インパール (文春文庫 た 2-11)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (470ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167911133

作品紹介・あらすじ

太平洋戦争で最も無謀だったといわれるインパール作戦。昭和19年3月、ビルマから英軍の拠点があったインド北東部・インパールの攻略を目指した日本軍は、この作戦で歴史的敗北を喫した。「インパールの悲劇」は〝日本の東条〟とビルマの〝小東条〟牟田口廉也の握手から始まった――史実に基づいた考証と冷静な筆致と気迫で、涙と憤りなしでは読めない、第一級の戦記文学を復刊!「何しろわしは、支那事変の導火線になったあの盧溝橋の一発当時、連隊長をしていたんでね。支那事変最初の指揮官だったわしには、大東亜戦争の最後の指揮官でなければばらん責任がある。やるよ、今度のインパールは五十日で陥してみせる」功名心に気負いたつ軍司令官・牟田口中将の下、いたずらに死んでいった人間の無念。敗戦後は部下に責任転嫁し、事実の歪曲を押し通した軍人を許すまじ!本書はその実相を書き、牟田口廉也批判の口火を切った『イムパール』に、著者自ら大幅な改訂を加えた文庫決定版。

感想・レビュー・書評

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  • おそらく、インパールについて書かれたものの中では一番読みやすく、かつ、具体的なのだろうが、それでも何か時間的な記述や人物像がはっきりとしなくて、混乱する。
    牟田口などの記述はわかりやすいが、ほんとうにそんな人物だったのか、もう少し個別の人物に迫って欲しい。

  •  今を生きている日本人には、当たり前だが祖先が存在している。
     だから、祖父母曾祖父母の代が戦争で死んでいたら、今の自分たちは存在しないのだ。

     俺にとっては、祖母は東京で空襲の中を生き延びた。
     そして、祖父はビルマを生き延びた。
     祖父母が戦争で死んでいたら、今の俺はいない。

     祖父は戦争のことを多く語らなかった。
     ビルマ語で1,2,3を「デー、ネー、トン、レー、ガー」と呼ぶことを聞き、
     祖母は、祖父がマラリアにかかって昏睡したあと、目が覚めてみると自分の靴下以外は持ち去られていた、という話しか聞かなかった。
     もともと無口だったが、戦争から帰ってきてからは更に無口になったそうだ。

     祖父母の家に行くと、一番奥の畳の間の座卓の前で、こちらに背を向けて帳簿をつけている姿が、小学生の時の記憶に残っている。

     祖父が戦争に向かい、巻き込まれたインパール作戦とは何だったのか。
     本書では、インパール作戦に投入された烈・祭・弓兵団のうち、弓兵団を中心に書かれている。

     牟田口軍司令から、ウ号作戦が発令による柳田師団長の懸念から話が始まる。
     上層部の誰もが作戦の無謀を感じながらも、強硬に作戦を進める牟田口司令長に意見を言えない。
     そして作戦成功の可否が見直されることのないまま、インパールの地獄へと突入していく。

    「お前、何しに帰ってきた。さっさと前線に戻って死んで来い!」

     無駄死にの戦死者が増やしたほうが、作戦の完遂に向けて頑張っているとアピールになる。
     糧食も、武器もなく、病人が集まって突撃死するのは無駄死に以外の何物でもない。
     
     この戦場から帰ってきた、今は亡き祖父の不屈の精神力に感謝したい。

  • インパール作戦の開始から撤退までを書いた。司令官のエゴと欲、判断力、作戦能力のなさのために何万という兵隊が犠牲になった。インドという気候、相手(英印軍)を見下した考え、そのことも敗因の原因になった。いつも犠牲になるのは上層の人に逆らうことのできない下層の人達だ。今の日本の状況と考えてみると面白いかも。私は、そもそもなぜインパールだったのか勉強不足です。あと地理関係がよくわからなかったため読むのに時間がかかった。

  • あらためて戦争の狂気を知った。

    牟田口ってのが無謀な作戦を展開して自国の兵隊をいたずらに殺した責任ってものを負わずに終わってしまったので、Wikipediaでその後を調べたら、形上一応インパール作戦の責任を取ったみたいだけど、五万を超える人たちを無駄死にさせた責任としては何とも軽い。

    第二次大戦時の、特に終戦近い日本は、国全体で正常な判断が出来なくなってたんだな。そして今の日本があるんだな。

  • 終戦の日が近く、また、今後仕事でも一部関係しそうだったので手に取ってみたが、残念ながら途中で読むのをやめてしまった。

    時系列、発言者が非常にわかりづらく、インパール作戦のことを名前しか知らない私のような者にとっては、全体像が非常につかみにくい(巻末に主要登場人物の名前と軍内の役職が書かれているが、細かすぎて逆に混乱させられる)。

    また、司令部の多くの人間の誤った思い込みでこの無謀な作戦が遂行され、多くの日本人が命を落としたことはある程度信憑性の高い事実なのだろうと思うものの、あまりに特定の個人だけに責任があるかのような書き方がされており、これによってインパールのすべてだと思ってしまう危険性も孕んでいると思われる。

    あくまで、「あの悲劇を繰り返してはいけない」ということを学ぶ教材として使用すべきであって、厳密な歴史的考察を踏まえた「犯人捜し」として読むべき本ではない。

  • kindle版
    旧日本陸軍の権力を独占した指導者東條英機と愚かな現場軍司令官牟田口廉也による、インパール作戦の無謀かつ悲惨な戦争記録である。
    著者は、早稲田大学卒業後、陸軍報道班員としてビルマに赴任し、インパール作戦の全容を克明に取材記録したものである。
    インパール作戦は、「陸の3バカ」と言われる寺内寿一大将、冨永恭次中将と共にその傲慢・無能・強権で知られる牟田口廉也中将の愚かさから生じた悲劇のドキュメンタリーである。
    牟田口の人間性は、現代の自民党超保守派の人間にも通じるものがある。理不尽な非科学的な権力行使には、日本社会に連綿と続く国家主義的な流れを感じさせるものがある。
    若い兵隊達の人生を蹂躙し、成果の見込めない戦いに彼らの命を使い捨てた愚昧な指揮官に憤りを禁じえない。本日は、2022年8月9日、戦後77年になる。熱暑の続く毎日であるが、インパールの地で命を落とした若者達に心から哀悼の意を捧げるものである。

  • 痛いあまりにも

  • 功名心しかない牟田口軍司令官の指揮の下決行され、およそ3万人が命を落としたとされる無謀で無惨な史上最悪のインパール作戦。
    声の大きな人の意見が通るどころの話ではない。

    計画立案の時点で多くの問題点を抱えながら、自分の成功体験のみ信じ続け、見識、知見のあるものの意見に耳をかさずに、怒鳴ることと精神論で下のものを支配し、進言する部下を更迭し反対するものを排除した牟田口軍司令官。何より「支那事変最初の盧溝橋事件の指揮官だった私は、大東亜戦争の最後の指揮官の名誉を握らなければならない」という野望と功名心のみでインパール作戦を強引に推し進めた。
    不利な戦況や敗北、彼の意見の問題点を報告すると怒って怒鳴りつけられる部下達は恐れて実情を報告しなくなり次第に大丈夫としか言わなくなる。
    当時の首相・陸相・参謀総長を兼ねた東条英機にも、反対意見をいう危険を避けて保身の道を選ぶ首脳陣たちも、また牟田口の部下達と同じ。

    当時の命令は「天皇陛下のご意思」であり絶対だった。日本軍の規律でもあった。ということは、命令されてしまえば従わざるをえず、どんなに成功の希望がないと分かっていても「我々が力んだところでどうにもならんし、やらなきゃ、なお、ダメだし。結局、やれるだけ、やるより仕方がないです。」と言って戦場へ向かっていく。
    雨季のインド。「ただ、廃墟と、沼沢と、悪役と、死のみ」と言われたビルマの雨季より激しい雨季のインド。
    そこに、準備不足、知識不足、補給なしで挑まなくてはならなくなった兵士たち。
    戦の前に既に、無能な指揮官によって殺されていたのではないか。

    牟田口は、部下に慰留を期待して自決したいと相談するも、心置きなく腹を切ってくださいと言われ、悄然とするも自決せずに余生をまっとうしたとのこと。
    厚顔無知も甚だしい。

  • 太平洋戦争中の悲劇、無能な上層部、無謀な作戦の代表格インパール作戦。

    悲劇を語るにしては妙に明るいテンポが独特。軍の公式記録は当事者に都合よく書かれるので当てにならないようだ。

    シリーズ物なので続きも読みたい。

  • 戦争についてあんまり読んだことがないので、読んでみようという半ば義務感から読み始めたものの、思った以上にスムーズに読み進めました。この本を読んだことによって戦記に抵抗感がなくなったのと軍の中の階級などの知識を得ることができて他の本も読んでみようと思えたことが収穫でした。
    そして、戦争に関する本の中で、いわゆる一般市民目線ではなくて、軍の内部の本を読むのは初めてでしたが、今とは違う時代の軍の意思決定とはいえ、組織の中の意思決定について今の日本社会も同じ部分はあると感じました。良し悪しはおいておいても、根本的にはあまり変わってないのではないかと思います。

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