神様の暇つぶし (文春文庫 ち 8-5)

著者 :
  • 文藝春秋
3.98
  • (57)
  • (64)
  • (43)
  • (6)
  • (2)
本棚登録 : 1189
感想 : 57
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167919054

作品紹介・あらすじ

親を亡くし一人になった20歳の夏、父よりも年上の写真家の男と出会った――。男の最後の写真集を前にあのひとときが蘇る。妙に人懐っこいくせに、時折みせるひやりとした目つき。臆病な私の心に踏み込んで揺さぶった。彼と出会う前の自分にはもう戻れない。唯一無二の関係を生々しく鮮烈に描いた恋愛小説。 解説・石内都

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 何気なく手に取り、初めて千早茜さんの作品を読んだので、あまり参考にならない感想かもしれませんが、ご了承ください。

    題名である『神様の暇つぶし』の意味する所は、最後まで読み切った今でも色んな解釈が出来る一方で、どれも当てはまりが良いと感じていない。おそらく、それが本作の魅力なのかも知れない。

    自身の見た目や生い立ちにコンプレックスを抱えた女子大生は、日常に何ら刺激もなく生き甲斐もなく過ごしている中、ある日、父親と同然の年齢くらいのカメラマンの男性と出逢う。この出逢いをきっかけに二人の奇妙な生活が始まり、そして女子大生は男性に恋心を抱いていく。しかし男性は猫のように付かず離れずを繰り返しながら、女子大生は男性に振り回されることに苦悩しつつも、恋愛の底なし沼にどっぷりと浸ってしまう。

    ここまでの恋愛模様の他にも登場人物数名の恋愛の形が描かれており、多様性だったり、恋愛は年齢を超えると言ったメッセージ性も込められていることは分かるが、どうしてもハッピーエンドでない作品は私個人として好みでないため、申し訳ないですが星3つ。

    しかし、千早茜さんの『恋愛』の心理描写は、とても繊細かつ共感しやすいため、没頭しやすい作品でした。

    ちなみに100ページ目のやり取りは大好き(笑)

  • 美しい表現と、濃密で情熱的な物語。
    女にしてくれた彼は、この先も彼女の中で、神様として揺るがない存在で居続けるのだろう。

  • いただき本

    写真家のオヤジとプリミティブなふじこ。
    限りなく生々しく、生きている感溢れる関係性だが、その根っこは純愛だと思う。
    身体の関係に目が向きがちだけど、まっすぐな思いとか、使命とか、そういうのって心のことだよね。
    読みやすく、沁みた一冊。

  • 千早さんの作品2冊目です。
    もがきながら、必死に生きる
    男女の生き様にとても惹かれていっきに
    読んでしまいました。
    年齢差があるからこその純愛を感じ
    心の奥にある感情にふるえました。

    友達の里見君とのやりとりがとても
    温かく優しい気持ちになり
    こんな友達がいたらいいなぁと思いました。

    ふじこの食べっぷりが気持ちよく
    生きることの難しさと同時にたくましさを
    感じエネルギーをたくさんもらいました。

  • 千早茜の薄暗い感情を通してこっちの隠していた部分をひん剥かれるような、この感じはなんなのだろう。

    どんなに深く愛し合っていても、お互い自分の物語の中にいる。それが完全に重なることはきっとないんです。だから、僕はあなたの話を聞きたかった。

    このセリフが刺さったな。同じ時間を過ごしても見ている方向や思っていることは違うのだから、今どう思っているのかをずっと知りたい。

    みんな自分の恋愛だけがきれいなんだよ、て言うのもそう。どんなに間違っているように見えても、それぞれの正義があるのよ。

  • 全さんのような、どこか掴みどころのないふわふわしてるのに鋭い目線をもっているような人を身近に知っていたので妙に納得しながら読み進められました。私の知っているその人は全さんほど格好良くはないけど笑

    藤子は藤子で全さんによって止まっていた時が進み出すし、全さんは生の終わりに向かってはいるが最後まで全さんらしさを貫き通す。年の差恋愛が全面に描かれた話ではあったが、そこよりも大きいテーマとして「生」があったように感じました。

    里見が個人的に大好きです。「やっぱり病気は平等だったな」と笑いながら言って死んでいった里見のことを考えると、彼は果たして幸せを感じることができた人生だったのだろうか?と思い胸が苦しくなりました。全さんもまた然り。藤子が出会った人みんな死んじゃったのが心苦しすぎた。

    それでも私の中で色濃く残るであろう作品の一つです。千早茜さん、本当に素敵な文章表現ばかりで…大好きな作家さんです。

  • 千早茜さんの作品は五感を刺激される。特ににおいをリアルに感じてしまう。冒頭の「時間は記憶を濾過していく。思い出は薄れるものでなく、濾されてしまうもの。」「やがて純度の高い記憶だけが網の上できらきらとした結晶になる。洗いぬかれたそれは日を追うごとに輝きを増し、尖った欠片は胸に突き刺さる。」いいなあこの表現。作中の三木さんの言葉に、「先生(写真家の全さん)はその時、その場所にいたその人を切り取って残すことができる」とあるがそういう写真ってあるよなと思ってしまう。

  • 読む手を止められなくて、時間も忘れて読み進めてしまったけど、途中から苦しくてページを捲れなかった。
    私の前にも全さんのような人が現れたら、きっと私も溺れてしまうだろう。藤子の気持ちに移入しすぎて、息ができないような苦しさを感じた。

    千早茜さんの文章は、本当に素敵な表現が多くて、うっとりしてしまう。初夏のひんやりとした明け方の空のような、凛とした静けさもありながら朝に向かう力強さも感じられる。
    そして、度々出てくる食事のシーンが本当に美味しそうで…。私も全さんと藤子が訪れた店々に訪れてみたい。

  • 身も心も侵されてゆく、陽炎のような男との夏。

    初恋と呼べるような甘酸っぱいものではない。最低で最悪で、退廃的な恋。でも心はこの人が欲しいのだと泣き続ける。どんな手を使っても手に入らないものが目の前から消えないとき、人は狂っていくのだと思った。

    写真のように切り取りずっと手元に置いておきたいシーンがたくさんあったが、里見くんの「楽しい夏だった?」という台詞には、私自身も泣きたくなった。
    「最悪な恋愛だった!」と片付けてしまいがちな恋の終わり。それでも、ともに過ごしたその一瞬一瞬には幸福そうに笑っていた自分も確かにいたことを、そっと気付かせてくれる一言だった。
    今はまだ、その事実には目を向けられなくても。

  • 千早さんの言葉の連なりを、ひとつひとつを噛み締めるように読んだ。
    会ったことのないのに[知っている]と感じる人、毎日同じ空間にいるのに[知っている]とは思えない人。
    もう出会う前の自分には戻れないと感じる人。

    泣きたくなったら食べればいい。
    泣きながら手も飲み込めば、食べた分だけ確実に生きる力になる。

    いつかの本で、
    “泣きながら食べられる人は大丈夫だ。”
    という言葉を読んだことがある。
    これはそれと同じだ。

    途中から、すでにもう⭐️は5だった。

全57件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年に同作で泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』(絵・宇野亞喜良)、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

「2021年 『ひきなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

千早茜の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
凪良 ゆう
千早 茜
朝井 リョウ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×