悲しみの秘義 (文春文庫 わ 24-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167914141

作品紹介・あらすじ

もしあなたが今、このうえなく大切な何かを失って、暗闇のなかにいるとしたら、この本をおすすめしたい――(解説・俵万智)宮沢賢治、須賀敦子、神谷美恵子、リルケ、プラトン、小林英雄、ユングらの、死者や哀しみや孤独について書かれた文章を読み解き、人間の絶望と癒しをそこに見出す26編。「言葉にならないことで全身が満たされたとき人は、言葉との関係をもっとも深める」―-自らの深い悲しみの経験を得た著者が、その魂を賭けて言葉を味わい、深い癒しと示唆を与えてくれる26編。「一日一編読んでいる」「自分の無意識のどこかに必ず染みてきて、涙がにじむ」「どんな仕事でもそれを支えているのは、『語り得ない何か』。 その一つが悲しみである、という言葉の凄さに慰められた」日経新聞連載時から話題を呼び、静かなロングセラーとなった一冊。東日本大震災後の福島にて、柳美里さんが営む書店「フルハウス」では2018年売り上げベスト6位に本書が入っている。文庫化に際して「死者の季節」「あとがき」を増補。

感想・レビュー・書評

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  • 昨年の夏、気に入って通っているカフェに併設された書店で、ふとこの本が目に留まり買い求めた。とはいえ、なんとなく読むのは今ではない気がして、そのまま他の本と一緒に積み上げていたが、年の暮れも押し迫ったころ、ふと今読もう、と思い立ち、1つ、2つと、ゆっくり噛み締めながら読む。書店で読みたい!と感じた勢いのまま、すぐ読み始めるのも幸福なひとときだけれど、こんなふうにゆっくりと手にすることも、本とのひとつの出会い方だな、と思う。

    「同じ悲しみなど存在しない。そういうところに立ってみなければ、悲しみの実相にはふれ得まい。同じものがないから二つの悲しみは響き合い、共振するのではないか。独り悲しむとき人は、時空を超えて広く、深く、他者とつながる。」

    「やわらかな日の光にふれ、小さな呼吸をする。全身を小さな力が貫く。そのとき私たちは今日も生きてみようと内なる言葉で自らに語りかけている。」

    できることならなるべく先になりますように、と思っていた別れの扉が開き、恐る恐る目を向けてみると、終焉の象徴だとばかり思っていた「悲しみ」は、幾つもの色彩を持ち、広い場所につながっていく思いであることを知る。大切な人のことを考えながら、静かな時間を過ごすことを必要としている人の、伴侶になってくれる1冊だと思います。

    • 雷竜さん
      私もこの本には深い感銘を覚えました。本との出会いって大切ですね。
      私もこの本には深い感銘を覚えました。本との出会いって大切ですね。
      2024/01/11
    • snowdome1126さん
      雷竜さん、こんにちは。本当に、良き本との出会いは、人生に喜びや深みをもたらしてくれますよね。コメントありがとうございました!
      雷竜さん、こんにちは。本当に、良き本との出会いは、人生に喜びや深みをもたらしてくれますよね。コメントありがとうございました!
      2024/01/12

  • 私が若松氏と出会ったのは(もちろん一方的な出会い)
    100de名著「善の研究」の解説をされておられたとき
    失礼ながらどういう方か存じ上げなかったのだがこの時の印象が圧巻で忘れられない
    この人は一体どんな人生を歩んできたのだろう
    第一印象は静かで穏やかな好感持てる方であった
    しかしお話しをされると、悲しみも苦しみも全て受入れ、悟りの境地におられることがわかる
    謙虚で控えめなのに、内なる秘めた強さを持っておられる
    そして人に何も押し付けない
    ちょっといないぞ こんな人
    忘れられない出会いとなった
    多くの著作をされているようなのでいつか読んでみたいと思っていた

    そして本書
    ああ、こういうことか
    人生の伴侶を亡くされた氏は言う

    悲しみとは絶望と同伴するものではなく、それでもなお生きようとする勇気と希望の証しであるように感じる
    悲しみは自己と他者の心姿を見通す眼鏡のようにも感じる
    悲しみを通じてしか見えてこないものがこの世には存在する


    以下は個人的な覚書
    今の自分に必要なものを…

    ・誠に他者とつながるために人は、一たび独りであることをわが身に引き受けなければならないのだろう
    独りだと感じたとき、他者ははじめてかけがえのない存在になる

    ・考えるとは、安易な考えに甘んじることなく、揺れ動く心で、問いを生きてみることだ

    ・絶望のあるところには必ず希望が隠れていると人生は語る
    人生は失望を飲み込み、希望という光に変じ、内なる勇者を目覚めさせる

    ・心を開くとは、自らの非力を受け入れ、露呈しつつ、しかし変貌を切望することではないだろうか
    変貌の経験とは、自分を捨てることではない 自分でも気が付かなかった未知なる可能性の開花を目撃することである


    心に響くことはたくさんある
    孤独と絶望の中、それを咀嚼して自分の中に落とし込み、人生を生きることができるのだろうか
    どれほどの理解と努力と時間が必要なのだろうか
    そう自分の苦しみや悲しみは他人には引き受けてもらえない
    独りで向かい合わなくてはならない
    わかっていても追い詰められた時に、どう向き合えばいいのだろう
    頭で理解できると同時に、時間がかかっても見つからない答えがあるのかもしれない
    ただそれでも苦しみもがきながら逃げることなく、その生きる姿勢がその人の人生というものになるのだろうか…

    今後の様々な場面で本書を広げたい
    その都度新たなる気付きがありそうだ

  • 深い悲しみをどう生きるか――愛する妹が亡くなる前に書かれた“宮澤賢治の詩” | 文春オンライン
    https://bunshun.jp/articles/-/36409

    若松英輔さん著「悲しみの秘義」(文春文庫)
    https://bit.ly/3jCAf6E

    文春文庫『悲しみの秘義』若松英輔 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167914141

    • まことさん
      猫丸さん。
      今、言ったばかりなのに、ポチリました。
      図書館では、まだ、文庫化されていない高い本を借りようと思います(^^;
      猫丸さん。
      今、言ったばかりなのに、ポチリました。
      図書館では、まだ、文庫化されていない高い本を借りようと思います(^^;
      2020/10/09
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      まことさん
      便利な世の中ですよねぇ、、、と言いつつAmazonは使わない猫でございます。
      まことさん
      便利な世の中ですよねぇ、、、と言いつつAmazonは使わない猫でございます。
      2020/10/09
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ももすももすの『きゅうりか、猫か。』- #5 若松英輔/悲しみの秘義 - | OKMusic
      https://okmusic.jp/news...
      ももすももすの『きゅうりか、猫か。』- #5 若松英輔/悲しみの秘義 - | OKMusic
      https://okmusic.jp/news/471363
      2022/04/25
  • 宮沢賢治。リルケ。プラトン。高村光太郎。ディケンズ等々。
    名著の名文を引用して、悲しみを紐解く。理解する。
     
    以前、自分に悲しい出来事があったときに購入した本です。
    でも、失敗だったな。
    読解力の薄い私にはハードルが高かった。
    詩の心は難しい。なかなか自分にはすんなり入ってきてくれないです。
    著名な文豪、哲学者、詩人さんの言葉よりも、著者の母親の言葉の方が強く沁みた。
    「どうして、あなたそこにいるの」
    著者の奥さんが闘病の末に亡くなられたときに、棺の縁をつかんで、そう、むせび泣いたそうです。
    それは、血まみれの、飾りも、てらいもない、叫びです。悲鳴です。
    私も似たような経験があります。その言葉は、声は、今でも、どれだけの時がたっても消えてくれません。
    人の胸を刺して、捉えて、離さずにいるのは、いわゆる名文などではなく、自然と漏れ出てしまう肉の叫び、ではないでしょうか。

  • 日本経済新聞に連載されていたエッセイ。
    一つ一つは短いのだけど、「奥行き」について考えさせられる、そんな一冊だった。

    かなし、という言葉は元々、悲しみだけでなく愛おしさも含んでいる、根源的な言葉だった。

    私の中のかなしさは、時間と共に深みを帯びてきたような、そんな類のものが多い。
    徐々に、自分の一部になって、愛おしさが芽生えるような、また痛みを生み出すような、感じ。

    様々な人が書いた文章を取り上げながら、かなしさを感じる自分にライトを当ててもらっていた。

    「書けない履歴書」という話が入っている。
    自分をアピールする履歴書を書き進めるうちに、項目に書き得ないことが人生を決定してきたと気が付く。
    けれど、目の前の面接官は「分かりました」と言い、あっけなく面接を終えてしまう。
    何も分かってはいないのに。

    その人を分かるということ、分かって欲しいと思うことのテーマは「底知れぬ『無知』」にも登場する。

    身体を通して、言葉を通して、私たちは見えないものとやり取りをしている。
    自分の身体一つで受け止めて、感じて、どこか知らない場所に繋げていく。

    そこは、どんな奥行きを持つ場所なんだろう。

  • 本屋で目に入った時、なんとなく美しい本だと思って手に取りました。
    タイトルは『悲しみの秘義』。
    ぱらぱらとめくると、かつて日本人は、「かなし」を「悲し」だけでなく「愛し」または「美し」とも書いたのだとあります。

    「悲しみを通じてしか開かない扉がある。」「孤独を生きてみなければどうしても知り得ないことがある。」
    悲しみを照らしてくれるというよりは、悲しみに内在する愛しさ、自らのなかには光があることを思い出させてくれる、そんな本でした。

    時には漱石を、時にはリルケを引用しながら綴られるこのエッセイでは、誰しもが詩人であり、読むということの重要性が重ねて述べられています。
    「読むことは、書くことに勝るとも劣らない創造的な営みである。作品を書くのは書き手の役割だが、完成へと近づけるのは読者の役目である。」
    「読むことには、書くこととはまったく異なる意味がある。書かれた言葉はいつも、読まれることによってのみ、この世に生を受けるからだ。比喩ではない。読むことは言葉を生みだすことなのだ。」

    読書によって深い感銘を受けるということは、実はそれだけの創造を自らのなかで成し得ているということなのかもしれません。

  • 人生における大きな悲しみを経験した人物たちの言葉を引用し、作者の視点で語る26章。まだまだ人生経験の浅い私は、この中の全てを理解することはできなかった。でも各章のどこかしらに、自分の経験や価値観にふとリンクする言葉や文章があり、一瞬ピントが合い、はっとするような読書体験ができた。
    読むたびに、そのポイントが少しずつ違ってきそうだ。何度も読み直したい。

    「出会った意味を本当に味わうのは、その人とまみえることができなくなってからなのかもしれない」

    「私たちが日常でしばしば経験しているこれらの現象は、真に人を目覚めさせる契機となるものがすでに、その人の内に宿っていることを示している」

    「重大な発見があるのではないかと強く身構えるとき、その人の中で、ほとんど無意識的に「重大なもの」が設定されてしまう。そして、その想定から外れるものを見過ごす。安易な未来への予測は、想像を超えてやってくる」

  • 「愛する気持ちを胸に宿したとき、私たちが手にしているのは悲しみの種子である。その種には日々、情愛という水が注がれ、ついに美しい花が咲く。悲しみの花は、けっして枯れない。それを潤すのは私たちの心を流れる涙だからだ。生きるとは、自らの心のなかに一輪の悲しみの花を育てることなのかもしれない。 」

    新年早々、人生でベスト10に入る本を見つけた。ずっと秘めていた自分の中にある悲しみについて、ここまではっきりと言語化されたのは初めてで、心がだいぶ楽になった。コトバの力。

  • どこかの書評で気になって、文庫化に伴い入手。どこかで小難しく煙に巻くような内容を危惧していたけど、良い意味で裏切られた。一番気に入ったフレーズは引用したそれなんだけど、正直、どの章にも気付きが満載だった。表題通り、悲しみに対する秘儀開陳ってのが主題で、とてつもない悲しみに見舞われた自身の近況とも響き合い、そういう意味でもかけがえのない読書時間となった。

  • 喜怒哀楽という言葉がありますが、最近思うのは「喜」「怒」「楽」はすべて「哀」から生まれるのではないかということです。人は哀しみを打ち消すために楽しみを求め、埋めるために喜びを見出し、原動力に変えるために怒るのではないかと。

    いま世界中の人々があらゆる悲しみの渦に巻き込まれているなか、この本に出合えたことは個人的にはとても救いでした。ずっと手元に残しておきたい一冊です。

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著者プロフィール

1968年新潟県生まれ。批評家、随筆家。 慶應義塾大学文学部仏文科卒業。2007年「越知保夫とその時代 求道の文学」にて第14回三田文学新人賞評論部門当選、2016年『叡知の詩学 小林秀雄と井筒俊彦』(慶應義塾大学出版会)にて第2回西脇順三郎学術賞受賞、2018年『詩集 見えない涙』(亜紀書房)にて第33回詩歌文学館賞詩部門受賞、『小林秀雄 美しい花』(文藝春秋)にて第16回角川財団学芸賞、2019年に第16回蓮如賞受賞。
近著に、『ひとりだと感じたときあなたは探していた言葉に出会う』(亜紀書房)、『霧の彼方 須賀敦子』(集英社)、『光であることば』(小学館)、『藍色の福音』(講談社)、『読み終わらない本』(KADOKAWA)など。

「2023年 『詩集 ことばのきせき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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