コンビニ人間 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
3.69
  • (270)
  • (562)
  • (398)
  • (105)
  • (26)
本棚登録 : 4813
レビュー : 638
  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167911300

作品紹介・あらすじ

「普通」とは何か?現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。「いらっしゃいませー!!」お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。累計92万部突破&20カ国語に翻訳決定。世界各国でベストセラーの話題の書。解説・中村文則

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 今まで読んだ村田沙耶香の中でいちばん軽快で読み易かった。主人公はまあ現実的な言葉で表現してしまえばおそらく一種の発達障害で、幼少時からちょっと他の子とは感情の動きや咄嗟の対応方法などにズレがでるわけですが、幸か不幸か本人はそれを深刻に受け止める感性がなく、わりとひょうひょうとしているので、生き難そうではあるけれど卑屈ではなく、妙にポジティブですらある。

    ただ面倒くさいことはイヤだとは感じるし、家族に迷惑をかけたくないという良識はあるので、周囲を観察、模倣し、浮かない努力をすることはできる。そしてそんな彼女にピッタリ当てはまる型を彼女はひとつだけみつける。それが「コンビニ店員」だった。

    他者とのコミュニケーションが苦手でも、マニュアル通りに真面目に行動していれば有能な店員であることはできる、その与えられた「役割」にすっぽりはまっていることが何より安心という心理は私にもわかる。家族や友人にとっては異質で浮いた存在である彼女が「コンビニ店員」という器にだけはしっくり馴染めて居心地が良かった。ある意味天職。

    前半はそんな彼女がなんとか上手く生きている様子に、お、前向きお仕事小説みたいじゃん、と思いつつ楽しく読んでいたら、中盤で白羽というクソろくでもないクソ男が登場、一気に村田沙耶香の毒が全開に。こいつだけは最後まで好きになれなかった。でもこういう人間「いるいる」って感じなんだよなあ。恐ろしいことに。

    白羽の何がこんなに不快なのか考えてみたけれど、一見似たような社会の「異物」であっても、主人公はそれを他人のせいにしないし他者を否定しないので一種の潔さがあるのに対し、白羽はすべてを他人のせいにし、他者を否定・攻撃することで自分を正当化しようとするのがひたすら気持ち悪い。ある意味言ってることは正論かもしれないけれど、どうしても「お前が云うな」とツッコミをいれたくなってしまう。

    白羽や主人公のような極端な人間ならずとも世界はけして生き易くはない。一見なんの努力もせずにすいすい生きているようにみえる人も実は内心いろんな鬱屈を抱えていることもあるだろう。その想像力を失くして自分だけが被害者だと思わないように気を付けていないと、誰もが白羽のようになってしまう可能性はなきにしもあらず。

    ラストは私はハッピーエンドだと思った。当人がハッピーな気持ちを維持できるならそれがベスト。

  • 非常に読みやすく、一気に読んだ。芥川賞受賞作品と言う事で、なるほど、文学的に評価が高いと言う事は頷ける。

    ストーリーの面白さを求める人には正直合わないと思うが、私は著者がこの作品を通じて「普通」「当たり前」と言う価値観への強烈な皮肉をメッセージしていると捉えた。その一本のメッセージの元に物語を思い出して見ると、家族や友達、仕事仲間、あげくは世間一般が、いったいどれだけ共通の「普通」と言う価値観を押し付け合っているか、それから一歩でも外れたら、裏で表で一斉に攻撃されるかを主人公の話として伝えている。

    これは残念ながら、事実であろうし、時代の流れとともに都会ではまだ比較的多様性を認められつつあるが、日本と言う狭い島国ではまだまだ「こうなって当たり前」と言う共通価値観が根強くあり、それから外れると、とても生きづらい世の中である事は間違いない。著者の今の時代への皮肉が炸裂している作品で、後は読書に考えるように言われている気持ちになった。

  • 「普通」の定義は不確かに揺れていて、人は虚しくその中心に吸い寄せられるように「擬態」しているのかもしれません。それが上手いか下手か、だけの問題。その中身は考え方によってはスカスカなのかもしれません。だけど、見方によっては十分な個性があるのかもしれません。サカナクションの「アイデンティティ」をお供に。

    恵子は死んだ小鳥を見て「かわいそう」と思うのではなく「食べよう」と考えるような子供でした。慎重に思考するにしても、前者の方が「子供らしい」「常識的」「普通」なのでしょう。だけど、他の子供たちが死んだ小鳥のために花を摘む行為を見て、花に対する無自覚な残虐さと小鳥への憐れみに矛盾を感じている姿はある意味で聡明です。それに、「食べよう」という言葉はその対象が小鳥であるばかりに不気味がられましたが、人間は沢山の他の動物を食べて生きています。動物は共生するものでもあり、観賞の対象でもあり、資源でもあります。ここでの恵子の抱える問題の一つは、彼女もまた、他の子供たちの思考を想像することは出来ない、というところです。「擬態」までは出来ても「共感」は出来ません。その原因は、彼女の徹底した物事への無関心です。ゆえに、表面的にはそれらしく装って社会に混ざることが出来るけれど、一対一で接することになった途端、粗が露呈して「異物」と見なされてしまいます。

    そんな中、恵子にとって一番「擬態」しやすかったのがコンビニ店員でした。36歳の彼女はコンビニ店員としてはきっと相当優秀です。それでも、彼女はあくまで表面的に装うことしか出来ていないようです。確かに、仕事上の知識や経験は全くもって他に応用される気配はありません。そのためか、彼女は36歳という年になっても、中身が空洞のような人のままです。自他両方への無関心がそうさせるのでしょうか。

    恵子は、自分と他の人達をきっぱり分けて、他は自分とは明らかに違う者として描写します。それは、家族をはじめとする周りの者に自分が異質な存在だと言われ続けてきたからこそなのですが。ただ、果たしてそうなのだろうか、という疑問がぼんやりと残ります。まず、意地悪な目でみると、恵子以外の人が「普通」だとすれば、何とも虚しいものがあるのです。どの人も、中身らしい中身は無さそうなのです。確かにいかにも「普通」らしい人生を歩んでいる側の人が何人も出てきます。だけど、恵子がもう少し毒舌なら「しょーもな」位言いそうな具合です。むしろ「普通」らしい人達も、実はそれぞれに「普通」に上手いこと「擬態」している、と考える方が少しはマシにみえます。

    では、中身らしい中身は無ければいけないものなのでしょうか。それが、意外と要らないのかもしれない、焦らなくてもいつの間にか出来上がっているものなのかもしれない、というのがオチ、と読むと明るすぎるでしょうか。

    質の高い物語ゆえ当然だと思いたいけれど、まだまだ咀嚼しきれていないし、思うところも、ぐちゃぐちゃな状態で頭にふわふわ漂っています。フラストレーション。一番消化不良なのが白羽さんという存在。でも、考え始めると、楽しくはなくて、何だか辛くなる一方なので、この辺りで閉じておきます。

  • 個性重視、ありのままに、多様化を認めるなどと言いながら
    普通でないと変人、異端児扱い

    学校を卒業したら、就職、そして、結婚、当然のことのように
    出産、育児・・・それが当たり前、普通

    「当たり前」「 普通 」って何だろう

    こんなふうに生きたくても生きられず、もがき苦しんでいる人もいる
    ここに出てくる古倉恵子や白羽のように

    コンビニの制服を着て、「いらっしゃいませ!」と声を張り上げ
    会釈をした
    そのとき、私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った。世界の部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった。

    コンビニのマニュアル通りに働くことでしか、社会と繋がっていると実感できない古倉恵子
    しかし、見方を変えれば、コンビニにちゃんと自分の生き方を見出して、生きがいも感じている
    誰が何と言おうと 素晴らしいことではないか

    はじめは、白羽の言動が不気味で気持ち悪いと思っていたが、

    「現代は機能不全世界なんですよ。生き方の多様性だなんだと綺麗ごとをほざいているわりに、結局、縄文時代から何も変わっていない。生きづらいどころではない。ムラにとっての役立たずは、生きていることを糾弾されるような世界になってきている」
    と顔をおさえ、泣き出す白羽の悲痛な叫びともとれる言葉は、
    小説の世界ではなく、まさしく現代社会の抱えている問題そのもの
    昨今、ニュースを賑わしている事件とも相まって、胸が痛かった

  • 村田沙耶香『コンビニ人間』文春文庫。

    テレビで芸人などが絶賛していた芥川賞受賞作。正直言って、面白いとは思わなかった。36歳で未婚の女性主人公がコンビニ店員でいる時だけが、社会とつながりを持っていると勘違いする話。主人公の異常性ばかりが際立ち、生理的に受け付けない作品だった。

    どこが面白いのか解らん。自分がただただへそ曲がりなのか……

    • hs19501112さん
      はい……、自分も全く面白くなかったです。
      それなのに何故か一気読みさせられてしまったのは不思議ですが。

      文学的評価の高い作品だそうで...
      はい……、自分も全く面白くなかったです。
      それなのに何故か一気読みさせられてしまったのは不思議ですが。

      文学的評価の高い作品だそうですが……"文学的"とは何なのか?

      (もともと分かっちゃいなかったけれど)益々分からなくなりました。
      2019/03/27
  • 生まれながらに人間らしい感情が欠落しロボットのような思考回路を持つ主人公が、周囲の人間の異物を見るような視線に気付き、「人間」らしく社会に馴染む方法を探っていく。
    普通って何?どうすれば正解なの?自分はそれに従うから指示してよ。と人間らしく振る舞おうとすればするほどよりおかしな人間だと思われ、どうにかまともな人間に!と干渉をやめない周囲の人間たちに対し、「主人公がかわいそうだ、そっとしといてあげてほしい」なんて感情がわいてしまうが、コンビニ人間に心の痛みを感じる機能はそもそも備わっていない。
    コンビニ人間自身は全く悩んでいないのに勝手に可哀想がって要らん手を差し伸べようとしてしまうこと自体がすでに人間のエゴである。
    「コンビニ人間」の斬新な観察眼から、自分が固定観念だらけの「人間」という生き物であることにところどころで気付かされる感覚が非常に面白く、新鮮な作品。

  • 書店に立ち寄ったら平積みしてあって購入。その日のうちに読了。

    主人公は子供のころから感情や思考が「普通」ではない。家族や周囲を悲しませたくないという気持ちもあるが、それでもどうしたらいいのかわからない。唯一、コンビニ店員であるときだけ世界の歯車になれる。他の人と同じ「普通」になれる。

    読んでいて、主人公にけっこう共感していた。白羽の発言にもところどころ。

    バーベキューのシーンは特に心が痛かった。そんなに無神経に、土足で人の心を踏みにじるなよ。
    自分の周りでも、マジョリティを自認してる人たちが彼らと違う人をからかい、ネタにして笑っている場面がある。

    人が幸せかどうかはその本人がどう思うかが一番だと思うのにな。

    ラストシーンではコンビニ人間として復活して喜んだ。
    でもちょっとした後で、途中登場していた、コンビニで他の客に注意しまくって最後につまみ出された中年男性も主人公と同じようにコンビニ人間だったのかなとも思うようになって、最終的には主人公もこうなってしまうのだろうかと思うと複雑な心境になった。

    少し前に読んだ今村夏子の『こちらあみ子』を思い出した。

  • 読み終えて最初に抱いた感想は「痛快!」
    こんな読後感とは思ってなかった。

    主人公の恵子に対して、「良かれと思って」あれこれ口を出す周囲の人々の不気味さ。
    他人の不出来をエサに生きてるのかこの人達は…と思ったけど、
    自分にもこういうところは大いにあるのでいたたまれなかった。

    そんな不条理に巻き込まれつつも、恵子が生きていられるのはコンビニがあるから。
    制服を着てお決まりの文句を繰り返して、個人としての自分から解放される気持ち良さ。ただただコンビニの労働力として存在してるときの恵子は、生き生きとして輝いてた。
    自分にしっくりくる居場所を見つけて、そこに居続けることができて。最高じゃないか。

    言ってることがいちいち破綻してる白羽も、彼なりに合法的に生き延びる道を模索してるとも言える。
    褒められたもんじゃない生き方が、あってはならないわけではない。

    コンビニが漂わせる無機質な空気に安心する。
    温かみは、必ずしも人情に宿るものではないのだと思う。
    ラストで恵子が口にする「コンビニ店員という動物」という言葉。不思議な説得力がある。
    文明と野生の共存? いやそんなことは超えてるような。
    力強い生命力に圧倒された。

  • 文庫化されたら必ず読もうと思っていた作品。コンビニに勤める30代の女性の物語くらいの知識しかなく、まさかこんなサイコというか、コメディのような作品だとは思わなかった。主人公の古倉惠子は18歳から36歳の今に至るまでコンビニの勤務経験しかない。「ふつう」の感覚を持ち合わせていなくて、子供の頃はよくトラブルを起こしていたが、コンビニのようなマニュアル化された世界がとてもマッチしていて、また家族も安心したためひたすら働いている。客として利用したことしかないが、コンビニの驚くほど細かい描写に感服する。コンビニ店員ほど過小評価される業種も珍しい。惠子はふつうを装うために、コンビニ店員仲間の女性のしゃべり方を学習し、30代女性にふさわしいファッションセンスも吸収していく。とにかくコンビニ店員としては完璧なのだが、人としては空洞のようなもので考え方もゾッとするほどサイコだ。ただ、作中で語られる「ムラ」の圧力はよくわかるし、誰しも少なからず世間体を保つためにやっていることはあるだろう。途中から出てくる白羽(シロアリの暗喩か)という男が気持ち悪く、彼がまた凄まじい思想の持ち主だ。狂ってるのは惠子か白羽か、あるいは世間か。文章がとても読みやすく、しかし惠子の内面が面白いやら恐ろしいやらであっという間に読み終わる。

  • いやー、面白かった。一日で一気読みしてしまった。

    この主人公の古倉恵子のように社会とうまく結合出来ない人って結構いると思う。

    特に今の日本の社会は価値観の違う人間を排除しようとする力がすごく強いし、彼女のように「自分は人と違っている。このままじゃ社会から排除されてしまう。」と認識し、恐怖してしまった場合は、それを「直そう」という感情で押しつぶされそうになってしまう。

    彼女の場合、自分が「人と違っている」ことがそもそもどうしてけないのかということがまず理解できない。
    自分の妹に言い訳の仕方を聞く主人公のいじらしさ。この社会の標準てきな人たちと違ってしまっている自分をどうしたら目立たないよう、そっと生きていけるのかだけを目的に生きている主人公。

    自分をコンビニのアルバイト「店員」という形にはめ込むことで自分の個性を殺し、社会の歯車として自分を埋没させる。このようにしか生きることができない人がどんどん増えていると感じるのは自分だけだろうか。

    主人公とステータス的には同じであるが、対比として描かれる白羽のずるさというか、計算高さはこの社会のいびつさを如実に表していると思う。

    自分の中では、ここ数年で読んだ純文学の中でトップ3に入る傑作。

全638件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

村田沙耶香(むらた さやか)
1979年、千葉県印西市生まれ。二松學舍大学附属柏高等学校、玉川大学文学部芸術学科芸術文化コース卒業。
2003年『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀賞を受賞しデビュー作となる。2009年『ギンイロノウタ』で第22回三島由紀夫賞候補及び、第31回野間文芸新人賞受賞。2010年『星が吸う水』で第23回三島由紀夫賞候補。2012年『タダイマトビラ』で第25回三島由紀夫賞候補。2013年、しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。2014年『殺人出産』で第14回センス・オブ・ジェンダー賞少子化対策特別賞受賞。2016年『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞受賞。
2018年8月末、『地球星人』を刊行。

コンビニ人間 (文春文庫)のその他の作品

コンビニ人間 Audible版 コンビニ人間 村田沙耶香
コンビニ人間 単行本 コンビニ人間 村田沙耶香
コンビニ人間 (文春文庫) Kindle版 コンビニ人間 (文春文庫) 村田沙耶香

村田沙耶香の作品

コンビニ人間 (文春文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする