堤清二 罪と業 最後の「告白」 (文春文庫 こ 46-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167917111

作品紹介・あらすじ

第47回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)受賞作。月刊「文藝春秋」の連載『堤清二の「肉声」』に大幅に加筆したもので、セゾングループの総帥だった堤清二氏が死の一年前、父・康次郎氏そして弟の義明氏との関係をじっくり振り返った一族の物語です。
清二氏が、著者の児玉さんに10時間以上も語った堤家の物語は、愛憎と確執に満ちた肉親相食む世界でした。大宅賞の選評で、選考委員の後藤正治氏は「インタビューを重ね、その足跡をたどるなかで、入り組んだ内面を宿した人物像を浮き彫りにしている。読み物として読み応えがあった」とし、奥野修司氏は、「筆力、構成力ともに群を抜いている」と評価しました。
康次郎氏は西武グループの礎を築いた実業家であると同時に、強引な手法で「ピストル堤」の異名をとり、異常な好色でも知られていました。清二氏ら七人の兄弟姉妹の母親だけで四人、そのうち二人とは入籍をしませんでした。関係を持った女性はお手伝いから看護士まで相手選ばず、清二氏の母・操さんの姉妹とも関係を持ちそれを操さんも承知していたといいます。その異常な環境で、清二氏・義明氏兄弟は静かな“狂気”を身の内に育まざるをえませんでした。
フォーブス誌の世界長者番付で世界一位に輝いた義明氏と、セゾン文化で一世を風靡した清二氏は、一転して凋落し、軌を一にするように堤家も衰退の一途を辿ります。
西武王国について書かれた本は数多くありますが、清二氏が初めて明かした一族の内幕は、堤家崩壊の歴史であると同時に、悲しい愛と怨念の物語であり、どうしようもない定めに向き合わなければならなかった堤家の人々の壮大な物語です。

感想・レビュー・書評

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  • こうした本を読むと思わなかったが、意に反して読んで良かったと思える本だった。

    今では生活に普通にある西武。その西武の誕生とその歴史や家族のノンフィクション。
    問題がある程ひとの関心を呼ぶもの。決して私利私欲だけではなく、大きな家族となった西武が辿った道というものを堤清二の目線で語られたもの。
    清二さんという人の心はとても穏やかなのか、人柄に好感を持って読みました。

  • 誰もが知っている有名人だが、血縁関係とか確執について知らなかったので興味深い内容でした。

    義明の馬乗りやべぇ

  • 暗い

  • 20211229

  • 一代で西武グループ(コクドグループ)を作り上げ、衆議院議長まで勤め上げた豪傑堤康次郎の子として生まれた異母兄弟の堤清二と堤義明。

    2人は帝国の後継として、その生い立ちから注目が集まり、弟である堤義明に全事業が相続されるということから、マスコミの駆り立てあり、兄弟関係りに亀裂が走る。

    堤清二は倒産寸前の池袋西武百貨店のみを譲り受けながらも、そこから破竹の勢いでセゾングループを作り上げ、天才の名を恣にする。

    清ニに対し、康次郎の指針を愚直に守り、天皇へと化していく義明。この2人の骨肉の争いは、西武グループの崩壊という形で幕を閉じる。

    堤家はあれだけの起業家でありながらも、どこか負の側面を持って語られることが多いのは、康次郎の奔放さと、それが引き起こした内紛によることがよく分かった。

    惜しむらくはインタビューに基づくため、やや内容に乏しく、もう少し内容に厚みが欲しかったところ。

    とはいえ、西武グループ、コクドグループ、堤家について初めて勉強する方にはおすすめの一冊。

  • インタビューで作られている個人史。オーラルヒストリー的な手法がとられているのか、と思いながら読み進めたが、筆者の用いる評価の言葉が私には読みにくかった。
    それにしても、堤家の人間関係の濃さはハンパない。康次郎の生み出したモノ(者/物)が、まるで因果応報のごとく、回収されていく。
    歴史になるにはまだかなり生々しい。

    ただ、なるほど、と思ったのは、堤氏が小林一三に会えなかった、という話。この話が星を一つ増やした。堤氏が既にあったモデルとして、阪急電鉄を参考にして、鉄道・宅地開発・デパートメントストア・映画・演劇などを結びつけた。
    鉄道と消費文化のつながりは既にあったモデルと考えられた。そこに堤氏なりの新しい知見がミックスして、パルコやリブロが生み出されたんだろう。

    私は堤清二氏が生み出した「消費する文化」を1980年代に最初は無意識に、そのうち意識的に享受した世代だ。現在もその残滓を消費している。リブロにいた田口さんのいるジュンク堂も糸井さんの「ほぼ日」も、もちろん、mujiもみんな残滓でしょ。
    草津や彦根、米原に行くたびに、なんでライオン?と思っていた頃もあったけど、そもそも創業者の生まれ育ったところなら納得だし、サンシャイン60の話も三島の話も左翼から脱左翼の世代の話ならあまり驚かない。

    それにしても、読み疲れた本だった。

  • 堤清二 罪と業
    最後の「告白」

    著者:児玉博
    発行:2016年7月30日
    文藝春秋

    ノンフィクションライターの著者が、2012年7月~11月にかけて合計7回、のべ十数時間に及んで堤清二にインタビューした内容をまとめた本。〝最後〟という言葉が使われているが、実は朝日新聞の「証言そのとき」シリーズが、2013年1~3月に10回にわたって堤清二へのインタビュー記事を掲載している。堤清二が死んだのは2013年11月、どっちが〝最後〟なのか、よく分からない。しかし、この本で著者は堤との初めての出会いを2012年6月24日とした上、その10日後からインタビューがスタートした、7月中旬だった、と書いている。最初から不正確な情報が掲載されていて、この本、少し怪しくもある。

    西武グループを壊滅させ、最後は犯罪者にまでなった異母弟の堤義明と違い、堤清二はインテリでセンスがよく、経営者としても良心的。辻井喬という小説家・詩人・歌人でもある。そんなイメージだったが、実はそうではなかった。朝日新聞とこの本の内容は一致する(もちろんこの本の方が遙かに詳しい)。清二も最後は〝反省のない人間〟だったことが、どちらからも十分に読み取れる。西武鉄道を創業した父親の堤康次郎のえげつなさ、評判の悪さは誰しもが知るところだが、その〝汚い〟商売をまるまる受け継いだのが義明。そんなイメージは間違いではないが、父・康次郎が許せず自ら東大在籍中に絶縁状を出して勘当を申し出た清二も、やがては与党側の政治家、そして衆議院議長という権力者となった父親の秘書官となり、また、自らが年を取ると父親を認め、「お詫び」と称して父親の偉大さを讃え、継承する。そこに明確な理由は見えず、聞こえてくるのは、やっぱり親子だからという類いの浪花節に近い声だ。

    著者は清二のことを「努力の天才」とし、それが故に他人も同じようにできるものと決めてかかったため、部下の仕事ぶりを容赦なく叱責。人を見下していて、それを口に出してしまうため、かつて側近だった人たちが清二のことを口にする時には怒気をはらんでいるという。また、清二を最終決定者とするセゾングループの会議は、議論の場ではなく、清二の〝神託〟を聞く場だった。独裁者として君臨していた彼の怒りをみんな恐れた。著者は、それは康次郎から引き継ぐ独裁者の「血脈」だと表現し、暴君として立ちはだかった康次郎と変わらないとする。

    堤清二は、ただ単にビルを建てただけでなく、そこに文化の拠点を築いたことをいろいろな場で自慢している。受け継いだときに破産状態だった西武百貨店を立ち直らせ、巨大な流通グループにまで育て上げ、西洋環境開発という文化拠点つき不動産事業を成功させたことを自慢する。しかし、バブル崩壊とともに西洋環境開発が破綻し、多くの従業員を路頭に迷わせたこと、そして、おそらくそれはバブル期の強引な不動産事業によるものであろう自分の責任を一切、語ろうとしない。彼が経営から手を引いて辻井喬1本で生きていきたいと言い出したのは1991年。バブル崩壊年。自分ではその後も責任を取らされた、私財100億円を提供した、と言っているが、本当はそうではなく、経営者としての引退希望声明時には、もうどうにもならないことを把握していたに過ぎなかったのであろう。

    清二VS義明という構図において文句なく清二派だった者たちを、見事に失望させ、清二の本質を悟らせるという意味で、評価できる一冊かもしれない。

    ***

    堤康次郎は、次々と愛人を抱えて平然とし、有無を言わさぬ暴君ぶり、果ては女中にまで手を付け、同衾している姿。それを目の当たりにした堤清二の康次郎への憎悪は激しかった。しかし、つばを吐きかけてもそれは同じ血を引く自分にもかかる、そのようにも後に考えた。

    堤清二は東大の同級生だった氏家齊一郎(せいいちろう)(元日テレ会長)にオルグされ、渡邉恒雄(読売新聞)らとともに日本共産党の〝細胞〟として活動していた。しかし、日本共産党の分裂に巻き込まれ、党中央本部から除名処分。

    清二は父親から見限られたのではなく、東大在籍中に自分から絶縁状を出した。しかし、東大を出ると結核で入院生活、それから衆議院議員の父親の秘書へと転身した。

    堤清二は、父・康次郎が死ぬ少し前に西武鉄道は義明に継がせたいといいたいのだと察知し、先手を打って自分は義明のバックアップに回ることを宣言した。それについて清二は、「清々した気分だった。権力も金も資産もいらないと父親に言ったわけだから気分は良かった」としている。父の死後の親族会議で清二が自ら望んでもらったのは、池袋の小さな百貨店に過ぎなかった西武百貨店だった。

    清二は「義明君は凡庸だったから」「利口な子ではなかった」といって見下していたが、結局、義明が引き継いだ不動産を清二もやりたかったに違いない。そこで西洋環境開発という会社をつくったようだ。しかも、同じことをしていては義明との違いが出せないため、サンシャインシティのようにいろいろな文化施設を含めたものにしていった。それが終生の自慢点でもあったようだ。

    ***************

    1945年の大空襲、康次郎が所有する麻布の3千坪の大邸宅も業火に包まれる。被災した人々が堤家の敷地に入ろうとしているのを見つけた康次郎は、下男に「一歩も入れてはいかん。外に叩き出せ」と怒鳴った。清二に「財産を守るということはこういうことだ」と説明。

    康次郎は滋賀県愛知具八木荘村(現・愛荘町)で1889(明治22)年に生まれた。

    義明の弟・猶二(清二の異母弟)は、誰に対しても公平で笑顔を絶やさず、人望を集めていた。東京プリンスホテルのフロント係がスタート。やがて高輪プリンスホテルを育て上げる。プリンスの格式をあげたウエスティンホテルとの提携を実現した上、その会長の娘と結婚した。しかし、義明の側近たちは「猶二はプリンスを海外に売り渡すつもりだ」と懐柔したため、義明の鶴の一声でトロントに飛ばされてしまう。清二は猶二を買っていたので、後に自らの不動産会社「西洋環境開発」に入れ、ホテル西洋銀座づくりを任せる。

    堤康次郎は、滋賀県にある祖父の田畑を売った資金を握りしめて上京し、早大入学後に株式投資をし、総会屋まがいの活動を行い、儲けた金の一部で三盗郵便局の局長の権利を買って学生ながら局長に。さらに、余った資金で鉄工所を買い取って経営者に。

    康次郎はおそらく16歳年上の小林一三の事業モデルを真似た。1923年に伊豆・箱根の不動産開発のために「駿豆(ずんず)鉄道(現在の伊豆箱根鉄道駿豆線)を乗っ取りのような買収で入手。9年後に西武鉄道の前身である武蔵野鉄道の実験を握った。
    これについて清二は「康次郎はまず不動産ありき、その不動産価値を高めるための鉄道だった。小林一三は初めに鉄道ありき。根本的に違う」と分析。

    小林一三は小説を書いていた。

    清二は親しくしていた三島由紀夫から「楯の会の制服をつくりたいが、ドゴール大統領の軍服のデザインがいいのでデザイナーを調べてくれ」と言われ調べると、日本人で西武百貨店に席を置いていることが判明、三島は「灯台下暗し」と豪快に笑った。結局、西武百貨店で制服をつくった。

    清二が西武百貨店を任された時、すでに破産寸前。しかも、親族(母親の妹の婿)がお金を着服し放題だった。康次郎は母親の妹にも手をつけていたので、その弱みを知って結婚した婿がやりたい放題にしていたという事情。清二は彼を切り、場末の街に過ぎなかった池袋にある百貨店を、西友やパルコなどを含めて200社、年商5兆円、従業員14万人になろうかというセゾングループに育て上げた。

    昭和天皇の第五皇女・島津貴子は、西武百貨店の高級ブランドPISAで働きたいと訪ねてきた。こうして皇室と清二は関係を持つことに。平成時代になると、宮中の雰囲気は昭和時代とはまったく違っていた。天皇と皇妃(美智子妃)がわざわざ清二のテーブルまで来て、皇妃は「あの方はお元気でいらっしゃいますか」と尋ねる。その人はかなり進歩的というか、左翼的な人だったのでとても驚いた、という。

    辻井喬「いつもと同じ春」(1983)、「暗夜遍歴」(1987):邦子(妹)と操(母)をモデルにしている松江津。
    石川達三原作の映画「傷だらけの山河」は康次郎がモデル。

  • 【当事者が語る 堤一族 悲劇の真相】第47回大宅壮一ノンフィクション賞受賞!セゾングループを率いた堤清二氏が、死の前に明かした堤一族の栄華と崩壊の悲劇。

  • 中途はんぱな取材

  • 2016年大宅壮一ノンフィクション賞受賞作です、西武王国を創り上げた堤康次郎の暴君実業家としての姿、好色家だった父の五人の妻との葛藤等を、感じる嫡男の堤清二の葛藤と、作家・辻井喬の姿が・・・。

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