僕のなかの壊れていない部分 (文春文庫)

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  • 文藝春秋 (2019年11月7日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (368ページ) / ISBN・EAN: 9784167913861

作品紹介・あらすじ

美しい恋人・枝里子をサプライズで京都に誘った。それは、

昔の男が住む京都で枝里子の反応を見ようという悪意だった――。



東大卒出版社勤務、驚異的な記憶力を持つ「僕」は、同時に

3人の女性と関係を持ちながら、誰とも深いつながりを

結ぼうとしない。その「理屈っぽく嫌味な」言動の奥にあるのは、

絶望なのか渇望なのか。彼の特異な過去を知った枝里子は。



「自分の人生にとって本質的なことからは決して逃れられない」



切実な言葉たちが読む者の胸を貫いてロングセラーとなった傑作が

文春文庫で登場。



解説・窪美澄

感想・レビュー・書評

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  • 年末年始の怒涛の読書から一転、通常営業モードが戻ってきたのとがっつり低下したメンタルで、読了に1ヶ月弱かかってしまった…

    さらにクズ気味の主人公にさほど共感できず、でもきっとわたしはこういう人が目の前に現れたら惚れるんだろうな、なんて思いながらたらたらと読む。
    読み進めていくと、主人公がなぜ孤独や寂しさを抱えているのかが、じわじわと描かれる。でも彼の表現の仕方、相手への伝え方がすんんんごい下手くそで。でもたぶん、触れてほしくないところに入って来てほしくないからこそ、こういう表現しかできないんだろうな、とも思う。だけど、相手を大切にしていない物言いや自己中な人付き合いが、一緒にいたらすごく大変な人なんだろうな。

    そんな主人公と上手な距離感で近くにいるのが、彼女の枝里子だ。すごくいい女で、でもこういういい女と一緒にいるのがしんどくなる主人公の気持ちもよくわかる。だけど、やっぱり主人公が枝里子を大切にしていなさすぎる。
    そして、家の近くに住んでいるスナックのママ・朋美とも交際し、セフレの大西夫人とはびっくりするくらい激しいセックスをし、基本的には、家に鍵を閉めずに日々を過ごしている。やばすぎる。

    窪美澄さんの解説がすごくいい。
    窪さん同様、というかみんなもそうだと思うんだけど、「僕の中の壊れていない部分てどこなんだろう」と、思いながら読み進めるはずだ。
    複雑な生い立ちから、自分は無価値で生きている意味なんてない、と思いながら生きている主人公。話も偏屈で長い。だけど、彼が昔懐いていた真知子さんや、朋美の息子の拓也のことになると、突然ハスっている感じがなくなる。きっと、彼の壊れていない部分は、そこにあるんじゃないかと思うんだ。

    とはいえ、この作品は著者の白石一文さんが20代の頃に描いたものだそう(帯より)。きっとその頃に「生きるとは何か」ってことに全力で向き合って描ききったものなんだろうなと思う。偉人の作品の引用部分も含め、当時の白石さんが「生きるということ」に全力で向き合って、必死に自分なりの答えを見出そうとしているように感じた。

    • bmakiさん
      naonaonao16gさん

      ご無沙汰しております。
      お元気ですか??
      何となぁーくテンション下がる時期ありますよね。。。
      女性...
      naonaonao16gさん

      ご無沙汰しております。
      お元気ですか??
      何となぁーくテンション下がる時期ありますよね。。。
      女性ならではなのかもしれませんが、低迷期というか。そこから抜け出せない時期もあったり。

      クズ気味の男に惹かれてしまいますか?
      それはきっと、naonaoさんの母性本能なのかもしれないですね(^^)
      頼るより頼られたいからでしょうか?

      しっかりした女性にありがちな心境なのかなぁ???なんて思ってしまいました(^^;;
      私みたいに、自分よりできる人に依存して生きていく方が楽に生きられそうですが、naonaoさんの真面目な部分がそうさせないのか。。。

      とにかく、低迷期は飲んで忘れてハッピーになってくださいねo(^▽^)o
      2024/02/04
    • naonaonao16gさん
      bmakiさん

      こんばんはー!
      お久しぶりです!
      コメントありがとうございます!

      主に仕事なんですが、ちょっと落ち込んでましたね…
      なん...
      bmakiさん

      こんばんはー!
      お久しぶりです!
      コメントありがとうございます!

      主に仕事なんですが、ちょっと落ち込んでましたね…
      なんだかそういう時って、全然読書が捗らなくて…
      このところブクログもあんまり見れてませんでした…
      ネットショッピングとか食べものとかでストレス発散してて、そういうことすると前はすごく自分を責めてたんですが、今は「たぶんこれも一時的だしなー」と、欲望のままに過ごしてます。
      この土日でだいぶ回復しました。

      わたしはダメ男にどっぷり依存しちゃうタイプなんですよねー
      全然しっかりしてもいないのに…笑
      何考えてるかわからないところに惹かれがちで、でもこの本読んで、何考えてるかわからない男の脳内がこんな感じだったら嫌だなと、はっきり思いましたね笑

      秋頃体調崩してから家で全然お酒飲まなくなっちゃって、そしたらめちゃめちゃ睡眠の質あがりました!笑
      相変わらず外では飲みます^^
      気晴らししないとですね!
      2024/02/04
    • bmakiさん
      読書、出来ない心境の時ってありますよね。。。
      仕事でのストレス、溜めすぎないように気をつけて下さいね。
      自分が知らないうちに、結構積もっ...
      読書、出来ない心境の時ってありますよね。。。
      仕事でのストレス、溜めすぎないように気をつけて下さいね。
      自分が知らないうちに、結構積もってきているのかもですよ。。。
      そういう時くらいは自分を甘やかせてあげてくださいね(*^^*)

      疲れた時は逃げもアリですよー(*^ω^*)
      2024/02/07
  • 主人公が理屈っぽく、嫌味ったらしいので共感しにくい。それでも、所々で深く刺さる言葉や哲学的な引用があって、ページをしばらくめくらずに考えたくなる場面もあった。読んでいて「あなたにとって壊れていない部分は何ですか?」と問いかけられているように感じました。

  • 現代文学小説の様な複雑な人間の心理を細かく表現されている。主人公直人との特殊な育ちから独特の個性と男女関係の複雑な複数、枝里子、朋美、大西昭子の関係が重い小説だった。色気グロさも一般的にはきつい部分も。最後のエンドレスの雷太の行動には驚いたが、その後このストリートが落ち着いて終わっていく。

  • 偏屈で臆病な主人公。
    まっすぐで人間らしいエリコが眩しくて苦しくて。
    家庭環境のせいで記憶力がみについたり、、、。それでも活かせる特技なのはある意味うらやましい。
    給料がいいからというシンプルかつめちゃくちゃ羨ましい理由で選んだ職場にすんなり入れるのは記憶力のおかげ?それとも、面接官は彼のどこの何を見て彼を採用したんだろ。と思いましたけど。
    拓也への想いも、必要とされる喜びというエゴと感じてしまい、とことん不器用。でも、ちょいちょいでてくる偏屈な持論がわからないでもないし、共感できる部分もあった。
    もちろん、彼の哲学に追いつけない部分も多々、本当に多々あったのでエネルギーある時にまた読み返したいとも思いました。

  • 本を読んで、一人の人間をこれほどまでに深く描いて、知るほどにその人としての魅力を感じられる作品はそう多くない思った。物語の中盤までは、周辺人物との関わりの中で主人公のさまざまな側面が点のように描かれるから、相手に合わせて異なる顔を見せる人間の日常のようで、言動や人への向き合い方がチグハグなように感じるけど、物語が進んで主人公が自分自身と深く向き合うフェーズに入るにつれて、読者の主人公に対する解像度が上がって、「点」が次第に「線」となり、「面」となり、最後には一つの「球」になっていくような感覚が味わえてすごく面白かった。
    その過程で主人公の人柄を理解していくと、状況に応じた主人公の言動に一本の筋が通っていることに気づかされて、一貫性があるなって納得できる瞬間が何度もあって読み進めるほどに主人公のことが魅力的に感じられた。

    個人的に、主人公の周りの人々に対する態度がリアルに描かれていた点が良かった。他の本なら「いいこと言ったな」と共感しそうな登場人物のセリフにも、主人公はどこか鬱陶しさを感じてさらりと受け流すから、そのたびに、読み手としても妙な爽快感を覚えた。主人公の感情がそのまま伝わってくるような清々しい読書体験。

    男性的思考を丁寧な心情描写で描いた作品

  • 解説が素晴らしかった。
    本文を読んだだけではなんだこの自分勝手にキレた上で理詰めでネチネチ否定してくる主人公は…と思ってしまって、あまり直人のことが好きになれなかったし、まったく感情移入もできなかった。確かに自分から人を攻撃したりはしないけど、相手の言い分を挟ませず強く反論してくるし、相手に自分のことを好きにさせておいてこっちは少しも心を動かさず、同時に何人もの女性と関係を持っているのは優しい人ではないのではとすら思っていた。
    でも窪美澄さんの解説を読んで、この直人の生き様を見て、「壊れていてもいい」と思える人がいるのだ、そのような見方もできるのだとハッとさせられた。

    誰もが一部壊れているし、一部壊れていない。
    それでもいいのだ、私たちは生きているのではなく"生かされている"だけなのだから。

    252ページからの生かされている理由の話はとても面白かった。

    私たちは恋人や家族、友人と簡単に絆を持っているように感じているが、直人は「ただ近づくだけじゃ人と人とは永遠に分かり合えないと思う。本当に分かり合いたいのなら、自分を完全に捨てて相手になりきらなきゃいけない。そうした時に初めて人間は他人の幸福を引き寄せて自分自身のものにすることが出来る。」と言う。そんなの無理だと思うし、そうだとしたら現実にいる人々で本当に分かりあっている人なんていなくなる。直人はそれだけ本当の人間関係に求めるハードルが高いせいで、苦しそうに生きているのではないか。それはある意味、相手と深く付き合おうとするならばこれくらいはしなくてはならない基準が高いという優しさなのかもしれない。
    直人は三島由紀夫と同じで、人生を"俗に遊ぶ"ということがとても下手だったんだと思う。
    実際にはそこまで相手になりきらなくても、相手の理解できない部分、壊れている部分に少し踏み込み、それを受け入れるというだけで価値があることだし、それができると言うだけで一歩進んだ関係なのではないかと私は考える。

  • 「きみにはわからないかもしれないけど、人間、とりあえず行くところがないってのが、一番骨身にしみることだからね。場所があってはじめて人がある、と僕は思ってるから」
    (白石一文『僕のなかの壊れていない部分』光文社)



    ((多くの人は、薄々この事実に気付いているので、とにかく「とりあえず行くところ」をつなぎとめて日々を送っているのではないだろうか。

    リストラされたサラリーマンが、家族にも切り出せず 行くあてもなく毎日公園で時間を潰す、という話を聞くが これは牢獄に閉じ込められるよりも悲惨であろう。

    人は、とりあえず職場に行き、とりあえず家庭を持ち、とりあえず行きつけの居酒屋を持ち、とりあえずビールを注文する。

    この「とりあえず」が、実はとりあえずではない。
    とりあえずは、「あってもなくてもよい」という意味ではなく、「なくてはならない」という意味なのだ。

    人は、何かを絶対にしなければいけない、という義務は一つも背負っていない。いわば、とりあえず生き続けているに過ぎない のだから、この「とりあえず行くところ」がなくなれば、生きてゆく基盤もなくなることになる。

    そして、その「とりあえず」の中に、大きな意義を見出そうとするのが人間ではないだろうか。人生に意味も意義も見つけずに、とりあえず生きていくことは、まずできないからである。

    人生とは、とりあえずの集積である。))



    都市空間論だなあとおもった。
    この人の解説は本当にわかりやすくて素晴らしいとおもった。




    ここからは自分の感想。

    「女性にとって一番大切なことは、自分の幸福だけを考える集中力のようなものだ。
    現実をみつめ、手に収まるだけの幸福を確保する姿勢だ。一時的な感情や興奮にかまけてそのことを忘れた女性は決まって結婚に失敗している」





    これは主人公の恋人の父が言ったセリフ。

    私自身愛のある結婚したくて、どうしようもないくらい好きになった人と結婚したいなとおもってて。


    相手に愛されることももちろんだけど、それよりも自分が相手のこと好きで好きで仕方ない、みたいなことが大切で。

    でもこの父の言うことだとソレジャダメなんだよねー。

    手に余るほどの幸せじゃダメ。
    おさまらなければならない。

    たしかに手に収まるだけの幸せは自分自身である程度コントロールがきくし、感情が安定していていいかもしれない。

    でも、やっぱり燃え上がるような恋がしたいなあ、あの人と結婚したかったななんて後悔がありそう。


    やってする後悔と、やらないでする後悔。
    いまのわたしの課題です。。






    そして冒頭の<場所>に関することにもどる。





    「いまの僕にはたしかに場所があった。が、人はいなかった。そして、人がいないということは時間が存在しないことだと僕は知った。
    人こそが時間なのだ。時間のない空間は人間にとっては無意味に等しいのかもしれない。
    場所も人も時間も、すべてはたった、ひとつのものの別々の姿にすぎないだろう」


    空間があって、そこに人があり意味を帯びさせて空間は場所へとなる。



    人のいない場所はただの空間なのかもしれない。

    空間に時間は存在しない、実際はあるけどないに等しい。
    時の流れが感じられないし必要ではないからだ。







    主人公はたくさんの女の人と浮気や不倫や色々するけど
    それは好きだからではなく心の奥底では、幼少きの経験から憎んでいるから。

    幼いこどもには心の奥底から優しくできるのに
    女のひとには結局ひどいことをしてしまう。



    幼少きの経験と、場所と時間がテーマだなとおもいました。

  • 主人公はとても奇妙な人間だった。無機質で、物事を判断する際に人間の感情の部分を考慮していないようだった。しかし論理的で筋は通っていた。

    対して枝里子は反対の性質を持っていて、かなり感情的。その二人が論じる“愛”、“恋”、“死”、“生”に関する言葉たちがとても素敵だった。

  • 幼少期の出来事が主人公の人格を歪め、また自分自身を殺してしまいそうな危うさがある。
    自分の立ち位置を定め、考え続けて年を重ねていく、これから変化していく未来を見据えながらも、今を生きるという物語で、生々しい人間観があり、生きるとはなにかを深く考えさせされる作品でした。

  • 悲しい人間。感情を押し殺し、他人の思想や知識で自分を納得させて、人を冷めた目で見て、常に孤独や絶望を感じながらも今を生きている。
    それでも無条件に子供に優しく、自分の時間を投資するところもあり、彼なりの愛はどこで境界づいているのだろう、と。
    2歳の頃のエピソードも心打たれた。限界まで追い詰められるにはあまりにも小さすぎた、その衝撃ゆえの記憶力、知識量なのだ、といった流れにもすごく納得感があった。
    ラストの衝撃もなかなかだが、彼以外の人の絶望さも丁寧に描いていて、とても良かった。
    性的描写は突如として出てきて多めなのでそこは覚悟が必要。

    110/140

  • ★育つために人は生まれさせられた。育つためには、相反するふたつを組み合わせて調和をとることですね★

    過去に囚われて、現在を生きていない感じがして、苦手だったな。過去の出来事に縛られているから、更生していない。どんなに辛いことがあったとしても、それを言い訳にしていいんじゃない。事実は変えられないけれど、過去の捉え方を今更新していくことはできる。“悲劇のヒーロー”演じてる感じ。

  • 今持っている本の中で最優秀賞のダークサイド愛書。かつインパクト大。
    哲学派でもあり
    手元において何度も読見返してみたい一冊。

  • 終始面倒くさい男だなと思いながら読了

    度々この面倒くさい男も人との関わりで
    変わっていくのかと思いきや最後の最後まで面倒くさい!

    二歳の記憶が鮮明にあるほどの記憶力と
    頭の良さ故に何事も理屈っぽい

    僕のなかの壊れていない部分…
    いっそ全て壊れた方が生きやすいのかもと思った

  • 結局のところ主人公のこと、言いたいこともだが、半分も理解できなかった気がする。
    ただ他人を思いやるという話に深く共感していた主人公が、結局は自分のありのままの感情で他人に当たり散らすのは、彼の深い考えの中で辻褄が合っているのかも知れないが、ただただ滑稽に見えた。
    自分の中の忍耐の力を、自己の破滅へ向かってしまうような性を抑えることに使ってしまって、他人に振りまける余裕がないようにも見えた。
    ただどちらにせよ、この主人公は壊れてるのは間違いない。

  • 今までの中で読み返したいと思えるなかなかにない作品だった
    名言的引用も数多く出てきてすごい惹かれるものが多かったと思う
    主人公の病み感が良い
    心取り憑かれるような衝撃的文体と忘れることのできないストーリー

    今のとこマイベスト!No. 1です

  • ずっともやもやしながら読んだ、彼の「壊れていない部分」って何だろうと。
    窪真澄さんの解説文に書いてあるように、自分からはほど遠い人間の話だと思ったけど共感してしまえる部分もあって、衝撃を受けた本だった。

  • 圧倒的なステータスを持ちながらも、捻くれており理論武装に長けた主人公。

    彼の考えは幼稚で責任感が薄い、ずる賢い、と言ってしまえばそれで終わってしまうかも知れないですが、彼には幼少期の体験に起因した「必要とされる」事に対しての執着心と内在する「寂しさ」がありました。

    著者の作品に共通しているテーマとして「生きる」ことは「自分」を中心とした行為でなければいけないという事が語られている気がします。本作品では、「自分が幸せになる為には他者を幸せにする必要がある」とあり、「人を愛する」事は「自分がその人になる」事が必要であるとも。

    良くある素敵な話ではない分、終始興味深く読み進める事ができました。ただ、今のご時世だと男尊女卑が過ぎるという風にも捉えられかねない作品です笑

  • 久々に「白石一文の世界」にどっぷり浸る。のっけから主人公が繰り出す思索開陳のビッグウェーブ。良い意味で相も変わらず濃厚な展開で、ページを繰る途中に何度も本を閉じ、深呼吸するほど。まぁ、これが白石一文ワールドというか真骨頂。ファンとしては、しばしその世界に浸れる安堵と喜びを抱きつつも、脳髄は痺れるというアンビバレンツな読書タイムを味わえる稀有な作家。まぁ、とにかく圧倒的な情報量を包含した骨太の小説を編まれます。

    さて、本書。主人公は東大法学部出身、大手出版社勤務、高収入の30代独身男性。境遇のまったく異なる三人の女性と関わりを持ちながら、いずれも一定の距離を置いた関係を続けている。彼女らに向ける言葉は終始理屈っぽく他虐的で粘着性が強い。また、このエリートが語る仕事感・恋愛感・死生観は高慢で鼻持ちならず、正直言って感情移入しずらく、到底好きにはなれないタイプ。

    にもかかわらず、徐々に当初より抱いていた嫌悪感は薄らぎ、主人公の思考・思索・振る舞いに同調とまでにはいかないが関心を寄せるようになっていくから不思議。この“やな奴”の「僕の中の壊れていない部分」が、はたしてどこなのかを見つけたくて一途にページを繰ってしまう。もう、その段階で著者の術中にまんまとはまってしまってるわけですな。

    本書の後半に、その核心となる「なぜ自分がこんな人間になったのか」を坦懐するシーンがある。人は大なり小なり何かしらの「マグマ」を抱えている。コンプレックスや出自に根差すやり場のない燻り続けている感情、憤怒や復讐といった高熱を放っているものまで、それは様々。

    そのマグマが、時に人を攻撃的に、冷徹に、シニカルに、またその一方で路傍の名も無い花を愛でる繊細な優しさや死をも厭わない犠牲心や包容力を有していたりする。

    「落語は人間の業の肯定である」と喝破したのは談志。いうまでもなく文学も然り。太宰なんてその権化。

    業をカルマと呼ぶが、「カルマ」と「マグマ」。
    いずれも沈潜し、脈動し、得体の知れない不気味さを保有しつつ、存在の在り処をちらつかせる。理性は万能ではない。理性が制御する範囲は一部分である。人間は不条理で不合理な生き物であるってことをあらためて思わされ、またそれを自覚すべきであることを思いしらされた一冊。

  • なんてつまらない人生なのだろう、と思う。
    自ら楽しもうともせず、
    理屈ばかり捏ねて、
    差し伸べられる手を拒絶してばかりで。
    けれど、何故か彼の生き方を完全に否定することはできないし、
    他人事には思えないでもいる。

    ただ一つの自分の居場所、
    たった一人の運命の人、
    ただ一度きりの自分の人生。

    それらを探し続ける白石一文の冒険は、
    きっとここから始まったのだろう。

  • 【三人の女性と関係を持つ「僕」の絶望――名著再刊!】東大卒の秀才・出版社勤務の「僕」はどんな女性とも深い繋がりを結ばない。驚異的な記憶力に秘められた理由とは。ロングセラー長編。

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著者プロフィール

白石 一文(しらいし・かずふみ):1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋勤務を経て、2000年『一瞬の光』でデビュー。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で第22回山本周五郎賞、10年『ほかならぬ人へ』で第一四二回直木賞を受賞。著書に『不自由な心』『すぐそばの彼方』『僕のなかの壊れていない部分』『草にすわる』『どれくらいの愛情』『この世の全部を敵に回して』『翼』『火口のふたり』『記憶の渚にて』『光のない海』『一億円のさようなら』『プラスチックの祈り』『ファウンテンブルーの魔人たち』『我が産声を聞きに』『道』『松雪先生は空を飛んだ』『投身』『かさなりあう人へ』『Timer 世界の秘密と光の見つけ方』等多数。

「2024年 『代替伴侶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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