帳簿の世界史 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2018年4月10日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (416ページ) / ISBN・EAN: 9784167910600

感想・レビュー・書評

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  • 会計部門に関わっている身として読むべきかと思い読み始めたけれども、帳簿や簿記会計の話というよりもそれらを切り口にした世界史の話として楽しめました。

    とはいうものの世界史の基礎知識を知らない、あるいは忘れすぎていてそれらを知っている人と比べるると本書を楽しめていないだろうなという自覚もあります。

  • 本書は会計の進化とその社会的・政治的影響を描き出している。帳簿は古代バビロニアのハンムラビ法典から始まっていた。アテネやローマ帝国で帳簿がどのように使われていたかを紹介。会計がキリスト教の信仰や倫理観と結びついて発展してきた点を重視し、14世紀イタリアの商人たちが「神の審判」への恐れから複式簿記を磨いていったという。

    だが、メディチ家が新プラトン主義に傾倒し、会計を軽視したことで没落した事例や、スペイン・オランダ・フランス・イギリス・アメリカといった国家が、財政再建や統治のために帳簿をどう用いたかが描かれる。特に東インド会社を支えたオランダや、ヴェルサイユ宮殿建設を成功に導いたコルベールの手腕など、会計が国家運営の核心だったことが明らかになる。

    また、近代以降は産業革命とともに帳簿が企業経営に不可欠となり、鉄道会社の粉飾決算を受けて公認会計士制度が誕生したという。ディケンズやダーウィンなど思想や文学にも会計的思考が影響を与えてきた。最後には大恐慌やリーマンショックにまで触れ、複式簿記の世界がいかに現代の金融危機にも繋がっているかを示している。

    ジェイコブ・ソールの近著『〈自由市場〉の世界史』を先に読んでからからこちらを読んだが、彼のストーリーテリングは素晴らしい。会計という一見地味な分野を、信仰・倫理・政治・経済・哲学・文学などと結びつけることで、まるで歴史のドラマのように読ませてくれる。とくに、帳簿を「社会と政治を変えるツール」として描く視点は新鮮だった。

    彼がエピソードの最後に挟む言葉の端々に教訓が散りばめているのもよい。ローマのキケロがアウレリウスの帳簿は不正があると訴え結果的に暗殺されてしまうが、「権力者に帳簿の公開を迫っても報復されるだけだ」と結ぶ。イタリアで帳簿を確立したパチョーリは「怠慢でいい加減な人間は厄災を引き起こしかねない」と見抜いていたなどなど。

    コジモ・デ・メディチやコルベール、ネッケルといった世界史でも習う登場人物の功績を会計の視点から見るというのはなかなか刺激的だった。スペインのトレグロサや孫のソロルサノ。オランダのマウリッツら世界史では出てこない人物が帳簿の必要性を訴える話も引き込まれる。フェリペ2世やルイ14世が帳簿を読むシーンを想像するのは楽しい。

    印象に残ったのは、低地の多いオランダでは水管理の適正さがきわめて重要であるがゆえに帳簿が大きな役割を果たした点や、アメリカ建国期のワシントンやハミルトンが会計に抱いていた真剣さ。権力や統治において、「帳簿をつけること」がいかに重要だったかがよく伝わってくる。そしてダーウィンの進化論に複式簿記の視点を見出すユニークな視点もあるが、ここには祖父のウェッジウッドの血が流れている、という伏線回収もあったりする。

    身近な話だが、帳簿は煩わしいと考えるのが人間の心理。でも家計簿をつけると新たな地平が見えてきたりもする。ただの技術や道具ではなく、人間の信念や制度と深く関わってきた会計。その歴史を知ることで、現代の経済や財政に対する目線も変わった気がする。

  • 著者のジェイコブ・ソール(1968年~)は、歴史学と会計学を専門とする南カリフォルニア大学教授。
    本書は、2015年に単行本で邦訳が発刊され、2018年に文庫化。
    本書は、「帳簿(会計)」という斬新的な視点を軸に歴史の裏側を明らかにしたものであるが、一般に経済に大きな影響を与えると考えられている「帳簿(会計)」が、実は政治や文化に影響を与え、更には歴史までも動かしてきたことを示す、興味深い内容となっている。
    大まかな内容は以下の通りである。
    ◆会計の初歩的な技術は古代メソポタミア、ギリシャなどに見られ、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスは、会計の数値を自らが建造した記念碑にも刻み、透明性の高い精密な会計を自身の政治的正当性と功績に結び付けた。
    ◆12世紀、フィレンツェ、ジェノヴァ、ヴェネツィアなどの商業都市国家が並立し、当時欧州で最も豊かだった北イタリアにおいて、“複式簿記”が発明された。その要因は、それまでとは異なるアラビア数字が使われていたこと、貿易が発展して多くの資本が必要となり共同出資方式が考案されたため、帳簿が単に所有しているものの記録ではなく、出資者への利益配分を計算するための記録となったことというのが定説である。
    ◆14世紀にトスカーナ商人のダティーニが、15世紀にフィレンツェのメディチ家が、会計技術を支えに富豪となったが、ルネサンス期の思想に強い影響を与えた、人間の栄光は芸術・文化・政治的業績に基づくのであり、現実的・現世的な商業は重視しないとする“新プラトン主義”により、会計と責任の文化は根付かなかった。
    ◆16世紀以降、“太陽の沈まぬ帝国”スペイン、欧州最大の王国・仏ブルボン朝などの君主国で会計が注目されたこともあったが、複式簿記による国家の会計システムを安定的に確立した君主はいなかった。それは、君主にとって会計の透明性は危険ですらあったためである。例外は、共和制を維持し続けた黄金時代のオランダ(とスイス)だけであった。事実、ルイ16世期の国家財政が民衆に開示されたことが、フランス革命の要因のひとつとも言われる。
    ◆18~19世紀、アメリカの建国の父たちは、会計の力を信じ、それを駆使した。鉄道の登場による会計の複雑化は公認会計士を生み、更には、多くの専門家を抱えた大手会計事務所が作られることになった。しかし、大手会計事務所が、独立性を必要とする“監査”と企業の立場に立つ“コンサルティング”の双方を手がけるという構造的矛盾を起こすに至り、エンロン事件やリーマンショックが発生した。
    そして最後に、「本書がたどってきた数々の例から何か学べることがあるとすれば、会計が文化の中に組み込まれていた社会は繁栄する、ということである。・・・これらの社会では、会計が教育に取り入れられ、宗教や倫理思想に根付き、芸術や哲学や政治思想にも反映されていた。」、「いつか必ず来る清算の日を恐れずに迎えるためには、こうした文化的な高い意識と意志こそ取り戻すべきである。」と結んでいる。
    数百年に亘る会計の歴史を辿りつつ、現代の複雑化した金融システムを維持するために、我々にはどのような心構えが求められるのかを示唆する、奥深い一冊と思う。
    (2018年5月了)

  • 会計から世界史を紐解く。金の計算ができるかできないかで一国の富と繁栄は決まるという単純な事実を豊富な史料で解き明かした良書。会計の影響を経済だけでなく政治や文化に広げ、特にキリスト教と会計の関わりまで目を配っている。読み物としても面白い。

  • 時代背景は古代から始まり、歴史的な出来事も絡みます。フランスの負債について、そしてリーマンショックなんかはふむふむと思いますよ。

  • あの陶器で有名なウェッジウッドは、最終監査役は自分であり、リアルタイムで監査を行う「毎週月曜日に帳簿を見られるように、これを永久運動のように継続して欲しい」と私設会計士に依頼した話。経営者にとって会計とこれを永久運動のようにする事が期待されてるって、自分も外資系企業の営業一員として動いてると今も同じかと…

    この本は、なんで会計なんてやらないと行けないんだ?と素朴に疑問に思っている人に、歴史的な事象をストーリー仕立てで必要性を感じることが出来るんじゃないかな。そして、ウェッジウッドの言葉にある、リアルタイムで監査ができ、「永久運動」と言うという言葉に愕然としたりして…

    本書では、帳簿が発生したのは、古代メソポタミア、ギリシャ、中国などなどと紹介され、政治と帳簿、商人と帳簿、公認会計士の誕生、リーマンショックと近代の帳簿へとストーリーが続く。本書の中で、政治に利用したのは、ローマ帝国初代皇帝のアウグストゥスとの記載があり、自分が出資した話として政治アピールに使ったとあるが、塩野七生のローマ人の物語だと、カエサルの借金の多きさが語られていて、こっちも借金王として帳簿に残ってたはずだが、エピソード的にあまり広がらない?

    最近、コンサルティングファームの方たちと仕事が増えてきているんだが、企業としては、会計系コンサルティングなんだが、完全にITの世界の話。で、その語源が、「会計改革の道筋を作ったフランス革命」1780年代、ネッケルの章にあって、妙に納得してしまった。「フランス語で、会計や決算、報告を意味するcompte、古くはacomptであり、こらが英語に入ってきたとされる。accountantは、accomptantだった。大元のラテン語は、computareで、これはcomputerの語源。」

    この本は、挿絵も素晴らしい。カネに翻弄される人々の風刺。

    解説の山田真哉氏の「ブロックチェーンを帳簿が乗っかっている貨幣」という言葉は、「帳簿の歴史」と将来を考えるうえで、なかなか面白いポイントだなと。

  • いやあ、結構面白かった。

    会計・帳簿という切り口で世界史を読み解くといった風の作品です。

    ・・・
    帳簿をしっかりつけて成功したイタリア商人パニーニの話だったり、これまた帳簿を学んできっちりチェックを行ったことで栄華を極めたコジモ・デ・メディチの話だったり。

    はたまた、近世の東インド会社を営んだオランダが会計的にどのように優れていたのかだったり、お隣のブルボン王朝率いるフランスが会計軽視によって没落したさまであったり。更には陶器のウェッジウッドも会計好きで、単なる帳簿付けから原価計算などの管理会計を発展させたとか。

    そして、米国の鉄道会社の杜撰さ等から外部監査人としての会計人が要請されたこととか、リーマン等で明らかになった(現)BIG4の監査部門とコンサル部門の利害相反を抱える矛盾とか。

    ・・・
    なお、大手会計事務所の由来はどうやらUKらしく、自国の伝統?にのっとって監査をきっちりするという手筈だったそう。

    彼らが新大陸でビジネスをするようになると、かの地の経営者は「帳簿の確認をするよりもビジネスの相談にのってほしい」みたいな意見が多く、監査部門を持ちつつも、コンサルティング部門を持つに至ったとか。

    そしてコンサルティング部門の売り上げがどんどん大きくなり、too big to close/terminateみたいになったそう。
    なるほどです。

    ・・・
    もう一つよいのは、巻末に至って簡便ながら、日本の帳簿の歴史も書かれていること。

    これがまた、結構よいのです。

    大和時代、正税といわれた、国で管理した稲を農民に貸付け、その利息の返済をまとめた正税帳なるものが日本の帳簿の起源とか。

    ただ、これも余り使われなくなり、また奈良以降、一人一人に課税を行う班田収授法なども不評。課税逃れのために男子を女性と偽ったり、逃亡したりして、徴税が上手くゆかなくなったそう。

    そこで平安時代になると各地方に受領を指名し、一定金額を中央に収めれば、あとはいかようにしてもよし、としたと。そこでこれらの貴族は私腹を肥やし、一部は土着化したり武装したりとして、後の武家社会の礎が築かれていくと。

    また江戸時代には大阪の米相場の影響で日本式複式簿記(BS/PLともに)も既にあったそう。ちなみに縦書き。そういうことで明治時代に複式簿記が西欧から導入されたそうですが、すんなり馴染んだとか。

    なお、これらの付録の監修に名を連ねるのは元日銀総裁の速水優氏らビッグネーム。

    ・・・
    ということで、世界史系の本を楽しく読みました。

    しかし、恥ずかしながらなんですが、本作、私は再読でした。しかも、当初読んだときの感想はもう恥ずかしいくらいけちょんけちょん。

    当時を振り返ると、まだ世界史もきちんと勉強する前でした。そして、イタリアにも旅行する前でした(それはいいか)。

    でも、きっと、こういう〇〇の世界史みたいな本を読むときは、おそらく世界史そのものを或る程度きちんと学んでからの方が面白く読めるのだと思います。少なくとも私の場合はそうでした。

    50代にはもう無理ですが、今更ながら会計の専門家になりたいなあとか、夢想してしまえる本でした。

  • [評価]
    ★★★★★ 星5つ

    [感想]
    会社経営などで必須である帳簿の歴史を解説している。
    帳簿の誕生は考えていたよりも古かったが複式簿記の誕生は時代は下り、13世紀のイタリアとのことだ。
    誕生した複式簿記はすぐに一般的になったわけではなく、むしろ何度も消えそうになっているのが印象に残っている。
    というのも複式簿記を継続することは勤勉である必要があるが、そういう人は少ないという問題があったようだ。
    また、複式簿記で会計が明らかになることで困る場合もあるようで特に専制国家の権力者にとっては貴族や庶民に財務状況を明らかにすることは弱みに繋がるという考えで導入されても廃止されることが多かったようだ。
    しかし、現代社会においては会計で財務状況を明らかにすることで企業が投資を受ける際の目安となり、不正防止のための情報源となっているということを理解できた。

  • 権力とは財布の紐を握っていること。
    この言葉を丁寧に歴史的な裏付けを持って解説してくれている本
    とても面白く参考になった

  • 大英帝国の業績が記載されている世界史の教科書はいくらでもあるが、その財務諸表は載せられていない。どの時代のどの国でも、その国家運営にあたっては、自国の財務状況を正確に把握することは必須であることは言を俟たないのに。

    この本は簿記の発展史を軸に世界中の文明や大国の運営を紐解く。
    エンロン事件がケネス・レイという稀代の詐欺師が起こした特異な事件ではないということが、この本を読めばよくわかるはずだ。

    おすすめは、『青い蜃気楼』(黒木亮著)を読んでから、この本を読むこと。

  • タイトル通り、古代から近代まで帳簿はどのような関わりを持っていたのかが分かる
    特には帳簿のすべてを晒しだす破壊力はすごいなと…

    漠然と簿記の勉強がしたくなる

  • <目次>
    序章ルイ16世はなぜ断頭台へ送られたか
    第1章帳簿はいかにして生まれたのか
    第2章イタリア商人の富と罰
    第3章新プラトン主義に敗れたメディチ家
    第4章太陽の沈まぬ国が沈むとき
    第5章オランダ黄金時代をつくった複式簿記
    第6章ブルボン朝最盛期を築いた冷酷な会計顧問
    第7章英国首相ウオルポールの裏金工作
    第8章名門ウエッジウッドを生んだ帳簿分析
    第9章フランス絶対王政を丸裸にした財務長官
    第10章会計の力を駆使したアメリカ建国の父たち
    第11章鉄道が生んだ公認会計士
    第12章クリスマス・キャロルに描かれた会計の2面性
    第13章大恐慌とリーマン・ショックはなぜ防げなかったのか
    終章経済破綻は世界の金融システムに組み込まれている
    謝辞
    ソースノート
    日本語版特別付録帳簿の日本史
    解説

    2018/4/10第1刷
    2019/6/25第8刷
    2015/4単行本発刊の文庫版

    P15繁栄する社会では、良い会計慣行や商業文化が
    寝付いていただけでなく、それを支える健全な倫理観
    や文化のワク組みは存在し、会計を無視したり、操作
    したる怠ったりしがちな人間の性癖をうまく抑えていた
    が。なぜ、それが生かされなかったのか?

  • 読書習慣や家計簿アプリの習慣などポジティブな影響を非常に受けたので星5
    帳簿って…つけられるんだ…! という気づきを得た当時の民衆の気持ちになって収支を記録してるしちいかわの読書ノートも書いてる

  • スペイン帝国の没落やフランス革命勃発の影には帳簿の存在があった--この視点はすごい。この一冊でも読み応えたっぷりだけど、この分野でもっと読みたい。

  • 開始: 2024/7/17
    終了: 2024/8/23

    感想
    誰にでも訪れる清算の日。その時に負債超過に驚かなくても済むように。毎日帳簿を作成することは人生を救う。自分の成績と成果を見ておく。

  • 会計オタクのための歴史。拾い読み。

  • 帳簿から見る歴史という切り口に興味を持って読み始めた。帳簿とはお金の流れであり、即ちあらゆる活動の記録であることから、帳簿がきちんと付けられていない=対象の全体像が把握できていないということだというのが学び。
    プロジェクト管理のように、帳簿による管理ができる組織とできない組織にどのような違いが発生するのか、それ以上に、その違いが生まれる理由の読み解きが一層興味深い。

  • 面白かった。特にフランス革命。
    会計ってなかなか定着しないのが興味深かった。

  • 複式簿記に至る歴史をまとめているが会計の本ではない

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著者プロフィール

Jacob Soll
南カリフォルニア大学教授。1968年、ウィスコンシン州マディソン生まれ、ロサンゼルス在住。専門は哲学、歴史、会計学。1995年にパリの社会科学高等研究院で高等研究修士号、1998年に英ケンブリッジ大学モードリン・カレッジで博士号を取得。2011年マッカーサー・フェロー(奨学金)を取得。邦訳された著書に『帳簿の世界史』(文藝春秋)がある。

「2024年 『〈自由市場〉の世界史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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