孤鷹の天 (こようのてん)

著者 :
  • 徳間書店
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (633ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198630195

感想・レビュー・書評

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  •  筆者のデビュー作にして、第17回中山義秀文学賞受賞作。
     天平時代の官吏養成機関である大学寮を舞台とした、創作歴史小説。
     儒学の基本理念、五常五倫を学び、切磋琢磨しつつ、未来の良吏を目指す若者たちの青春群像劇。
     主人公格には藤原清河の家人と紀家の奴婢、二人の少年を据え、彼らの友情と決別、愛憎と和解が軸として描かれる。
     前半は、古代における学園ドラマといった趣きだが、中盤以降、廟堂の政争に巻き込まれ、排斥され、散り散りとなった学生たちは、学寮で学んだ志を胸に、義を貫くべく、各々が信じる道を突き進んでゆく。
     国の行く末を憂う若者たちの純粋さ、鬱屈、情熱。
     世の趨勢や理不尽さの中でもがく、青少年たちの生き様は激しくも眩しく、一瞬の煌めきとして、時代を彩る。
     阿倍上皇(称徳天皇)や大炊王(淳仁天皇)、恵美押勝や藤原永手など、実在の人物たちに、架空のキャラクターを組み込み、史実と虚構を巧みに融合させた手腕は見事で、実際との齟齬も気にさせない。
     寧ろ、“本当にあったかもしれない”と思わせる臨場感が熱い。

  • 恵美押勝の乱の時代背景、大学寮で共に学んだ仲間と、時代の流れに翻弄されながらも、彼らの義を貫く物語

  • 2016.10.03

    奈良時代、大学寮の生徒たちの目から見た恵美押勝の乱。
    架空の主人公の周りにうまく実在の人物を配置して、大変興味深い小説になっていると思う。
    登場人物の今風の喋り方や、身分の差を軽く扱いすぎている所が気にはなったが、永井路子さん、杉本苑子さん、黒岩重吾さんの小説を読みつくした今、この時代を書く若い作家が出てきたことはとてもうれしい。

  • 久々に痛快な歴史小説を堪能した。文庫なら800ページ超、超長編ってほどじゃないけど、久々の読み応えだった。

    時は天平宝宇年間、というから、先に読んだ玉岡かおる著『天平の女帝 孝謙称徳』の時代だ。玉岡作品が女帝に近い立場、官僚目線で書かれた点と異なり、大学寮で学ぶ官吏候補生、若者たちの立場を描くところが歴史青春小説という味わい。なにより時代の背景として、女帝が世を翻弄した、従来の怪僧道鏡に溺れた愚帝として描かれている点が大きく異なっている(というか、一般的な描写)。同じ時代を、こうも違って描けるものかと、少なからず驚くが、お上の本心など民衆には見えやしない。仮に玉岡作品のように実際は崇高な理念を持った女帝だったとしても、目の前で数々の戦乱が繰り広げられれば、悪政と罵られ良からぬ風評を立てられても止む無しか。

    そんな、恵美押勝の乱に至るまでの時代、その後の女帝・道鏡独裁による大学寮圧迫に対する反抗、そして大炊王を担ぎあげての反乱(これはフィクションだね)を通じての大学寮学友たちの成長と活躍を描く青春群像劇だ。

    主人公は藤原清河の家に仕える高向斐麻呂。入寮前に出会う奴隷身分の赤土との数奇な運命を軸に、同室の李光庭、先輩桑原雄依と佐伯上信、直講(教授)の巨勢嶋村や、長屋王の末裔礒部王、赤土の妹益女、清河家の主人広子などなど、魅力的で個性的で、誰もが重要な役回りで生き生きと立ち回り、己の人生を全うしていく。その中で、権力と理不尽が横行する政治のうねり中で生命を賭して「義」を貫こうとする大学寮の学生たちの生き様が中心となるが、その姿がそれぞれ痛ましい。世は儒学を捨て、御仏の教えにすがるように仏教による鎮護国家へと傾いて行くからである。

    最後、大学寮出身者たちの時代への抵抗を、恵美押勝の乱に連座して淡路廃帝(淡路島へ島流し)となった大炊王の島からの逃亡(これは実際にあった話)を、恵美押勝軍残党が集結しての最後の反乱劇に仕立てたところが面白く、そこに馳せ参じる斐麻呂はじめとする大学寮OBたちが、時代に翻弄される幕末の新撰組や白虎隊的に、日本人の判官贔屓の感情を強く刺激して涙腺を刺激するったらありゃしない。

    描きこみが過ぎるほど朗々と語り尽くされるが、これだけの人物を、主要なところは余さず立体的に描写していくには止む無しの紙数。誰に感情移入しても良いくらい、どの人物も好きになれる。きっと、多くは主人公の斐麻呂意外に、意中の人を見つけるだろう。これが作者のデビュー作らしいか、なかなかの筆力だと感心させられる。

    舞台が奈良、先日のGWに訪ね歩いた、薬師寺、唐招提寺などの西ノ京や、最後は母方の故郷、子どもの頃毎年遊びに行った淡路島が舞台だったりするのが非常に読んでいても楽しかった。
    淡路に居る親戚、従妹に「淳」の文字を用いた兄妹がいる。今まで気づかなかったけど、淡路廃帝大炊王は皇位にある時は淳仁天皇だった。そこから取った命名だったのだろうか。名づけ親(叔父)はもう他界している。今度本人たちに会ったら訊いてみよう。

  • 澤田瞳子の作品。またも一気に読んでしまった。舞台は奈良時代、阿部上皇(孝謙上皇)→大炊王(淳仁天皇)の世の中。私の好きな政治がどろどろした時代である。藤原仲麻呂の乱が話の中心。大学寮というあまり政治とかかわりのないと思われる場所にいた若者たちがその時代の中でどのようにその意思を示していったか。主人公のの高向斐麻呂と奴婢の赤土の関係が柱かと思いきや、大学寮の先輩、雄依・上信そして磯部王、それぞれがそれぞれの意思をもって行動するところが非常に魅力的。斐麻呂の最初の主・広子の意外な行動にも心打たれる。赤土の妹の益女も時代に翻弄されながら意思を貫く。
    話の中心は後世に名を残していない若者たちだが、大炊王、山部王(若き桓武天皇)も登場して、この時代に思いをはせることができる。

  • おもしろかった!
    雄大な青春時代小説。あまり読んだことのない奈良時代の話で、歴史的人物も時代背景もよく知らなかったけど、楽しめました。
    他の作品も読んでみたい。

  • 作中の出来事に対して、キャラクターが感じたことや気持ち、その後の言動ついてどうしても共感できなくてもやもやする。
    どうしてみんなそんなことに悩んでるの?とか、普通はもっと別の考え方をするでしょ、みたいな。
    淳仁天皇が淡路を脱出しようとして失敗した件が、数千の兵を用いる大戦争になってたあたりは面白かった、というかワロタ

  • 奈良などを舞台とした作品です。

  • 不思議な出会いでした。
    墓参りの帰り道、ふらっと入った喫茶店。
    日本画に囲まれながら水出しコーヒーを飲んでると、
    「歴史小説お好きですか?」
    「好きですよ」って答えると、頂いたのがこの本。
    でかいので、なかなか読めなかったけど、この連休に読んでみました。

    ビックリ。
    面白かった。
    この時代の話って、「日出処の天子」くらいしか読んでないけど、これも熱い本でした。
    なんとなく「蒼穹の昴」の梁文秀を思い出しました。

  • 愉快かつ興味深し。
    数少ない同時代小説の中でも、レアなネタではなかろうか。
    序盤は学業に励む主人公とその周辺で身近な展開が続いていくが、徐々にきな臭いものが混じり出し、紆余曲折の転変が!
    終盤、胃が痛い…。
    だがしかし、面白い。

    てか、道鏡出てくるやつ幾つか読んだけども、政治的野心がない奴は初めてだ。

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著者プロフィール

1977年京都府生まれ。2011年デビュー作『孤鷹の天』で中山義秀文学賞、’13年『満つる月の如し 仏師・定朝』で本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞、’16年『若冲』で親鸞賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、’20年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、’21年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞。近著に『漆花ひとつ』『恋ふらむ鳥は』『吼えろ道真 大宰府の詩』がある。

澤田瞳子の作品

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