天人唐草 (文春文庫 ビジュアル版 60-27)

著者 :
  • 文藝春秋 (1994年3月10日発売)
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本棚登録 : 486
感想 : 47
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784168110313

作品紹介・あらすじ

日常の中に表裏一体に潜む恐怖と幻想——。厳格にしつけられた娘が狂気に至るまでの心理を感覚鋭く描く表題作ほか、著者の代表的名作マンガを四篇収録する。(中島らも)

感想・レビュー・書評

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  • 「天人唐草」がとてつもなく恐い。主人公は父親に嫌われたくない一心で、おとなしく、清楚で、そして全く主体性のない女性に育つ。その結果…、なんの救いもない。

    自分で何も考えられない主人公を冷笑しながら読むのに、どこかで「これ、私の事じゃない?」って感じてしまう。親の言うことを聞きなさい、女の子らしくしなさい…というのは、女性なら一度は聞く言葉じゃないかな。主人公はそれに従っただけじゃないか、何も悪いことしてないよって、胸を裂かれる気持ちになる。

    あとすごいのは、少女漫画のお約束をぶち壊すところ。セオリーなら居場所のない主人公を救うために現れる優しい友人や、運命の相手の王子様も、この漫画では皆無。候補は出てくるけれど、主人公が受け身すぎて何も発展しない。ただ没個性で何も出来ない無能な女性として、淡々と破滅へ向かっていくだけ… 本当に恐ろしい。

  • こんな簡単に狂う?だろうか。
    狂う人間をもう少し・・・と思った。

    現在の、機能不全家族を生み出すきっかけになった、
    その人間が(つまり親が)、どういう人生を送ってきたのか。
    ・・・そういうことを考えさせられる。

    低温やけどの山岸さんなのだから、トラウマを読者に植え付けることなく、その後ももっと掘り下げて描いていたら
    すごいものが出来ていたのかも・・・?
    (かなり偉そう)

  • 著者の「自薦短編集」第1弾です。

    第1話「天人唐草」は、女の子はおしとやかでなければならないという父親の教えに縛られた岡村響子(おかむら・きょうこ)という女性の破滅を描いた作品。

    第2話「ハーピー」は、佐和春海(さわ・はるみ)という少年が、同級生の川堀苑子(かわほり・そのこ)という少女に死臭を感じ、彼女がハーピーではないかという妄想に陥っていく話。

    第3話「狐女」は、九耀家に引き取られた庶子の理(まさる)が、みずからの出生にまつわる呪われた秘密を知る話。

    第4話「籠の中の鳥」は、山奥に暮らす「鳥人」の生き残りとされる融(とおる)という少年の物語です。たった一人の身内である祖母がなくなり、民俗学者の人見康雄(ひとみ・やすお)という男のもとに引き取られた少年は、人見が事故で死に瀕するに至って初めて、自身の血筋に伝わる「鳥人」の能力を知ることになります。

    第5話「夏の寓話」は、夏休みに海外旅行に出かけた祖父母の家で留守番をすることになった大学生の澄生(すみお)が、6歳で死んだ少女の幽霊に出会う物語です。

    短編なので複雑な構成はありませんが、民俗学の道具立てを用いたストーリーに奥行きが感じられます。

  • 表題の天神唐草は、親からの圧力的躾をされて来た主人公の心情があまりにも辛い。山岸氏の人の陰の心境を描くのは天才的だ。
    親を毒親とも切り捨てられない、でも親からの影響が強いと感じている人には、是非読んでほしい。
    「失敗は恥ずかしいことではないと誰も教えてくれはしなかった」
    「失敗をおそれる彼女は、もう一度やりなおすということができない子どもになっていた」
    「他人の評価を気にし過ぎるんだよ」
    「誰かに認められたいというミエ
    「うまくやれないってことが、なんでそんなに大変なことなんだい?」

  • 幽霊よりも妖怪よりも人間が怖い。山岸凉子のホラーを読むといつも対人恐怖症気味になります。+1

  • 金魚屋古書店16巻に触発されて。天人唐草は、戦前の価値観にそった父親に、気に入られようとして生きてきて、ゆっくりと心が壊れていく話。ハーピーは、最初から心が壊れていて、本人が気がついていなかった話。狐女は、肝智に長けた子供が転がり込んだ旧家で波紋を起こし、最後は居場所を失う話。籠の中の鳥は、一族で一人だけある特殊な能力がないことに悩んでいたのに、最後の最後で大事なひとを守るために発揮できた話。夏の寓話は、H市というのが、広島だとわかると納得のいく、戦争で亡くなった小さな娘の幻影をめぐる話。大半は読み終えて辛く、放り出された心持ちになる。そこにはまなざしがあるだけ、道しるべはない、それがいい、という、中島らもの解説が当を得ている。

  • 彼らはそれぞれ捕らわれています。
    時代遅れの男尊女卑な価値観や歪んだ性衝動、母親の面影や田舎の古い因習に。
    抑圧された日常。募る違和感。それはいつしか耐え難い恐怖へと変質していく…。
    物語の終りに彼らは解放されます。狂気の世界への逃避、残酷な真実を知ること、後味の悪いものが多いですが。
    幽霊よりも妖怪よりも人間が怖い。
    山岸凉子のホラーを読むといつも対人恐怖症気味になります。

  • 20101007ひさびさに再読。大学の心理学系の授業で紹介されて買った漫画短編集。アイデンティティの確立からの精神障害とかたぶんそういう流れで。親に刷り込まれた女性観から抜け出せず、自分の抱えた問題にうすうす気付きながら向き合おうとしないまま精神の崩壊を迎える第1話が紹介された気がする。第2話以降も幻臭とか魂寄せ(霊媒師みたいなもの)とか・・・大きなくくりでは「ホラー」に入るかな。

  • 山岸凉子自選作品の短編集。夜叉御前より、わかりやすくて面白かった。

    これもホラーといわれるが、彼女の作品は神話や昔話をベースにアレンジしたものが多い(ギリシャ神話とか民俗学とか)。

    ネタバレになるが、中島らもさんの解説がめちゃくちゃよかった。的を得ているし、言い切るところも素晴らしい。

    ※引用
    この一冊は五人の迷い子たちの、痛々しい道行きをそれぞれに描いた作品集だと言える。(中略)山岸凉子さんはこの子たちに何かの救いを与えるわけではない。突き放して淡々と迷い子たちの茫然自失を描写していく。(中略)この姿勢は作り手としてとても正しい。冷酷?ちがう。そんなことでは全然ない。冷酷なのは「世界」である。その巨大な混沌を前に、自失し立ちすくんでいる子供たちがいる。手を差し伸べる術などない。作り手はペンを握っているのだ。(中略)手を差し伸べてしまったら、その瞬間に作品は消滅する。見ること、作り手に許されるのはそれだけだ。「まなざし」が唯一与えられたものだ。だから作者とは、神のごとく無力なものなのである。フィクション?フィクションだから何なりとして迷い子を家路につかせてやれとおっしゃるか。なるほど、そういうものが好きな人にはそれ用の作家がいる。山岸さんを選んだあなたが悪い。

    …と、なんと清々しいコメントか。彼はまた、現代に悩める青少年が、「完全自殺マニュアル」を手にとり、迷い子としてなぞらえている。大人ならそんなことしないだろう、というのが世の中の大半の常識だけど、彼らは「自殺マニュアル」をバイブルとしていないだけで、宗教・人生論・ビジネス書などなど、さもこれが聖書かのようにとらえているけれど、本質的な生に対する不安は、青少年のそれと何らかわらないと訴える。大人だって迷い子だと。気づいてないか、気づいて無いフリをしているだけで、大人とは、「かつての迷い子が行き迷い生き迷い、とんでもなくまちがった道をたどってその先の砂の中の村に辿り着いた、そのなれの果てなのだ」。愚鈍と忘却と教条が、迷い子から脱したと思わせているだけ。

    冷酷なホラー。救いようのない読了感。それこそ現実的で、余計に恐怖心を煽るのかもしれない。

    ◼︎天人唐草
    厳格な父に育てられ、自信喪失して生きてきた響子が、トラウマを負って発狂するまでのストーリー。ちなみに、天人唐草とは、イヌフグリのことで、フグリとは、犬のタマタマだそうな。

    ◼︎ハーピー
    受験システムの世界で落ちこぼれ、プレッシャーから精神崩壊をきたす佐和くんの話。女のほうがコウモリ女かと思わせておいて、実は狂っていたのは男だったというトリック。

    ◼︎狐女
    妾腹の息子として、本家から疎まれてきた理。何かと立てつきつつも、自らのルーツを探るが、行き着いた果ては、腹違いの姉と父親の、いわゆる近親相姦の果てに生まれたことを知る。さらなるメンタル崩壊。

    ◼︎籠の中の鳥
    トリとは、死者の魂のもとに飛ぶ能力を持つ人。身体に障害をもっていることが多い。トオルは、その鳥人一族の中でも、無能な健常者としてそだつ。唯一の身寄りである祖母をなくし、食べていく術も知らないまま、社会に取り残されるが、そこで思いもかけない出会いと能力を発見する。この本、唯一のハッピーエンド。

    ◼︎夏の寓話
    原爆の子の話。ある意味、浮かばれない霊としてホラーなんだけど、原爆について久々に考えさせられた。

  • 怪しげな雰囲気が好きだけど狂気が滲んでて悲しい作品が多い。

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著者プロフィール

山岸凉子(やまぎし・りょうこ)
1947年北海道生まれ。69年デビュー後に上京。作品は、東西の神話、バレエ、ホラーなど幅広く、代表作に「アラベスク」「日出処の天子」「テレプシコーラ/舞姫」など。

「2021年 『楠勝平コレクション 山岸凉子と読む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山岸凉子の作品

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