壁の男 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2019年11月7日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (416ページ) / ISBN・EAN: 9784167913786

作品紹介・あらすじ

北関東の小さな集落で、家々の壁に描かれた、子供の落書きのような奇妙な絵。決して上手いとは言えないものの、その色彩の鮮やかさと力強さが訴えかけてくる。

そんな絵を描き続ける男、伊苅にノンフィクションライターの「私」は取材を試みるが、寡黙な彼はほとんど何も語ろうとしない。

彼はなぜ絵を描き続けるのか――。

だが周辺を取材するうちに、絵に隠された真実と、孤独な男の半生が次第に明らかになっていく。



抑制された語り口ながら、読了後に感動が待ち受ける傑作長編。

みんなの感想まとめ

心に響く感動的な物語が展開されるこの作品では、孤独な男が描く奇妙な絵が、周囲の人々に変化をもたらす様子が描かれています。主人公は、過去の事情から故郷を離れたものの、再び帰郷し、家の壁に稚拙な絵を描き始...

感想・レビュー・書評

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  • 貫井徳郎作品の違う一面を見た。
    それは予想外で、予想以上で、読後に胸がしめつけられるほどの感動と大きな愛が降ってくる。

  • わけあってふるさとを捨てた男が帰ってきた。
    冷たい町の人たちの目が変わったのは、
    男が家の壁に絵を描き始めてからだった。

    稚拙で、それこそ小学生の壁の落書きのような絵に、
    救われる人たちがいた。
    彼らと男が共有する哀しみとは。

    …という感じ。不思議な設定の中に、
    感じられるドラマが有りました。

    文春文庫406ページ

  • この地味なタイトルで表紙も地味であらすじもこれまた地味で、何に惹かれて買ったのかも忘れたけど、読んでよかった。いろいろな角度からじんわりと沁みてきて、気付けば大きななにかに包まれた。良い本だった。

  • 【仕事の休憩時間には絶対に読むな】

    凄まじい文圧
    文字で殴りつけてくる
    何の身構えも無しに読み進めて完全に打ちのめされた

    たとえこの作品が映像化や舞台化されたとしても
    原作超えは絶対に起きない
    それほど構成力以上に純粋な文章力、
    人の行動原理を描き切るのが抜群に上手い

    本作は絶対に仕事の休憩時間など
    そんな半端なスキマ時間に読んではいけない
    文章に横っ面を殴り飛ばされて精神が不安定になる
    なんなら午後からの業務に多大なる支障を来たす

    幼い娘の壮絶な闘病生活の描写など
    あまりの文圧で胸が掻きむしられる
    妻となる大学時代の高嶺の花に猜疑の目を向けなければならない場面は重苦しくて仕方がない

    壁に絵を描く
    部屋中に描く
    それでは飽き足らず所有地の壁に描く
    乞われて近隣住民らの壁にも絵を描く
    金銭の収受は頑なに断り
    ただただ無償で下手くそな絵を描く

    作中でこの男の行動原理が様々な角度から語られる

    SNSで話題となり観光地化された町の立役者として
    闘病生活の果てに息を引き取る幼い娘を持つ悲劇の父親として
    大学時代の高嶺の花と運命の再開を果たし、そんな彼女が抱える影に踏み込む青年として

    他にも、嫉妬と劣等感によって崩れかけた父母の板挟で、自身もまた父と同じ仄暗い火を胸に宿す学生時代
    そして無二の親友夫婦との絆を深めていく社会人成りたての頃──

    絵を描く男の実直さ

    その下地となった、様々な出逢いの末にそれら全てから惜別を告げられる壮絶な半生

    この構成力も凄まじい

    しかしやはり、まだ全貌が見えてこない状態から綴られる一つ一つの行動原理の描写
    この描写があまりにも的確なので
    否が応でも男の心情、そこから自ずと振る舞ってしまう言動が読んでいる自分の中にそのまま乗っかってくる

    あまりに重苦しく、一文一文の圧力に揺さぶられる良作
    文章で真っ向から組み伏せられる心地良い敗北体験でした

  • 最後の最後で思わず「うおおおおお・・・」とうなってしまう作品だった。
    壁に稚拙な絵が描いてある家が立ち並ぶ奇妙な町、その絵を描いた主人公伊苅の半生、そして、なんでそんな絵を描くのか?という疑問が徐々に明らかになっていくストーリー。
    なんでこう不幸は平等じゃなく、偏ってしまうのか。。こういう話を読むと自分の幸せを噛み締めないとなと思います。

  • 久々の貫井徳郎作品。
    数年前に慟哭を読んで以来、10作近く読んで、「慟哭ほどの作品はないか〜」と思いつつあった中での今作。
    かなりよかった。
    伊庭(いかり)とリエコさんの距離の詰め方や距離感、エミリちゃんとの交りなど、最後にその関係性が集約されていく感じがたまらなかった。
    これまでの貫井徳郎作品とは風味が全然違って、事件!という感じがしなかった。が、それがよかった。緩やかに流れる時間の裏に潜む深層が、重く、愛に溢れていた。

  • 都市からやや離れた田舎町。
    その町が脚光を浴びることになったのは、家々の壁に描かれた独創的な絵が、SNSによって話題にあがったからだった。

    その絵はどちらかといえば下手な絵なのに、不思議と心が掴まれる。
    ノンフィクションライターの肩書きを持つ「私」は、この絵の作者である伊苅という男を題材にしようと電車に飛び乗る。

    そんな出だしなのに、「私」と伊苅が話をする場面は、あまり登場しない。
    多くを語ろうとしない伊苅の代わりに、動きを与える役割を担う人物として「私」がいるということなのかもしれない。

    そして、絵によって変化する町を語る第一章の時点で、読んでいる側はふと違和感を覚える。
    「このシーンは、クライマックスで語られるものではないのか?」
    そんな予感は、第二章以降、伊苅の背景が語られるにつれて、ある意味その通りになっていく。

    どうして、この構成にしたんだろう。
    読み終わって、率直な疑問だった。
    この小説は、章を入れ替えるだけで、きっと読後の印象を変えてしまう。
    伊苅自身というより、描きたかった(絵)ものは何か?がテーマになっているように読めた。

    脱線するが、伊苅の妻、梨絵子と、伊苅の母という二人の女性が印象的だった。
    どちらも「才能を持つ女性」でありながら、そのために不幸を背負ってもいる。

    特に梨絵子の、自分では自分を認められず、他者からの評価や好意に縋ってしまうところ。
    そのことを「自分が悪い、いなくなればいい」と言うことで、結局は自分でシャッターを下ろしてしまう部分に共感もする。

    その意味では、一度下ろされたシャッターを、絵を通して、他者から言葉をかけられていく過程には、伊苅の「通路回復」の意味があったのかな。

  • なぜ伊苅が町中に絵を書くようになったのか?

    取材をする側の人が、色々な人に聞き回ります。

    それとは別に、過去の伊苅が明らかになってきます。

    あまり上手くは無い絵らしいですが、心に残る絵を書く人らしいです。

    本だから、自分でその絵を想像するのも楽しかったです。

    そして、最初の答えは、最後の笑里ちゃんの一言に出ているのかなぁと思います。

  • 貫井徳郎の作風は重くて暗く後味も良いとは言えない。設定は極めて現実的で、犯行動機を生んだ背景をつまびらかにされる下りでは身につまされ、そのあたりがイヤミス作家のひとりに数えられている。本書も然りで、ぐいぐい引き込まれ没入してしまった。

    ある北関東の寂れた小さな町の家々の壁に描かれた幼い子どもの落書きのように力強く、原色で彩られた平面的な奇妙な絵が描かれている一角がある。それはSNSで拡散され、一目見たさに見物客が押し寄せ、町は活気づく。

    それを知ったノンフィクションライターの〈私〉は導かれるように現地に向かう。町中に描かれた絵を目の当たりにして息を飲む。一体誰が描いたのか?地域住民はこんな絵を描くことをなぜ許したのか?様々な疑問が渦巻く中、描いたのはその町に住む寡黙なひとりの男だと知る。昂る関心を押し殺し、執拗に取材を試みるも男は頑として語らず、途方に暮れつつも周辺取材を重ねていく。

    当初、彼が町の人に稚拙な絵と嘲笑されながらもなぜ描き続けたのか、青春期の懊悩と両親との関係、町を出て上京、ひとりの女性と出会いと結婚と裏切り、友情の突然の破綻等が、伏せたカードを1枚ずつめくっていくように孤独な男の半生と隠された真実が徐々に明らかにされていく。

    ラストにはミステリーにしばしば使われる「最後の一撃」が用意され、あゝあれは伏線だったのかと気づかされたと同時に回収され、またそれは読み手の「思い込み」だったことにも気づき、男が奇妙な絵を描くことになった動機が提示されて終わる。その読後感は、あまりに切なく、生き抜くことの大事さ尊さを考えさせられる。

    貫井作品だけに、今回はどんな凶行が企てられているのかという期待と固定概念を見事に裏切られた異色の一冊。人は殺されることなく、トリックもなく、謎解きの探偵役の活躍もなく、ひとりの男の数奇な半生を描き切る。

    緻密な構成と周到に配置されている伏線の張り方に圧倒され、小説家の頭の中を覗き込めるものなら覗きたいと思わされた一冊。

  • 私には響かなかった。壁の絵が事件のヒントになるのかなぁと思ったけど、ラブストーリーだった。

  • 男は何故、上手くもない稚拙で奇抜な絵を家々の壁に描いたのか?紐解かれていく男の悲しい過去が、じっくりと読ませる。伊刈と梨絵子の夫婦に何か違和感を感じてたけど、最終章で そういう事だったのね‥と、驚きと納得。しんみりとした読後感が良かった。

  • 初めてと、2度目からでは物語の印象がガラッと変わる。大どんでん返しってわけではないのかもしれないけど、少しずつ真相が明らかになっていくうちに、伊狩の懐の深さと人間味がわかってきて、一緒に人生を歩んでいる気分になった。
    あとは、子を持つ親として、読んでてとっても辛かった。読み終わって思うのは、一人の人間の歴史の深いこと。。「感動」の一言だけでは表せない。

  • 1人の男の辛過ぎる人生が、時系列バラバラで展開されている。最後まで読んで、奥さんの心情がやっと理解できた。
    主人公の50代後半からの人生に幸あれと本気で願う。

  • 実は愛情深く懐の広い男なのだが、愛を向けた人をことごとく失い、今はただ「才能のない」絵を街に描く。
    大事なのは才能ではなく何をしたか。
    どう着地するのか見えないまま最後まで読ませる筆力はさすがだけど、ノンフィクションライターの存在意義が理解できず。
    ストーリーの進行役かと思ってたらそうでもなく、誰目線の誰語りなのか軸がぐらつく印象なのだけど、貫井徳郎がやることだから意図のある手法なのでしょうと諦める。

  • 北関東の小さな集落で、家々の壁に描かれた子供の落書きのような奇妙な絵。決して上手ではないが、鮮やかで力強い絵を描き続ける寡黙な男の生き方。

  • 貫井徳郎の本は今まで何冊か読んできたが、この作品はそれらとはテイストが違う作品だった。

    家々の壁に稚拙で奇妙な絵を描き続ける男。
    常人には理解できない奇人が主人公なのか、と思って読み進めたが...

    彼がどういう思いを抱えて壁に絵を描き続けているのか、是非最後まで読んでほしい。

  • 北関東の小さな集落で、家々の壁に描かれた、子供の落書きのような奇妙な絵。決して上手いとは言えないものの、その色彩の鮮やかさと力強さが訴えかけてくる。
    そんな絵を描き続ける男、伊苅にノンフィクションライターの「私」は取材を試みるが、寡黙な彼はほとんど何も語ろうとしない。
    彼はなぜ絵を描き続けるのか――。

    という作品紹介で、そのまま、「なぜ」というのが静かな雰囲気でつづられて行く感じ。
    最後まで読んでから、最初からまた読みたくなる……という構成。
    取り立てて事件が起こるわけでもなく、淡々と孤独な男の半生が描かれるだけであるのにとても味わい深い。
    これからも伊苅は変わらず静かに暮らしていくんだろうか……とぼんやりと思ってしまった。

  • 孤独な男の半生と隠された真実が、ひとりのノンフィクションライターの好奇心から少しづつ明らかにされていく…
    こんな風に、扉が次々と開けられていくような物語をこれまで読んだことがない。
    そして最後に、どうして彼が上手ではない絵を描き続けたのか、その絵に魅力される人が増えていったのかという秘密が明かされた。

  • Twitterで見かけて気になって予約した図書館本。1ページ目から引き込まれてぐいぐい読み進めた。予想以上に面白かった!!
    家の壁に絵を描く男の人生を取材側から追う話。全五章からなる男の半生がとにかく波瀾万丈?でページを捲る手が止まらなかった。


    以下ネタバレ。

    笑里ちゃんの話して、伊刈と梨絵子で温度差があるなーと思い、なおかついくら回復したとはいえ、再発の恐れがある状態の我が子を置いて家を出る母親ってなんだよってモヤモヤしてたら、ラストでストンと納得できた。
    笑里ちゃんは伊刈の友人の子だったんだね。だから付き添いも離婚後の引き取りも全て伊刈だったんだ。
    読み返したらほんま、梨絵子の一歩引いた態度はまさにそれで、なんかもうすごいなって。伊刈は赤ちゃん時代から笑里を見てるから我が子みたいなもんやけど梨絵子にしたらたまに見かけた彼氏の友達の子を養子にして一緒に暮らす……その状況でその子が小児がんって、うん、ああいう対応になるのもわからんでもない。

    他にもいろいろあるけど、とりあえずラストで泣いた。うわぁぁぁ!ってなったわ。

    貫井徳郎さん、他も読んでみよう。

  • 自分でも意外なのだが、この作者、初読み。

    北関東の小さな集落で、家々の壁に描かれた子供の落書きのような奇妙な絵が評判となり、その不思議な絵を描く伊苅という男に、ノンフィクションライターが取材を試みるのが話の始まり。
    ノンフィクションライターの存在は話のひとつの切り口でしかなく、伊苅の実像はライターの取材とは全く別に三人称で語られる話で徐々に明らかになる。
    第一章、伊苅が絵を描き始め、それが町に広がっていった経過が語られる。予断にとらわれたノンフィクションライターの思いとは全く異なる経緯で、そのすれ違い様におかしみあり。
    ちょっと風変わりなお話という印象だったが、ここから話が進むに連れて重さが増す。
    難病に侵された娘との闘病の記録、妻との馴れ初めと別れ、子供の頃の父母の姿と友に嫉妬する自分の姿。伊苅を今の姿にした過去が描かれる。
    最終章、子会社の社員である澤谷と交友を深める話がどこに向かっているかが見当がつかなかったのだが、二章三章でさらりとスルーされた妻との関係の違和感がここでこんなに効いた結末なるとは恐れ入った。

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著者プロフィール

1968年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。93年、第4回鮎川哲也賞の最終候補となった『慟哭』でデビュー。2010年『乱反射』で第63回日本推理作家協会賞受賞、『後悔と真実の色』で第23回山本周五郎賞受賞。「症候群」シリーズ、『プリズム』『愚行録』『微笑む人』『宿命と真実の炎』『罪と祈り』『悪の芽』『邯鄲の島遥かなり(上)(中)(下)』『紙の梟 ハーシュソサエティ』『追憶のかけら 現代語版』など多数の著書がある。

「2022年 『罪と祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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