは黒いピアノの蓋の開いた森から流れでます。
    ぽつん、ぽつん、と単発だったピアノの音が、走って、からまって。葉っぱから木へ、木から森へ、音色になって、音楽になっていきます。
    わたしには、その音色は光のようで、粒や波となって降り注いでいるようにも思いました。
    それは外村くんが見つけた美しいもの。

    素直な子だなぁ。それが主人公の外村くんに対する第一印象でした。その印象は最後まで変わらないまま。そこへ、調律師としてひたむきに音と向き合ううちに、はじめの頃には見えなかった彼の一途な面や、意外と頑固なところなどが顔を出してきて、外村くんを形作っていったように思います。
    外村くんの先輩たちや、双子の姉妹、そして、調律師として向き合ってきたピアノやお客さんたち。彼ら彼女らと出会うことによって、今まで我を通したいと思ったことのない彼が“わがまま“とか”こども“とか言われて、やっと自分がどうしたいか、そんな対象となるものが出来たことに気づきます。外村くんは、どちらかといえば不器用な方だと思います。ひとつひとつ、気づいて、確認して、納得して、そして前に進む……そんな印象です。でも、それでいい、それがいいと思えるのです。
    こんなにも初めて出会った美しいものに真摯に向き合える彼の姿に、深く静謐な美しい森を感じました。

  • ピアノの演奏あるいはその奏でる音を、豊饒な文体で華麗に表現した小説に、恩田陸著『蜜蜂と遠雷』や中山七里の探偵にしてピアニストの岬洋介シリーズなどがあげられる。
    これらの小説がピアニストの視点で書かれているのに対し、本書はピアノ調律師といういわば裏方が、主人公となっている。
    高校の時に調律に魅せられた主人公が、調律師となって調律の森へ深く分け入って行く成長物語。
    彼が務める楽器店の諸先輩たちとの交流、訪問先での出来事等、全編静謐な筆致で描かれており、読者は調律師の世界の仕事小説としても読むことができる。
    原民喜の「明るく静かで澄んでなつかしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のように確かな文体」という文章が、「文体」を「音」に変えて調律の理想として再三語られている。
    その他いろいろと応用ができそうな美しい文章だ。

  • 文庫出版待ちをしていた1冊。
    待った甲斐がありました。数時間であっという間に読了。
    心穏やかに幸せな気持ちになれるお話しでした。

    日ごろから人の記憶には、視覚・聴覚・嗅覚がとても影響していると思っています。
    例えば懐かしい音楽を聴くとそれを聞いていた時の思い出が鮮明に蘇ったり、夕立の後の匂いを嗅ぐと小学生の頃の夏休みを思い出したり・・・。
    きっと誰にでも経験のあるこういう体験をもっとぎゅっと凝縮し全身・全心で感じているのが主人公の外村くんなんだと思います。

    「調律師」という職業は、ピアノに関わったことのない人にとってはきっと馴染みが薄いかと思いますが、私は10代のころ、妹とピアノを習っていました。そして今は姪っ子たちが習っています。家にも年に一度、調律師の方に来ていただいていますので、調律師という職業のことも、調律していただくことによってピアノの音が全く変わることも知っています。そしてやはり担当していただく方によって音が別物になることも。
    いつも同じ方に来ていただくようにしていますが、ある年、都合がつかずべつの方に来ていただいたときは、やはり音に違和感が出てしまって弾きずらかったことをよく覚えています。
    私でさえそんなことを感じるのですから、ピアニストの方にとって「調律」は相当重要なことなんだろうなって思います。

    いつも我が家に来ていただいていた調律師の方は、とても物腰が柔らかく穏やかな方でした。ピアノの調律をするという作業に興味があってよく見学していましたが、今思えばかなり邪魔だったんだろうなって思います(笑)

    この物語の中には激しいイベントは出てきませんが、静かに流れていく時間のなかで、しっかりと目標を持ち、そこに向かって「こつこつ」と努力をしながら人生を歩いてゆく大切さを教えてくれているような気がしました。

    読み終えた後、心が優しさで満たされました。
    ぜひ、多くの方に読んでいただきたい1冊です。

  • 文庫ではなく単行本を読んだ時のレビューです。
    したがって、ページは文庫版のページとは異なっています。ご容赦を。<(_ _)>

    冒頭──────
     森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。風が木々を揺らし、ざわざわと葉の鳴る音がする。夜になりかける時間の、森の匂い。
     問題は、近くに森などないことだ。乾いた秋の匂いをかいだのに、薄闇が下りてくる気配まで感じたのに、僕は高校の体育館の隅に立っていた。放課後の、ひとけのない体育館に、ただの案内役の一生徒としてぽつんと立っていた。
    ─────────

    また小説を読んで泣いてしまった……。
    自分が涙もろくなったのか、それとも作家の方々が素敵な作品を書くようになったのか。

    “枝先のぽやぽやが、その後一斉に芽吹く若葉が、美しいものであると同時に、あたりまえのようにそこにあることに、あらためて驚く。あたりまえであって、奇跡でもある。きっと僕がきづいていないだけで、ありとあらゆるところに美しさは潜んでいる。あるとき突然、殴られたみたいにそれに気づくのだ。”(P20)

    “ピアノの基準となるラの音は四百四十ヘルツと決められている。赤ん坊の産声は世界共通で四百四十ヘルツなのだそうだ。(中略)日本では、戦後になるまで四百三十五ヘルツだった。もっと遡れば、モーツァルトの時代のヨーロッパは四百二十二ヘルツだったらしい。(中略)最近はオーケストラの基準となるオーボエのラの音が四百四十四ヘルツになってきている(中略) 変わらないはずの基準音が、時代とともに少しずつ高くなっているのは、明るい音を求めるようになったからではないか。わざわざ求めるのは、きっと、それが足りないからだ。”(P97~98)

    北海道の山間の集落、大自然の森の中で中学まで暮らしていた少年、外村君。
    中学時代、体育館にあるピアノの調律のためにやって来た男性が出した不思議なまでの音色に心を動かされ、彼は調律師を志す。
    調律師の学校を卒業した彼は、自分を魅了した調律師、板鳥さんと同じ職場に就職し、調律師の仕事を始める。

    その過程で感じる多くの疑問と苦悩。
    調律とはなにか? 
    ピアノとはなにか? 
    音楽とはなにか? 
    自分はどういう調律師を目指せばよいのか? 
    自分は本当に調律師になれるのか?

    それとともに、
    どんな目標を持って生きるべきなのか? 
    自分の人生に夢や希望などあるのだろうか?

    “才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。”(P224)

    周囲の人たちの温かい目に見守られ、彼は日常の調律の仕事で出会う様々な光景から、それらの答えを模索し続け、探し当てる。
    彼の前に現れた可愛い高校生のふたごのピアニストが抱く葛藤と絡み合わせながら。

    “もしかしたら、この道で間違っていないのかもしれない。時間がかかっても、まわり道になっても、この道を行けばいい。何もないと思っていた森で、なんでもないと思っていた風景の中に、すべてがあったのだと思う。隠されていたのでさえなく、ただ見つけられなかっただけだ。”(242P)

    随所に現れる珠玉の言葉が胸に沁みわたる。
    優しい言葉、優しい心の持ち主によって綴られた美しい話。

    様々な場面、主人公の語り、ふたごの女子高生の思い、その他登場人物の台詞などが透き通るように真っ直ぐで、何故か何度も涙が零れる。

    広大で、でも静謐な森の中の澄んだ空気を深く吸い込みながらゆっくり散策しているような、心に沁みわたる優しい物語。

    胸に刻んでおきたいような言葉がありすぎて、引用が多くなりましたが、素晴らしい小説。
    これまで読んだ宮下さんの作品の中でも最高傑作。
    お薦めです。

  • ピアノを15年以上も弾いていたのに、こんな音の世界があったなんて...今のデジタル化された高速で過ぎ行く時間の流れとは全く違った時を刻んでいたようでした。人工的な音を排除した自然に囲まれた中で育った主人公の音と向き合う姿が、ただただ謙虚な姿がたまらなく良かったです。もう少し大きくなったら娘たちにも読んで欲しい一冊となりました。明日は久々にピアノの鍵盤に触れて見たくなりました。

    • winghighbridgeさん
      ちょうど読み始めました!
      来週は、宮下さんの講演会に行ってまいります。
      ちょうど読み始めました!
      来週は、宮下さんの講演会に行ってまいります。
      2018/04/04
    • lalamama1さん
      講演会ですか^^羨ましいです。
      講演会ですか^^羨ましいです。
      2018/04/04
  • 好きな道を選んでも、
    才能がないかもしれないという不安感。
    この道を行く事が間違ってるかもしれない。
    それでも前に進みたい気持ちはある。

    私も今の仕事に就いた時は
    このままこの道を進んでいいのか漠然とした恐怖感に苛まれていた。
    才能がない、向いてないと言われたらどうしよう。
    それでもこの道を進みたい気持ちと
    もっと他に向いてる道があるのではないかという気持ちとの板挟みに悩まされる日々。

    この本を読んで
    久しぶりにそんな気持ちを思い出した。
    働き始めてもうすぐ10年。
    昔は散々悩んでいたけど、
    それでも前に進み、
    言い訳せずに努力を出来ることが
    才能なのかなと今なら思う。

    久しぶりに初心に戻り、
    自分の仕事へのスタンスを振り返ってみようと思った。


  • ピアニスト目線の作品ならたくさんある。しかさあえて調律師の目線から描いているというところがいい。
    あー面白かった!

  • 話題になったからと、買って積ん読になってたが、読み始めたら一気に読んでしまった。
    クラシック音楽やピアニストの話は結構目にするが、調律を題材にした話は確かに珍しい。

    社交的で要領の良い弟君が少しコンプレックスで、ピアノやクラシックに関して特に専門の知識を持っておらず、卓越したセンスはないが、真面目に物事に取り組む。トークが特段上手くはないが、会話に困るほど下手ではない。
    小説の上では没個性とされている外村君だが、彼の実直性は突き抜けていると思う。
    何かをたとえる時の森の詳細な表現や、調律が上手くなるためにコツコツ続けることを苦痛と感じないとさらっと言えちゃう所とか。

    彼は森に囲まれて育ち、本質的なものを自然から学んでいたのだと思う。
    憧れの調律師が目指す「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな音」を体現しようと日々努力し、それをただの一歩としか見ない実直性を持つ外村君が、周りからは異質にも見えるし、どこか脅威にも感じる。人間は楽をしたり面倒なことを回避するための言い訳をいつも使っちゃうので。
    だから、彼のピアノに向かう姿勢が合わない、または耐えられない客は外村君を指名から外すのかもしれない。

    外村君の先輩たちの調律の考え方も様々で、相手に合わせて調律を変えるもの、一般家庭にプロ用の調律はかえってミスマッチになるから一定のパターンにした方が良いという人。自分の今の気分に合わせた調律を求める人。いつもと同じ状態を求める人。

    それぞれがそれぞれの経験を得て築いた調律のスタイル。めいっぱい美しい音を出せるようにした方が良いと思っていた外村君だが、先輩たちの価値観に触れて、自分はどうだろうとグラグラする。
    そこに、ふたごの姉妹のピアノに出会い、彼女のピアノが美しいと感じ、しかし彼女が上手く弾くためだけの調律では聴衆に彼女のピアノの本当の素晴らしさは届かない、と気づく。

    彼の幸運(実力)は、上手くなりたいという意志が強く行動できること、双子に会って肩入れしたいピアニストができたこと、変にこだわりがないから悩みながらも沢山の事を吸収できること。だと思う。

    どんな仕事でも、仕事に対する熱意や方法は人それぞれで、いつも同じ仕事はない。
    ああすれば良かったという教訓や、上手くいった成功パターンから、人は成功のための公式を求めて試行錯誤する。
    自分がやりたい仕事と求められている仕事の折り合いをつけるのはいつも難しくて、イコールになることってあまりない。
    でも、本当は正解方程式なんて無くて、結局客が求めているものを提供できているか、ということなんだろうな。

  • 明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体

    これが柳が目指した調律
    言葉にできないようなものを言葉にしているところがすごい
    この世界には、感覚ではわかっても言葉にできなく、もどかしくなり、そのもどかしさから逃げて知らないふりをしている人も多くいる。
    そんな人たちへ向けてのものであると思う言葉様々なことに通づる
    この作品は表現の一つ一つがその場の情景、そしてその時に感じる風なども目を瞑ると感じてくるような作品。
    調律の世界を自分の生まれである、森という場所とリンクしている事でまったく想像もつかなかった調律というものが少し身近に、そして美しく捉えることができた。
    こんな表現をかけるようになりたい。

  • 森・・・そうだな、読んでいる間じゅう森のイメージが浮かんでいた。人の背丈に対して木々は高くそびえ、目に入るのはまっすぐ伸びる幹ばかりで、青空や葉擦れの雑音さえも遠く、その代わりに動物たちの足跡や降ってきた雪の欠片が目の届く範囲にある、そんな森。
    外村青年の抱くイメージにたびたび出てくる森の描写がとても印象的、視覚的というか・・・幻想的な雰囲気なのに、なぜかすんなり想像できてしまう不思議な描写だったから、それに引っ張られたんだろうなと思う。
    限られた範囲の物語で、出てくる人もごく少数。しぜん、外村以外の各々の心のうちも深いところまで垣間見る感じになる。でもあくまで外村という「外」からの目を通してなので、入り込み過ぎず、重い物語になっていないのが気持ちよかった。

    和音のピアノとの出会いから「わがまま」になっていく外村青年の様子もいいなぁと思う。成長する、階段を一つ登るって、そっか、わがままを言えるようになることでもあるんだな、と。つまり自分がどうしたいか分かるってことだ。右も左もわからず手探りな時期に「わがまま」は出せない。
    心に残る言葉はいろいろあったけど、この一連のシーンが一番響いた。

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著者プロフィール

宮下 奈都(みやした なつ)
1967年福井県生まれ。上智大学卒業。2004年、「静かな雨」で文學界新人賞に入選し、デビュー。日常に起こる感情の揺れを繊細で瑞々しい筆致で描きだす作品で知られる。『スコーレNO.4』が書店員から熱烈な支持を集め、注目を浴びる。代表作に、2016年本屋大賞、ブランチブックアワード2015大賞、「キノベス!2016」などを受賞した『羊と鋼の森』があり、2018年6月映画化。『静かな雨』が2020年新春映画化が決まり、2019年6月6日文庫化される。ほか、福井からトムラウシに移り住んでいた頃の日々を描いた『神さまたちの遊ぶ庭』や、福井での身辺雑記や本屋大賞受賞前後のエピソードなどを描いた『緑の庭で寝ころんで』がある。

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