ルネサンス 経験の条件 (文春学藝ライブラリー 思想 6)

著者 :
  • 文藝春秋
4.43
  • (8)
  • (4)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 183
感想 : 7
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (463ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784168130137

作品紹介・あらすじ

遠近法はルネサンス期に完成し、人間を歴史の主人公とし、人間を近代的「主体」として振る舞わせる思考様式に大きく寄与したといわれる。 しかし、自身も造形作家である著者は、本当にそうだろうか? と問い返し、ブルネレスキやマサッチオら、ルネサンスの天才たちが創造した建築や絵画を見つめ直し、精緻な分析を加えていく。とりわけブルネレスキが作ったフィレンツェのサン・マルコ大聖堂のクーポラとマサッチオらが描いたブランカッチ礼拝堂の壁画が入念に解読される。 そこから導かれる解答は驚くべきものである。 遠近法によって描かれていると考えられていた絵画は、常に遠近法が崩壊し、分裂していくことを必然的にはらんでおり、しかも、それを描いた画家たちは、そのことが起きることを踏まえた上で、崩壊し、分裂した遠近法的空間をいかにして再び統一するような平面(それは当然、2次元にはとどまらない)を見る者に再創造させるかに没頭していた、というのだ。ルネサンスの芸術家の本当の偉大さはそこにある。 このことがあてはまるのは絵画だけではない。建築、彫刻、音楽、文学などあらゆる芸術に応用可能であることが示される。そして、その再創造される平面を現実の世界に出現させることにこそ、芸術の可能性があり、そこにしか芸術の使命はない、と著者は書く。 しかし、この本は芸術のみについて書かれた本ではない。 たとえば、遠近法的空間とその崩壊と分裂の背後にいつも潜在的に控えている平面の関係は、デカルトのような近代哲学が中心においた「主体」とカントが提示した超越論的統覚の関係のアナロジーとしても読めるだろう。 すなわち、本書は「もうひとつの考え方」「もうひとつの生き方」を探求する人の座右の書となるべき恐るべき書物である。 文庫版あとがきとして、驚くべき新知見が加えられ、10年以上の時を経て、「奇跡的著作」が甦った。解説・斎藤環

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ものすごい本に出会ったものだ。あと何度このような幸福な出会いがあるだろうか!

    ルネサンスの建築家ブルネレスキについて寡聞にして知らず、すでによく知られたことなのかもしれないが、彼の天才性に繰り返し度肝を抜かれた。著者の精緻な解説にもひたすら敬意を払いたい。話題は記憶術やポリフォニー音楽(調性以前の複雑さ)、アウグスティヌスの時間論にも及ぶ。イントロがマティス論であるところも心憎い。

    ブルネレスキの考案した「いたずら」はほんとに手が込んでいて、一度読んだだけでは正直理解できなかったが、理解するなり、脱帽するしかなかった(「射影変換」)。
    レオナルド・ダ・ヴィンチが単なる秀才にすぎなく思えてくるほどだ。

    「逆遠近法」なるものも初めて知り、自分の無知を噛みしめた。しかしこれは無知であるがゆえの特権で、「イコン」の「深さのなさ」にそんな深い意味があったのかと驚嘆し、いわゆる定説となっている(おもに美術の)歴史がいかに頼りないものかを実感(「「確定されえない場所」)。

    本書は美術の本であるだけではなく、世界をどう認識するかという、きわめて哲学的な内容の本でもある。
    この喜びを、本書を偶然手に取った自分だけで独り占めするのはもったいなさすぎる。なるべく多くの人に、本書を読んでほしい、そして、ブルネレスキにいたずらで騙されたグラッソのように、もはや後戻りできないほどの主体の危機を味わってほしい。
    主題はルネサンスだけれど、まるで今ここの世界を祝福しているような本だ。

  • もともと美術というものが、わかるようなわからないような…なので、わかったとはとても言えないが面白かった。著者が実作者ということもあり、絵を描く人はこんなことを考えているのか、ということが興味深かった。再読しないとちゃんと理解できないことがまだまだたくさんありそう。

  • マティス、遠近法、ルネサンス期の建築など既存の見方に揺さぶりをかける。ダンテの神曲、射影幾何学など道具立ても豊富。最後はフェルメールの信仰のアレゴリーをめぐって、主張を補強する。題名である「ルネサンス 経験の条件」が何度も変奏を繰り返しながら、論が進む。と思ったら、様々なところで発表したものの書き直し、編集したのが本書だった。

  • (図書館員のつぶやき)フィレンツェのサンタ・マリア大聖堂といえばイタリア!ブランカッチ礼拝堂、こちらも超有名な礼拝堂。こちらの絵を手掛けたのがマサッチオ。このお方、多くの画家に影響をあたえた描き方をされたすごい方なんです!そして芸術は謎に満ちている・・・その秘密を明らかに!文庫本でどこでも読めます、借りてみらんですか。

  • 4年越しの読了。大変な名著。今後何度も読み直すことになると思う。

  • 【10年の時を越えて甦る至高の芸術論】芸術の可能性と使命とは何か? ブルネレスキ、マサッチオなどルネサンスの天才の仕事を分析しながら、その問いに答えた奇跡的著作。

全7件中 1 - 7件を表示

著者プロフィール

一九五五年東京生まれ。造形作家、批評家。絵画、彫刻、映像、建築など、ジャンルを超えて作品を創造するとともに、美術批評を中心に執筆を続けてきた。一九八二年のパリ・ビエンナーレに招聘されて以来、数多くの国際展に出品し、二〇〇二年にはセゾン現代美術館にて大規模な個展を開催。また、同年に開催された「ヴェネツィア・ビエンナーレ第8回建築展」の日本館にディレクターとして参加するなど幅広い活動を行っている。
主な著書に『近代芸術の解析 抽象の力』(亜紀書房)『ルネサンス 経験の条件』(文春学藝ライブラリー)、『芸術の設計』(編著、フィルムアート社)、『れろれろくん』(ぱくきょんみとの共著、小学館)、『ぽぱーぺ ぽぴぱっぷ』(谷川俊太郎との共著、クレヨンハウス)、『絵画の準備を!』(松浦寿夫との共著、朝日出版社)、『白井晟一の原爆堂 四つの対話』(共著、晶文社)。作品集に『TOPICA PICTUS とぴか ぴくたす』(urizen)、『視覚のカイソウ』(ナナロク社)、『Kenjiro OKAZAKI』(BankART1929)など。

「2021年 『感覚のエデン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岡崎乾二郎の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ジャン ボードリ...
山本 貴光
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×