- Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
- / ISBN・EAN: 9784168130014
作品紹介・あらすじ
文藝評論家の江藤淳氏は1964年、米国のプリンストン大学への留学から帰国し、翌年に本書の元となった連載「文学史に関するノート」を「文學界」で始めた。連載で探求されたのは「日本文学の特性とは何か」という問いであり、探求の対象とされたのは、「近代以前」の江戸文藝であった。 日本にいるとき、「日本文学」の存在は自明であるが、ひとたび日本を離れれば、それは中国文化圏の周縁で育まれた亜種として捉えられる。亜種以上の特性を持っているとするならば、それは何か。本書を貫くのは、そのような切実な問いかけである。 具体的には、幕藩体制を支えることとなった朱子学的秩序を創始した藤原惺窩、その弟子・林羅山の足跡が丹念に追われ、人形浄瑠璃の世界を確立した近松門左衛門、井原西鶴、上田秋成らの作品が精緻に読み解かれていく。 江藤氏は、中国大陸からの圧倒的な外圧や影響が強く意識され、それによって乱された日本語の「自然な呼吸」を取り戻そうとするときに、日本人が古典として持つに足る「日本文学」が生み出されてきたことを繰り返し書く。「日本文学の特性とは何か」を探求しながら、日本人や日本語にとって、「文学」とはどのような営為であったのかを深く考えさせる刺激に満ちた文藝批評である。 2013年10月創刊の文春学藝ライブラリーの第一弾。解説=内田樹。
感想・レビュー・書評
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日本の文学は慶長五年(1600年)を境にして30年から60年間完全に空白であった。
日本文化を中国文化の外縁に位置する一つの変種としてとらえようとする欧米や中国の学者の思潮の中で、日本語という言語に由来する日本独特の文学の存在をみる。記・紀・万葉集以来の日本文学の背後にはある特性がひそんでいる。
藤原惺窩による詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
江藤淳 「 近代以前 」
江戸文学史の本。儒学(藤原惺窩、林羅山)→近松門左衛門→井原西鶴→上田秋成 の流れから 江戸文学を2系列に分けて 整理
日本文学の特性
*記紀、万葉の日本文学の背後にある特性=日本語との結びつき
*おろかに未練なるもの=日本の物語の女性的、情緒的性格→日本語という柔軟で 強靭な言葉に内在する発語のリズム
藤原惺窩(せいか)
*仏教から儒学への転向者
*歌学から儒学へ、現実の外から現実への 価値転換
*人を損じることなく生きるのは いかに難しいか
*利を求める人間本年の欲望を直視する→その上で 利を共にすることが可能だと信じる=理を信じる
朱子学と陸学の違い
*朱子学=理を性に存するものとみる→人間の心の本体を性として、その作用を情とみる
*陸学=理を心そのものにみる
*朱子学は 万物すべて=形の上にある理+物の形である気
近松門左衛門と井原西鶴の比較がとても面白い
近松門左衛門
*隠者の視線〜隠者に身を落として 積極的に秩序から離脱
*傾城反魂香は 土俗に裏付けられた文学
*国性爺合戦〜国家意識の高揚→儒、仏、神の範疇にぞくさないものは畜生という秩序感覚
*熊野=宗教敵彼岸性→記紀の常世
*人間の内部に食い入っていく関心→リアリズム
*古典主義的秩序を引き受けることによる 人間のロマン的破滅の美しさ
井原西鶴
*意図的な浅薄さ→人間への無関心
*西鶴の文体の空虚さ→儒学的秩序の破壊→解放力
*自己中心的な解放衝動
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【日本文学の源を探る】日本文学の特性とは何か? 藤原惺窩、近松門左衛門、井原西鶴、上田秋成などの江戸文藝を丹念に読み、その問いに答える。初文庫化。
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14/01/29。
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外来思想による統治に対する「呼吸の乱れ」から文学が生まれるという考察
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江戸時代の思想と文学について、詳細な資料を元に考察がなされています。
仏教を離れ、大陸の新たな思想を取り入れながら社会体制を変えるまでに至った儒学者たち。
浄瑠璃や小説に各々の理想を投影していった文芸家たち。
この本で紹介されているのは、日本史や国語の授業で名前を覚えさせられるような、「知らない人はいない」レベルの人達です。ですが、はたしてここまで詳細に、彼らの心の奥底にまで肉薄するような解釈がなされている教科書があるでしょうか?
とにかく手に取って読んでみるのが一番です。日本文学史の、より一層ディープな世界に誘われること請け合いです。