夜明けのすべて (文春文庫 せ 8-5)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 38
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167920920

感想・レビュー・書評

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  •  本書は、パニック障害の男性とPMS(月経前症候群)の女性が主人公の物語です。
     何と! 本書は、瀬尾まいこさん自身が、パニック障害を発症した経験を契機に書かれたものだそうです! (びっくりー、知りませんでしたー!)

    (いきなり知ったかぶり裏情報)
     本書の単行本発行元である水鈴社のHPに、便箋3枚の瀬尾さん直筆のメッセージが寄せられています。未読の方も読了済の方も、読んでみてはいかがでしょうか。手書きによる温かな瀬尾さんの想いが伝わります。(私にとっても良い発見でした!)

     経験の為せる技でしょうか、主人公2人の地獄のような苦しみの描写が実にリアルで、読み手にも辛さがひしひしと伝わってきます。瀬尾さんのこれまでの小説とやや違う印象を受け‥、でもやっぱり瀬尾さんです。少しずつ救い・光明を見つけ‥。

     当事者でなければ、その症状の深刻さや辛さは、本当の意味で判らないのだろうと思いますし、軽々しく分かったふりをしても、失礼に当たるでしょう。理解できないまでも、想像力を働かせて気持ちを察し、気遣いはしたいものです。
     そのためにも、一人で抱え込まずに、親身になってくれて頼れる周囲の人を、少しずつ増やしていく必要があるのでしょうね。この周囲の理解・配慮なしには、通常の社会生活が困難であるのは明らかです。

     物語の2人が、互いの不足面を補い合い、試行錯誤しながら状況改善していく関係性の描写に、希望をもらえる気がします。
     当事者が困難を抱えていることを前提に、どうすれば少しでも状況が改善されるのか、一緒に考えていくことが大事なんでしょう。

    • みんみんさん
      こんにちは♪
      瀬尾さんPMSじゃなくてパニックの方でしたか!
      病気は違えども2人の生きる辛さがお互いを理解する過程が良かったですよね〜♪
      前...
      こんにちは♪
      瀬尾さんPMSじゃなくてパニックの方でしたか!
      病気は違えども2人の生きる辛さがお互いを理解する過程が良かったですよね〜♪
      前に読んだのにイイネありがとうございます!
      瀬尾さんのコメ読みたいです\(//∇//)
      2023/09/17
    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      みんみんさん、コメントありがとうございます♪
      〝文は人なり〟ですね。直筆(画像ですが)から伝わる
      熱量‥いいです!
      みんみんさん、コメントありがとうございます♪
      〝文は人なり〟ですね。直筆(画像ですが)から伝わる
      熱量‥いいです!
      2023/09/17
  • 瀬尾まい子さん5冊目。
    瀬尾さんの描く人たちはとにかく人間味があって温かい。たくさんの多様な人を見る学校の先生をされてきたからこそ、なのだろうか。

    本書の主要登場人物は中小企業に勤める20代の2人。それぞれ健康な他人にはなかなか理解されにくいがゆえ、良好だった人間関係にヒビを入れてしまうような病気や症状を抱えている。そんな2人だが、時間が経つにつれ、お互いを自然と支え合えるような関係性を築いて行く。2人とも病気で転職を余儀なくされ、流れ着いた会社ではあったが、社長をはじめ、働く人々や環境が良く、考え方も自然と前向きに。病気のせいで色々制限され、何もできないと卑屈になったり、悔しい思いをたくさん抱えていたが、やり方はあるしできる、という考えに変わる。その様子が素敵で読んでいてとても心を動かされた。簡単ではないけれど、受け入れ、前に進むというのは本当に大切。離れても気遣っていてくれる元上司や、温かく見守る社長さんも非常に良かった。

  • ジャケ買いしたら、まさかのお仕事小説。

    仕事は人生に張り合いや潤いをもたらせてくれる。経済的な面はもちろん、人間関係の面においても。

    生きていると、苦しいことも少なくはないけれど、どこかに救いはあるのだと実感させられる。

    お給料は我慢料。ご褒美でもないとやってけないよな〜
    自分のご機嫌取りマニュアルを充実させていきたいと思った。

    そして、他人の事情を、見かけで判断して決めつけてはいけないという教訓。人には人の乳酸菌と人生があるから。

    何を大切にして、どんな働き方をしていきたいのか、今一度考えたくなる小説だった。

  • 外傷は、見た目で大変そうなのがわかるが、
    パニック障害やPMSは、
    まわりに辛さが伝わりにくいね

    お仕事系の小説では、
    バリバリやって成功するとか、
    ドジで失敗しながらも成長していくとかが
    多いけれど、本書は少し毛色が違う

    でも、読後のホッコリ感は
    みんなとも共有したいな

  • 「君が夏を走らせる」に続き、2作目です。
    -------------------------
    「知ってる?
     夜明けの直前が、
     一番暗いって」

    人生は思い通りには
    いかないけれど、
    光だってある。
    ささやかで特別な、
    現代を生きる私たちの
    全く新しい物語。
    -------------------------
    月経前になると、
    PMSで自身の感情をコントロールできず、
    怒りを抑えられなくなる美紗。
    パニック障害を突然発症し、
    仕事と家の往復しかできない山添。

    二人は転職先の栗田金属で出会う。
    そこには人生の先輩と呼べるような、
    年上の面々がおり、
    こじんまりと卸売業を営んでいる。

    ひょんなことからお互いの病を知り、
    そこから恋愛とも友達とも同僚とも何か違うような、
    ある意味遠慮も配慮もいらないけれど、
    フォローし合うような関係になっていく。

    PMSの辛さ、わかります。
    感情がどうしてもコントロールできない瞬間。
    後からくる自己嫌悪。苦笑
    読んでて、そうそう!と痛々しく思う瞬間も。

    瀬尾さんの作品は、
    悪い奴が出てこないから、
    優しい気持ちで読めます。
    ぽこぽこと湧いてくる優しい気持ちというか。

    そうそう良いことばっかりじゃないし、
    時にはどうしようもできず、
    辛い嵐にのまれることもあるし、
    人間が怖くて嫌いになることもあるし、
    落ちるところまで落ちるときもあるけれど、
    どこかにぽっと温かい良いことがあったりするよねって。
    気づいたら優しさに救われてたりして。
    優しさが実は循環してたり。

    そう思わせてくれる作品です。
    瀬尾さん、大好きです。

  • PMSの藤沢さんと、パニック障害の山添くん。

    それぞれに抱える病みは違えど、どうにもならないしんどさを背負っている、そのことの共感が出来ることで、歯車が噛み合っていく。

    弱さを知るから優しくなれる、そんな意味の言葉があったような気がする。

    二人の関係の変化も見所なのだけど、二人がリスタートした会社が素敵だなと思う。

    唐突にイライラする人を、ずっと抱えていくって、やっぱり難しい。
    けれど、藤沢さんの苦しみに寄り添いながら、怒りを受け流せる人たちは、すごい。
    私には、そこまで出来ない。
    いや、出来る出来ないと思っている時点で何か違うような気もする。

    久々の瀬尾まいこさん。あたたかい。

  • PMSの女性とパニック障害の男性を軸に自分自身と向き合うことについて書かれた作品。
    私はどちらも患ってはいないけれど、作中の描写は、まるで自分も体験したことがあるかのように感じさせられるほど。辛さや苦しさがひしひしと伝わる。日々を生きていて、私にはできないなと決めつけて諦めていることはないか、一歩前に進めることがあるんじゃないのかそんなことを考えさせられる作品でした。

  • PMSの藤沢さんとパニック障害の山添くん。二人とも病のために大手企業を辞め、離職期間を経て従業員6名の今の会社に就職。
    特にパニック障害の山添くんの、病気のために以前は当たり前のように出来ていたことが急に出来なくなるという苦しさ、よく分かります。(実は私もパニック障害持ちで症状は何年も出てないけどいまだに出来ないことがあります。)
    今ある状況の中で、少しでも前向きに楽に生きる方法を改めて教えてもらったように思います。
    そんなこの話が大好きです。

  • 山添くんが最後、「もとの自分に戻れそう」じゃなくて「素の今の自分を知ってみたい、見せてみたい」という気持ちになったのが、良かった。薬を使っていても、いいと思うけどね。This American Lifeのme minus meの最後の話と似通うものがある。

    話全体を通して少し上手くいきすぎかなあと思うところはあったけど、登場人物全員がやわらかな人で淡々と読み進めることができた。

    病気のランク付け、苦しみ対決はしたくないな。
    自分の想像力が及ばないようなことが世の中にたくさんあるということを肝に銘じたい。
    ちっぽけな想像力でわかった気になるのではなく、目の前の人の声に真摯に耳を傾けて出来る限りエゴと批判を抑えたい。

    pmsの症状で人に当たってしまう時の主人公が、自分でも理不尽だと分かっていながらどうしても彼氏に全てを爆発させて口汚く罵らないと癇癪が終わらない私と、心の声が重なっていて、描写のうまさに心が締め付けられながら読みました。

  • 瀬尾まいこ作品って感じの読後感。裏切らないなあ。内容的に自分自身とは関係ないかなと思ったが面白く読めた。

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著者プロフィール

1974年、大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒。2001年「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』で作家デビュー。05年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、08年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、19年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞。『あと少し、もう少し』『春、戻る』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『その扉をたたく音』『夏の体温』など著書多数。唯一無二の、爽やかで感動的な作風が愛されている。

「2022年 『掬えば手には』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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