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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784198626976
みんなの感想まとめ
多様な感情が詰め込まれた短篇集は、作家の熟成期にあたる1989~92年に書かれた作品を集めています。著者は、若さや情熱が全編に滲み出ていると語り、自身の過去の作品との対比を通じて、老いの淋しさや無常観...
感想・レビュー・書評
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これは短篇集である。しかも久々のシミタツ節が唸る1989~92年前後に書かれた作品集である。
ちょうど『深夜ふたたび』や『行きずりの街』の頃だから、この作家の偉業とも言える初期三部作(『餓えて狼』『裂けて海峡』『背いて故郷』)を成し遂げ、ある意味作家が書き慣れ、次に何を書くかという最も難しい時期、それは熟成期とも言われつつ非常に危うい一時期であるようにも思われるのだが、そうした時期、彼はこの本にある作品たちを集約した短編集にせず、自らお蔵入りとし、これまで封印してきたそうである。
作家は帯でこう言う。
「いまの自分がうしなってしまったもの、若さや情熱、ほとばしる情感や熱気が全編に立ち込めていて、老いの淋しさを逆に確認させられもした」
どの作家にも共通した思いのようなものがあるのかもしれない。あらゆる人間があらゆる自分の仕事に対し思うことであるのかもしれない。その無常観が作品や仕事に深みを与えてゆくと見ることはできるのだが、やはり喪失の感覚というのは、若き頃に予感していて、その予感が青春に影を落とし、ストレートに若さを喜びきれないというのも、人間らしさであるような気がする。
だから人は、若書きと評されようと、若き頃は果敢に書き、やがて、失われた時間を惜しんで、深く熟成した内省的な言葉を紡ぐようになるのだろう。そしてある意味の割り切りと、職人的な無我の境地。そんなものに辿り着いた時、かつての読者が彼をどう読むのかというあたりが、作家としての持続性の秘密であるような気がする。
確かに、本書を読むと、あの頃のシミタツ、あの頃悶えるように読んでいた情念の作家志水辰夫の輝きっぷりの一片がそこかしこに輝きを見せる。そんな時代に読者である自分がどうであったか、というところまで突き刺さってくるのが、こうした古い作品集のある意味凄みであると言えるのかもしれない。
しかし表題の『ラストラン』という作品はない。であれば、どういう意味なのだろうと、何度も考えてしまう。シミタツのラストランというには、まだ早いという気がするが。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
短いながらぞっとしたり、ホロリとしたり、いろいろな話が詰まっていました。
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読んでいてやや時代のずれを感じていたところ、初期の短編集とのこと。
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短編集。
A列車で行こう・石の上・カネは上野か・ジャンの鳴る日・やどり木・愚者の贈物・わけありごっこ・見返り桜・狙われた男・ぼくにしか見えない -
寂しかったり、うらぶれていたり、不条理だったり、サスペンスだったり、昼ドラ風だったり、色々ある。いちばん好きなのは最後の一編「ぼくにしか見えない」1989年初出だ。ファンタジー色濃厚で、ちょっと行き過ぎたら怪談になりそうな寓話である。登場する主人公の自己中心な思考は、誰もが少しは持っている自分の嫌な部分。実に身につまされる。主人公の思慕の情は相手に向いておらず自分の欲望に対して誠実なのだろうな。どこまでも自己中な奴だ。そして登場する清楚なヒロイン。こういう人現実にもいますね。魅力的でお友達になりたいけどなかなか難しいタイプ。ほのぼのとした風景と怪奇な出来事。現実と妄想の境目が無くなる時、主人公はどうなるのだろう?彼女の正体は何なのだろう?と不安定な読後感が気持ち悪くて好きです。
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