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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784198611705
感想・レビュー・書評
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閉塞感のあった20世紀末の科学界についての、その当時の名評論。
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理系学問あるいは社会科学系学問がどれほど価値のあるものかを評価する基準として、それによってどれほど正確に予測できるかということがある。理論が正しいものであるかは、予測性によって試される。
ニュートン以来の物理の発展によって、予測性は驚異的に進歩した。物理、工学、数学などの一つの象徴的業績として人類による月面着陸がある。その後も基本的には理学系の学問の予測精度は前進していると言っていい。
その予測精度が増す学問とは裏腹に予測性が重要でありながら、必ずしも予測性という点において十分なというようよりも少しも前進が見られない分野が際だってきた。
それが天候であり、心理(意識)、経済などの分野である。予測することがなぜ難しいか。それが何に起因するのか。その本質的原因はどこにあるか。すでに物理分野では不確定性原理によって素粒子レベルにおける位置と速度を同時に決定することができないことは分かっていた。
だが、それより遙かに大きさの点でスケールの大きいレベルでも予測することが困難な理由が二つ見つかった。それがカオスであり、もう一つが複雑系である。カオスと複雑系は同じものだと思われることが多いが、全く別の話である。
複雑系は、心理や天候、経済などはその運動原理が多数存在し、しかも相互に有機的に絡み合っている。それ故にそれを実際に計算して未来における状態を完全に予測することができないことを意味する。その一例として「三体問題」がある。惑星の運動のような単純な運動方程式で表される運動でも、それが恒星と惑星のように2体間であるならば相互の重力作用を計算し、厳密な運動状態を予測できるが、それが3体になると計算にとって予測することは特別な条件下でない限り困難である。それが天候のようにいくつもの要因が相互作用するとなると実際的に予測は不可能になる。
カオスはその複雑なモデルすら関係なく、ひとつの非線形な方程式に解をフラクタルに代入し続けるだけで何回か先にはどうなるか計測が困難になる
つまり単純な方程式を複数か、一つの非線形方程式だけで予測困難になるのに、天候、経済、心理は非線形方程式がいくつも相互に作用しあうので予測はますます不可能になる。
だからこれらの分野においては厳密に予測することこれからも不可能である。
ただし、という注意点がつく。厳密な予測は困難であるが、おおざっぱな予測なら必ずしも不可能とはいえない。どういうことかというと、この複雑な形態をゲシュタルト態として、つまり有機的なシステムの総合的動きとして分析するなら、予測は可能性がある。
脳神経は複雑であるが、人間というシステムととらえれば大局的に行動を予測できる。
失恋すれば悲しむであろうし、悪口を言われれば怒りを覚えるだろう、褒められれば喜ぶに違いない。これらの人間感情は脳神経の電気信号を物理的に計算しなくても高い確率で予測できる。
科学はデカルト以来システムは部分に還元して理解する方法をひとつのドグマとしてきた。だが全体≠部分の和であるシステムにはそれは通じない。システムを全体の有機的動きとして捉え、どう運動するかを考察する学問はまだ存在しない。もちろん、個々のレベルでは存在する。経済も天候もそれに近いアプローチはある。しかし、それは還元主義の妥協の産物としての扱いでしか無く、積極的に研究しているものではない。
もちろんそれは厳密性を欠くものである以上、予測は確率的にならざるを得ない。それでも全く予測不可能であるよりは全然増しである。 -
分類=科学。00年4月。
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インタビュアーの手練手管を堪能
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