ムーンナイト・ダイバー (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2019年1月4日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (304ページ) / ISBN・EAN: 9784167912055

作品紹介・あらすじ

震災から四年半が経った地で、深夜に海に潜り、被災者たちの遺留品を回収するダイバーがいた。男の名前は瀬奈舟作。金品が目当てではなく、大切な家族や恋人を亡くした人々のために、ボランティアに近い形で行なっている。ただし、無用なトラブルを避けるため、ダイバーと遺族が直接連絡を取り合うことは禁じられていた。

ある日、舟作の前に透子という美しい女性が現れる。彼女も遺族の一人だったが、なぜか亡くなった自分の夫の遺品を探さないでほしい、と言う――。



フクシマの原発避難区域圏内にも入って取材し書かれた、著者の新たな代表作となる鎮魂の書。サバイバーズ・ギルト(生存者の罪悪感)についても強烈に考えさせられる問題作です。

巻末に新たな書下ろしエッセイ「失われた命への誠実な祈り」を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 天童荒太『ムーンナイト・ダイバー』文春文庫。

    主人公自身が震災で生き残ったことへの贖罪への訣別と新たなる未来の光を感じた素晴らしい震災小説であった。

    震災から四年半が経った地で月夜に海に潜り、被災者たちの遺留品を回収するダイバー・瀬奈舟作。彼は或る人物の依頼で、金品目的ではなく、震災で大切な人を亡くした人びとのために海に潜り続ける。

    書下ろしエッセイ『失われた命への誠実な祈り』も収録。

    あれから8年余りが過ぎようとしている。東日本大震災の津波により沿岸地域は壊滅的な被害を受けた。国道に無惨に転がる家屋、海から打ち上げられた船、建物の上に持ち上げられた自動車、流された多くの人びと……誰があのような地獄の光景を予想しただろうか。生きること、生き残ることは決して罪ではない。

  • 東日本大震災から4年半、海底に沈んだままの遺留品を回収するために夜の海に潜る舟作が、遺族の一人、透子と出会い、彼女の元夫の結婚指輪を探そうとする。

    海水の放射能汚染のリスクや、夜の海に潜ることのリスク、さらには見つかったら罰せられるかもしれないリスクがあるなか、ダイバーとして協力する舟作も、会費を払ってでもこの取組を進めたいと考える遺族たちも、津波の被害者である。それだけでも理不尽なのに、それぞれが、遺品が見つかってほしい気持ちと、見つかるとその持ち主の死を認めざるを得ないから、出てきてほしくないと思う気持ちの間で揺れている様子には、心を揺さぶられた。

    そして、物語自体もよかったが、文庫版あとがきに代えて著者自身が書いている"失われた命への誠実な祈り"を読んだときが一番泣けた。
    大切な人が亡くなったり行方不明だったりすると、自分だけが幸せになっていいのかと、自責の念に駆られる人がいるが、「生きている人たちは幸せになっていいし、むしろ、幸せになることこそが、失われた命に向けての、誠実な祈りになる、と思っている」という著者のメッセージに、どれだけの人が救われただろう。

  • ナイトダイビングというものが本当にあるのかと思ってしまったのだが、検索してみたら結構あって、なんて幻想的なんだろうと。昼間とは違うものが見えて、感じて、そこには昼間には言葉にできない感情が浮き上がってくるんだろう。大切な人の思い出とか、伝えられなかった言葉、踏み出せなかったこれからの一歩。悼む人から続く鎮魂によって、登場人物たちの思いが浮き上がってくる。海底から上がってくる際の水泡の音が大きくなって聞こえるくるような、そんな結界を超えて戻ってくるようなイメージ。息を止めているようなシーンが続いて、話は単調な流れではあるが、結構集中して読めました。

  • 海に魅せられて 海になにかしらを見つけた人にとって 陸上では「どこか一部が大きく欠てる」っと思い、また海に戻りたくなる。海の中でもどんな小魚より自由にならないもどかしさを感じるのに……

    単行本の表紙に魅せられて読みましたが、想像とは全く別の物語でした。そして、全く別の物語が凄く良かった。

    あとがきに代わるエッセイがあると後で知り文庫本であとがきも読み、丁寧な祈りこそ 色褪せず紡いで行く事なのだ っと思った。


  • 遺された者の想いを描いた作品。この震災では多くの人が亡くなったが、その遺族は亡くなった人の数倍おり、死者に対する想いも遺族の数だけある。その想いは遺品に現れるが、それを海から取ってくる者にも当然現れる。

    実際にこういうことをやってる人はいそうな気がする…月が明るい日の深夜に一回浜通りの海に行ってみたくなった。

    地名は全く出てこないが、実際に被災した街が舞台になっていることがはっきりと分かる。舟作が潜っている海は福島第一原発近辺ということは明らか。私の被災地訪問の記憶からの推測だが、文平が住んでいるのは浪江や富岡で有志の会の会合が行われるホテルはいわきと思われる。そして化石掘りの話から舟作の故郷は歌津なのだろう。(違っていたら恥ずかしい)

  • 妻子ある中高年主人公の性生活の描写は兎も角、中盤にある主人公の職場の後輩女性との恋愛描写には、テンポ感なく中だるみを感じてしまい、
    ストーリー展開に必要だったのかと疑問が残った。
    邦画化されそうな幻想的なラストは良く、3・11津波後の被災地での風景を反映した小説作品ではあるが、
    震災後小説として、語り継ぐべき傑作だとはいいきれない。

  • ちょっと現実味に欠ける感があり、主人公の最後の行動も釈然とせず、心に刺さらなかった。繰り返し描かれる、夜のダイビングからのルーティンも少しくどい気がした。でも「生きている人たちが、幸せになることこそが、失われた命に向けての、誠実な祈りになる」という筆者の想いは、伝わってきた…とは思う。

  • 3.11に真っ正面に向き合って描く、震災後小説。

    主人公の舟作はダイバー。遺族からの依頼により立入禁止区域の海に非合法に潜り、遺族の遺品を回収する。
    ある美しい女性から震災で行方不明になった夫が付けていた結婚指輪は何故か探さないで欲しいと舟作に依頼する。

    震災で両親と兄を失った舟作。強烈なサバイバーズギルトと今を生きていきたいという生物としての強烈な命への執着。
    震災で近しい人を失った誰もが感じるであろうそういった感情が、この小説に深く込められている。

    震災後小説の代表の一つとして語り継がれていくべき秀作。

  • 図書館から借りたので、ハードカバーで。

    息苦しくなりました。
    夜の海に潜るということが、私が、ダイビングができないからという理由もあるけれど、

    地震と津波で親族や友人などを亡くされた人の思いが、重くのしかかるよう。
    そんな暗い海にひとりで潜ることなんて、恐怖でしかない。
    舟作は、感覚も強いみたいだから、目に見えないものを、いろいろ感じとるだろうし。

    いろいろあって、生きることは苦しいけれど、みんな、なんとか前を向いて生きている。

  • 途中苦しくて、ページをめくる手が進みませんでした。
    「喪失」とか「死」とか、物理的な苦しさじゃない。ただ起こったことのあまりの大きさに、自分がこれからどう生きればいいのか、その出来事にどう接すればいいのかわからない。今こうして存在していることすらも、わからなくなってくる。

    それが、8年前のあの日以降、東北の人々が背負った苦しみだったのではないか。あるいは、災害、テロ… 大切なものを突然失った人が負う苦しみなのではないか。この本を読んで自分なりにそんなことを考えました。

    でも、荒れる海がいつかは凪ぐように、悲しみにも明ける日が来ます。忘れるんじゃなくて、風化じゃなくて、起きてしまったことを受け止めて、自分の身体の一部として、先へ進む。生きる。生かされている。


    「失われた命への誠実な祈り」まで読んでほしい。この後書きをもって、物語は完結します。

  • 明記はされていませんが、3.11から4年半後の福島を描いた作品です。

    そろそろ震災から10年を経ようとしています。この間、震災をテーマにした沢山の物語を出版されましたが、これまで積極的に手を出しませんでした。そんな本は多くないと思いますが「ブームだから」とか「売れるから」なんて思いで書かれた本だとすれば辛いだけですから。
    この本はテーマを知らずに借りたのですが、10年を経て生き残った本なら今後は読んで行こうかと思います。

    サバイバーズ・ギルト(生存者の罪悪感)がメインテーマです。ただそれをシンプル・ストレートに表すのでは無く、罪悪感と違和感の中間の様な、普段は表面に出ないのだけどある瞬間に急に湧き出す様な、そういう微妙さを上手く表現し、ありふれたテーマかもしれませんがリアリティーを感じます。
    「悼む人」のイメージからもう少しスピリチュアルな方向の話かと思いましたが、そうでも無く。
    最後は再生に向かう一歩で終わる、きっちりと震災の一面を描いた作品でした。

  • 震災後のお話。
    きっと現実にもまだまだ様々な思いを抱えながら生きている人がいるのだろう。

    おそらく福島の海を潜り、誰かの大切だったかもしれないものを見つけてくることを引き受けてい主人公。

    生きること、これからのことを考える。

  • 震災後、そこで生きていく人たちのお話。
    静かに、でも確実に人の気持ちを丁寧にすくっている物語だった。

    2019.4.29
    68

  • タイトルと文庫版の表紙に惹かれ手にとったのでテーマも知らず読み始めたが、ありきたりでない設定とストーリーでよかった。
    文章が、描写が、美しいと感じた本は久しぶりだった。海、夜、街、光…どの描写も美しかった。

    情欲の描写が多いことに、初めは違和感と疑念を抱いた。だが、海に沈むものを通して生死の記憶に触れ、死に晒される行いの反動として、肉を食らい、欲が溢れることが表現されているのは、この作品をただの小綺麗なハートフル小説にはさせない、重要なキーとなっていたのかもしれない。

    あとがきに代えられた祈りの文章から、作者がどれだけの誠意をもって震災と作品に向き合ってきたかが伝わった。「生きている人たちが、幸せになることこそが、失われた命に向けての、誠実な祈りになる」という作者の想いはこの作品で十分に表現されていたと思う。だが、そのあとがきを読んで初めて、作品と作者の想いが完結したと感じた。そこで初めて、すべてが腑に落ち、自身の中にストンと落ちた。これが、"私にとっては"小説としては少し物足りなかったことを示しているように感じた。

  • さすが天童荒太さん。被災者に寄り添ってくれている。何度もじわりと涙が滲んだ。

  • テーマに惹かれて買ったものの、読みづらさを感じた。ただ、後書きを読んで作者さんが真剣に向き合った結果の読みづらさだったのかもと思ったり。

  • 震災から4年。立ち入り制限がある地域の海に潜り、遺品を持ち帰ることを被災者の会から依頼されている主人公。
    月夜に潜り、そこに住んでいた人たちの生々しい記録が海底に沈殿しているのを見るたびに処理しきれないものを発散したい欲望にかられる。
    何故自分はこんなことを引き受けたのか、犠牲になった人もいるのに自分はこんなに幸せで良いのか。
    葛藤をしながらも真摯に災害に向き合う。

    この作家の特徴だと勝手に思っている、重くて静かな感じ。だが、今回気づいたが、心を描いている分量よりも情景を描写しているほうが多いのではないか?情景描写に心を反映させている面もあるかもしれないが、多少読み飛ばしても差し支えない感じ。

  • 集中できず。

  • 記録

  • 東日本大震災から4年後。海に沈む遺留品を回収するため、海に潜るダイバー。
    潜り続けることで何かの答えを見つけようとするダイバーと遺留品に期待を込める人達。
    遺留品を通して、震災を生き延びた人の苦悩が伝わってきて、目をそらしたらダメなんだけど、読んでいて苦しい気持ちになる。

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著者プロフィール

天童 荒太(てんどう・あらた):1960年、愛媛県生れ。1986 年、「白の家族」で野性時代新人文学賞受賞、1993年、『孤独の歌声』が日本推理サスペンス大賞優秀作となる。1996 年、『家族狩り』で山本周五郎賞受賞。2000 年、『永遠の仔』で日本推理作家協会賞、2009 年、『悼む人』で直木賞、2013 年、『歓喜の仔』で毎日出版文化賞を受賞する。他に『静人日記』『ペインレス』『巡礼の家』『青嵐の旅人』『昭和探偵物語 平和村殺人事件』などがある。前作『包帯クラブ』は2006 年ベストセラーになり、映画化もされた。

「2025年 『包帯クラブ ルック・アット・ミー!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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