- Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167911201
作品紹介・あらすじ
【仕事はできるが不運すぎる女探偵・葉村晶シリーズ最新長編!】葉村晶は、吉祥寺のミステリ専門書店のアルバイト店員をしながら、本屋の二階を事務所にしている〈白熊探偵社〉の調査員として働いている。付き合いのある〈東都総合リサーチ〉の桜井からの下請け仕事で、石和梅子という老女を尾行したところ、梅子と木造の古いアパート〈ブルーレイク・フラット〉の住人・青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれ、怪我を負ってしまう。住み慣れた調布市のシェアハウスを建て替えのため引っ越さなくてはならなくなった葉村は、青沼ミツエの申し出で〈ブルーレイク・フラット〉に移り住むことになるが、そこでは思いもかけぬサバイバル生活が待っていた。ミツエの孫・ヒロトと父の光貴は八ヶ月前に交通事故に会い、光貴は死に、生き残ったヒロトも重傷を負った。事故の前後の記憶をなくしたヒロトは、なぜ自分がその場所に父といたのか調べてほしいと晶に頼む。その数日後、〈ブルーレイク・フラット〉は火事になり、ミツエとヒロトは死んでしまう……。解説・戸川安宣前作「静かな炎天」は文庫書き下ろしながら、「このミス」2位とミステリランキングでも好調、「読書芸人」のカズレーザーや、のん(能年玲奈)も絶賛など、話題になりました。
感想・レビュー・書評
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今年初めに彼女(葉村晶)のことを知ってから、ずっと人生を追いかけてきた。そして現代に近づいてきた。2018年8月文庫書き下ろし。物語は、その冬の真っ最中に終わる。2017年秋には、東京オリンピックのことも知っていたし、40代中頃だと言っていた。物語の最後には、吉祥寺の知る人ぞ知るミステリ専門古書店の二階に探偵社を兼ねて住み着くことになった。いよいよ逢いにいけるかもしれない(←いや、ムリだけど)。
「世界で最も不運な探偵」という冠はそのままに、けれども今回の解説子はそのことには触れずに「古今東西の推理小説や、場合によっては映画に関する蘊蓄」を持つ「マニアックな探偵」として紹介している。ちょっと我が意を得たり。物語のキーマン、ヒロトの信頼を勝ち取るきっかけになった会話で、葉村晶は、昔読んだ本でタイトルを思い出さないヒロトに易々古本屋の棚から当該本を渡す。
「夏休みに金貸しが殺されて、緑色のズボンとパン屋が出てくるやつ。警部さんが食べる、焼きたてのクリームパンがうまそうだったんだよなあ」もちろん「罪と罰」じゃない。「カッレくんの冒険」(岩波少年文庫)である。葉村晶によると、「児童ミステリの基本中の基本」らしい。そうなのか?
それと、歳はとってもやはり彼女は自己肯定感が少なくて友だちに優しい。
「わたしが瑠宇さんを傷つけたわけではない。彼女も勝手に傷つき、しかも傷ついたのをわたしに知られて、さらに傷ついていた。何ひとつわたしのせいではなかったが、後味は悪かった」(102p)果たして葉村晶は瑠宇さんの恋のキューピットになれるのか?
それと、現代に近づいてスマホはどんどん高性能になってきたけど、葉村晶の詩的な呟きは健在である。
「引き戸の脇に日本酒メーカーのポスターが貼ってあったが、徳利を差し出している着物姿の女性は三十三回忌を過ぎた魂魄並みに消えかけていた」(188p)
「遊園地は祝祭の上に祝祭を重ね、非日常の上に非日常を乗せて、訪れる人々をめいっぱいもてなそうとしていた」(305p)
例によって、わたしは葉村晶の事件のことは一切語らない。ミステリ好きならば決して裏切らない、と保証しておこう。伏線回収好きな読者も十分満足できる。「錆びた滑車」の文句がまさか此処で出てくるとは!とは思った。タイトルさえ、伏線だったのか!
あと一冊しかない。次回を紐解くまで、いつまで我慢が持つのか。
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葉村晶は長編の方が私は好き。
毎度のこと話が進むにつれ痛みつけられる葉村だが、今回は肉体よりも心の方が痛かったか(怪我も酷いけど)。
伏線もきっちりと回収されている。
冒頭の文で、今回はもしかして…と思ったが哀しい話だった。読み終わってから冒頭に戻って、タイトルの意味もわかった。 -
葉村晶シリーズ最新作。
老女の尾行を依頼された晶は、老女同士の喧嘩に巻き込まれいきなり大怪我をするという不運から始まる。
喧嘩相手の懐に入り込むことになってしまった晶は更にその家族の謎に魅せられのめり込むことになる。
相変わらず晶の周りには良く言えばマイペース、悪く言えば自分本位な人間ばかりがいる。
富山店長や桜井(こちらはたまには気を遣ってくれるが)は言うまでもなく、警察の当麻、大家の姪、成り行きで住むことになったアパートの持ち主ミツエ、その孫ヒロト、その周囲の人々…。
彼らの主張は端から見れば全くの身勝手で受け入れる必要はないのに、それを拒否すればどんな悪意が跳ね返ってくるかわからないだけに恐ろしい。
こんな人々に囲まれていたら精神がどうにかなりそうなものの、それでも自分を保ち自分がやるべきことを見失わない晶のタフさには感心しかない。
だが次々降りかかる不幸とお願いと悪意とでさすがの晶も推察力が翳っていたような。真犯人については俯瞰で見ていた読者の方が早く気付くだろう。
これほど頻繁に骨折していたら骨の形がおかしくなるのでは…などと素人ながら心配してしまう。
なんとか次の住居も確保出来たらしいのでその点は安心したが、経済的な安定からはまだまだほど遠いようだ。 -
若竹七海『錆びた滑車』文春文庫。
仕事はできるが不運すぎる女探偵・葉村晶シリーズ。『葉村晶史上、最悪最低な事件』とは……
吉祥寺のミステリ専門書店のアルバイト店員にして、白熊探偵社の調査員の肩書を持つ葉村晶が今回請け負うのは石和梅子という老女の調査。調査の過程で葉村晶はとんでもないことに巻き込まれ……
『静かな炎天』が非常に面白かっただけに本作はイマイチ感が……魅力はあるのだが。 -
女探偵、葉村晶シリーズ。
葉村は尾行していた女性石和梅子と、青沼ミツエの痴話喧嘩に巻き込まれ、怪我をする。
ミツエが所有する木造アパートに移り住むことになった葉村に、ミツエの孫であるヒロトからある調査を依頼される。
ヒロトは交通事故で重症を負い、記憶を失っていた。
大学3年の夏休み、スカイランド駅前ロータリーのバス停に、アクセルとブレーキを踏み間違えたワゴン車が突っ込んできた。何故父親と2人でその場所に行ったのか調べて欲しいと、、、
その後ヒロトと葉村は火災に巻き込まれてしまう。
相変わらず伏線が多すぎ!次から次へと覚えなくては行けないことが多すぎて(^◇^;)
頭が良くないとやっぱり葉村晶のシリーズは難しい(-。-;
畳み掛けるように物語が進んでいくところは、流石
若竹先生。
あっちもこっちも最後は綺麗に纏まりスッキリ。 -
葉村晶シリーズの長編を初めて読んだが、短編集しか読んだことがなかったためか、読むにつれ中だるみのような気がしたのだが、そこを乗り切るとやはり面白い作品だった。次はシリーズの発表順に読んでみたい。
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「タフで不運な探偵」葉村晶は、例によってヒドイ目に遭う。こんなたびたび怪我する人も珍しかろう。少しは良いことがあってもいいものだが、作者はあくまで彼女に厳しいのだった。
愛想笑いなどしない葉村のクールさが格好いい。人の悪意がしっかり描き込まれているのに、読んでいてイヤな気持ちにならないのは、彼女が中途半端な正義面をしないからかもしれない。脇役たちも類型的な善人ではないところが味わい深いと思う。でもお風呂ぐらいつけてあげて、富山店長。 -
若竹さんは本当にハズレ無い!「えっっっ」と驚かされる場面が何度もあった。ほろ苦い事件と人間模様、いつにも増して葉村晶の巻き込まれっぷりが読み応え充分。
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ある依頼を受け老女を尾行していた葉村。その老女と知り合いとみられるミツエと老女の喧嘩に巻き添いを食らい早速、怪我をする。その後、ミツエのアパートの空室に住むことになるが、ミツエの孫・ヒロトから依頼を受ける。ヒロトは交通事故に遭い、父を亡くし(母は失踪中)、自分は事故の記憶をなくしている。その時のことを調べて欲しいとのことだ。しかし、ヒロトはアパートの火事により死んでしまう。ヒロトの死の背後にあるものは…。
歳とっても頑張っているのね、葉村。今回も葉村はバリバリ探偵の道を進んでいました、タフでユーモアもあり好きです。”熊”は良くないみたいだけれど、引越後の葉村、今後の活躍に期待です。このシリーズは続いて欲しいです。
伏線はきっちり回収だし、ミステリーだけでなく本の紹介もあり、それも魅力。そして、ミツエのキャラが良かったです。