僕が殺した人と僕を殺した人 (文春文庫 ひ 27-2)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167914851

感想・レビュー・書評

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  • 2015年、アメリカを震撼させた連続殺人鬼〈サックマン〉が逮捕された。彼の弁護を担当することになった国際弁護士の〈わたし〉は、30年前、当時13歳で台湾で少年時代を送っていたとき、後に〈サックマン〉となった少年のことを知っていた。
     1984年から1985年、当時中学生だった台湾の三人の少年の物語が回想される。
     彼らの住んでいたのは台湾の廣州街と言う町で、線路によって〈大陸人側〉と〈台湾人側〉に分断されていた。語り手の元少年は、〈大陸人側〉に住んでおり、線路を越えた向こう側へ行くことは大人から禁じられていた。
     兄の死、親の不仲、義父からの虐待など家庭に問題を抱えている三人の少年は、つるんで万引をしたり、ブレイクダンスの練習に明け暮れたり、タバコを吸ったりそんな青春時代を過ごし、絆を固くしていた。
     線路の向こう側へも行った。中一から中二の多感な時代、大人から禁じられている〈線路の向こう側〉へ行くことは、彼らたちにとって、怖いものを見ることであり、大人への橋を渡ることであった。そして同時に自分たちの精神や性の〈向こう側〉を知ることでもあった。
     自分達を取囲む大人のどうしようも無さを知り、また分かりあっていると思っていた自分たち親友同士の理解しあえない部分を知り、彼らは大人になっていく。彼らだけでいるときは楽しかった日々が少しずつ狂い始めていく。
     ある日、三人のうちの一人をどうしようもない家庭環境から救うため、彼らはある計画を立てるが、その時から彼らの時間は止まってしまう。
     この小説は、初めから連続殺人鬼〈サックマン〉が語り手の元少年と30年前、台湾で共に過ごした元少年だといっているので、「犯人は誰?」という謎はなく、「サックマンがどうしてサックマンになったか?」という疑問を持って読み進めるわけであるが、それでも犯人を明かされた時には、背筋を冷たいものが走った。
     〈サックマン〉がアメリカで逮捕された、2015年には三人の元少年たちは、台湾、アメリカで生活していたが1984年に台湾で過ごした時の記憶が再び三人を結びつける。
     大人になり、「あの時彼らにとって本当は一番大事だったもの」を知った元少年。大人になれないまま時間が止まった元少年。サックマンの行為は人々を震撼させるが、元少年たちだけが共有てきる青春の思い出には心温まるものがある。

  • 第34回織田作之助賞
    第3回渡辺淳一賞
    第69回読売文学賞
    三冠達成と、小川洋子さんの「いたましいほどに美しい少年小説の誕生を喜びたい」という帯に魅かれて読みました。

    「1984年の夏休み前後の三カ月がぼくとジェイを結びつけた。アメリカへ渡った両親においてけぼりを食ったぼくは、ジェイのおじいさんのかわりに布袋劇をやり、バスケットシューズを万引きし、ブレイクダンスの練習に夢中になり、ジェイにキスをされ、そのせいで殴り合い、また仲直りをした」

    そして30年後の2015年冬、アメリカを震撼させた連続殺人鬼<サックマン>が逮捕されます。
    彼の弁護を担当することになった国際弁護士の、2015年の「わたし」と1984年の「ぼく」の視点で、物語は交互に語られます。
    「わたし」は30年前に台湾で過ごした少年時代を思い出し、なんとか子供時代の親友を助けようとしますが…。

    この、なんともやんちゃ過ぎるとしかいえない4人の少年たち、ユン、アガン、ジェイ、ダーダーの物語(ミステリー)で最後に泣かされるとは、まさか思いもしない展開でした。

  • 一万円選書サービスで選んでもらった本の中の一冊。
    自分では決して選ばないであろう本。
    正直言って好みのジャンルではない。
    にも関わらず面白かったのだから、作者の力量の素晴らしさに感嘆します。

    本の世界から流れてくるアジア特有の湿気含みの暑さに息が詰まるようで、決して楽しくて気分の良い読書体験ではないです。
    にも関わらず
    やはり、面白かったです。

  • 何か途中で、予想した人物が違ってた。
    名前が、少し分かりにくいのか、勘違い作者のミスリードが効いてるのか、最有力は、物覚えが悪いか…で、登場人物のページと読んでるページ行ったり来たり…^^;
    連続殺人鬼とそれを弁護する弁護士、共に過ごした少年時代を絡めながら、進む。3人の少年時代と現在を交互に語りながら…
    原因は少年時代にあるんやな。確かに、家庭環境は厳しそうな…結構悪さしながらも青春って感じ。
    でも、何か決める時に神頼みみたいなんやめよ!自分らで考えて!関羽さん困ってるよ!
    それもこんな殺人鬼になる原因は関羽さんになるんか?(まぁ、違うけど(^^;;)
    最後は、何か切ないような感じやけど。
    でも犯人あんまり後悔してなさそうで…

  • 2015年、アメリカ。少年ばかりを狙って惨殺する連続殺人鬼<サックマン>が逮捕された。
    彼の弁護を担当することになった国際弁護士の「わたし」は、30年前台湾で過ごしていた少年時代を思い出す。「わたし」は<サックマン>のことを確かに知っていた。


    1984年の台湾と2015年のアメリカを舞台に、家庭的な不幸に振り回される少年たちの姿を描いた青春ミステリ。
    解説が小川洋子さんだったので手に取った初読の作家さんの本だったのですが、とても良かったです。

    1984年の台湾、当時13歳中学1年生だった3人の少年の物語。喧嘩や万引きなどをしつつも、ブレイクダンスの練習に興じ、困ったときには助け合ってきた3人の関係は、それぞれの家庭の問題によって崩れていきます。
    1人は兄の死によって母親が精神を病み、1人は継父から日常的に凄惨な暴行を受け、1人は母が浮気相手と出奔したことにより家庭が崩壊し……。追い詰められた3人が選んだ選択が、結果的に後のアメリカの連続殺人事件へ繋がる事に。
    ほんの13歳という子どもが選んだ選択肢を考えると、少年らしい頑なさと残酷さに眩暈がします。彼らには、周囲の大人に頼れる人間がいなかったと考えるとさらに。

    「誰」が「誰」を殺し、殺されたのか。物語中盤で明らかになるシーンは淡々としていながらもパッと風景が変わるようで印象的です。

    台湾での少年時代とは全く変わってしまった関係ですが、それでも少年時代の思い出は痛々しくきらめいています。死者の思い出に生者が敵わないように、死んでしまった思い出にしか放てない輝きがあるようでした。

    ヘビが物語上重要なアイテムとして登場するので、物語の構成もありウロボロスを連想しました。自らの尾を食むヘビは円環となり、死と再生や永続性の象徴でもあります。物語の終末は冒頭へ還り、痛ましくも楽しかった少年時代へともどっていく……というのをイメージしているのかな、と。考えすぎかもしれませんが。

  • チャプターズ書店のYouTubeで知った一冊。

    2015年冬、アメリカを震撼させた連続殺人鬼”サックマン”が逮捕される。
    彼の担当弁護士は、30年前の台湾でともに少年時代を過ごしていた。

    私はカタカナを覚えるのが苦手で、
    登場人物がを覚えきれない時があるので、
    本書も不安でしたが、今回は大丈夫でした!

    舞台は1984~1985年で、
    ちょうど私が生まれた年だったので、
    そこも含めて、こんな世界だったのかと読み進めました。

    本書のほとんどは、
    台湾で過ごした少年時代が描かれるのですが、
    暑くて湿度が高く、
    緑やアスファルトなど
    不衛生なものも含めて、
    独特なにおいが立ち上って来る。
    今の季節にぴったりでした。
    途中で差し込まれる現在(2015年)は、
    冬の寂れた街で、色もなく、
    吹きすさぶ風と、時折舞い散る雪が対照的で。

    少年時代のユンとアガンとジェイ。
    彼らはそれぞれに家庭に問題を抱えている。
    13歳の彼らだけでは、どうしようもない現実。

    個人的に驚いたのは、
    何かあると解決策として仲間同士で喧嘩して
    殴り合いして、そのあと友達に戻れること。
    すごいなあと。
    喧嘩、窃盗、煙草、
    夜の植物園でブレイクダンスを踊る。

    時代という言葉で片づけたくないけど、
    何もかもが混沌としていて、
    自身のコミュニティでは限られた情報しかなく、
    世界はそこにしかない。
    抜け出す術もないなら、消すしかない。

    終盤に向かい、どこに着地するのか、救いはあるのか、
    何故そんな犯行を犯してしまったのか、
    明らかになっていきます。

    読後は…何度か戻ってページをめくり、読み返しました。
    必至に生き抜いた少年時代から、再会するまで。
    思い返せば思い返すほど言葉もなくただ切なかったです。

    この夏に読めて良かったと思える一冊でした。

  • 初めての東山彰良さん、読みごたえがあった。
    翻訳小説を読んでいるようだなと思ったら、東山さんは台湾出身の作家さんなんだね!なるほど、台湾の描写が詳細でまるで体験しているようだった。

    少し昔の台湾が熱気と生暖かい風と、どこか退廃的な南国の匂いとともにやってくる。
    4人の子供たちが大人の事情というのか身勝手さに否応なく巻き込まれ、心身ともに傷つき、危うい方向に進むことでお互いを支え合う姿が痛ましい。
    少年時代特有の生き生きした感じ、そこに暴力と血と汗が絡み合うので一層残酷だった。

    サックマンが誰かというところは想像と違っていて驚いた!

  • 久しぶりにこの手の本読んだけど、少年小説として傑作の1つとおもう。 著者の直木賞作「流」も良かったけど。1984年の台湾と30年後のデトロイト。ミステリー要素もあって映画にありそうな話。

  • 以下ネタバレ含みます、注意。



    こういう、暴力や猥雑なものに塗れて少年期を過ごしました、という筋書きは、本当は苦手なのだけど。

    親兄弟と離れ、一人いろんな感情を噛み締めながら生きるユンと、彼が描き、愛した虚構のヒーロー・冷星の物語は、とても魅力的だった。
    少年たちの冒険は、いつか終わりを告げるものなんだろうか。
    そして、大人になることは、本当にヒーローを放棄することなんだろうか。

    アガンとジェイという三人組で、破茶滅茶をやってのけたユンの本心は、いつも、どこにあったのだろう。
    連続殺人鬼サックマンの正体が繋がったとき、ふと思ったことだった。

    クライマックス、状況を打開することを半ば諦め、自暴自棄になったジェイを迎えたのは、世界の「優しさ」という一面だった。
    それは、一面でしかない。もっと多くの、どうしようもない面を、私たちは日々見せられている。

    けれど、その一面に、どうしようもなく、仕方なく、笑いたくなるように、救われるものなんだろう。

  • ユン・アガン・ジェイの3人(+ダーダー)の中学時代の話がメインで、所々に現在の話が出てきながら話が進んでいく。

    読み始めは、中国語の漢字の名前の読みが不明やしちょっと読みにくく、なかなか進まず挫折しかけた。
    中盤くらいから面白くなり一気読み。

    サックマンが誰かは予想の通り。
    3人の青春時代、その時に起ったたくさんの出来事。3人の特別な絆を感じた。

    失ったものや後悔や、取り返しのつかない事もたくさんあり、3人の関係に憧れは抱かないが、でもなんとなくその絆が羨ましく思う部分もある。

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著者プロフィール

東山彰良(ひがしやあきら)
1968 年台湾生まれ。福岡在住。
2002 年に第 1 回「このミステリーがすごい!」大賞の銀賞・読者賞を受賞し、翌年『逃亡作法 TURD ON THE RUN』でデビュー。
『路傍』で第11 回大藪春彦賞、『流』で第 153 回直木三十五賞、『罪の終わり』で第 11 回中央公論文芸賞、『僕が殺した人と僕を殺した人』で第 34 回織田作之助賞、第 69 回読売文学賞、第 3 回渡辺淳一文学賞を受賞。
そのほか『怪物』『わたしはわたしで』『邪行のビビウ』など著書多数。
猫とお酒をこよなく愛し、ラジオ番組のパーソナリティーも務める。
絵本の翻訳は本作が初めてとなる。

「2024年 『まぼろしの雲豹(ウンピョウ)をさがして』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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