私の消滅 (文春文庫 な 69-3)

著者 :
  • 文藝春秋
3.59
  • (56)
  • (138)
  • (109)
  • (33)
  • (7)
本棚登録 : 1987
感想 : 117
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (175ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167913083

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 自分の存在があやふやになってしまう作品でした。
    今、自分だと思っている記憶は、本当は別の誰かの記憶なんじゃないか…。
    途中から、結局これは誰の話なんだ?とわからなくなってしまい、一回読んだだけでは理解しきれなかったので、また読もうと思います。

    短い作品ですが、濃い内容でした。

  • わたしも何か酷い目に遭って、精神科医に脳をなにかされたのかもしれない、とおもった。似たようなことを自分でできるのかも。
    自分はどこまでが自分かっていうのは、精神科医に治療されなくても、わからないというかグレーなのではないか。

  • 何か言えるほどまともでも歪んでもいないけど、とにかく重く暗くぬかるんでいて読めど読めど(実際には休みながら)進まない。進めない。陰鬱でありながら性的なものに起因する人格の核にあるケースが多く、魅惑的かつ汚いものとして描かれていて共感のような親近感があった。脳をいじくる描写に素養が足りずイメージすらあんまり出来なかったので時計じかけのオレンジのアレックスを思い浮かべてしまった。

  • 読んでいる自分の脳まで不確定な存在に思えた。良い読書体験だった。

  • 中村文則作品、初読です。
    本作はBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作品。
    ストーリーは心療内科を訪れた美しい女性に惹かれた男の復讐の物語。復讐の手段が想像を絶します。
    終始重苦しい雰囲気で、170ページ程度のボリュームながら読み応えがありました。タイトルと内容がどうリンクするのか。構成が見事でした。

  • いつにも増して暗い物語だった。視点移動が巧みで、こちらも(きっと小塚自身も)誰が誰だかわからず陥っていく感じがあったし、長くはないのに読後の疲労感がすごかった。
    小塚のことも和久井のことも容認はもちろんできないし恐ろしいことをしているんだけれど、なぜか終わり方が美しく少し愛おしく思えて、中村文則作品は結末にいつも中毒性があるなと思った。

  • 私の消滅。
    自分が誰かがわからなくなるのは怖い。

    ずっと読んでても、何が本当で何が偽りか、わからなかった。

    中村文則さんの小説は、合うやつは本当に面白い!ってなるのに、これは難しかったな…。

  • 暗さと哲学を調合して、ひとつの物語にしたてあげるのがすごいな

  • むー、難しいと言うのか、深いというのか。

    以前何かのテレビで浜辺美波さんが紹介していた記憶がある。
    感情移入出来ないからこそ、猟奇的な殺人とかサイコパス的なような本を読むと。

    精神分析的な事は興味があって、勉強とかもしてる(最近サボっているけど)
    脳はまだまだ未開の領域があって、そこに手を出すのは本当に人間を超えるような事のように思う。

    いつしか、そんな世の中が来るのだろうか。

  • 「このページをめくれば、あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない。」

    古びたコテージの狭い部屋。机の上に開かれた一冊の手記に書かれた意味深な一文から物語は始まる。

    手記を読んでいる男は、どうやらこの手記を書いた小塚亮大という人物に成り代わろうとしている様子だが、その理由は分からない。

    手記の内容は、小塚本人の異常な生い立ちと、四人の幼女を殺害し死刑になった宮崎勤という男(過去に実在した犯罪者)の分析だった。

    成り代わり男が手記を読み終えた頃に、部屋のチャイムが鳴る。ドアが開き、知らない男が入ってくる。その男に車に乗るよう促され、半ば強制的に山奥の病院に連れて行かれる。そこで、成り代わり男である「僕」の過去が語られ、違和感の正体が明らかになる。→



    「僕」は心療内科の医師で、精神病患者の「ゆかり」という女性に恋をする。ゆかりも「僕」を信用して精神分析を受け入れる。しかし、催眠状態のゆかりは前に通っていたクリニックの医師「吉見」に襲われた記憶が甦り悶え始める。「僕」は、思わず「それは僕だ。それに襲ってなんかなくて優しくきみを抱いている。」と囁き、その後2人は一緒に生活をするようになる。

    「僕」は吉見の居場所を突き止め、ゆかりの事ついて聞き出す。ゆかりは養父に犯され家出、売春、そして自殺未遂をするほどの重度の鬱病だったため、吉見はECT(脳に電流を与え鬱病などを軽減させる)を行い、それで抜けた記憶に吉見と性行為した嘘を催眠によって入れた。「僕」はその老医師を咎めるが、自分も催眠によってゆかりを洗脳したのではないかと葛藤する。

    しかし、ゆかりの記憶が戻り始め、治療の効果が無くなっていく。苦しむゆかりの希望によりECTを使用するが、使っても少し改善して元に戻ってしまう。「僕」は涙を流しながらECTを繰り返し、ある日彼女の記憶は無くなった。「僕」のことも全て。

    その後、ゆかりはカフェで働き始め、そこの経営者である「和久井」と恋人になるが、売春時代のゆかりを知る「木田」と「間宮」という男によって昔撮られていたビデオを見せられ、記憶が戻り、自殺してしまう。そして「僕」と和久井は復讐を誓う。



    →山奥の病院に「僕」を連れて来た男は言う。
    「あなたはその木田と間宮に復讐することになる。あなたの存在そのものを彼らの脳内に埋め込もうとした。……わかりますか間宮さん」

    「私の名は和久井。私は全てを捨てこの復讐に乗った。そしてあなたをずっと診ている先生が誰か」

    「……もうわかりますね」




    その後、木田と間宮、それに裏で手を引いていた吉見への復讐を果たした「小塚亮大」は、吉見の最後を思い出し、吐いた。薬をつかんだ分だけ飲む。

    テーブルには忘れてもいいように、カードの暗証番号と新しく借りた小さなアパートの住所。そして、平凡に生まれ平凡に生きた、自分の嘘の人生が記された紙が置いてある。

    一度は別の人生を望んでみたかった。少しの間でもいい。これまで経験することのできなかった、この世界の何かの平穏を。

    涙を浮かべ、小塚は和久井に謝罪の言葉を呟き、ECTのスイッチを入れた。






    ページ数が少なめだったため気軽に読み始めたが、記憶操作によって何が真実か悩ませられるため、なかなか重厚な作品だった。

    実在した犯罪者を用いることでリアリティーが増し、そこに独自の分析を合わせることでストーリー性が生まれ、序盤から物語に引き込まれた。

    謎が明らかになっても、どこかスッキリとしない感覚。復讐のために書いた小塚の手記はどこまでが本当なのか、吉見の言っていたことは信用できるのか、他にも意味深な台詞や文章があり、理解しきれていないように思う。

    また、印象に残ったのは、人間も生物だから攻撃欲動があるのが当然で、その隠された攻撃性を他の事に昇華しているという説と、その根拠にネットを例に挙げており、「人間は自身の顔が隠れ善の殻に覆われる時、躊躇なく内面の攻撃性を解放する。」という一文には説得力があった。

    中村文則さんの作品は初めて読んだが、複雑でありながら読み易い文章とテンポの良い展開。そして、明かされる真実と残された謎のバランスも丁度良かった。そのうち他の作品も読んでみたいと思う。

全117件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中村文則の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×