めぐり会い

著者 :
  • 徳間書店
3.06
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198625276

感想・レビュー・書評

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  • 愛に飢えた男女、繊細だった少年の行く末、身近で起こる凶事、これらがどうまとまるのか
    ノンストップで読ませるラブサスペンス作品です。女の孤独と男の絶望が交互に語られます。
    「見知らぬ少年の写真に一目惚れした主婦の話」ここから私が想像したのは、狂気じみた
    ラブストーリーでした。それとは少し違いましたが、ある意味、狂気とも言える…かも。

  • この本、ジャンルとしてはミステリー仕立ての恋愛小説という事になるのかな・・・。
    でも、あまり恋愛小説!という感じではないです。
    人間ドラマと言えるかも。
    まあ、甘ったるい恋愛小説は好きじゃないのでこれくらいの方がホッとして読む事ができました。

    この話は二人の男女の目線から描かれています。
    女性の方は主婦の華美。
    彼女は夫に愛されていない。
    夫には彼女と結婚する前からの10年来のつきあいの女性がおり、本当に愛しているのはそちらの方。
    華美とは家柄が釣り合うからという理由で結婚した。
    愛されていないと感じている彼女は自分に自信がなく、心が傷ついている。
    絵を描くのが得意な彼女はある日、スケッチに行った際に持っていったデジカメを他の人のものと取り違えてしまう。
    帰って中の画像を確認するとそこには14歳くらいの少年の姿が。
    純粋な雰囲気の美しい少年に彼女は恋をしてしまう。

    男性の方はミュージシャン。
    実は彼は華美が恋をしている少年の10年後の姿。
    複雑な家庭で育った彼は詩を書くのが好きでやがてミュージシャンになった。
    そして曲がヒットして一時は割と売れていたものの、ファンの女性に刺されるというショッキングな出来事により曲が作れないスランプに陥ってしまう。

    彼らの話が交互に進んでいきますが、実際には二人は出会ってなくて個々の話が進んでいくのでどうも恋愛小説というには濃度が薄く感じられます。
    読み終えて思ったのは、この話、読者の思い込みや勘違いを利用する伏線がたくさん張られていたんだということ。
    例えば、二人には共通の知人がいますが、その人の雰囲気が女性側から見たものと男性側から見たものとでは全く違う。
    だからこの人物が実はあの人と分かった時、「え?そうなの?」とちょっとビックリしました。
    他にも、
    14歳の少年が起こした放火事件。
    ミュージシャンの男性がタイムスリップし、過去に帰る夢をみたというくだり。
    夫の華美に対する思い。
    華美が描く絵の自己評価と客観的評価。
    そういったいくつかの勘違いや思い込みを綿密に計算してそして意外な真相につながる・・・という仕上げの話になっています。

    読んでいる最中、面白くは読めましたが、読み終えてそういった作者の計算が見えてくるとちょっと白けた部分もありました。
    それよりももっと主人公の女性の純粋な想いみたいなのに重点を描いて書いてほしかった。
    ストーリーに刺激を与えるためにいろんなエピソードを入れたんだろうけど・・・。

    私は主人公の女性の「愛されてない」という想いで切なく過ごしている心情が描かれた序盤の文章に共感しました。
    見方によっては少し子供っぽく、自信がなくて、言いたい事もはっきり言えない女性。
    見る人によってはイライラするかもしれませんが、私は彼女の気持ちが理解でき、共感できました。
    だから最後まで応援する気持ちで読めたし、最後も納得できました。

  • その後が知りたい!

  • 自分に自信がなく、家柄だけが取り柄だった華美は、見合いでひとまわり年上の医師と結婚したが、夫には長年の愛人がいて、鬱々とする毎日だった。
    ある日、ふとしたことから手に入った他人のデジカメの画像を見るうちに、華美はその中の見知らぬ美少年に惹かれていく。
    熱い感情を抑えきれず、画像から少年の家をつきとめた彼女は、そこで彼の恐ろしい犯罪を見つけ出してしまうが…!?
    愛されず、自立もできない無力な女が、「運命の出会い」をきっかけに変貌していく姿と、その驚くべき結末を描いた、奇跡のラブ・サスペンス。

    とあらすじにはありましたが、サスペンスではなく恋愛小説のようでした。
    ですがもちろんミステリ的な仕掛けは施されてあります。
    時間軸のズレを感じつつ、どう着地させるのか期待半分不安半分でしたが、お見事。
    この仕掛けが最後に明らかになるあたりは久しぶりに、巧いなぁと感じさせられました。

    今回はとってつけたような密室トリックなどもなく、とてもスッキリ。
    お得意のおんなの情念は満開で、いろいろなパターンの「おんな」をノリノリで描いたような感じ。
    このへんをつきつめて書いたら、もう少し一般受けする作品になるんじゃないかなぁ。
    この作品ももっと読まれてもいい気がしました。

    最近は本気で追いかけるのをやめようかと思っていましたが、こういう路線でいかれるならもう少し付き合ってみようかな。
    岸田作品としては久しぶりに面白かったです。

  • 岸田るり子さんの作品は、いつも妙な現実感を伴って引き込まれてしまう。
    この作品は、私にとって身近な土地、京都に加えて4月15日の日付の写真から始まる。その日付は、現実の日付とぴったりと重なり、まるで今、身の回りで事が進行していっているような、不思議な感覚にとらわれた。

    それは彼女の第一作を読んだ時もそうだった。
    あの時は、ちょうど私がチックを使った実験をしてまとめようとしているところだった。作品中のフランスの研究所や研究者も、元のモデルが具体的に浮かんでしまっていた。その余分な知識のせいで、逆にトリックが読めてしまったのは残念だったけれど。

    まあ以前の作品は置いといて。
    この作品は犯罪のミステリがコアに据えてはあるけれど、本当のミステリはタイトルにある。
    この先はネタバレを含んでしまうので、読まれる方はご注意ください。



    絵を描く主人公の女性は、10歳ほども年下の少年に魅せられる。その場面が素晴らしい。その女性は、少年の残した詩の断片に魅かれるのだ。そして少年の絵を描く。
    絵描きの彼女にとって、絵を描く行為は、その対象に同化して体感することなのだ。そのあたりは、桜を描くシーンでしか語られない。だけれど、絵描きの眼で物を観察する行為は、対象の魂をその内から感じることに他ならない。

    詩を書く少年は、きっと表現する時に対象を視覚ではなく、感情で感じ取る人だったのだろう。だから、彼には、彼女の心の痛みこそが自らの痛みのように感じ取れたに違いない。彼の感性は視覚としては現れないのだ。

    だが、作品の中ではそんな風には、語られない。
    だけれど、語られないところでまで、現実のように読みとれてしまう。

    少年が書き、時が残した詩の言葉には、たしかな彼の予感が刻まれている。ただ、少年はそれを予感だとは思っていない。それを予感だと作者も語らない。
    絵描きの女性も、やはり「めぐり会い」を予感している。だが、現実的に考えて、その予感を受け入れようとはしない。

    運命を考えるとき、この物語はあまりにも事実を描いている。
    私たちは、人生を振り返ってみると、何度も予感している。知っている。
    ただ、その予感を頼らないだけだ。現実や経験を頼るだけだ。

    さらに共感したのは、登場人物たちがそれぞれの視点から相手を語る時、随分と間違えた理解をしているところだ。
    フィクションなのに、あまりにもリアルだ。

    人は他人のことを、ほとんど理解していないのにも拘らず、自分のわずかな経験に基づく狭小な視点から、無理な解釈を当てはめて納得しているのだろう。
    そして、相手の立場に立って考えるということができずに、理解していないことにも気付かずに、相手を非難するのだ。

    作者の鋭い視点はさらに冴えわたる。自分勝手で計算づくの、欲望に満ちた「愛」がたくさん語られる。現実に人が愛と呼ぶものの中身は大抵こういうものだ。

    それらのことを、作者はただ静かに描く。
    世の多くのいわゆる「人間関係」というものの真相を、ただ静かに優しく描く。

    だが、この物語が本当に美しいのは、その先に真実の愛が描かれるからだと思う。魂が呼び合うだけの、感性が共鳴するだけの、所有するのでも依存するのでもない愛が描かれ、予感していたことはこれだったのだと安心させてくれた。

  • 2008/06/03読了

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著者プロフィール

1961年、京都市生まれ。パリ第七大学理学部卒。2004年に『密室の鎮魂歌』で、第14回鮎川哲也賞を受賞。著書に『密室の鎮魂歌』『出口のない部屋』『天使の眠り』『めぐり会い』ほか。

「2021年 『味なしクッキー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岸田るり子の作品

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