帳簿の世界史 (文春文庫 S 22-1)

制作 : 村井 章子 
  • 文藝春秋
4.05
  • (8)
  • (26)
  • (4)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 237
レビュー : 22
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167910600

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 著者のジェイコブ・ソール(1968年~)は、歴史学と会計学を専門とする南カリフォルニア大学教授。
    本書は、2015年に単行本で邦訳が発刊され、2018年に文庫化。
    本書は、「帳簿(会計)」という斬新的な視点を軸に歴史の裏側を明らかにしたものであるが、一般に経済に大きな影響を与えると考えられている「帳簿(会計)」が、実は政治や文化に影響を与え、更には歴史までも動かしてきたことを示す、興味深い内容となっている。
    大まかな内容は以下の通りである。
    ◆会計の初歩的な技術は古代メソポタミア、ギリシャなどに見られ、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスは、会計の数値を自らが建造した記念碑にも刻み、透明性の高い精密な会計を自身の政治的正当性と功績に結び付けた。
    ◆12世紀、フィレンツェ、ジェノヴァ、ヴェネツィアなどの商業都市国家が並立し、当時欧州で最も豊かだった北イタリアにおいて、“複式簿記”が発明された。その要因は、それまでとは異なるアラビア数字が使われていたこと、貿易が発展して多くの資本が必要となり共同出資方式が考案されたため、帳簿が単に所有しているものの記録ではなく、出資者への利益配分を計算するための記録となったことというのが定説である。
    ◆14世紀にトスカーナ商人のダティーニが、15世紀にフィレンツェのメディチ家が、会計技術を支えに富豪となったが、ルネサンス期の思想に強い影響を与えた、人間の栄光は芸術・文化・政治的業績に基づくのであり、現実的・現世的な商業は重視しないとする“新プラトン主義”により、会計と責任の文化は根付かなかった。
    ◆16世紀以降、“太陽の沈まぬ帝国”スペイン、欧州最大の王国・仏ブルボン朝などの君主国で会計が注目されたこともあったが、複式簿記による国家の会計システムを安定的に確立した君主はいなかった。それは、君主にとって会計の透明性は危険ですらあったためである。例外は、共和制を維持し続けた黄金時代のオランダ(とスイス)だけであった。事実、ルイ16世期の国家財政が民衆に開示されたことが、フランス革命の要因のひとつとも言われる。
    ◆18~19世紀、アメリカの建国の父たちは、会計の力を信じ、それを駆使した。鉄道の登場による会計の複雑化は公認会計士を生み、更には、多くの専門家を抱えた大手会計事務所が作られることになった。しかし、大手会計事務所が、独立性を必要とする“監査”と企業の立場に立つ“コンサルティング”の双方を手がけるという構造的矛盾を起こすに至り、エンロン事件やリーマンショックが発生した。
    そして最後に、「本書がたどってきた数々の例から何か学べることがあるとすれば、会計が文化の中に組み込まれていた社会は繁栄する、ということである。・・・これらの社会では、会計が教育に取り入れられ、宗教や倫理思想に根付き、芸術や哲学や政治思想にも反映されていた。」、「いつか必ず来る清算の日を恐れずに迎えるためには、こうした文化的な高い意識と意志こそ取り戻すべきである。」と結んでいる。
    数百年に亘る会計の歴史を辿りつつ、現代の複雑化した金融システムを維持するために、我々にはどのような心構えが求められるのかを示唆する、奥深い一冊と思う。
    (2018年5月了)

  • 会計から世界史を紐解く。金の計算ができるかできないかで一国の富と繁栄は決まるという単純な事実を豊富な史料で解き明かした良書。会計の影響を経済だけでなく政治や文化に広げ、特にキリスト教と会計の関わりまで目を配っている。読み物としても面白い。

  • 会計士というとディケンズや闇の奥、ショーシャンクの空みたいなイメージだったけど、これほど多様で人間味あふれるストーリがあるとは想像もしなかった。
    ある意味刑務所に入っても重宝される技能だし資本主義の根本を支える根幹であることがよく分かった。
    最後のテクノロジーの進歩は会計を完璧にするよりも複雑にして監査できなくなる方向に働いているという指摘もなるほどとおもった。
    ともかく、今まで知らなかった世界を鮮やかに見せてくれた本であった。

  • 少し前に読み終わった本。『会計の世界史』を読んでいたら思い出したので、ついでにレビューする。

    一言でいうと、『美味しんぼ』の帳簿バージョン。美味しんぼが、あらゆる問題を料理で解決するように、この本の作者にとっては、世界のあらゆる事件はすべて、帳簿に端を発し、帳簿によって解決される。

    会計の知識を深める目的で読み始めたんだけど、上記の事実に気が付いてからは、帳簿が難事件を解決するエンターテイメントとして楽しみながら読めた。良書だと思う。

  • 都合が悪くなると数字を見なくなる、自分の利益のために改竄を行う、集計手間がかかるため反対され頓挫する…今日では財務会計は細かく制度化されているのものの、制度化されていないものを扱うデータ分析の世界では、いまでも似たようなことは起きていると感じます。
    歴史を学ぶことで会計と監査がなぜいまの形になったのか、そしてその意義を知ることができ面白かったです。

  • 営業時代は監査を受ける側、内部統制時代は監査をする側。両方の経験があるので他の人よりも興味深く読むことができたと思う。
    本書はお金の流れを人々がどのように管理しようかと考えた中で試行錯誤の中で生まれた複式簿記の歴史を中心に進む。
    そしてお金の流れを管理するための簿記と監査は歴史的な成り立ちからも表裏一体なのだと理解できた。
    国の経営を捉えると、国王は国の収支を知ることができるが、同時に豪華な宮殿建設が国の財政を圧迫している事など、都合の悪い事実も暴かれてしまう。
    国王でもなくても。都合の悪い事実を知る事を拒否したい。それはわかるが良いことも悪いことも含めて事実をしっかり見て把握することは非常に大切だと言うことがよくわかった。

  • 歴史の本を読んでみたくなったので、買って読んでみた。
    複式簿記に関する記述が随所に見られるが、知らなくてもそんなに困ることはない。(僕は詳しくない。)帳簿によって歴史が動いたということを著者は主張したかったようだが、実際に帳簿が決定打になったかというとそれほど単純でもないように思う。ただ、現代社会においては帳簿は必要不可欠なもので、残業時間の改ざんであっても帳簿の改ざんには違いないのだから、我々にとっても身近なものだと思う。
    解説で仮想通貨と帳簿の関係について述べられていてなるほどと思った。歴史書としては及第点をあげてもよいと思う。

    帳簿の日本史も読んでいて面白かった。戦国時代の大名のルーツが徴税官だとは知らなかった。このあたりも普通に教科書を読んでいたのでは分からなかった。

  • 中世イタリアで複式簿記が生まれたことから、リーマンショックまで、会計と監査の重要性を時系列でおった作品。
    なぜ会計が広く用いられるようになるまで時間を要したのかをうまく説明できていると感じた。
    特に、ルネサンス期の人文主義に偏重した考え方や、絶対王政における秘密主義的な考え方が会計・監査の広まりを妨げた一方で、
    プロテスタント的な職業倫理が浸透していたイギリスやオランダでは円滑に運用されるに至った。
    17世紀初頭には世界初の株式会社(東インド会社)が設立されたこと、
    18世紀の南海泡沫事件において首相ウォルポールが最小限の混乱に食い止めたことなども具体例としてあげられ、読み物として興味深い。

    特に東インド会社が、イギリスやオランダで設立されたことと、その頃には引当金などの会計手法も存在していたことは、
    財務会計の意義(投資家への情報提供機能)と資本主義の考え方に非常に合致していたと言える。

    星5つにしてもいいと思ったが、本筋とは少しズレた項目(登場人物をいちいち紹介したり、そもそも会計に関係ない説明)が多々あったことや、
    19世紀以降の会計手法についての説明が物足りなかったことから星4つ。

  • 表紙買いして大正解よ!
    最近は、物流がらみを続けて読んでいたので、その背後にある「帳簿(会計技術)」の歴史ってのも関連してるしね。

    メディチ家の繁栄とあっという間の衰退、コジマの「帳簿(会計技術)」で栄え、栄えた果実としてのギリシャ文化かぶれが、以後の党首の「帳簿(会計技術)」離れを招き、あっという間の衰退につながったとか、もう道徳の教科書に載せるレベルだよね。

    ほかにも、フランス革命への道(ネッケルの奮闘と挫折とその予期せぬ影響の果て)とか、今まで読んできたものの裏側に「帳簿(会計技術)」の進化があったんだなあと、改めて。

    そして、日本語版解説にざっくりと書いてある「日本における帳簿(会計技術)の歴史」、これで一冊読みたいところである。

    ただし、最後の解説、せっかく会計士が解説してるのに、余計なこと(ブロックチェーン技術で通貨と帳簿が一体化してるか創通か賛美)書いてたのは最後の最後にマイナス。コインチェック事件も、結局、盗まれた仮想通貨は換金されて終わってるしね。

  • 繁栄した国家には複式簿記による帳簿が作成されていた、っていう視点は初めて。
    "権力とは財布を握っていることである"(アレクサンダー・ハミルトン)の言葉にあるように、権力にはお金がついている。何をするにしてもお金が必要なんだから、帳簿はなくてはいけないものだよな。
    ただ帳簿は権力者にとって見たくない現実を明らかにするもので、帳簿の作成を辞めると繁栄していた国家も終焉を迎えるということが繰り返していたんだな。
    帳簿の作成には何よりもモラルが必要なんだよな。

全22件中 1 - 10件を表示

帳簿の世界史 (文春文庫 S 22-1)のその他の作品

帳簿の世界史 (文春文庫) Kindle版 帳簿の世界史 (文春文庫) ジェイコブ・ソール

ジェイコブ・ソールの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ジャレド・ダイア...
ピエール ルメー...
J・モーティマー...
宮部 みゆき
トマ・ピケティ
有効な右矢印 無効な右矢印

帳簿の世界史 (文春文庫 S 22-1)を本棚に登録しているひと

ツイートする