戦争と平和 (アニメージュ叢書)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198615239

作品紹介・あらすじ

あの『機動戦士ガンダム』を創りだした富野由悠季が、気鋭の評論家たちと語った「見えない戦時下での共存原理」。

感想・レビュー・書評

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  • ガンダムの原作者としてあまりにも有名な富野由悠季に対して
    上野俊哉(左翼的な大学助教授)
    大塚英志(多重人格探偵サイコの原作者、サブカルおたく、戦後民主主義チルドレン)
    ササキバラ・ゴウ(フリーライター、編集者)
    の3人が9.11をきっかけにしてインタビューした本。
    司会は大野修一(徳間書房、アニメージュ編集長)。
    インタビューということになっているけれども
    どちらかというと5人の雑談のような構成になっていて
    話題があっちこっちに飛び火してて
    それが逆に面白かった。
    ガンダムシリーズで描こうとしたことや
    結果として描かれてしまったことはもちろんのこと
    タイトル通り、平和と戦争についても語られてる。
    ガンダムを通して現代社会を読み取るようなところがあるんだけど
    ガンダムをリアルタイムで経験してきた彼らにとって
    それは自然なことのようだ。
    それは9.11の映像を見て
    ハリウッド映画を見ているようだ
    と僕らが感じたのと同じ要因で。
    話で興味深かった点をいくつか挙げておこう。


    ガンダムでは戦争よりも戦場を描いてきたが
    戦場には戦線というものがあった。
    しかし現在の状況では市民の中に兵士が隠れている状態で
    戦線の構築は不可能であり
    富野は構想として「ガンダム・パトロール」なんていう
    現状に沿ったリアルなものを構想できているのに
    例えば日本の自衛隊の派遣に関する国会の審議では
    いまだに戦場だの戦線だのと言っている。
    その認識不足の問題。

    武器は人を殺すための道具だから
    それを持つということは
    殺し殺されることを前提とすることなのに
    それに言及せずに自衛隊の派遣の際の武装について
    論議が進んでいることに対する違和感。

    ガンダムにおいてモビルスーツがあくまで道具として描かれていたように
    人間にとって道具は道具であり続けなければいけないという富野の思い。
    そのために富野作品はロボットと人が融合することを避けていること。

    教育の必要性と教育問題。

    富野はあくまで体系ではなくて物語を創作していたということ。
    そのためにキーワードにする言葉を探しはするが
    物語論的に作りすぎると調べたことを論じるだけの
    ストーリーとしての深みも面白みもないものになってしまうから
    そうはならないように気をつけているということ。
    年表を作ってるファンとかいるけど、小ざかしいってさ。

    経済発展を前提にした資本主義は
    消費を拡大するしかないわけで
    そのために例えば携帯を新機種が出るたびに換えるような
    人間の生理機能とは無関係な感覚以上を蔓延させていて
    やっぱりそれは地球のサイズに限界がある以上
    いつまでも上り続けるものではないので
    その基本理念自体を考え直す必要があるのではないか、ということ。

    消費を前提としている社会の例として
    アメリカで100年ずっと切れない電球を作った会社があって
    いまもその電球はついたままなんだけど
    電球が切れないために売れなくて
    その会社はとっくに倒産してしまったという話。

    ガンダムはリアルロボットものと呼ばれていて
    富野は2次元アニメの何がリアルなんだ?と思っていたんだが
    実際に2次元の女の子にしか興味がないおたくの存在を知り
    それが比喩ではなくリアルってことなんだと悟った話。

    宮崎勤の特別弁護人をした大塚英志によると
    宮崎勤が少女を殺した動機は
    自分の物語に反したから、ということらしい。
    最初はピクニック気分で女の子とドライブしたりしてたんだけど
    少女が嫌がったり帰りたいと行った時に
    自分の物語を裏切られたと感じて反抗に及んだと言ってたらしい。
    自分とは違う物語・自我(ソフトウェア)が
    自分の物語と相容れないときに
    衝動的に人を殺してしまうというのは
    殺意がある人よりもある意味では危険と言える。
    ブッシュの物語とビンラディンの物語が相容れなくて
    お互いに寛容さを失っているのも同じようなものだろうと。
    予断だが、僕は最近インターネットの弊害を考えてたんだけど
    それはまさにこういう事態を引き起こしてしまうということだった。
    インターネットは世界に開かれているけれども
    人は選択的に情報を仕入れるので
    自分と相容れないものは排除してしまう。
    結局、自分と物語を共有できる人同士のコミュニティが
    世界規模で広がってしまうから
    世界が細分化されてしまうし
    また相容れないもの同士は交流しないので
    社会において生じるような軋轢を回避しながら過ごせるので
    どうしても他人に対する寛容さを培い難いのだ。
    小さいときから自分好みのものしかない状態で
    育った子供ばかりになったら
    きっと気に入らないだけで人を刺しちゃうよ。
    あぁ、すでにそういう人いるね。
    怖いなぁ。
    なんて思っている。

    地政学的な考え方。
    自分が何に帰属しているのかとの問いに
    富野は日本という土地に帰依しているのだ、と。
    四季があり瑞穂の国と呼ばれた
    豊かなこの国の風土を自分はよりどころにしているのであって
    現在の日本国家に帰依しているのではない。
    日本は好きだけど日本政府は嫌いってことかな。
    これはすごい分かる。

    いまの若い人はなんでも気持ちいいか悪いかで判断するけど
    その基準が低すぎるんじゃないか。
    エクスタシーやオーガズムまでいって初めて気持ちいいんであって
    文章表現が気持ちいいとかそんなもので気持ちいいなんて
    なんか可哀想だよ、と。
    まずは身体性を取り戻しなさい。
    そして気持ちよさの奥にある
    気持ちいいだけでは表現できない何かを
    言葉にしようとする努力をしてくださいと。
    身体性も言語領域も後退しちゃってるよ、と。
    僕は最近、単純感覚のみに頼り切っていたので
    この部分の指摘はホントに耳が痛くて反省しました。
    ごもっともです。

    ターンエーガンダムには黒歴史っていうのが出てくるらしいんだけど
    語られなかった歴史っていうのがあるんだよってことらしい。
    例えばアメリカは先住民族を虐殺して成立した国だけど
    そのことについての悪はアメリカでは教育されないこと、など。
    ちなみにアメリカと日本を
    同じ意味で国家として捉えることの危険も言及している。
    それは日本は国=民族だからナショナリズムは民族的になるけど
    アメリカは人種の坩堝だから民族単位で国をまとめることができないので
    アメリカを共有するための概念によってまとまっている国でああるから。


    政治的な意見のまったく違う人たちが
    こうやって集まって話ができるってことが
    僕にはとても新鮮で面白かったです。
    お互いに対する尊敬と
    ガンダムという共有できるものがあるからかな。

    あっ、大塚英志の注釈が面白いっす(笑)。

  • ・P137:日本という風土
    富野
     そもそもは、地政学的に日本人がここに流れ着いてきたという歴史があります。
    〜中略〜
    瑞穂の国と昔の人はよく言ったもんで、あれはただのレトリックではなく、ひょっとしたら世界中を見てきたやつが「やっぱりこの土地は瑞穂の国だぞ」と言ったんじゃないかと思えるくらいです。海外へ旅行に行くたびにそう思います。最近もシベリアの上を飛びましたが、嫌になるくらいの白樺林か湿地帯が続きます。ヨーロッパへ行ってもあちらはみんな茶色い川ばかりで、「こんなところだったかな」と思いました。だから俯瞰で見れば見るほど、日本という土地を好き勝手に汚染させちゃいけないと思います。今の日本国家が好きかと聞かれたら、それは全く別の問題になります。

    ・P140:日本人はどこから来たのか
    大塚
     最近また、単一民族論みたいなことが政治家の失言で目立ってきているでしょう。慶應の小熊英二なんかが盛んに指摘しているんだけど、それは戦後以後の言説なわけですよ。戦前の日本では、インチキ古代史系から、柳田民俗学や考古学、岡正雄の民俗学に至るまでどれも、他民族が日本列島に流れ込んできて一つのネーションみたいな漠たるものを形成していったという前提が、少なくとも共有されていた訳です。たとえその内容が事象的には間違っていたにしても。

    ・P183:海軍のメンタリティと国民性
    富野
    〜中略〜
     だからここ数年感じたのは、「うーん、旧日本海軍の軍人みたいなインテリにはなりたくない」ということでした。50歳になったときに、海軍の軍人みたいに思考停止している感じが匂ってくるのは避けたい。これ、ちょっと説明がいるんですが、海軍の軍人はあれだけお勉強ができて、あれだけ体を鍛えて、なのになぜみんな中央政権に対して物申すことができなくなったのか、ということです。

    海軍というのは、7, 80年前で言えばかなりエリートの集まるところだったんですが、その頭脳が大正から昭和にかけて、たかが2, 30年の間に簡単に瓦解していってしまう訳です。その原因は具体的にあるんです。僕は海上自衛隊の護衛艦の見学に見学に行った事があるんですが、潜水艦の艦長とちょっと話をする機会がありました。そのときにわかったんですが、海が好きとか船が好きというのはどういうことかというと、つまり人がいっぱいいるところで暮らすのが嫌いということなんですね。

    富野
     ましてや、政治に関わるということは本能的に忌避しているところがある。そのために海軍に行っているのか、と思わせるところがあるんです。

    大塚
     政治やってたのは陸軍ですからね。

    富野
     そう。だから、必ずしも戦争が好きだから海軍に入ったり、軍艦が好きだから海軍に入ってるんじゃなくて、実を言うと現世の暮らしが嫌だから海軍に入っているという性格の人がかなり多いという事がわかったんです。

  • 2001年9月11日
    世界の歪みはより明確化されました。
    それを主題にアニメーションの中で常に戦争を描いてきた富野由悠季氏を中心に大学助教授、作家、ライターとそれぞれの立場の方達が“戦争”について多方面から考察しながら対談し
    それを纏めた一冊です。

    刊行されたのは2001年の暮れの頃。
    発売当時に購入しましたが、つい最近まで積みの山の中で熟成させていました(笑)

    最近になってやっと手にとりましたが
    むしろそれはある意味正解だったのかも知れません。
    刊行されたこの頃、確かに“あの光景”は衝撃的でしたが
    でも、まだまだ“対岸の火事”な印象も拭えませんでした。
    しかし、ここ最近の国内の“政治の暴走”を目の当たりにするにあたり
    むしろこのタイミングで本書を手に取ったのは
    それなりの意味があるのではないかと思いました。

    明確な戦場など存在せず
    それこそ“いつもの場所”がある日“戦場”になり得るとの記述には
    背筋に寒いものを感じました。

    切り口がかなり興味深い一冊です。

  • ¥105

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著者プロフィール

とみの・よしゆき 「機動戦士ガンダム」シリーズの総監督にして原作者。多くのヒットアニメシリーズを手がけているほか、ノベライズ、オリジナル作品も含めて50冊以上の著作がある。

「2010年 『リーンの翼 3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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