U (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2020年11月10日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (464ページ) / ISBN・EAN: 9784167915919

作品紹介・あらすじ

第一次世界大戦中の独軍と一七世紀初頭のオスマン帝国。戦争に翻弄される三人の少年、ヤーノシュ、シュテファン、ミハイは、時空を超えて巡り合います。オスマン朝の風俗やUボート艦内の緊迫した雰囲気など、「幻想小説の女王」の目眩く世界をご堪能ください。

AIがまとめたこの本の要点

プレミアム

みんなの感想まとめ

戦争と歴史の中で翻弄される少年たちの物語が描かれています。第一次世界大戦のドイツ軍と17世紀のオスマン帝国という二つの時代が交錯し、捕虜救出のためにUボートに乗り込む図書館司書の視点を通じて、彼らの切...

感想・レビュー・書評

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  • 「U」と書いて「ウー」と読ませるが、萩尾望都「ポーの一族」からの遠いこだまとも見做せる。

    1915年「U-Boot」(ウーボート)の章は、三人称。視点が寄り添う人物は、ティルピッツと、ミヒャエル。
    1613年「Untergrund」(ウンターグルンド)の章は、初めは三人称と見せておいて、すぐに手記という形式……一人称が潜んでいると判明する。
    また、手記は実は二人の合作であること、二つの時代の関係、書き手の熱意の不均衡、が比較的序盤で仄見えてくるが、この不均衡が中盤終盤でさらに揺らぐ。
    この「語りの形式」そのものがドラマチックだから、やはり皆川博子は信用できる。
    ある瞬間には「同じ獣の半身になった」と思える相手が、いったん離れるや全然別の生を……という諦念と切望と。

    歴史の暴流の中で、動かず書く者と、動く者と。
    現在時点と、過去と、大過去と。
    歴史は歴史書の中ではちっともドラマチックではないが、その記述にドラマを幻視する作家がいる。
    そしてこの作家が偶然、書き残すという人の欲望に自覚的で、現在時点、誰がどういう想いで書いているのかを曖昧にしたくない、という人なのだ。
    いつどこでだれが何のために書いているのか、を明らかにしている手記は、信用できる。
    信頼できない語り手であるにしても、作家のまなざしとして、信用できる。

    300年をつなぐのに、岩塩鉱を置く。
    「塩漬けの首級」という印象的な画や、「塩の内側に潜る」(地底、海底)→搾取された生と死が充満する棺、という、時代をゆうに超えた舞台を用意するのだから、信用できる。
    というか、遠くへ、遠くへと連れて行ってくれる作者のその手腕に、ずっとこの身を任せていたい。
    こんな壮大さの中に、抒情や耽美や切なさがばしばし籠められているのだから、美味しくないわけがない。

    萩尾望都だけでない、SFにはまた「長命人」と「人」のギャップによる抒情があったはず。
    歴史浪漫かつSFとしての皆川博子……次はこの路線で読み返してみたい。

    大満足の溜め息。

    本書とは全然関係ないが、つい先日「宮崎駿の雑想ノート」でQシップのことを知ったので、いろいろ関連するものだなあ、と。

  • 初見の作家を装丁買い。一切悔いなし。

    以前に短編集『影を買う店』をちらっと読んだときに、幻想小説かぁ…ちょっと違うかもなぁ…って思ってたけど、いや全然そんなことない
    同じように短編読んで離れそうになった人はぜひ長編の皆川博子をこそ読んでほしい

    ドイツの潜水艦Uボートと、underground(地下)の2つのUを巡って、少年たちが「時代」や「歴史」や「戦争」…どうしようもない世界の何かに翻弄され、時を超えなお生き続けてゆくお話

    彼らの身のうちに湧き、淀み、沈んでは迸る感情は強烈で、しかも彼らはそれを互いに(一部は一方通行に)何世紀もの間行き来させるのだけれど、その姿を描き切ってしまう丹念なほどの執念深さ。背すじ凍る

    それを経てエピローグまで読んだときの虚脱感にも似たあの感情。
    たぶん他ではそうそう味わえない、初読1回きりのそれなので、ぜひネタバレ無しのまま読み切ってほしい

  • 第一次大戦下のドイツ。敵方の捕虜になった男の身元を確認するため、ひとりの図書館職員が潜水艇Uボートに乗せられた。彼と捕虜の男は数奇な運命に翻弄され、長い長い時を共にした〈半身〉だった。17世紀のオスマン帝国と20世紀ドイツ、両国の興亡を二重写しにして語られる長命者たちの物語。


    読み終えた瞬間の感想をまとめると「何百年と生き続けても好きな人に好きだと伝えられなかった男の話」。シュテファンがそういう男だったとヤーノシュは断じるが、そのヤーノシュも内なる思いを秘めたまま何世紀もの時をやり過ごす。それでも好きな人と死ねてよかったね、と思っているところに非情なエピローグがやってくる。波音と深海の闇だけが残るラストは、皆川先生らしいさすがの斬れ味。
    連綿と子をなすミハイの系譜に対し、レイプに対する自省から生殖を忌避するシュテファンと機能自体を強制的に奪われてしまったヤーノシュがいる。吸血鬼ものと異なり、この物語における長命者が性的能力を持たないという描写はないが、二人は性本能を嫌悪する気持ちによって結びつき、また遠ざかってゆく。
    巻末の往復書簡で皆川先生はエドワード・ラザフォード『ロンドン』を挙げ、〈定点観測〉が初めのテーマだったと言っているが、もしかして最初は語り手をシュテファンに固定するつもりだったのではないだろうか。オスマン帝国では後宮に、ドイツでは図書館にこもるヤーノシュより、外の世界で暮らし、時代の移り変わりを見てきたシュテファン視点のほうが長命者の設定を生かした語りになったはずだ。ヤーノシュは彼自身が変わることのない〈活字の本〉だ。しかし、だからこそ彼には書かねばならない理由があったとも言える。ヤーノシュは〈本〉であり生殖能力を断たれた〈黄金の細い管〉であり、肉体を腐蝕から守る〈塩〉でもある。
    正直、私には最後まで乗り切れないところもある作品で、オスマン帝国とUボート作戦との繋がりに特別な必然性は見出せなかった。ただ、何百年と死に場所を探してきた男たちが〈塩〉にもらった命を塩水=海に返すという終わりぎわの展開が美しく、またこの物語のあとにドイツがおこなう大量殺戮を予感させるラスト一文の余韻はさすがとしか言いようがない。
    皆川先生は何度もドイツを舞台に戦争を描いてきたが、ここまで深い無力感を湛えた主人公に第一次大戦を代表させたことは、作品年表のなかでも重い意味を持つのではないだろうか。

  • 祝文庫化!

    皆川博子と作家三人の往復書簡 『U』(皆川 博子) | インタビューほか - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/articles/-/5875

    【書評】書評家・石井千湖が読む『U(ウー)』皆川博子著 オスマン帝国の美少年兵とUボートの乗組員 時空超えた衝撃の物語 - 産経ニュース
    https://www.sankei.com/life/news/180107/lif1801070027-n1.html

    孤高の作家の知られざる幻想ミステリを集成 皆川博子さん「夜のアポロン」インタビュー|好書好日
    https://book.asahi.com/article/12475802

    文春文庫『U』皆川博子 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167915919

    『U』皆川博子 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163907598

  • 心を掻き乱される長編だった。戦争に巻き込まれてすべてを奪われた、取り返しのつかない沢山の人生に思いを馳せる。
    第一次世界大戦時のドイツと、十七世紀のオスマン帝国。このふたつが思わぬところで繋がったときの興奮!
    特にオスマン帝国時代のパートは読み応えがあった。宮殿の中の様子が目に浮かんでくるようだったし、奴隷たちの人間関係や権力者の言動もすぐ目の前で見ているような臨場感があった。それだけに、何も知らぬ少年たちが人間扱いされていない描写は、不憫で胸が痛んだ。
    二人の手記を読むという形での読書も楽しめた。この手記は主にヤーノシュの中の矛盾と、さまざまなものを消化するためにあるのだろう。宗教を変えられ、名前を変えられ、意に沿わぬことをして、自分は何者であるかという思いがあるのではないだろうか。あやふやになった自分という存在を保つためには書くことが必要だと理解できる。
    エピローグは、少女の話からも1945年以降の場面だと思うけれど、約30年間の間に何があったのかと混乱した。彼の口からはもう語られることのない物語がたしかにそこにあるはずで、読後も尾を引く。

  • 第一次大戦中、イギリスに軍に拿捕されたUボートを他のUボートが救出に向かったが失敗した…このエピソードと、オスマン帝国を繋げる世界観に圧倒されました。
    デウシルメ、薄っすらとしか覚えてなかったですが、そうかそれで「これは私の戦争じゃない」。3人組でひとりだけ王宮に送り込まれたヤーノシュが、力を持てばシュテファンとミハイを護れるとメキメキと頭角表すのが哀しいです。
    塩鉱…そんなことって。。同じ境遇になったヤーノシュとシュテファンだけれど、ふたりの生き方は決定的に分かたれたまま何百年も、というのも哀しかったです。ひとりは図書館に閉じこもり、もうひとりは外界に出て他人の戸籍を買いながら愛する人の子孫を護り続ける。
    最期にうっ…となっていたけれど、皆川さんからはその後も容赦ないものをぶつけてこられるので心が散り散りになって終わりました。435頁の末文から436頁いっぱいまで冷静にドイツのその後が描かれます。描写が簡潔な分、かえって悲惨さが立ち昇ってくるようでした。
    過不足ない…とつくづく毎回思います。皆川博子さんの頭の中どうなっているんだろう。往復書簡、お三方とも好きな作家さんだったので楽しく読みました。皆さん、皆川さんファンだけど作家さんの視点もちゃんと持たれてて。『アンダーグラウンド』も、フリオ・リャマサーレス「黄色い雨」も面白かった…「u」より前にどちらも接していたのでなんとなく嬉しい。皆川さんは本も読まれるし映画も観られるしでパワフルだなぁ…90歳超えでミステリもバリバリお書きになる。無理しないでいただきたいけど作品は読みたいので健康でいてほしいです。。

  • 第一次大戦中、イギリスに拿捕されたドイツのUボートU13を沈めるためにドイツ側の捕虜が収容所を脱出し極秘作戦を遂行する。
    捕虜を救出に向かうU19にその捕虜を知る図書館司書が本人確認のために乗ることに。司書が乗艦前に海軍大臣に託した手稿には捕虜と司書の長きにわたる体験が綴られ…。
    20世紀と17世紀のオスマントルコ、二つの時代が現在進行形と過去を手稿を綴る形で語られて進みます。
    強制徴募でトルコに連れてこられた二人の少年の関係が少しずつずれ、宦官にさせられた語り手ヤーノシュが想うほどには愛する女性を知ってしまったシュテファンはヤーノシュを求めていない様子が切なかったです。
    愛した女性と自分が弟のようにかわいがったミハイの子孫を近くで見守るシュテファンと世界から一歩引いて王立図書館でひっそりと時を過ごすヤーノシュ。
    動と静、積極と消極、男性と男性であったひと。同じ長い時を過ごせどあまりにも違い過ぎてシュテファンを『私の半身』と言い切ったヤーノシュの心情、諦念を思うと何とも息苦しくなりました。

  • 300年の時を越え、空間も超えて紡がれる二人の物語。オスマントルコ、第一次世界大戦これらをつないでいる数々の史実とそれに関わる二人。二つの物語を書いて、ぐるぐるっと混ぜて、一つにつないだ感じがして、なんとなくすわりが悪い感じがした。最終章もなんとなくとってつけた感があって、物語と今一つ有機的につながっている感じを受けなかった。読みが浅いかしら。。。

  • 塩によって生かされて、最後は海水の中に沈む。潜水艇がふたりの棺となる。好き。

    ヤーノシュがオスマンの皇帝を守り支えたなら、彼は何かをなしとげられたのか。そういう展開にならないのがいいところなんですが…ヤーノシュの自己評価ちょっと低すぎるのでは…

    「双頭のバビロン」のふたりほどの絆が感じられなかったのも、ヤーノシュの自己評価のせいか。シュテファンはあんまり深く考えていなさそうな…
    シュテファンがどう思っていたのか、途中から記述がなくなるから分からないけれど。

    彼らの軌跡が文字として残ったのかは定かではないけれど、ミヒャエルたちの中に何かしらが受け継がれているのだろうなあ。

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著者プロフィール

皆川 博子(みながわ・ひろこ):1930年旧朝鮮京城生まれ。72年『海と十字架』でデビュー。73年「アルカディアの夏」で小説現代新人賞受賞。86年『恋紅』で直木賞、90年『薔薇忌』で柴田錬三郎賞、98年『死の泉』で吉川英治文学賞、ほか多数の文学賞を受賞。著書に『聖餐城』『海賊女王』『風配図 WIND ROSE』『天涯図書館』など。

「2024年 『大江戸綺譚 時代小説傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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