トップ屋戦士の記録: 無署名ノンフィクション (徳間文庫 か 10-37)

  • 徳間書店
3.50
  • (0)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 17
感想 : 1
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (542ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784195993095

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 梶山季之氏が取材先の香港で客死してから、早40年となりました。
    梶山氏のことをポルノ作家だと思つてゐる怪しからぬ人が未だ多くて(まあ、あれだけ量産してゐれば仕方ないけれど)、わたくしが梶山氏の話をするとニヤニヤし、君も好きだねえなどと野卑な笑ひを浮かべるヤツらがゐるのです。ま、梶山氏もサアヴィスが過ぎるところもありましたがな。最近では『せどり男爵数奇譚』の作者として若い人に知られてゐるやうです。

    そんな梶山氏も元々は第十五次「新思潮」の同人であり、純文学志向でありました。それが、昭和33年頃から始まる「週刊誌ブーム」に乗つて、トップ屋としての活動が主流となつていきます。
    因みに昭和33年には「週刊大衆」「週刊明星」「週刊女性自身」など、翌34年には「朝日ジャーナル」「週刊文春」「週刊現代」「週刊平凡」「週刊時事」「週刊コウロン」などが創刊されるといふ、空前の創刊ラッシュを迎へてゐたのであります。
    さうなりますと、紙面を支へるライターが不足します。「トップ屋」たちはその流れに乗つたと申せませう。

    本書は、「週刊文春」に発表された無署名記事を中心に、トップ屋時代の梶山氏の活躍を伝へる一冊であります。全国に取材網を持つ新聞社系週刊誌に対し、新参者の出版社系週刊誌にはそれがありません。記事の内容で新聞社に負けるな!とばかりに彼らは自ら企画立案から取材・執筆まで、大車輪の活躍を見せたのでした。
    梶山氏のその姿勢は常に反骨を貫き、権力を嫌ふ一方で、弱者には温かい眼差しを示します。タブーに斬り込むことが多かつたので、圧力・脅迫なども相当あつたさうです。

    プライバシー問題が五月蝿くなつてきた時代を反映して、実名で書けない記事もあり、中にはフィクションとして書かざるを得ないことも。本書では「話題小説 皇太子の恋」がそれに相当します。他にも、権力者の腐敗を追及する記事などでは常に訴訟問題と隣り合せになり、実名を使へぬ事が。結局それが、梶山氏を再び小説の世界へ戻す要因のひとつになつたのではと思ひます。

    本書はとうに絶版となつてゐますが、その社会的・歴史的価値は益益高まる一方であると申せませう。現在のジャアナリズムが失つたものを再確認できるといふ意味でも、復刊を望むものであります。

    では、夜も更けて参りました。今夜はこれにてご無礼いたします。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-552.html

全1件中 1 - 1件を表示

著者プロフィール

梶山 季之(かじやま・としゆき):1930-1975年。小説家、ジャーナリスト。現在のソウルに生まれる。広島高等師範学校(現・広島大学)卒業。53年上京、国語教師、喫茶店経営などを経ながら、「新思潮」の同人となり作品を発表。58年より「週刊明星」のトップ記事を担当。59年「週刊文春」の創刊に参画。71年月刊「噂」を創刊。作家としては62年「黒の試走車」を発表後、話題作を続々刊行する。75年取材先の香港で客死。産業スパイ小説、経済小説、時代小説、風俗小説など数多くの著作を発表した。ちくま文庫では『せどり男爵数奇譚』がロングセラーになっている。

「2024年 『犯罪日誌』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梶山季之の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×