希望が死んだ夜に (文春文庫 あ 78-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167913649

作品紹介・あらすじ

希望が死んだ夜みたいに真っ暗なこの国で――面白い作家が、凄い作家になる瞬間がある。本書を読んだとき、天祢涼は凄い作家になったと、感嘆した。――細谷正充(文芸評論家)彼女を死に至らしめたのは社会なのではないか?社会派×青春×ミステリーの見事な融合。本書に出合えてよかった。――ベル(文学 YouTuber)神奈川県川崎市で、14歳の女子中学生・冬野ネガが、同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された。少女は犯行を認めたが、その動機は一切語らない。何故、のぞみは殺されたのか? 二人の刑事が捜査を開始すると、意外な事実が浮かび上がって――。現代社会が抱える闇を描いた、社会派青春ミステリー。解説・細谷正充

感想・レビュー・書評

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  • 神奈川県警刑事部捜査一課の真壁巧は生活安全課の仲田蛍と二カ月前に14歳になった冬野ネガという母子家庭の少女を同級生を殺した容疑で取り調べることになります。

    殺されたのはネガの同級生の春日井のぞみ。セーラー服を着て化粧をした姿で首を絞められて殺害後自殺に見せかけようとした計画犯罪とみられ、ネガは犯行は認めたものの、動機については語らず、半落ちです。
    なぜ、ネガはのぞみを殺したのか…。

    ネガは母子家庭で母親が働けないので、大学生のふりをして居酒屋でバイトをしていました。
    真壁たちが調べていくと、ネガと同じ店で春日井のぞみも一緒にバイトをしていたことがわかります。
    のぞみの家も父子家庭で父親が鬱病を発症。生活保護を申請しようとしていました。
    のぞみは、フルートをやっていて音大へ行って、フルーティストになるという夢がありました。

    そして真壁らはネガとのぞみが親友同士であり、ネガがのぞみを殺す動機が全くないことに気づきます。
    本当にネガはのぞみを殺したのか…。
    真相は、まさかこんな結末があるとは思いもよらない絶望的で残酷なものでした。
    ミステリーとしてとてもよくできていると思いました。

    この作品のテーマは貧困と生活保護だと思います。
    国連の人権規約を批准した国で高校の授業料がタダになっていないのは日本とマダスカルだけであり、大学の学費は世界の平均と比べてずば抜けて高いそうです。
    勉強するのにこんなにお金がかかる国は日本くらいだそうです。
    又、日本のシングルマザーは八割以上が仕事をしているのに、半分以上が水準以下の生活を送っているそうです。
    この作品ののぞみは、生活保護を受けると大事にしていたフルートが財産としてみなされ手放さなければならなくなることに絶望していました。
    最後にのぞみのとった行動は何とかならなかったのかと思いました。

    『希望が死んだ夜に』ー
    ネガ(希)の希望も、のぞみ(希望)の希望も貧困と生活保護の在り方のために死にました。

  • 一人の少女が死に、一人の少女が容疑者として逮捕された。
    だけど少女は動機を一切語ろうとしない。

    一見節点のなさそうなこの二人の少女の間に、一体何があったのか。一体なぜ殺害することになったのか…

    「わかんないよ。あんたたちにはわかんない。何がわかんないのかも、わかんない」

    ※※※

    貧困がテーマのこの作品。
    すんごく重たかったけど読んで良かった。

    相対的貧困、という言葉を聞いたことがあります。住んでいる地域の水準からみて、大多数の生活水準よりも貧しいことを言うそう。

    いわゆる生き続けることすら難しい「絶対的貧困」に比べると、すごく発見されづらい問題らしいです。

    たとえば、スマホを持っていたりメイクしているのだから、そんな余裕があるのなら大丈夫でしょと言われる。

    でも現代社会の学生にとっては学校生活にもバイトにもスマホは必須だし、メイク道具なんて百均でも購入できます。

    そうして一見貧しく見られないため、子供たちが連日バイトで寝不足で学校に行けない、もちろん進学も難しい、結果超低賃金の仕事にしか就けない、などの負の連鎖から抜け出せない問題が見過ごされてしまってるんですよね。

    「そんなの結局本人のやる気と努力次第じゃないか」
    こう言えるのは、努力をする余地のある人間だから。努力をする余裕すらない子供たちもいる、という描写がガツンときました。


  • 少女たちの夢と希望と絶望と… 現代の暗闇があなたの心に突き刺す、痛切な社会派青春ミステリー。

    女子中学生が同級生を殺害した容疑で逮捕されるが、動機は供述をしてくれない。刑事たちが捜査を進めていくうち、少しずつ二人の関係と真相が明らかになってきて…

    しんどい。

    この一言につきる。ただ最後まで読むと少女二人の関係が明らかになり、読者としては少しだけ救われます。

    テーマ性、話の展開、登場人物のキャラクターの描き方がお見事。物語の舞台設定が秀逸で、暗闇に少しだけ希望の光がさしている、そんな世界観に浸れます。ミステリーとしても成立していて、真相には驚かされました。

    感想としては、人の親をやっている立場からすると、胸がただただ痛い。
    うちの家庭も裕福ではなかったですが、昨今はさらに貧富の差が激しく、明確になってますよね。ひとくくりに誰が悪いとも言い切れず、一体誰が夢も希望もある少女を殺したのでしょうか。

    誰しも何かひとつ間違えたり、歯車が狂えば、すぐに生活苦に陥る可能性がある現代社会。自分は大丈夫、弱いやつが悪いというのは簡単。決して物語だけの話ではないと改めて自戒を込めさせられた作品でした。

  • 貧困という共通点からネガとのぞみが仲良くなり親友へとなっていく過程は微笑ましかったけれど、貧困や生活保護といったリアルな社会問題を扱った二人の置かれている状況は他人事ではなく読み終える最後までこども貧困について考えさせられる作品だった。
    貧困家庭がどのような苦しみのなか生きているのかや生活保護を受ければいいのにそう簡単にはいかない実情をうまく描いていて胸が締め付けられた。
    まだ中学生の二人はそのような厳しい現実のなかでも夢や憧れを抱き懸命に生きようと希望を持っていた。しかし、生きる希望だったはずの夢や憧れが崩れ落ちてしまったその絶望感は計り知れない。辛すぎる。少しでもこのような子どもたちを救える社会になってほしいと願いたい。

  • 真相が一筋縄ではいかなくて、最後には驚いた。
    少女たちの覚悟が力強くて、自分の能天気さを思い知らされた。
    そして、貧困という社会問題についてもっと深刻に向き合わなければならないと感じる。

  • 春日井のぞみを殺したと認める冬野ネガの動機を明らかにしようと真壁巧刑事が奔走する物語。
    貧困という社会問題が軸としてミステリーが進み、謎が解決に向かうとともに貧困の問題が浮き彫りになっていった。そのため読後に強く社会問題の意識が残るような仕掛けになっていて驚いた。

    冬野の貧困が序盤に問題となり、その後も長谷部や真壁、春日井までも貧困であったという事実が明らかにされ、驚きと共に貧困が見えないところでとても広がっていることに怖さを感じた。深く観察していないだけで隣にいる人も実は貧困に苦しんでいるのではないかという臨場感があった。
    真壁の冬野に対する最初の「努力をしないで夢だけ見ている少女」というイメージが「母親にだけ苦労をさせ、自分は努力をする余裕があったのだ」という自覚への心の変化がとても自然で魅力を感じるとともに、自分にも当てはまると感じて胸を打たれた。努力をしても全員に明るい未来が開けるとは限らないということを突き付けられて初めて自分の考えが偏っていたことを真壁と同じように自覚し、恥じた。彼女たちの気持ちが「なにもわからない」ことをわかっただけで一歩の進展といえるのだろうか。
    「救いの全くない物語」という感想を聞いて自分が少し違和感を持ったのは、冬野に多少の救いが見えた気がしたからだ。春日井の遺体を見つけたときにそのまま自分も自殺と受け入れてしまっていれば、長谷部の犯行が明るみに出なかったとすれば、結果論に過ぎないがもっと希望のない未来だったと思う。確かに自分も彼らの気持ちは「なにもわからない」。だからといって何もできないのだろうか。いまの自分はそれさえ分からないため、もっと貧困の問題の根底から学ぶ必要があると思った。メタ的な見方をすると、この思いこそが彼女らの救いになるのではないか、なればいいなと思う。

  • 大人は何をしている!
    たった14歳の少女を守ることの出来ない大人達、一体何をしている!と叫びたい思いだけど…貧困は何も子供だけではない。
    貧困から抜け出そうと必死に足掻く大人も実はたくさんいるのだ!
    だからただ単に親を、大人を責める事は出来ない。
    高齢者、シングルマザー、企業の倒産や縮小である日突然リストラされてしまった労働者…貧困はあちらこちらにある。
    これが今の日本。どんどん格差は広がっている。
    努力が足りない…勿論そんな事実もあるのだろうが、この少女達のように生きる希望を胸に懸命に生きる努力をしている人もたくさんいる。
    取り止めのない事をズラズラ並べてしまいそうなのでもう辞めておこう。

    この世の中を動かしている人達に、こういう現実がある事をもっともっと感じ取って欲しい。
    努力が実る世の中に…やり直せる希望のある世の中になって欲しい。
    違う目線で見たら、甘いとか、それこそ現実が見えてないとか言われてしまうのかもしれないけれど、これが今この小説を読了直後の素直な気持ちだ。
    笑顔で普通に過ごす中学生活を送る同級生を横目にネガが、のぞみがどれだけ苦しんだのか…
    それを思うともっと周りに出来ることはなかったのか…と胸が痛む。
    ただ彼女達にしてみたらこんな痛みはきっと「お前に何がわかる。わかるはずない。」と言われてしまうんだろうなぁ
    小説を読んでわかった気になってるんじゃねぇと叫ぶネガの声が聞こえてきそうだ‥

  • 大人の責任って一体何だろうか、と思う。
    子どもたちが生きていく「社会」の、その構造を作っているのは大人で、その大人の都合で作られた社会の中で、子どもはただただ必死に生きる。
    大人が、大人の都合で生きることは、大人としての責任を果たすことになるだろうか。
    子どもたちの直向きさと、大人の身勝手さの対比が強烈だった。

  • 神奈川県で中学生の春日井のぞみが首をつられた状態で見つかり、その場にいた同級生の冬野ネガが捕まる。ネガは自分が殺したと主張するがその理由は頑なに喋らない。

    謎を突き止めるために捜査一課の真壁と生活安全課の仲田は協力することになる。

    テーマは「貧困」、以前生活保護をテーマにした柚月裕子「パレートの誤算」を読んだが今作は貧困家庭に育った子供がどのような思考回路になるんだろう、とか生活保護に対しての思考とかが描かれており大変興味深かった。僕の思考回路からは生まれないであろう発想、結論などがあった。

    冬野ネガは貧困家庭に育った子、一方春日井のぞみは吹奏楽でフルートも上手なお嬢様。ネガの妬みがのぞみを殺したのか!? ストーリーが進むにつれてどんどん明るみになっていく事実。

    最初から最後までテーマが貫かれており、よくできていた。真相には涙が出そうになった。

  • 女子中学生のネガが、同級生の少女を殺したという。だが動機は黙秘、半落ち状態である。
    若者ミステリーのような感じで読み始めるが、この作品のテーマは、貧困と生活保護だった。
    こういう作品を若者が読んで、考えたり想像したりしてくれたら良いなと思う。

    でも個人的には、一番印象に残ったのは、虐待の連鎖だった。自分が育った環境の中で、自分の常識は作られていく。
    ネガが、全く希望のない毎日を当然のように受け入れていることが、寒気がするほど怖く悲しい。
    「希望が死んだ夜」は確かに絶望的に辛いのだが、希望を知らないままのネガよりは、生きている人間のように感じてしまった…。

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著者プロフィール

1978年生まれ。メフィスト賞を受賞し、2010年『キョウカンカク』で講談社ノベルスからデビュー。近年は『希望が死んだ夜に』(文春文庫)、『あの子の殺人計画』(文藝春秋)と本格ミステリ的なトリックを駆使し社会的なテーマに取り組む作品を繰り出し、活躍の幅を広げている。

「2021年 『Ghost ぼくの初恋が消えるまで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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