無罪

著者 :
  • 徳間書店
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本棚登録 : 96
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198632298

作品紹介・あらすじ

息子と妻をシンナー中毒の通り魔に殺された新聞記者の小坂は、ある大学准教授の家を見張っている女性に出会った。准教授の妻は11年前、我が子2人を殺しながら心神喪失と判断され、無罪判決を受けていた-。無罪判決が下された時、本当のドラマが始まる。愛する息子と妻を通り魔に殺された男。我が子を殺しながら、心神喪失で無罪となった女。刑法第39条の壁で隔てられた、被害者、加害者双方の苦悩と葛藤を描いた、二転三転の書下し心理ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 途中までは、とても興味深く読めた。
    刑法39条により無罪または減刑をされた犯人によって大切な人を殺された遺族たちの苦悩は察するに余りあるものであったし、違法薬物やアルコールなどの影響によって犯罪を犯した者にも39条が適用されることは不条理であると感じざるを得なかった。

    ただ、どうしても登場人物の行動に今ひとつ共感できないものを感じてしまい、後半は違和感ばかりが心に残った。
    孫2人を殺した元嫁を許せず、彼女の新しい生活を破綻させようとする元姑。息子を殺した男が再び犯罪を犯したことを知り殺害しようと決意するもできず、今度は減刑の判決を下した裁判官を殺害しようとし、それも挫折した父親。
    そして、幼い子ども2人を殺しながらも無罪となり、その後再婚。自分を愛し理解しようとする夫と、夫との間に授かった息子との平穏な暮らしを手に入れながらも、心の均衡を失っていく母親、香織。

    どの人物の心情も、実際にその立場になればそういう感情になるのかもしれない。ある意味とても現実的でリアリティに溢れているのかもしれない。

    しかし、特に香織については、『いい加減にしなよ』という思いにどうしてもなってしまった。
    終盤は『死ぬ、死ぬ』と言って、夫の愛情を確認しているようにしか思えず、イライラしてしまった。
    香織の心情を思いやり一緒に涙できるような優しさは私にはありませんでした。

    作品としては、何かと話題になる刑法39条のことを色々な側面から考えさせられるきっかけとなり、とてもよかったなと思います。

  • 着眼点はいいと思う。刑法第39条。
    タイトル、無罪。
    いろんな意味に捉えられる気がする。
    被害者も無罪に苦しめられているが、本当に心神喪失者や心神耗弱者でなければ、加害者も無罪に苦しめられる。

  • 刑法第39条とは何か。
    1. 心神喪失者の行為は、罰しない。
    2. 心身耗弱者の行為は、その刑を軽減する。
    ただし、大量のアルコールを摂取する。または薬物を濫用するなど故意にそのような状態を招いた場合には、「原因において自由な行為」の法理によって本条の適用は否定され得る。

    誰かの犯罪行為によって被害を受け結果死亡してしまったとき、誰かに責任を取ってほしいと願うのは当たり前の感覚だと思う。
    けれど刑法によってその加害者が守られたとしたら…被害者側のやりきれない思いはどこへ向かえばいいのだろう。
    加害者は刑期を終えて社会に復帰すれば罪が消えるのだろうか?
    ならば刑法によって守られ無罪になった者の罪は、どうやったら消えるのだろう。
    被害者は生きている限り被害者であることをやめることは出来ない。
    その家族もたぶん同じなのだろう。
    たとえ刑務所に入ったとしてもそれは罰を受けたにすぎない。
    こんなふうに考えるのは間違っているかもしれないけれど。
    犯してしまった罪が消えるわけではない、と思う。
    生きている限り自分がしてしまった行為を忘れずに生きていくこと。
    被害者への謝罪の気持ちを忘れずに生きていくこと。
    厳しいかもしれないけれど。
    100の犯罪があれば100の事情があるのだろう。
    100人の犯人がいれば100人のその後の生き方があるのだろう。
    だから一概には何が間違っているとは言えない。
    「犯人は死ぬまで幸せになってはいけない」というのがすべての被害者側の考えでもないだろうし、「それでも幸せになりたい」と思うのがすべての加害者側の考えでもないだろう。
    それでも、双方の立場から見た物語にはいろいろと考えさせられた。
    テーマは重いけれどけっして読みにくい物語ではない。
    過去の出来事が新たな傷を作るよりも、結末についてはこれで良かったという思いもある。

  • 刑法39条、裁判、残された被害者の家族の苦悩。問題提起でラストはどうなるか興味深かったが中途半端な終わり方。結局、被害者側は報われない。

  • 精神疾患でわが子を殺してしまったあと、大学の准教授と再婚して子をもうける香織。
    シンナー中毒の若者に我が子を殺されたうえ妻に自殺された新聞記者の小坂。
    刑法第39条により無罪となった香織と減刑されたシンナー中毒の若者。
    について考えさせられる問題と、

    殺人者と家族になる苦悩。
    家族を殺された苦悩。
    またわが子を殺めたのではないかと苦しむ香織。

    最後、子どもが生きていたことに涙が溢れる香織を想って涙。

  • 重たいモノが心にド〜ン。

    アルコールや薬物等を自分の意志で摂取した結果、事件を起こしたら刑法39条にあてはまらないと私は思う。そんな人には刑を軽減するんじゃなくて、むしろ刑の割増でいいんじゃないかな。本当に病気の人の場合とそこは区別しないと。

    でも病気だったら・・・”無罪”とはいえ、被害者側の心情も考えるなら、「今後お子さんを持つことは見合わせた方がいいでしょう」とか、以降の人生にある程度の制限を加えるという裁きがあってもいいように思う。

    平沼さんの香織に対する求愛は、香織の心の負担になってしまったと思う。結婚出産など大きな決断は香織にさせるべきではなかったのでは?

  • 実子を殺害しておきながら精神疾患で無罪になった女が許せない女の義理の母が復讐して立ち直りかけていた女の家庭は崩壊するけど嬉しくない話。
    殺した側、殺された側、その関係者がみんな不幸で救われない話。

  • シンナーや麻薬で「正常心」を失ったヒトに家族を殺された人。
    やりきれないでしょうね。犯人は無罪になったり減刑させるのだから。
    かたや、病気により正常心を失い人を殺めるヒト。そのヒトも辛いだろうな。

    いろんな立場の人の気持ちが交錯しており、物事を多面的に考えることができます。

  • 2022.7.15-538

  • 重い!!!
    さすがにテーマが重すぎてきれいには終わらなかったけど、そんなもんだよなあと。
    ひとくちに刑法39条の対象となる人といっても、本当に病気で我を忘れてやってしまった人と、麻薬とか自分で意図的に状況を引き起こした人とでは受けるべき懲罰は違うべきでないかと思った。むしろ今同じであることがおかしい。
    刑法39条を適用された二人のその後や周囲の人の想いからもそういうのが読み取れた。
    前者でも許せない、って人がたくさんいるのはわかる。でも前者はその人自身が一番苦しんでるというのは理解したいと思った。後者はちゃんと刑を受けて自分を振り返って麻薬やめさせないとダメだと思う。

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著者プロフィール

1943年東京都生まれ。東京大学理学部卒。82年『ハーメルンの笛を聴け』で第28回江戸川乱歩賞候補。85年『殺人ウイルスを追え』で第3回サントリーミステリー大賞佳作。〈壮&美緒シリーズ〉に代表されるトラベルミステリー、『自白の風景』『黙秘』『審判』『目撃』『無罪』などの法廷ミステリー、『「法隆寺の謎」殺人事件』『人麻呂の悲劇』などの歴史ミステリーにも定評がある。

「2023年 『殺人者 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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