ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2020年9月2日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784167915667

作品紹介・あらすじ

世界的な物語作家と聖路加の気鋭の漢方医が打ち合う、生命を巡る白熱のラリー!
『精霊の守り人』から医学の未来まで、知的好奇心を刺戟する圧倒的な面白さ!

なんのために生まれ、なんのために生き、なんのために死ぬのか。
人は、答えが出ないとわかっている問いを、果てしなく問い続けるような脳を与えられて、生まれてきたのでしょうか。--上橋菜穂子

なんのための生なのか、という問いは、いささか弱音のようにも聞こえるのですが、この弱音こそが、優れた物語の書き手である上橋さんの「創作の源泉」であるように私には見えてくるのです。--津田篤太郎

最愛の母の肺がん判明をきっかけに出会った作家と医者。
二人の話は、身体のシステム、性(セックス)、科学・非科学、自然災害、宗教、音楽、絵画、AI、直感……、漫画から古典、最新の論文にいたるまで縦横無尽に広がっていき、物語の創作の源泉もひもとかれていく。かつてないほど刺激的な思考体験ができる究極の一冊。

コロナ禍にみまわれた2020年、文庫化にあたって、新章「未曽有の難局にどう向き合うか」(津田篤太郎)、「地球に宿る」(上橋菜穂子)を追加。

【著者略歴】
上橋菜穂子
1962年東京生まれ。立教大学文学部卒業。文学博士。川村学園女子大学特任教授。89年『精霊の木』で作家デビュー。著書に『精霊の守り人』をはじめとする「守り人」シリーズ、『狐笛のかなた』『獣の奏者』『鹿の王』など。野間児童文芸賞、路傍の石文学賞、本屋大賞、日本医療小説大賞など数多くの賞に輝き、2014年には児童文学のノーベル賞といわれる国際アンデルセン賞作家賞を受賞する。

津田篤太郎
1976年京都生まれ。京都大学医学部卒業。医学博士。聖路加国際病院リウマチ膠原病センター副医長、日本医科大学付属病院東洋医学科非常勤講師、北里大学東洋医学総合研究所客員研究員。西洋医学と東洋医学の両方を取り入れた診療を実践している。著書に『未来の漢方』(共著)、『病名がつかない「からだの不調」とどうつき合うか』『漢方水先案内』がある。

みんなの感想まとめ

生と死についての深い思索が織り交ぜられたこの作品は、作家と医師の対話を通じて、生命の本質を探求する刺激的な内容が展開されます。上橋さんは、母の末期癌をきっかけに生きる意味を問い直し、津田医師はその知識...

感想・レビュー・書評

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  • 2015年1月、上橋菜穂子さんの母親の肺ガン罹病がわかります。その後の数ヶ月間は、娘はありとあらゆる手立てを尽くしてかけがえなのない生命を救おうとしますが、80代の身体とは思えないほど進行は速く、半年ほどして彼女は絶望の縁に立ちます。その時に出会った漢方医学の津田医師との、お互い看護と治療をしながら、母親の最期を看取りながらの往復書簡の内容です。

    テーマは必然「生と死を巡る対話」となりますが、お互いの教養の広さと深さを知った上での対話は、人類学から生物学を踏まえた哲学的思考、或いは古典音楽からAIの話題まで縦横に語られます。

    わたしも、父親の死を看取ることで、その時は少したいへんでしたがそれ以上に多くのことを学び、今でもハッと気がつくことがあって、あの時間を感謝しています(それと同等ぐらいの後悔と共に)。上橋菜穂子さんは、人類史規模、地球規模で学びます。わたしは、そこから少しでも学びたいと思います。

    挿絵は全て上橋菜穂子さんが描いたという。鉛筆画ですが、玄人はだしです。「明日は、いずこの空の下」の表紙絵は父親が描いたものでしたが、この両親ありてこの娘あり、ですね。

    以下覚書用のマイメモ。分かりやすく書くと膨大な量になるので、もう本当に自分だけにわかるように省略しています。

    ・何のために生まれ、何のために生き、何のために死ぬのか。(20p)

    ・性(セックス)は、絶滅回避システム。親と異なる遺伝子DNAを生み出す。
    ・人間は、性システムに一定の制限を設け、種レベルの多様性ではなく、個体レベルの多様性を達成。(33p)

    ・宗教を、私は信じません。神仏を思い、拝む気持ちはある。自分には見えない認識できないものはあるかもしれず、ないとは思えないから。「信じる」は、わからぬまま、静かに目を瞑って「想定の箱」の蓋を閉じ、安寧に至る行為。(51p)
    ←宗教者から反論はあるかもしれません。わたしはどちらかというと、上橋菜穂子さんの気持ちと同じ。ただし、「信じない方に賭ける」といった方が正確。

    ・「私は遺伝子を残すために生きているんですね、素晴らしい!」と思って納得出来る人はどのくらいいるのでしょう。
    ・人を産む能力が備わっていることを示す月経が、何故か世界各地で「穢れ」として扱われているのは何故か?(←cf.映画「パットマン5億人の女性を救った男」或いは我が郷土でも昭和始めまで月経小屋があった)ジェンダー論やフェニミズム的な見方だけでは説明できない。お産は、魂を永遠から有限の世界に引き出す、死への歩みを始めさせる行為、だと気がついていたから?死は、生まれてくる前にいた所(ほの暗い永久)に帰ってゆくこと。そう心から信じられたら、どれぐらい救われるだろう。(77p)

    ・「進化」は「最適解を選んだ」というわけではない。霊長類の経腟分娩は、頭部が大きくて危険を伴う。帝王切開が進んだたった100年で、頭の大きい胎児や骨盤の小さい女性が増えた。これは経腟分娩が進化の最適解ではなく無理を重ねた「苦渋の選択」であったことを裏書きする。
    ←この一つとっても、障害者を「排除」しようとする主張は、人類の多様性を担保した叡智に逆行する考え方だとわたしは思う。もちろん、このことだけが障害者存在の理由ではない。
    ・今や人類は「性」システムそのものを忌避する方向に動いている。(103p)
    ・「性」システムは、個々の人間に「成長」を、生物種には「進化」を与える力を持ち、一方で個体を滅ぼすほどの侵襲性がある。そこまでして「成長」「進化」に意味があるのか、という疑問もあり得る。

    ・何故生物は「性」システムを持つのか。それは、短い寿命と引き換えに素早く進化する細菌やウィルス、寄生虫に対抗するため。

    ・ウィルスの漢方最古文献は張仲景の「傷寒論」(紀元3)。「風」を軽症例、「寒」を重症例とする。ウィルスを何故「風」と表現したか。「易経」の「風」を説明する部分は、そのままウィルスの説明になっていたから。

    ・今年は1940年の「五輪挫折」からちょうど80年。歴史は80年周期で変動を繰り返すという説がある。1980年代のバブルまでが上がり坂、そのあとは衰退へ。だとすると、あと「数年のうち」に「どん底」を迎えることになる。(208p)2020年5月末日、津田記す。

    ・地球をひとつの身体としてみれば、私たち人類は、ウィルスと、とても良く似た存在。宿主に頼らなければ存在できないのに、なぜか宿主を害してしまうところなど。人類もまた、ウィルスに似て強かな生物。
    ・私たちは皆、ほの暗い永久から出でて、地球という宿主の中で、多くの他者と共に、辛苦と幸せを味わいながら生きている。(222p)令和2年6月、上橋記す。

  • 文化人類学の研究者としての顔があり物語の中では壮大な生と死を描く上橋さん。お母様の末期癌に直面され更に人の生き死にについて思考を深めていく過程がとても貴重なものに思えました。

    津田医師の広範な知識。それに呼応する上橋さん。難しい部分もあったけど心に触れる内容。

  • 私も上橋さんとほぼ同時期に母を亡くしましたので、その部分では一年半も看病できた事が羨ましい。私の母は原因不明で入院し、直後、意識不明。一か月も面倒を見てあげる事ができませんでしたので。

    それもまた生命力というものですし、色々と思う事が多い読書でした。

  • 上橋さんと医師の津田さんの往復書簡。
    生物のメカニズム、生と死の考えが綴られていて、なかなか面白かった。
    "想定できる範囲を超えたものは他の生物には見えていても、当事者には見えない"とか、"人間には寿命があり、AIには無いが故に、それぞれに出来る事の違い"とか。
    宇宙とか永遠とか、スケールが大きい話が続いてたからこそ、たとえそれが種の生存にはさして意味がないとしても、一瞬一瞬の感情を大事に生きていきたいなと思った。
    それを表しているのが上橋さんの作品なんだな。

  • 単行本で読んで良かったので再読。
    一番初めに上橋さんが、
    「生物は命をつなぐために生きているから、生まれてきたことの意味を問うても仕方ない」
    というようなことを言っておられ、
    私もずっとそう思って生きてきたから共感したんだけど、その続きに、
    「でも、人はどうしてそのような問いを生む脳を持って生まれたのか、そこになんらかの意味があるように思えて仕方ない」
    というような文章が続いていて、
    そんなふうには考えたことがなく、
    目から鱗が落ちる思いがした。
    しかも単行本を読んだのに忘れてたんだけど、
    最後に津田さんがこの問いに答えていて驚いた。
    深すぎる…

  • 「精霊の守り人」「鹿の王」の著者で文化人類学者の上橋菜穂子さんと、西洋医学と東洋医学の両方を取り入れた診療を実践する津田篤太郎医師による往復書簡。

    上橋さんは、母親のがん治療の中で漢方医療を知り、津田医師に出会う。最愛の母を看取り、老いていく自身の身体と向き合う中で湧きおこる生と死に対する問いを、抒情的な文章で投げかける上橋さんに対し、津田医師は、様々な知識や経験に基づき、この難しい問いに対する自分なりの考えを実直な文章で述べている。
    上橋さんの書簡は、彼女の描く物語の源泉を見るようで興味深い。地球上の一生命として生まれ、次世代に遺伝子を伝えて死んでいく。このシステムの中にありながら、人が生きる意味を考えてしまうのはなぜなのか。文明が進み、死を恐れる人間の究極の幸せの形は、AIに代表される予測誤差の少ない「ほの暗い永久」の世界なのか。これらの問いは、上橋さんの描く「守り人」シリーズや「鹿の王」の中で、主人公たちに与えられる問いでもある。

    AIと人間で決定的に異なるのは、有限であるがために生まれる「物語」の有無ではないか、と津田医師は述べている。何のために生きるのか、常に問い続けながら有限の生を生きる人間たちを描いた上橋さんの物語は、どれも忘れがたく、味わい深い。

  • 図図書館で予約した時も受け取った時も気付かず、、読み始めてしばらくして、前に読んだことがあると気付いた。しかし!再読しても面白いですね。前回読んだのは数年前だと思うが、身近な人の死を経験してから読んだからでしょうか。

  • 単行本で買われた方も、巻末のコロナ禍について語られた追加書簡が魅力的ですよー(笑)

    生と性と死、そしてAIと物語。
    将棋の佐藤天彦先生とAIの試合の話の中で、敗着のない、なぜ負けたか分からない結末について触れられていた。そこに、人間の手が本来持っている不連続性、物語を見いだしていた。

    同じ言葉を藤井聡太先生の将棋でも聞いたことがあるなあと思った。
    なぜ負けたか分からない。
    いつの間にかそうなっていた。
    けれど、彼は「盤上の物語」について述べたのだった。

    真理は秩序か。
    私には結論づけられないのだけど、そこに整然とした美しさがあるとして。
    そうではない、足掻くような、傷付くような、そんな乱数的な生き方をする人間にもまた、美しさがあるのではないかと思う。

    寿命や性差という、ややこしく不安定にさせる要素を抱えることで、人間はアップデートされながら今日に至る。
    それは個を取り上げてみると、決して整然とした道ではなかっただろうけれど。

    でも、だからこそ、私というたった一人が起死回生の切り札になることだってある。
    と思うと、なんだか楽しくなってこないか。

  • 命についての根源的ともいえる問いに対する、お二方の思案の痕跡を辿る。書簡形式なので、移り変わる季節を描写する文章から、まさしく生きている"いま"を実感しつつ。

    「人はなんのために生き、なんのために死んでいくのか」

    お二人の言葉から、「死」の懐の深さを感じた。死から生まれ出るものも、確かにあるのだろう。

  • 副題に「生と死をめぐる対話」とあるが、対談ではなく往復書簡という形式になっている。テーマは重いが、エッセイとして読むこともできる。
    上橋氏が他界されたお母様を心から愛しておられることが文章、行間から伝わってきた。
    無論悲しい話なのだが「これほど親を愛せるのか」という点では羨ましいとさえ思った。

  • 蓑虫の雌の生態は、悲劇なのだろうか・・・。女性である上橋さんはふと考える。昆虫が4億年かけて選択したかたちが、あの生態なのだと考えたら?上橋さんにそう語りかける津田先生は優しい。
    患者の看取りを重ねてきた津田先生と、向こう側とこちら側を考える上橋さん。なぜ人は死を恐れ、受け入れ難いのか。
    答えのない会話を、往復書簡という形で応酬する。
    それは対談よりも、もう少し考える時間がある。そして、相手の文章を何度も読み返して返事をかける。
    それでも話が噛み合わなかったり、お互いの興味に流れたりして一貫性がないことも多かった。
    それでも、ここには考える種が多く残っている。ラインをつけて、後からもう一度読んでみる。

  • 『守り人』シリーズや『鹿の王』の作者として知られる上橋菜穂子さんと、聖路加国際病院の医師である津田篤太郎さんとの往復書簡。上橋菜穂子ファンとしては、物語の背景となる作者の思想を知ることができる貴重な本です。

    タイトルに「生と死を巡る対話」とあるように、人間の生と死や身体について、文学、医学はもちろん、生物学、文化人類学、社会学といった多様な視点から、二人が自由に語っています。織りなされる二人の対話の中から、ふと心に残る文章やフレーズが出てきて、自分の死生観が改めて問い直されるのを感じました。

    特に、「人の心は生きたいと願う一方で、身体は時が来れば崩壊するよう促してくる。生まれた瞬間から、私たちは矛盾を生きるように定められている」という上橋さんの洞察は、とても正しく、とても恐ろしかったです。でも、その矛盾を強く心に抱いているからこそ、数々の素晴らしい物語を紡ぎ出すことができるのだとも感じました。

  • 人の生死やAI、最後はコロナパンデミックに至るまで、作家と漢方のお医者さんが交互に思いを綴っている。
    知性豊かな2人のやり取りに、ついていけているとは言えない状態ながら、お母さんを亡くされた上橋氏の思いに共感したり、自分の思いを巡らせたりと、充実した読書時間だった。

  • 新聞を読み、テレビを見、内容によって気持ちが動くことがある。ふと湧いた想いを捕まえることなく流してきた私にはその想いを言葉にすることはとても難しい。こうやって言葉にできる人たちがいることが嬉しい。

    一つずつ頷きながら読み、辞書を引きながらゆっくりと読み返し、お二人と共にいる世界を感じた幸せな時でした。

  • 作家)上橋菜穂子×漢方医)津田篤太郎による往復書簡。

    人はなぜ生きるのか、進化のためならそのゴールはどこ?という根本的な問いに個の体験やアボリジニ社会の習慣まで交えてアプローチしたりと非常に面白かった。
    特にミノガの一生の話がインパクト大!
    種の保存のためにここまで個を殺せるのかと遺伝子の設計が恐ろしくなった。

    本題とは関係ないが、時候の挨拶って形骸化されていてで無駄なものだと思っていたけど、お二方の文章は瑞々しくそれ自体に詩のような趣があって日本語の美しさを堪能しました。

  • 164ページの「私は身体が喚起してくる感情をコントロールできないのだ」と言う言葉が深く印象に残りました。自然に、生物学的なレベルで生じる反応は本当に生々しくて扱いづらいけれど、それを含めて自分だと、コントロールしようとしすぎずに受け入れていくことは大切だなあ、と感じ入りました。

  • お二人の言葉の選び方が美しく、とても気持ち良く読み進められました。時節の挨拶ひとつにしても、なんて鮮やかな表現なんだろうと感動の連続。
    生と死という、一番身近でありながらどこか考えることを避けてしまうことについて、様々なお話を交えながら対話されています。興味深い話がたくさん出てきて、一気に読み進めてしまいました。

  • 守り人シリーズの作者の飾らない語り口と 医師として向き合う津田氏の誠実さが、伝わる往復書簡

    もう一度 読み返して考えたい

  • 往復書簡だが,一部が重なり多くが重ならないテーマで話が進行していく.一方は物語を通した人間の生のありようを,もう一方は医学の立場から現状の世界における人間の生のありようを,それぞれ紡いでいく.交わる訳ではなく,二重螺旋を描くかのように言葉が流れていく.

  • 往復書簡という形で、お二人それぞれの想いや考えを綴っていくことで、お話がどんどん広がっていく。進化の先に目的はなく、最終的には滅びに向かっているといった内容の部分は、最近個人的に考えていたことに関連して興味深かった。種の存続を一生懸命繋いでいっても、どうせ滅んでしまう。それなら、個体としての生をどう生きたらいいのかと考えさせられた。読みやすくてすいすい読めてしまうけれど、じっくり読まないとちゃんと理解することができていない気がする。含蓄のある言葉が多いので、ひとつひとつを素通りせずにきちんと消化したい。図書館で借りて読んだけれど、買い直してときどき読み返したい。

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著者プロフィール

作家、川村学園女子大学特任教授。1989年『精霊の木』でデビュー。著書に野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞した『精霊の守り人』をはじめとする「守り人」シリーズ、野間児童文芸賞を受賞した『狐笛のかなた』、「獣の奏者」シリーズなどがある。海外での評価も高く、2009年に英語版『精霊の守り人』で米国バチェルダー賞を受賞。14年には「小さなノーベル賞」ともいわれる国際アンデルセン賞〈作家賞〉を受賞。2015年『鹿の王』で本屋大賞、第四回日本医療小説大賞を受賞。

「2020年 『鹿の王 4』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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