昨日がなければ明日もない (文春文庫 み 17-15)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 164
  • Amazon.co.jp ・本 (465ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167916855

作品紹介・あらすじ

「宮部みゆき流ハードボイルド」杉村三郎シリーズ第5弾。
中篇3本からなる本書のテーマは、「杉村vs.〝ちょっと困った〟女たち」。
自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、自己中なシングルマザーを相手に、杉村が奮闘します。

【 収録作品】
「絶対零度」……杉村探偵事務所の10人目の依頼人は、50代半ばの品のいいご婦人だった。一昨年結婚した27歳の娘・優美が、自殺未遂をして入院ししてしまい、1ヵ月以上も面会ができまいままで、メールも繋がらないのだという。杉村は、陰惨な事件が起きていたことを突き止めるが……。

「華燭」……杉村は近所に住む小崎さんから、姪の結婚式に出席してほしいと頼まれる。小崎さんは妹(姪の母親)と絶縁していて欠席するため、中学2年生の娘・加奈に付き添ってほしいというわけだ。会場で杉村は、思わぬ事態に遭遇する……。

「昨日がなければ明日もない」……事務所兼自宅の大家である竹中家の関係で、29歳の朽田美姫からの相談を受けることになった。「子供の命がかかっている」問題だという。美姫は16歳で最初の子(女の子)を産み、別の男性との間に6歳の男の子がいて、しかも今は、別の〝彼〟と一緒に暮らしているという奔放な女性であった……。

感想・レビュー・書評

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  • 私立探偵杉村三郎シリーズ第五弾。『絶対零度』『華燭』、表題作『昨日がなければ明日もない』の中編三作を収める。
    文庫裏の紹介文には「探偵VSちょっと困った女たちの事件簿」とあるが、「ちょっと困った」どころではない陰鬱な内容に、読んだ後しばらく呆然としてしまった。

    『絶対零度』は、宮部みゆきさんの代表作の一つ『模倣犯』を彷彿とさせる内容。結婚二年目の娘が自殺未遂を起こし入院したが、娘の夫が娘にどうしても会わせてくれない、という母親からの訴えを受け、杉村が真相解明に乗り出す。過干渉ないわゆる「毒親」の話かと思いきや、救いのないラストに、立ち上がれないほどの衝撃を受けた。

    『昨日がなければ明日もない』は、大人になり切れない母親とその娘に、関係者や親族が振り回される。一見前向きに感じられるタイトルの深い意味に打ちのめされる。

    『華燭』は、二つの中編に挟み込まれたやや短いストーリー。姉妹である母親同士の確執により、中学生の女の子の付添として従姉の披露宴に代理出席することになった杉村が、トラブルに巻き込まれる。ハッピーエンドではないが、三作の中では唯一救いのある話。

    杉村三郎シリーズは、日常生活の中で抗いようのない毒におかされ、道を踏み外してしまうごくごく普通の人たちが描かれる。自分にいつ起こってもおかしくないと思えるだけに、読んでいてやるせない気持ちになる。
    杉村は、ひょんな成り行きからサラリーマンをやめ、私立探偵になった人間で、私たちに代わって怒りを覚えたり、心を痛めたりする。杉村のなにげない日常や常識的な感覚が、事件にリアリティを持たせつつ、凄惨な事件の中で、かすかな道しるべのようにわずか先を照らしてくれるような気がする。

    これからも追い続けていきたいシリーズ。小泉孝太郎さん主演のドラマも次回作を心待ちにしている。

  • 根からの悪人はやはり環境がそうしていくのでしょうか。その近くで翻弄されていく常識ある人々が、辛い状況になるのは悲しいです。私立探偵の杉村さんの人柄や取り巻く温かい人々に救われます。

  • 絶対零度がなんともやるせなくなった。
    杉村三郎はこれで食っていけるのだろうか?

  • 【杉村三郎シリーズ5】
    『絶対零度』『華燭』と表題の中篇3話収録。

    探偵事務所を構えた杉村三郎の元にくる相談依頼者たち。三郎は、心の裏に潜む綻びを見抜いていく。
    深入りし、依頼内容+アルファを引っ張り出してしまうのだ。

    3話とも毒々しい。『絶対零度』は特にキツかった。。。

    人間力、信頼度がどんどん増していく三郎、頑張れ! 私も何かあったら三郎の事務所を訪ねたい。着手金5,000円だし(^^)

  • 一度読んでみて、第1話、第3話の読後感がひどく悪くて、第2話を忘れてしまいそうでしたが、もう一度読んでみて、やはり読後感はモヤモヤため息が出るものの、どれもぐいぐい引き込まれて、とても面白かったです。昨日の朝ドラで「お前の頭の中お花畑か」というセリフがありましたが、この年になるとそういう物語が楽なのですが、宮部みゆきさんには一切無いような…なかなか読んでいくのに疲れる時があります。杉村さんの人の良さと個性豊かで魅力的な周りの人たちに救われているような気がします。それにしても、第5弾の登場人物は色んな意味でかなりぶっ飛んでましたねぇ〜第1話の高根沢輝征が殺されたことにはほんとにスッとしました。後で、若い時の事件も出てきて、またモヤモヤしましたが…。
    第1話も第3話も結局何の罪もない人が殺人に手を染めて、一生背負っていかなければならない、というのはほんとにやるせない気持ちになりました。宮部みゆきさんは、この先の杉村三郎シリーズでの構想がいろいろお有りのようなので、次はモヤモヤのないものを期待しながら、楽しみに待ちたいと思います。
    とりあえず、頭の中がお花畑になるような、ハッピーな本が読もうかな〜(笑)

  • 京極夏彦の“お弁当箱”(しかもシリーズ最厚)を読み終えた後に読む宮部みゆきの、なんと読みやすいことか(苦笑)


    【読間】
    ーーー絶対零度ーーー
    宮部さんらしいというか何というか…日常に潜む邪悪に心が削られた。
    中盤か予測した真相はほぼそのまんまだった上に、被害者遺族は復讐を果たしたとはいえ一切浮かばれない。

    モヤモヤが残る結末。

    最後、継続捜査係の刑事が尋ねてきて色々と匂わせて幕引き。
    本書は連作中篇集。残りの中篇に繋がるのかしら?
    2022.05.15.


    【読了】
    ・・・・読了後、レビューし忘れてはや2週間(苦笑)
    書こうと思えば今からでもレビューは書けるが、よこらしょっと詳細にレビューを書くのがやや億劫に思えてしまったということは、まあ、つまりそういう感想なのだなということか。

    面白かったけどね。
    続編も絶対読むけどね。

    ーーーーーーー昨日がなければ明日もない
    表題作は、リアルにいそうなヤバい親子が怖すぎた。
    犯罪に手を汚さざるを得なかった実の妹が哀れ過ぎた。
    胸糞悪くなるラスト

    2022

    • バス好きな読書虫さん
      こんにちは!
      先日はコメントありがとうございました。
      無事に京極堂読み終えたのですね。
      お疲れ様でした。
      今作は杉村三郎シリーズでも、かなり...
      こんにちは!
      先日はコメントありがとうございました。
      無事に京極堂読み終えたのですね。
      お疲れ様でした。
      今作は杉村三郎シリーズでも、かなり読みやすいと思います。
      リラックスして、楽しんで下さい♪
      2022/05/15
  • 杉村さんシリーズ、やっぱり面白い!
    自分から巻き込まれて行き、解決していくけどハッピーとは言えない話もあり…
    最終話の漣ちゃんの将来が色んな意味で心配です。

  • 杉村三郎シリーズ5作目。彼が探偵となってからは2作目となる作品ですが、宮部みゆきさんらしい探偵シリーズものの形が、見えてきたような気がします。

    収録作品は3編。最初に収録されている「絶対零度」の肌触りというか、真相が明らかになったときの冷え冷えとした感覚は、忘れがたい。

    娘の夫が、自殺未遂をしたという娘に会わせてくれない。そんな依頼から始まる物語は、地道な調査と徐々に明らかになっていく人間関係が見もの。娘夫妻のどこかいびつな夫婦関係や人間関係が、明らかになってくるとともに、一方で見えそうで見えてこない騒動の真相が、話を引っ張っていく。

    男性への依存、グループ内の力関係、傲慢……
    どこにでもありそうな状況や、集団。そして誰もが心のどこかに持っていそうな、人間心理の醜悪な部分。それらが絡まりあい、暴走し起こった悲劇の正体。宮部さんらしい秀逸な作品ながらも、苦さが残る作品でもあります。

    2編目は「華燭」
    成り行きから披露宴の出席者の付き人をすることになった杉村三郎。しかし何が起こったのか、会場に着いたもののこの日行われる二つの披露宴が相次いで開催中止となり……

    杉村三郎付き添いのもと披露宴に出席したがっているのは、小崎加奈という中学生。彼女がなぜ回りくどい方法で式に出席したがっているのか。
    二つの家族を巻き込んだなんとも業の深い理由があり、さらにそれが回りまわって、彼女自身にもある傷を与えます。大人の世界の面倒さと、自分の関係のないところで、それが爆発する理不尽。彼女がそれをどう受け取って、今後どう成長していくのかもちょっと気になる。

    宮部さんの描く子供は魅力的なキャラが多く、この加奈もいいキャラだったので、できればシリーズで再登場してほしい。

    そして本筋である二つの披露宴の中止。その裏にある仕掛けと物語も面白かった。罪悪感の業以上に、女性たちの強かさも印象に残る作品。

    そして表題作「昨日がなければ明日もない」
    身勝手なシングルマザーが杉村三郎に持ち込んだ依頼は、「子供が殺されそう」というもので……

    解説にも書かれていたけどシリーズの二作目である『名もなき毒』を思わせる展開。
    身勝手でどこまでも自己中心的な女性に振り回される人たちの悲哀が、杉村三郎の調査が進むにつれ徐々に明らかになっていく。

    ある人は人生を狂わされながらも、申し訳なさを覚え彼女との関係を断ち切れず、ある人は彼女の尻をぬぐいつつ、疲労と不満をためていく。
    依頼主の身勝手さというものが警察のような公権力が入りにくい、というのがなんとももどかしい。

    それは1編目の「絶対零度」のきっかけになった出来事でもいえることなのだけれど、周りは迷惑に感じていることでも、本人はそれを悪とすら思っておらず、自分勝手に行動する人はどこかにいるもの。

    それだけなら「ただの困った人」で終わる可能性もあったのに、一線を越えると「困った人」との関係はもう戻れないところまでいってしまう。そしてそれを避けるために何ができたのか、と考えるとこれが一向にわからない。その理不尽さとやるせなさに打ちのめされそうにもなります。

    この『昨日がなければ明日もない』から立科五郎という今後、シリーズに出てきそうな気配のする刑事が登場します。彼はある事件の真相が明らかになったあと杉村三郎に声をかけます。

    「あなたもしっかり頑張りなさい、探偵」と。
    これは読者への呼びかけでもあるように自分は思いました。

    杉村三郎の探偵譚に出てくる人は、いずれも今の社会を生きる普通の人たち。その人たちが、ある人間、ある瞬間、ある感情に囚われ戻れない道を往った結果が、杉村三郎が立ち会う真実だと感じます。

    普通の人がたどった道だからこそ、自分も状況が変わればここまで追い込まれるかもしれない、とも思うし、自分を悪とも思っていない人たちがいつ目の前に現れるのか、そんな思いも抱いてしまう。

    杉村三郎は今の社会に潜む理不尽な悪や闇というものに常に立ち合い、必然それは読者にも突きつけられる。だからこの立科刑事の呼びかけは、作者である宮部さんが、杉村三郎を、ひいては読者をこの現実につなぎとめるための言葉のようにも思います。

    闇はどこまでも深く果てはないように思えるけど、それでも闇を照らそうとする気持ちは必要なはず。杉村三郎の探偵譚は、今の社会や人間心理をリアルに描きつつ、闇を明らかにする挑戦でもあるように感じました。

    2020年版このミステリーがすごい! 8位

  • 初めての宮部みゆきさん。
    シリーズ物とは知らなかったものの、楽しめた。

    すっきり鋭く解決、というわけではないが…探偵杉村が癖になる。これも〝いやミス〟に入るのだろうか?と思いつつ、嫌いになれない。

    中篇が3篇、短篇だと物足りない時もあるのでこういうのもアリだと思った。『華燭』が好みだった。

  • 杉村三郎シリーズ
    短編集
    1.絶対零度
    2.華燭
    3.昨日がなければ明日もない

    どれにも、毒にしかならないような人物がでてくる。
    どの話も、闇を感じるため
    このシリーズはきらいじゃないけど、今回も明るい気持ちにはなれない。
    この闇は杉村さんがひいてくるのかしら・・・。

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著者プロフィール

1960年、東京都生まれ。87年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。『理由』で直木賞を受賞。著書に『龍は眠る』『本所深川ふしぎ草紙』『火車』『蒲生邸事件』『模倣犯』他多数。

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