横浜1963 (文春文庫 い 100-3)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 94
感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167913137

作品紹介・あらすじ

浜生まれ、横浜育ちの著者初の社会派ミステリー。東京オリンピックの開催を翌年に控え、活気に満ちていた横浜。そんな時、横浜港で若い女性の死体が発見される。死体にはネイビーナイフの刺し傷、爪の間には金髪が残っていた。立ちはだかる米軍の壁に事件は暗礁に乗り上げたが、神奈川県警外事課の若い警察官・ソニー沢田は単身、米海軍捜査局に乗り込んだ。日系三世の米軍SP・ショーン阪口は、ソニーの熱意に応え捜査協力を決意する。事件の真相に迫ろうともがく二人の前に、戦争の大きな負の遺産が立ちはだかる。解説 誉田龍一 カバー写真 三浦憲治〈著者からのメッセージ〉私は1960年に横浜で生まれました。実は現在も同じ場所に住んでいます。生まれ故郷が好きかと問われれば、何とも答えようがないのですが、とくに引っ越しの必要性もなかったので、流れに任せて住んでいる感じです。ところが55歳という年齢になり、さすがに昔の横浜が懐かしくなってきました。平成に入ってからの横浜は大きな変貌を遂げ、昔の風景が、どんどんなくなってきたこともあります。数年前、いつか当時の横浜を舞台にした小説を書いてみたいと思い始めました。1960年代前半の雑然とした横浜の空気を再現したかったのです。それだけ、当時の横浜は不思議な魅力に満ちていました。その提案を受け入れてくれた版元により、このほど初のミステリーとして本作を上梓することができました。これまで歴史小説しか書いてこなかった私としては、新たな挑戦になりましたが、書き始めてみるとスムースに筆が走ったのには驚きました。やはり、よくも悪くも横浜への思いがたまっていたのでしょうね。とくに今回は、視覚、聴覚、嗅覚、感覚に関する表現を駆使して、1963年の横浜を再現することに力を入れました。「文字の力はバーチャル・リアリティに勝る」ということを唱えてきた私としては、読者に1963年の横浜に行ってもらうことを心掛けました。それゆえ行間には、当時の雰囲気が息づいているはずです。過去の横浜を知っている読者も、知らない読者も、それぞれの横浜を脳内に再現できると思います。また私は、この作品の中に多くのメッセージを込めました。現在、世界は中国やロシアといった覇権主義国家の台頭によって混迷を深め、これまで以上に日本は、同じ民主主義を国是とする米国と密接な関係を保っていかねばならない時代になりました。だが戦後、日米はどのような関係にあったのか、詳しく知る人がどれだけいるのでしょう。とくに駐留軍と共存してきた日本の庶民が、彼らに対して、どのような感情を抱いていたかについて書かれたものは極めてまれです。そうした巷間に生きた人々の息遣いを再現し、そこから、これからの日米関係はどうあべきかを、読者個々に考えてもらいたいというのも、本書を書く動機になりました。時代は移り変わっていきます。それだけは止めようがありません。ただ過去を知る者が、少しでもその痕跡を残そうと努力することで、当時の人々も現在を生きるわれわれと変わらず、懸命に生きていたことを伝えられるのではないでしょうか。伊東潤初のミステリー『横浜1963』を読み、一人でも多くの読者に「当時の横浜に行ってみたい」と思っていただければ、作者としてはこの上ない喜びです。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルとおり1963年の横浜が舞台の連続殺人事件
    容疑者は米軍ということで圧力もあり捜査も思うようにいかない
    主人公の捜査官はハーフということでその思いも語られる
    流れはまぁ普通かなと感じました

  • 作者とほぼ同じ年代で、横浜に住み30年の私としては、非常に馴染み深く読みました。1963年の横浜を直接知るわけではないが、黒澤監督の「天国と地獄」の情景を思い浮かべながら楽しみました。

    犯人探しのミステリーとしては標準作だと思う。が、社会派ミステリーとしては、重たいテーマも孕み中々読み応えもあった。芯のある二人の捜査官の生き方がカッコいい。

  • 伊東潤『横浜1963』文春文庫。

    これまで歴史小説を書いてきた著者が初めて書いたミステリー小説。

    容貌が米国人のハーフの日本人・ソニー沢田と容貌が日本人の日系米国人・ショーン阪口という二人の登場人物の設定が面白い。また、描かれている時代と事件はデイヴィッド・ピースの一連の作品を彷彿とさせる。

    読んでみると、ミステリー小説としてこれだけ起承転結がはっきりしているが珍しく、最終章でもう一波瀾あるなと思ったら、その通りであった。

    本作の舞台となる1963年と言うと終戦から18年が経過した高度経済成長期の最中にあり、戦争の面影など微塵も無いのかと思っていた。しかし、米軍が駐留する港町の横浜や横須賀では、まだまだ米軍が我が物顔で闊歩する現在の沖縄のような状況であったのだろう。

    東京オリンピックを翌年に控えた1963年、横浜で発生した女性連続殺人事件は、米軍兵士の犯行と目され、神奈川県警のハーフの刑事・ソニー沢田は、横須賀基地の日系三世のSP・ショーン阪口と共に真犯人に迫る。

    本体価格730円
    ★★★★

  • 1963年の横浜を舞台にしたミステリー小説。著者本人が当時の横浜を再現することに力を入れたと述べているが、主人公が駆け抜けた地域に住む人間にはたまらない。当時の、匂いや音までも感じられるし、横浜の人々が米国人にどのように接していたかも追体験できる。似たようなバックグランドをもつ二人の混血人の活躍もスリリングで面白い。

  • 本作は「米国人の風貌を持つ日本人」(=ソニー沢田)と「日本人の風貌を持つ米国人」(=ショーン坂口)という“境界”に在るような、やや複雑な背景の視点人物達を設定している。そして物語が、「戦後から高度成長の真っただ中へ」、「オリンピックを経て大きく踏み出そうとする前夜」という時代の“境界”という状況下に在る1963年の横浜で展開するのだ。
    “境界”に在るような、やや複雑な背景の視点人物達が、警察官や憲兵という「正義を貫く職分」で「正義を貫きたい」とする強い想いを抱きながら、「色々な事情」の下で苦闘する、“境界”を蠢くというような感もした物語だ。全般として、各々の社会で「やや異質?」な者達が自身と社会との“境界”で強い想いを貫こうとする物語である。そして1963年という時期の横浜、日米関係を見詰めているような物語である。なかなかに読み応えが在る。
    作者自身による<あとがき>に、御自身が横浜出身で現在に至るまで住み続けているという思い入れが示されているのだが…本作の読後に一寸気になる「ソニーやショーンのその後」を絡めて、“横浜シリーズ”でも展開して頂きたいものだ…

  • ミステリーではあるけど、今まで読んだことないミステリーだった。(時代背景とか)
    またソニーとショーンの二人のどこか認め合ってる姿が小気味よく、引き込まれていった。

  • 読みだしたら、寝食を忘れてしまう面白さでした。
    続編も書いてほしいです。

  • 面白かった。

  • 米軍の基地があり、半ば占領下だった頃の横浜を舞台にしたポリス・ストーリー。一種のバディものとも言えるが、その片割れである日系三世のショーンが物語に登場するのは、頁も半ばを過ぎてからで、かなり変則的。で、ショーンのパートになると今度はソニーの影が薄くなる。よくある言い方をすると、主人公は横浜という街そのものと言うことだろう。ミステリとしてはロジックが付けたりのようで、ラストのツイストもありきたり。ポリス・ストーリーとしては、捜査の描写など淡泊すぎる。それでも当時の横浜の目に見えるような描写は魅力的で、やはり作者さんが書きたかったのはそのなのだなと思う。

  • 面白かった。東京オリンピック前年、戦後日本の加速する復興の波を受ける当時の横浜。まぶしくてそして闇も深い当時の横浜にタイムスリップした気持ちになれた。
    1963年、事件は戦後の日米関係、人種差別、宗教、などの問題が絡みつつエキゾチックな横浜を中心に展開される。アンタッチャブルな部分の多い事件=壁に向かい、白人との混血児である日本の警察官ソニー沢田と日系米軍人ショーン坂口という、それぞれの国でマイノリティ、アウトサイダーである二人が、お互いに共感を抱きながら地道に捜査をすすめていく様はカッコいいの一言。

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著者プロフィール

1960年神奈川県横浜市生まれ。私立浅野中学、浅野高校、早稲田大学卒業。日本IBM(株)入社後、おもに外資系日本企業の事業責任者を歴任。
著書に『戦国関東血風録 北条氏照・修羅往道』(叢文社)、『悲雲山中城 戦国関東血風録外伝』(叢文社)がある。
加入団体に『八王子城とオオタカを守る会』『八王子城の謎を探る会』『ちゃんばら集団剣遊会』『三浦一族研究会』等。
趣味 中世城郭遺構めぐり 全国合戦祭り参加 ボディビル エアーギター アマチュア・ウインドサーファーとしてソウル五輪国内予選に参加(8位) 「湘南百年祭記念選手権」優勝等各種レース入賞多数
*ご意見、ご感想等の連絡は下記のメールアドレスへ
jito54@hotmail.com

「2006年 『虚けの舞 織田信雄と北条氏規』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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