長いお別れ (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
3.79
  • (24)
  • (65)
  • (31)
  • (10)
  • (0)
本棚登録 : 486
レビュー : 62
  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167910297

作品紹介・あらすじ

かつて中学の校長だった東昇平はある日、同窓会に辿り着けず、自宅に戻ってきてしまい、心配した妻に伴われて受診した病院で認知症だと診断される。昇平は、迷い込んだ遊園地で出会った幼い姉妹の相手をしたり、入れ歯を次々となくしたり、友人の通夜でトンチンカンな受け答えを披露したり。妻と3人の娘を予測不能なアクシデントに巻き込みながら、彼の病気は少しずつ進行していく。そして、家族の人生もまた、少しずつ進んでいく。認知症の父と妻、3人の娘が過ごした、あたたかくも切ない、お別れまでの10年の日々。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • アメリカでは、認知症のことを「長いお別れ」というらしい。
    そう語ることによって、病気というイメージから「詩的」イメージへと昇華する。いかにもアメリカらしい言い方か。
    本作も、妻や娘の目を通して、認知症の夫(父親)の行状が語られているが、決して暗くならず、ユーモアさえ感じられる。
    妻の介護は自らも網膜剥離に罹るなど困難の極みだし、三人の娘たちもそれぞれ事情を抱えて余裕などなく、深刻で大変な状況であるが、悲惨な状況には描かれておらず、読後感も悪くない。
    長寿高齢社会の現代にあって、認知症は、本人家族あるいは近親者など、誰でもが避けては通れない問題かもしれない。
    しかし、せめてこの小説世界ぐらいの気持ちの持ち様で、対処したいと思うが。

  • 認知症が背景にある小説で暗くなりがちなテーマなのに、導入章ともなる『全地球測位システム』の章が明るく巧みに誘ってもらった。老々介護家族の見本のような中で妻の曜子が陽気。それぞれ3人の娘が居る。長女〈茉莉〉は米西海岸に住む。次女〈菜奈〉は近くに住んでいるが妊娠中。末っ子の芙美〉は独身。3人の孫も登場する。それぞれが「うるせぇな」とぶつぶつ言いつつも父の東昇平を愛していることが分かる。
    家族って何だろうと自問してしまう。
    遠住みの90歳母を想いながら介護真っ最中の私。幸いにまだ母は『長いお別れ』と呼ばれる認知症ではないが迫っている。
    昇平を囲む家族が自分がやれる範囲で係わっているのを参考にできる。
    最終章『QOL』でアメリカの学校に通う孫・崇が不登校になり、校長先生と話す会話で閉じられる。
    構成が良いと思う。実は昇平も校長だった。
    人の死は皆が生きていく場所場所でつながっていけると信じさせてもらえた。

  • 認知症になった父親と家族の物語。三人の娘は家を出てそれぞれの暮らしを築いていますが、父親の認知症という現実は容赦なく襲いかかり、ケアマネジャーやヘルパーの助けも借りながら、母親とともに奮闘を続けます。
    いつ終わるとも知れない戦いの日々。ゴールが見えないおそろしさもさることながら、状態が目まぐるしく変わるなか、いったい何がゴールなのだろうか?と読みながら自問します。
    それなのに、この物語は明るいのです。
    自宅での介護がどんなに大変かを嫌でも実感させられ、いくら検査しても発熱の原因がわからず、最期は自分らしくあることができるかどうかです、と突き放すように告げられる、そんな状況にもかかわらず、物語のトーンはまったく暗くなりません。むしろ結末が近づくにつれ色々な騒動が収束に向かい、平穏な日々が戻ってくる、そんな印象さえ受けるのです。
    家族とは固定されたものではなく、さまざまに姿形を変えられる有機体で、そのダイナミズムこそがこの物語の主題であるのかもしれません。
    父親の死を乗り越えた家族たちの未来は明るい。読み終えてそう感じました。

  • 認知症が少しづつ進む父親
    その父親が引き起こす数々のアクシデントを、妻と3人の娘の視点から描かれる。

    認知症の父親が何を思っていたかは、描かれない。

    認知症は、外部への表現が壊れているため、その人の中で何を考え、思っているかをうかがい知ることが難しい。
    そのむず痒く、困惑するところは、認知症の方を介護している家族がいつも抱えているジレンマなのだろう。
    この本では、妻が「この人が何かを忘れてしまったからと言ってこの人以外の何者かに変わってしまったわけではない」と言い、認知症の夫に寄り添う。

    そんな風に思える夫婦になっているだろうか?相手に心をどれだけ向けてきただろうか?改めて、目の前の相手に心を向けた言動をしようと思う。

    • chie0305さん
      tsucchyさんもこの本読まれたんですね。私も少し前に読みました。父の状態と似たところがあって泣いてしまいました。
      レビューの最後の所、...
      tsucchyさんもこの本読まれたんですね。私も少し前に読みました。父の状態と似たところがあって泣いてしまいました。
      レビューの最後の所、なんだかとても羨ましくなりました。そういう風に思えるって素敵です。
      2018/05/12
  • 認知症になった元中学校長の夫と、寄り添う妻。家を出て暮らしそれぞれに父母と関わる3人の娘。
    認知症を暗くならずに描く、とあって確かにそういうタッチで描かれているのだけれど、私には認知症はどう書いたって悲惨な状況だ。
    ユーモラスに描かれているけど、作ったばかりの入れ歯をすぐに壊されたり失くしたりされたらとか、紙パンツの中のうんこを取り出して自分のベッドに並べられていたらとか、夜中に3回も洗濯機を回す羽目になったらとか、こういうのが物語の中の話でなく我が身に起こったらと思うと、亡くなった父の病気も思い出し、とても気楽に苦笑いしながら読めないな。
    私のような歳になると、誕生日には「これまで何年生きてきた」ではなく「これから後どれくらい生きるだろう」ということを思わされ、こういう本を読むと、自分はどのような死に方をするのだろうと恐ろしくなる。
    終章、QOLの観点から人工呼吸器や胃瘻の話も出てくるが、父の時に問われたことを思い出し、自分や自分の身内がそういう状況になった時、どのようになるのか、するのかと思いが巡る。
    物語の中では、体中にチューブをつけて意識なく生き続けたいと、夫は、父は望まないだろうと家族は結論付けるけど、自分もそうした生き様と家族を得れただろうか。
    妻は、この人が何かを忘れてしまったからと言ってこの人以外の何者かに変わってしまったわけではないと喝破するが、確かに、言葉も記憶も知性の大部分も失われたとしても、長い結婚生活の中で二人の間に常に、確かに存在した何かをもって、夫婦のコミュニケーションは保てるものだと、それは本当にそう思いたい。

  •  映画化され、ラジオでCMが流れていて興味をもった。映画も見ようと思ったが、見れていない。
     途中、認知症が進行した母親に、見舞いに行った息子に対し、彼女は息子に「あなたは親切な人だ」と喜ぶシーンがある。認知症の親子を描いたドラマか何かで、やはり同様のシーンを見かけた。記憶も知性も失って、流れる日常に振り回されるだけになっても、親は本能的に子を受け入れ、出会いを喜ぶ感情が沸き上がるものなのだろうか。
     脚色されたエピソードなのかもしれないが、そう信じたいと思った。

  • 認知症における老々介護を
    つとめて明るく書いているので
    興味があるけど、重たすぎるのは読みたくない!
    という私にはちょうどよかった。

  • 淡々と、されど冷めているわけでなく、ユーモアも織り交ぜながら、認知症の進行してゆく様子とその周囲の人々を描くのは、とっても難しいことと思う。
    認知症は誰にでも、どこの家庭にでも起こりうること。全員に、それとは別の日常があること。そして最期は必ずしも感動的でないこと。全てが現実的。

    …でも、『お嬢さんが、がんばるしかありません。』
    この台詞は現実的かもしれないけど私はさすがに言わないな。

  • 亡くなった母と重ねて、読んでいました。
    うちの母の場合は脳梗塞からの認知症で
    段々壊れていくのを見ているのは辛かったですが、手を力強く握り返してきたり
    目で合図したり
    言葉にならない言葉に頷いていると、肩をすくめて笑ったり
    全てわからない訳では無いのかもって時々思っていました。
    だから、娘が愚痴を言う電話に答えている所は涙が出ました。
    言葉は通じなくても心が繋がっているって事なんだなぁと
    介護は大変です。
    一人でなんてとても無理です。
    福祉施設を利用して周りの人と助け合いながら乗り越えなくては、身体が持ちません。
    物語の中のお母さんが、お父さんが亡くなった後の人生が心穏やかに楽しく過ごせますように。
    お疲れ様でした。

  • 認知症の父親とその妻、娘、孫の10年。

    他人事じゃないなと思う。

    自分の両親も60に近付き歳を取ったなと感じることも多くて、先を考えてしまうこともある。

    もし、病気や認知症で介護が必要になったときどちらかに老老介護はさせたくないし、きょうだいは他県で家族をもっているから1番近いのは私だなとか、でもそのときはきょうだいで協力していかなくてはならないな、そのためには疎遠にはなりたくない、、とか色々。

    この物語の家族はみんなが父親を思い、大変ながらも寄り添っている、本人を尊重していて、時にはほっこりな場面もあったり物語としても楽しめた。

全62件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

中島京子(なかじま きょうこ)
1964年東京都生まれの作家。『FUTON』でデビュー。著書に『小さいおうち』(直木賞)、『かたづの!』(河合隼雄物語賞・柴田錬三郎賞)、『長いお別れ』(中央公論文芸賞)等。2019年5月15日、新刊『夢見る帝国図書館』を刊行。

長いお別れ (文春文庫)のその他の作品

長いお別れ 単行本 長いお別れ 中島京子
長いお別れ (文春文庫) Kindle版 長いお別れ (文春文庫) 中島京子

中島京子の作品

長いお別れ (文春文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする