クリスマスの猫

  • 徳間書店 (1994年1月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784198601881

みんなの感想まとめ

心温まる物語が描かれる本作は、1934年のイギリスを舞台に、上流階級のお嬢様キャロラインが退屈なクリスマス休暇を過ごす中で、友情や冒険を見つける姿を描いています。家政婦の意地悪に悩まされながらも、貧し...

感想・レビュー・書評

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  •  タイトルだけ見ると、とてもほのぼのとした印象を受けるかもしれないが、イギリスの児童文学作家ロバート・ウェストールの書く物語は決してそれだけではなく、当時の母国の社会状況や自己の体験も含めた、現実的なシビアさの中にも素敵な夢を見せてくれる点に、彼の思いが充分に伝わってくるようであった。

     1991年発表の本書の舞台は1934年と、その年のイギリスでは、保険料納付の有無を問わずに失業給付を行う『失業法』が制定された程、労働者階級の貧困の厳しい時代だったのだと感じ、それは飼っていた動物を食わせられないからと捨ててしまうことや、子どもがたくさんいる家では、冬でも靴が買えずに裸足で歩かなければならない、そんな事情を物語から初めて知る。

     そうした状況に於いて物語は、いわゆるブルジョアと呼ばれる、上流階級育ちの十一歳の女の子「キャロライン」と、労働者階級の少年「ボビー」の、その階級を超えた交流に清々しいものを感じながら、階級だけで人を判断してはいけないことも教えてくれて、それはブルジョアというだけで本当に幸せな暮らしをしているのかということや、労働者階級の人は、皆ブルジョアを嫌っているのかということからも感じられた、それはキャロラインとボビー、お互いにとって異なる階級の人達と実際に関わることによって、あくまでも大切なのはその中身であり、人間性なんだということを知ることで初めて実感することができた、人間一人一人が持つ、個の奥の深さなのだろうと思う。

     ただ、そうした人間の奥の深さは、時に理解できない不信感を招き、それはキャロラインの両親が海外に行った都合で、クリスマスは父の兄にあたる、教区牧師のサイモンおじさんが預かってくれることになったものの、そのおじさんは何を考えているのか、いまいちよく分からない上に、そこに住む使用人のミセス・ブレンドリーが、また絵に描いたような敵意剥き出しの嫌な奴で(まさにジョン・ロレンスの絵が何よりもそれを表している)、何かにつけてキャロラインを目の敵にしては、あら探しをするといったやり方に、まるでサイモンを手懐けているのを邪魔するなと言わんばかりの「ブリブリばばあ」ぶりが、やがてはタイトルにもある猫への危機にも繋がっていき、それに対して、キャロラインとボビーが奔走するといった展開が軸になる中、サイモンにとっても救いとなるものが含まれていたことに、私は嬉しさを覚えた。

     確かにサイモンはキャロラインに対して、気の利いたことやイギリス人お得意の辛辣なジョークも言えない素朴な人柄であり、それは食事中に話題を探そうとしても見付からずに、ただ黙々と食べるだけの時間特有の沈黙が重苦しいムードにもよく表れていたが、それならば、キャロラインを預かると言った彼の真意とは何なのかと考えたとき、サイモンが妻も子もいない独り身であることと、二人のクリスマスに対する印象が異なっていたことを思い出す。

     それはキャロラインが、山ほどプレゼントを抱えたサンタであったのに対して、サイモンは、「恵み豊かな、しずかなクリスマスを」と書かれたクリスマスカードであり、子どもたちにとってはカードよりもプレゼントの方が嬉しいことに間違いはないと思うのだが、それを本書の山場と思われる、あの場面に重ね合わせるとは全くの予想外でありながら、それがキャロラインやボビーや猫はもちろん、他の子どもたちや大人にとっても素敵なプレゼントとなったことには、サイモンにとって、あのカードが決して『小さなみじめったらしいそれでは無かった』証でもあるのだと実感したとき、私には親が子を想う言葉にできない大切なものが胸に浮かぶようで、それはウェストールの作品の第一の読者として作品を読んでくれていた、息子クリストファーの十代での事故死とも重なり合うような(訳者坂崎麻子さんのあとがきより)、ウェストール自身にとっても大切なものだったのかもしれないと感じられたことが、本書を読んで最も印象深いことであった。

     その他にも、動物を飼いたくても飼えない社会状況の中でキャロラインが出会った、身重の猫はどうするのかといった命の大切さについて問い掛けていたり、サイモンやミセス・ブレンドリーと向き合いながら成長していく、キャロラインの姿も描いていたりと、その気になれば一日で読み終えられるような僅か120ページ弱の物語の中に、これだけ多くの要素をバランス良く盛り込んだ、ウェストールのエンタテインメントぶりが光る中、これまで読んできた彼の物語の末に辿り着いた、ここでの未来のある結末を思うと、本書を発表した二年後に彼が亡くなったこともあって、何かとても心に染み入るものも私には感じられたのである。

  • 季節外れのクリスマスの本。
    だが、コロナ禍の現在、少しでも気持ちを明るくしてくれる本が読みたくて…童話でタイトルにクリスマスと猫、とくれば間違いないと…期待に違わず心を温めてくれる本だった。

    時は1934年。第二次世界大戦前夜のイギリス。

    主人公は、目が覚めるような赤毛が腰まであるスラッとした魅力的な(自称)11才の女の子、キャロライン。
    余談だが、欧米では髪の色に伴う人物イメージというのがあるのは有名な話だ。赤毛は、個性的でちょっとエキセントリックといったとこだろうか。
    キャロラインも上流階級のお嬢様だが、おしとやかとは程遠く、自立心旺盛で、行動的。

    寄宿舎もクリスマスの休暇を迎え、家に帰るのを楽しみにしていたら、独り者の牧師の伯父さんの所へ行くようにと父親から手紙が来てしまう。

    訪れた北の港町は、貧しい労働者ばかりだし、牧師館のお手伝いさんミセスブリンドリー(ブリブリばばあ!)は、暖炉に火も入れてくれない冷徹な人。牧師の伯父さんは優しいけれど、キャロラインをどう扱っていいのか分からず会話が出来ない。
    寂しく、辛い気持ちになっていたところに、牧師館の塀を乗り越えて敷地に入ってきた同い年のボビーと、友達になる。
    辛くてつまらないと思っていた、クリスマス休暇が、にわかに楽しく冒険心をくすぐるものに!


    子どもの頃、空き地に基地を作って遊んだな〜、なんてことを思い出しながら、あっという間に読んでしまった。

    格差は、それこそケン・ローチ監督の「私はダニエル・ブレイク」以上に酷いのだが、人々の貧しさに負けない逞しさに重点が置かれているので、明るい気持ちで読める。
    実はこれ、おばあちゃんが孫娘に語る形で始まる物語。最後には、なるほど!のオチもある。
    ウェストールの話は暗い影のある物が多いようだが、本書は例外的なのかもしれない。
    2020.4.27

  • この物語はおばあさんが孫娘に、自分の子供時代の思い出を語りかける形で描かれている。
    舞台は1934年のイギリス。両親が外国に行くことになり、ノースシールズの牧師のおじさんの家に預けられることになったブルジョワのキャロライン。汽車を降りて魚の燻製や干物の臭いがするノースシールズと、お嬢様という対比が鮮明に描かれる。
    牧師館には性格の悪い家政婦がいて、そのため教会自体も評判が悪い。いちいち意地悪なこのミセス・ブランドリー(通称ブリブリばばあ)がまぁいい感じの悪役っぷり。この手の、子供に全く優しくない大人というのはよく昔の本には登場する。
    さて、この暗く、門の外に出る事も禁止されているまったく楽しくなさそうな牧師館で、キャロラインはどう過ごすのかドキドキさせられる。

    児童書と言えども、お花畑のような内容ではなく、当時の世相を反映し、貧富の差の激しい壁の内側と外側がリアルに描かれている。そこで出会う少年と猫がキャロラインの毎日を変えてくれるのだが、さてさて、最後はどうなりますかw

    人はどう暮らすべきか、現状をどう受け入れるべきか、薄い本ではあるけれど、本当に濃い内容だった。

  • 牧師でやもめ暮らしの叔父さんの家に預けられたキャロライン。退屈な暮らしの中で、貧しくも元気な少年ボビーと出会い、お腹の大きな母猫を協力して養う。性悪な家政婦ミセス ブリンドリーと真正面からやり合いながらも、クリスマスだというのに寂しい牧師館に奇跡をもたらす。

    読んで良かった。特にラストが、ほのぼのしみじみといい気分になる。ありふれたおとぎ話のようだけど、でもいい終わり方だよね。

  • 1934年冬、上流階級の子キャロラインは教区牧師のおじさんの家に預けられることになるが家に到着すると性悪な家政婦のミセス・ブリンドリーに追い払われる。とてもつまらない生活の中で家の塀を乗り越えて家にやってきた町の少年ボビーと仲良くなる。

    2人にハッピーなクリスマスはやってくるだろうか?

    90年前のイギリスの階級社会を体感しつつ、イギリスのクリスマスを味わうことができました。最後はほっこり。

    最初ボビーが「宗教は大衆を酔わすアヘンである」(P36)や「革命がおこったら、われわれはその時計を国有化する。」(P37)と言い出したり、さらにキャロラインのモノローグで「労働者たちはこの銀行を襲って、まず手始めにこの人を手ぢかの街灯につるしちゃうだろう。」(P63)や「ミセス・ブリンドリーだって使用人のはずだ。」(P65)と思い至るくだりは、なかなか今の日本人にはない発想だなと感じました。イギリスだと今でも当たり前なのかな。

    ミンスパイ、食べてみたいなぁ…とふと思ったらクックパッドにありました。英国大使館の公式キッチンのミンスパイ
    https://cookpad.com/recipe/2439579

  • 1934年のクリスマスに11歳のキャロラインは牧師のおじの家にあずけられる。おじの家には意地悪な家政婦がいて、家は寒く外出は禁じられていた。
    庭で見つけた猫に食べ物を分けてやり、庭に忍び込んでいた少年と仲良くなる。

    上流階級と労働者階級、街には失業者で溢れていて猫や犬に食べさせる余裕もないといった当時の様子も分かりやすい。

    クリスマスはこうでなくっちゃというラストに心温まった。

  • すんばらしいクリスマスストーリーに、カフェのすみっこで泣いてました←不審なおばちゃん。。

    イギリスだけでなく、ヨーロッパの物語にはやっぱり貧富というよりも階級の差のことが描かれますね。本当に憎らしいんだけど、それが子どもたちのお話しとなると、なんて清々しいんでしょ!

    どの階級にもそれぞれ素晴らしい人、憎らしい人がいて、子どもたちは、愛のある人のもとへ導かれる。

    ブルジョアな家庭で育つキャロラインは、クリスマスシーズンを牧師である叔父の家に預けられてしまう。おじさんは優しいけれど孤独で寡黙な人。街の人からいつしか敬遠されている。
    おじさんの牧師館に仕える家政婦が悪い女!
    牧師館から出られないキャロラインは、馬小屋で見つけた痩せっぽっちの猫に隠れて餌をやることに楽しみわを見つけていた。
    ほどなくしてボビーという男の子と庭の塀越しに出会い、内緒で街へと抜け出して、牧師館が街の人たちからどう思われているのか知るようになる。また、街の人たちの本当の暮らしぶりを目の当たりにするのでした…

    そこから先の二人のスパイごっこは、素晴らしいクリスマスの絵葉書のような出来事へとつながるのです。。

    あ〜!こんな素敵なお話しがあったなんてねぇ。知らないまま生きていくところでした!
    そんな人生もったいない。

  • 1934年のクリスマス。キャロラインは牧師のおじさんの家に預けられます。おじさんの家には意地悪な家政婦がいて、外出もままならないw。しかし、ある日、キャロラインは侵入者のボビーと友達になります。そして、いつのまにか住み着いた身重の猫を保護する事に。
    よくある設定なのだが、イギリス社会の階級が子どもたちにも影響しているのが印象的だった。さらに、そんな事をモノともしない2人がとても良かった(^^)ロアルド・ダールっぽい印象。

  • 大切な友達が、大好きな児童書店の店主と相談してクリスマスに贈ってくれました。

    猫はどうなっちゃうの?とハラハラしたり、キャロラインの寂しい気持ちに寄り添ったり、ボビーを通して貧しい暮らしとは何かを初めて知ったり。真心をこめて誰かや何かのために一生懸命になれば、協力してくれる大人もいる、ってわかったり。

    時代や国を超えて、大切なことをたくさん教えてくれる、温かいお話です。

  • 牧師のサイモンおじさんのところへ冬休みに行かなければならなくなったキャロラインの話。
    とても優しい文章でした。

  • ある女の子が、クリスマス休暇に体験した冒険。

  • 暖かく優しいクリスマスストーリー。
    悪役のお手伝いさんがもっと悪役に描かれていたらどきどきワクワクしただろうに…と思うけど、そういう種類のお話ではないから仕方ない。

  • 本物のクリスマス物語というのは、もちろんキリスト教圏にしかない。
    でも、異教徒(というか無宗教)の人間に、クリスマスの奇跡を実感させ、敬虔な気持ちになるようなクリスマス物語は多くない。
    しかしこの本は、非キリスト教徒の胸にも教会の鐘が鳴り響くように感じられる名作。
    ウェストール自身が、世界の矛盾に敏感で、宗教自体にも懐疑的なところがあるからこそ、この素晴らしい物語が出来上がったのだと思う。
    この薄い本で、戦前の社会状況、イギリスの階級社会、人間の脆弱さ、そしてそれでも生きていくことで感じられる幸せが過不足なく語られる。
    上流階級で利発で誇り高く孤独な娘と、労働者階級で機知に富んだ勇気ある少年、気弱でどこか心にうつろなものを抱えている牧師、身分は低いが、人の上下関係を察知するのが得意で、弱い人間を支配することで自己肯定感を得ている家政婦、そして身ごもった猫。
    すべての設定が完璧。
    鬼のような私でも、ラストシーンでは涙が。
    この終わりかたを心から嬉しく思った。
    すれっからしにこそ薦めたいクリスマスの物語。

  • クリスマスは、皆で祝うもの、特に貧しい人達のもの!

  • 生まれ育った環境は違うけれど、子どもながらに「守らなきゃいけないもの」をちゃんと判っている少年少女が、冷え切った大人たちの心をも揺り動かしていく。痛快なクリスマス童話。

    何といっても、上流階級育ちで気が強い女の子(主人公)が可愛くて頼もしい!
    おてんばな少女時代を経て、素敵な伴侶を得、いたずら心を忘れないおばあちゃんになるって、理想的な「女の子の一生」って感じ。

    視覚的に印象深いシーンも多く、絵を見るように読む物語でした。

  • 老婦人が孫に語って聞かせる物語。という設定が、良い。誰しも年をとる。誰しも若い頃がある。子どもの頃は、それが当り前であることを知ってはいても、実感することは難しい。
    でも、想像してみてごらん。自分の祖父母たちが、自分たちと同じような子どもで、ドキドキハラハラする冒険をしていたということを。それは、両親を想像するよりは易しいかもしれない。

  • 2011年12月24日

    <THE CHRISTMAS CAT>
      
    装丁/前田浩志、横濱順美

  • 珍しくひねくれないウェストール。ラストが暖かで、爽やかだ。おすすめ。

  • 1934年のイギリス。上流階級の女の子・キャロラインが、牧師の叔父さんの家でクリスマスを迎える・・というお話なんだけど、階級の落差がくっきりと色分けされていて、これは今もそうなんだろうか。それとも、第一次世界大戦前だということを思えば、かなりの昔のお話なわけだから、今のイギリスは違うんだろうか・・、なんてことが一番気にかかってしまった。ストーリーとしては、人のいい牧師さんである叔父さんが性悪の家政婦さんのおかげで町の人たちと仲良くできなかったり、ピンはねをされていたり、という事態を姪っ子の活躍によって助けられ、楽しいクリスマスを迎えることができた、という明るいお話・・のはずなのだけど、貧富の差、雇用者と使用人の間にある越えられない溝、が背景としてあまりに当たり前のこととして描かれているのが辛かったかな。ただ、お祖母ちゃんとなったキャロラインが自分の子どものころの冒険談を孫に語るという形式で、しかも、その冒険のおかげで何を手に入れることができたか、というサプライズまで読者に用意されているところが嬉しかった。(#^.^#)

  • 寒々しいけどあったかい話です。
    身分でなく、心を見て恋をした主人公が好ましい。
    クリスマスに良いことがあると、何でも、奇跡、に昇華されちゃうのね。

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著者プロフィール

1929~1993.英国を代表する児童文学作家の一人。「かかし」(徳間書店)などでカーネギー賞を2回、「海辺の王国」(徳間書店)でカーネギー賞を受賞。

「2014年 『遠い日の呼び声 ウェストール短編集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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