- 文藝春秋 (2023年3月8日発売)
本棚登録 : 223人
感想 : 17件
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Amazon.co.jp ・本 (272ページ) / ISBN・EAN: 9784167920159
作品紹介・あらすじ
牛、馬、猪、鹿、鴨、鳩、鯨、羊、すっぽん、内臓……
「人はなぜ肉を食べるのか」
問いを掲げた平松さんは、日本全国十か所をめぐり、十種の「肉」と
人とのかかわりを徹底取材。ひとつの文化として肉をめぐる諸相をとらえ、
動物とその肉について、見て、聞いて、食べて、深くその根源を考えた
前代未聞のルポルタージュ。
胸骨の端にそっと指を入れて横隔膜といっしょに引き上げると、紫色に光る
かたまりがぽろんと現れた。 (中略)ぷりっぷりのレバーの一片をそっと口の
なかに入れた。(本文 4章「鳩」より)
「生きもの」が「食べもの」になるまでの間には実に様々な工夫や技術が介在し、
「うまい肉はつくられる」ことがわかる。
信念を貫き、魅力的な多くの日本人の「仕事」の
歴史にも光を当てたエキサイティングな傑作ノンフィクション。
解説 角幡唯介
みんなの感想まとめ
肉を食べることの深い意味と文化を探求した本書は、日本各地での肉にまつわる豊かな体験を通じて、食と生き物の関係を明らかにします。牛や豚、鶏だけでなく、羊、猪、鹿、鴨、鳩、すっぽん、鯨など多彩な肉の種類が...
感想・レビュー・書評
-
平松洋子『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』文春文庫。
『人はなぜ肉を食べるのか』をテーマに平松洋子が日本全国を巡り、10種類の肉と人との関わりを取材したルポルタージュ。
何時もは食の割合が多いが、本作では取り分け食肉の文化や歴史、食肉に関わる人の仕事が多く描かれている。
『第1章 羊』。北海道白糠町の羊牧場で羊の飼育、羊肉についての話。羊料理の代表格はジンギスカンで、勿論のことながら北海道が有名なのだが、東北地方、岩手県遠野市、福島県平田村など山間の地域でもよく食べられている。また、福島県ではアサヒビールの直営のジンギスカン店もあり、手軽にジンギスカンが楽しめる。遠野市では美味しいジンギスカン店が幾つもあるが、ジンギスカンバケツなるブリキやアルミのバケツを使ったジンギスカンが各家庭で楽しまれている。ジンギスカンバケツは遠野市内のホームセンターに大量に並べられている。平田村でジンギスカンが流行したのは、大昔の飢饉の際にこの村の出身者が羊を何百頭か寄附したことが切っ掛けらしい。個人的なジンギスカンの思い出と言えば、幼い頃、父親と行った小さなスキー場の食堂で食べたジンギスカンが最高に美味かった。スキーで腹が減った所で食べたせいもあるのだろうか。
『第2章 猪』。島根県美郷町で始まった猪で町起こしの活動の話。害獣の猪を食肉として販売ルートに乗せる取り組みが紹介される。なかなか面白い取り組みで、地元の猟師たちを納得させ、僅か5年で軌道に乗せたとは驚きだ。猪の肉は大昔に食べた記憶があるが、味は余り覚えていない。確かぼたん鍋で食べたと思う。
『第3章 鹿』。サバイバル登山家の服部文祥と奥秩父の山中に鹿狩りにいく話。鹿肉はあっさりしていて美味い。狩猟を趣味にしている方の家に招待され、焼肉でご馳走になったが、本当に美味しかった。特別天然記念物であるため、食べることは出来ないが、話によるとニホンカモシカの方が格段に美味いらしい。ニホンカモシカはウシ科なので、牛肉に近い味のようだが。
『第4章 鳩』。既に閉店した東京の『パッソ・ア・パッソ』でジビエ料理を堪能する話。雀は食べたことがあるが、鳩は食べたことがない。基本的に焼鳥は好きなので興味はあるが、地鶏とか軍鶏に近い味なのだろうか。
『第5章 鴨』。石川県で江戸時代から続く板網猟で鴨を狩猟する話。合鴨は何度か食べたことがあるが、野生の鴨肉は食べたことがない。
『第6章 牛』。北海道の襟裳岬の短角牛の話。ルーツは岩手県の南部藩で飼われていた南部牛のようだ。岩手県の短角牛と言えば山形村が有名だ。この歳になると、霜降りの前沢牛よりも赤身の短角牛の方が良い。
『第7章 内蔵』。東京の品川で牛や豚の内蔵ばかりを扱う業者の話。東京の下町辺りではホルモンを提供する店が多い。ホルモンは串焼きやもつ煮、焼肉などで食べるがたまらない。
『第8章 馬』。熊本県の独自の馬肉文化の話。馬肉は福島県の会津地方も有名だ。刺身に辛味噌を付けて食べるのは独特だ。以前、馬刺しの赤身とタテガミを食べたことがあるが、タテガミはとろけるような癖になる美味さだ。
『第9章 すっぽん』。静岡県舞阪のすっぽんの露地養殖の話。すっぽん鍋は有名だが、焼きすっぽん、唐揚げでも食べるのか。すっぽんは何度か食べたことがあるが、最近では3年前のコロナが流行する前に中国で食べたすっぽん鍋が記憶に新しい。中国のすっぽん鍋は、基本骨付きで、すっぽんがザクザクと入り、食べ応えがあった。
『第10章 鯨』。千葉県和田浦のツチ鯨漁の話。昔ながらの鯨の解体、食文化、捕鯨を巡る情勢などが紹介される。鯨は賢いので食べるのは残酷だと、牛や豚を平気で食べ、油を採るためだけに捕鯨を行っていた欧米人から批難を受け、長らく捕鯨は制限されていた。そんな中で2019年の国際捕鯨委員会からの脱退は大英断だった。日本が昔からの食文化を取り戻したのだ。
本体価格760円
★★★★詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
羊や猪、鹿から鳩、その他、すっぽんからクジラまで…。うまそうな「肉」がたくさん。畜産や漁師(猟師)の真摯な姿が素晴らしく、筆者の肉愛が感じられた。アナグマの肉を食べてみたい。
-
食べることは、生きること
肉食がヒトの進化を促したという
牛豚鶏、だけでなくこの本では羊、猪、鹿、鳩、鴨、短角牛、馬、すっぽん、鯨を食べることについて書かれている。
食べるために、育て、殺し、おいしく調理する。そのために、ヒトは、自然と調和して、バランスを取る。
北海道の羊牧場をよく知る人が「あるとき羊の味が変わったな、と思いました。優しくて、おだやかな味になった。彼は羊を愛している。羊が安心している味なんですよね」羊を愛してるから、殺す時にもおだやかなまま。肉を固くする原因の、ストレスが少ないということだ。
肉を食べるとは、こういうすさまじさがあるのではないか。
最終章の「鯨」の解体を、私は見たことがある。千葉の和田浦漁港では、鯨があがると外房捕鯨のHPで解体のお知らせが掲載される。
ツチ鯨は、見た目がイルカによく似たかわいらしい鯨だ。調査のために、いろんなところを、測り、保管したりする。男たちが、薙刀のような大きく鋭い刃物を構えて、さくさくと解体していく。現場には緊迫した空気が漂う。無駄のない動きで数人の男たちにより、鯨だった塊が、肉になり、食べものになっていく。鯨は哺乳類だ。肉や内臓が開いていくと、独特の匂いがあった。写真も撮ったけど、いったいこの写真を私は誰に見せるつもりなのかと、考えた。
この本では、ヒトが生きるために、自然と調和して、旨い肉を食べるためのことを書いている。
解説の角幡唯介さんもとてもいい。 -
面白かった。
読んだ順番は、鯨/すっぽん/内臓/馬/鴨/鳩/鹿/猪/羊/牛の順番。自分が関心があるものから読んだというわけ。平松さんは舌が肥えているんだな。
まさに食の文化だ。
私は鯨と鹿と馬、猪、鴨は食べたことがある。鯨は給食(苦笑)。この本になかったので、あまり人が食べないもので食べたと言えば、どじょう、熊かな。ダチョウも食べたな、そういえば。
内臓はあまり好きじゃない。とびきりおいしいものを食べたら、食べられるようになるかな。
なにはともあれ、本当に面白い本だった。 -
ジビエと最近呼ばれているけれど、日本人は昔から食べてきたお肉であることがわかる。
内蔵とか羊、猪、鹿、鯨、鳩…
読んでいるとみんな食べたくなってくる -
第151回天満橋ビブリオバトル テーマ「選ぶ」で紹介した本です。
2025.9.17 -
白糠の羊も美郷町の猪も加賀の鴨も、この本に出てくる肉はどれも美味しそうだ。食欲を心から刺激される。
一方で日本人がいかに肉と付き合ってきたのかという歴史が学べることこそが、この本の一番の醍醐味だと思う。肉食を禁じられていた中で貴重なタンパク源であったこと、ホルモンの流通の歴史、加賀の鴨漁の方法、馬食の由来などなど。ひごろ何げなく口にしている肉は切り身で供されて当然ではない。その飼育から流通に多くの人の手が入り、様々な技術が歴史的に培われてきた。ひとかみひとかみを大事にしたい。 -
2024/08/18
-
肉食が人間と切っても切り離せないこと、肉となる動物を愛すほどそれが「旨く食べる」ことにつながること。愛と残酷さは一体だ。食ルポというか「肉に魅入られた人間のドキュメンタリー」みたいな気分で読めてよかった。
-
牛、馬、猪、鹿、鴨、鳩、鯨、羊、鼈、内臓。人はなぜ肉を食べるのだろう、土地に根差した知恵と工夫、長い歴史を通じて人と獣の間に培われてきた親密な関係性に光を当てた傑作ノンフィクション。
-
「サンドイッチは銀座で」のシリーズでも熊を食べに行く話があったので、そんなには愕きはしない。だけど、普段の軽妙さは影を潜め、文章にずっしりした重さがある。
羊、猪、鹿、鳩、鴨、牛、内臓、馬、すっぽん、鯨の10章。
ルポだけど、着飾った奇麗ごとの無い文章。育てて、その命をいただく生業への共感が身に迫ってくる。
だから、その後の文がより際立ってくる。
(引用)
気が逸るのを抑えながら、透明な黄金色の熱いスープをれんげに満たし、啜った。すーっと口のなかに滑り込む清澄な汁。醤油のひのかな香ばしさ。焼きねぎの甘み、つつましやかなふりをして、しかし、奥まったところから、あの﨟長たけたうまみが頭をもたげてくる。追いかけて、まろやかに花開く脂のこく。
そんなことは書いていないんだけど、人間の罪深さを考えてしまった。 -
牧畜、狩猟、加工、調理…食べる肉になるまで、現代日本の食肉に関わる人々を追うノンフィクション。
著者の他の食エッセイでは、食べる段階での五感を使う描写が巧みだが、この本では生き物や加工現場での五感をフル活用した筆致が際立つ。
おいしい、というより
生きてる、という感じの一作。
著者プロフィール
平松洋子の作品
