世界の99%を貧困にする経済

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  • / ISBN・EAN: 9784198634353

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  • ――――――――――――――――――――――――――――――
    世界金融危機を引き起こしたのは、ヘッジファンド業界ではなく銀行業界だ。そして、銀行家はほとんど全員が自由の身になっている。

    説明責任を果たす者がひとりもいないのなら、そして、特定の個人に金融危機の責任を負わせられないなら、政治・経済制度の内部に問題があることになる。22
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    もしも市場が約束を果たし、大多数の市民の生活水準を向上させていれば、企業の罪と、社会の不正義と、地球環境の汚染と、貧困層の搾取は、すべてゆるさせていたかもしれない。

    資本主義は約束したことではなく、約束していないこと――不平等、公害、失業、そして最も重要な価値観の劣化――を実現させている。25
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    全スカンジナビア諸国は、すべての国民に教育と医療を無償で提供している。

    ある国の元財務大臣はわたしに「これだけの急成長と好結果を残せたのは、高い税率のおかげだよ」と打ち明けてくれた。

    もちろん、税金そのものが高成長をもたらしたと言いたいわけではない。税金が公共支出――教育と技術とインフラ――の原資となり、公共投資が高成長を支え、高成長の好影響が高税率の悪影響を凌駕したのだ。64
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    不平等を生み出してきたのは、昔から権力であった。

    とりわけ厄介なのは、現行システムを搾取とみなすマルクスのような批判者の存在だった。73
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    アダム・スミスの仮説どおりに市場が機能するのは、個人と社会の利益が同一線上にそろっているとき。78
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    成功をもたらしてくれる真の秘訣は、まったく競争が起こらない環境を確立すること。90
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    王朝の継承を防ぐことも課税の目的にふくまれている。次の世代へ富を受けわたす能力が高まれば、生活機会をめぐる競争条件には傾きが生じる。

    アメリカは世襲財閥の国になっていく潜在性を持っていると言っていい。129
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    今回の危機と十九二九年の世界大恐慌が、どちらも大幅な不平等拡大のあとに起こったのは、ひょっとすると偶然ではないのかもしれない。上流層に金が集中すれば、何らかの人為的な支えがないかぎり、平均的な人たちの消費は抑えられる。

    現時点では、プラス要因になりうるのは政府支出だけだ。144

    世界の総需要が不足する原因は、ある程度、過剰な不平等水準に求めることができる。145
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    ソビエト連邦が崩壊したあと、ロシアは産出量の激減を経験した。この現象は大多数の経済学者を当惑させた。

    七四年間にわたる共産党支配と、市民団体に対する弾圧が、どれほど社会資本を劣化させてきたかという点を、経済学者たちは分析できなかった。192
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    集団行動には妥協が欠かせず、妥協は信頼にもとづいていなければならない。190

    社会資本が多ければ多いほど、経済の生産性は高くなる。191
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    アメリカ型モデルはいまや輝きを失いつつある。資本主義のモデルが持続的成長を提供できなくなったわけではない。大多数の市民が成長の恩恵にあずかれず、アメリカ型モデルが政治的魅力に乏しいことを、ほかの人々が理解しはじめたのだ。218
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    過去によく練られた規制が数十年にわたってアメリカの金融システムの安定性を現実に守ってきたのだから、規制には効果がある。

    このようにきびしい規制が課されてた期間は、急速な経済成長を遂げた期間であり(…)自由化が失敗に終わった理由は簡単だ。社会的利益と私的報酬が一致しないときは、イノベーションをふくめて、すべての経済活動がゆがめられる。266
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    権力を持っている者たちは、民主主義社会では自分たちのルールを他人にそのまま押しつけることはできないのに気づいて、自分たちの利益になるようなやりかたで討論の枠組みを作ろうとする。277
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    雇用を守るために、労働や資本に対するゆがんだ補助金を維持すべきだと示唆する経済学者はいないだろう。

    経済を完全雇用状態に維持する責務は、別の政策で果たすべきだ――貨幣政策と財政政策で。281
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    通貨政策は、FRBの七人のメンバーと十二名の地区連銀総裁で構成される委員会で定められる。しかし、地区連銀総裁を選ぶプロセスは不透明で、一般大衆にはほとんど発言権がなく、(連銀統制下にあるはずの)銀行の影響力があまりにも大きすぎる。364

    ニューヨーク連銀総裁が(FRB議長、財務長官とともに)三人組のひとりとして救済措置の形をまとめ(…)ニューヨーク連銀総裁を選定したのは、まさに最も有利な条件で救済された会社を経営する銀行家たちとCEOから成る委員会だった。365
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    最上層の税率引き下げ、赤字の削減、政府規模の縮小――は誰にとっても好ましいものであると、すべての人に信じ込ませようとする試みがなされてきたということだ。370
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    支配的企業は競争抑圧のためのツールを持っており、多くの場合、イノベ-ションの抑圧さえ可能だ。389
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  • 10年前のアメリカ経済の現状と提案がまとめられた一冊。
    リスクの高い金融商品を貧困層に売り込むことで発生したサブプライムローンと、その後拡大した富裕層と貧困層の拡大、そして中流階級の減少。
    当時の政府、経済、金融の状況、特に富裕層や企業に対する実質的な減税を行う一方で利益の拡大のためだけに全体の経済拡大を行わず、中流階級や貧困層への過剰な金融商品の売込を行い、実質的な経済力の衰退を助長させている現状を指摘。
    さらに、本状況は単なるパイの取り合いでしか無いことの指摘や、1%の富裕層がより有利になるためだけに行われている癒着や投資の実情と危険性を説明している。
    最後の章では、現状維持の危険性と打開策を打ち出し、全世代に平等な政策、そしてフェアな取引によってアメリカ経済全体が活性化され、最終的に富裕層も貧困層も豊かになれる事を記載している。
    本件は10年前の提言となるが、現状の日本経済についても参考になる点が多々あると感じることが多かった。
    日本については往々にしてアメリカ経済のトレースをしていると言われがちだが、本書を読むことで納得できてしまう点もあったことは事実である。
    今後の経済の生末を読み取る中で、無視できない一冊。

  • アメリカ中心であったが、1%に奉仕するアメリカ政府とさらにそれを利用する金融ということがよくわかる本であった。

  • 「貧困者が日々の生き残りのために、”認知資源”を使い果たす一方、富裕者は資源を使う必要さえないという事実は、とても単調な調査でわかる。」

    弱者は保護されるべきだとする本。
    私は面白いとは感じなかったが、最初の一文を知れただけでも読んだ価値はあった。

  • 市場が効率性を欠いている。政治制度が市場の失敗を看過している。政治経済制度が基本的に不公正である。

    パイ全体が増えなければ、トリクルダウン効果はない。
    所得中央値は下がっている。
    重税国でもスウェーデンのように成長率が高い例がある。

    結果の不平等だけでなく機会の不平等も拡大している。
    市場が競争的であれば、利潤は生まれない。市場が不公正に導くインセンティブがある。

    レント・シーキング=情報の非対称性を利用する。有利な状況を作り出す。レント=地代=何もせず得られるもの。

    真に人類に役に立つものを発見発明した者、に過大な報酬があるのではない。銀行家などレント・シーキングに長けたもの、に報酬が集まる。
    ネットワーク外部性によって、参入が制限される。

    経済構造の大変化=生産性の伸びが需要の伸びを上回った。製造業のシェアが低下し、賃金が低下した。
    仕事が二極化。グローバル化が格差を拡大。金融自由化によって金融業に富が集中した。

    不況が終わっても雇用は増えない。富が世襲される。

    高水準の不平等は、経済の効率性と生産性を低下させる。
    弁護士の数が少ない国ほど経済成長のスピードが早い。イノベーション(工学や科学)活動に従事する優秀な人材が多くなる。

    効率賃金説は成り立っていない。貢献の度合いと賃金が比例しない。

    1ドル一票制。ゲリマンダーの実行など。
    民主主義の空洞化。投票している中位層は、真の中位層とは異なる。
    上位1%の要望が下位99%の要望と同じであるように認識させる。信念をそのように導くとそれに従わざるを得なくなる。行動経済学と心理学の研究によって大衆を導く。

    思想の変化は、社会の変化に比べて遅い。アメリカはまだ自由平等の国であるという信念が強い。
    品物を市場で売ることができたら、技、科学によって、思想、政策を下支えする思想も売ることが出来る。

    規制は恩恵がある。
    お金を払える人のための正義。
    マイクロクレジットの悲劇。本来のものと違った形で商業利用された。

    トリクルダウンは機能しないが、トリクルアップは機能する。大金持ちが更にお金があっても、全部は使わないが、底辺層は増えたお金は全部使う。

    サプライサイド経済学は的外れ。デマンドに問題があるのだから、累進課税を緩めたり企業を優遇することは解決にはならない。
    需要不足の中で、緊縮財政はうまくゆかない。

    金融部門の抑制。破産法の改革。税制改革。富裕層以外の人々を支援する。

    グローバル化の緩和。

  • レントシーリング

    不平等と不公平

    一人一票 から 一ドル一票 へ

    1%の上位が99%の下位から富を吸い上げる

    ウォルトン一族 ウォルマート六人の後継者 697億ドル アメリカ社会の下位30%の財産総額と等しい

    不平等はたんに経済力の結果ではなく、政治力の結果でもある。

    国民的認知操作 政治、マスコミ、民主主義

  • 社会の上位「1%の1%による1%のための政治」が、一部の金融機関や大企業の富裕層で行われているということが、述べられている。不平等が作り出される構造を示した点と、世界が進むべき方向性を示した点で、興味深い本でした。

    分量が多く少し読むのが退屈かもしれないが、中身は分かり易い。

    著者にとって、経済学は不公平の根本的原因を突きつめられる研究形態だ。長期で見たときの不平等の進化と、不平等が経済成長に及ぼす影響がテーマである。

  • 《ヴァニティ・フェア誌》(2011年5月号)「1%の1%による1%のための政治」p15
    →1%の上位が99%の下位から富を吸い上げる

    【世界で共鳴する三つのテーマ】p15-16
    ①市場が本来の機能を果たさず、あきらかに効率性と安定性を欠いている点。
    ②政治制度が市場の失敗を是正してこなかった点。
    ③政治・経済制度が基本的に不公正である点。

    政治制度が金銭的利益に敏感な場合、経済的な不平等の拡大は、政治権力の不均衡の拡大を招き、政治と経済の悪循環を生じさせる。政治と経済が社会的影響力ー社会道徳と社会慣行ーを形作る一方、社会的影響力によって政治と経済が形作られ、この相互作用が不平等の拡大に拍車をかけるわけだ。p27

    アメリカの不平等のほとんどが、市場の歪みを通じて発生していること、言葉を換えるなら、新しい富を創造する方向ではなく、他人の富を奪う方向にインセンティブが働いていることに問題は起因するのである。p42

    長期間、公教育と社会保障に充分な投資が行われなかった結果、つぎの二つの指標からわかるとおり、アメリカ社会は機能不全となっている。二つの指標とは、犯罪率と収監率だ。p54

    「ジニ係数」

    「限界生産力説」:より生産性を持つ人々が、より高い所得を稼ぎだすことで、より大きな貢献を社会にもたらすという考え方。p74

    不平等の水準は、金融資本と人的資本の"資源"がどう配分されるかで決まる。→政府が調整できる。p75
    <市場は法律と規制と制度によって形作られ、すべての法律と規制と制度は、所得の再分配に影響を与えてきた。

    【レントシーキング】p76
    ゲームのルールを自分たちに都合よく作りあげ、公共セクターから大きな"贈り物"を搾り取ること。
    Cf. ルイ14世の側近だったジャン=バティスト・コルベール「課税の奥義は、ガチョウの羽むしりにある。苦痛の反応を最小限に抑えつつ、最大限の羽毛を手に入れるのだ」

    「マイナスサム・ゲーム」(ピラミッドの下から上へ金を移動させる)貧困層から富裕層へ。p82

    上位1%が社会に押し付けている最大のコストは、フェアプレーと機会均等と連帯感を重視するアイデンティティがむしばまれることだろう。p185

    「略奪的貸付」と「濫用的クレジットカード業務」

    社会契約の崩壊は、民主主義の機能に不愉快な結果を与えかねない。p196

    現状のグローバル化は、民主主義の選択の幅を狭めており、平等性の高い機会均等な社会をつくり出したいとき、必要な税務政策と財政政策の実行をさらに難しくしている。民主主義に枷をはめることは、まさに上層の人々が望んでいることだ。わたしたちはその気になりさえすれば、一人一票制の民主主義のもとで、1ドル1票制に近い結果を得られるのである。p218

    心理学+経済学=行動経済学 p222~
    「均衡幻想」:Cf. "確証バイアス"
    「信念と認識は、現実にもとづいていなくても、行動に影響を及ぼす」Cf. 国家規模のプロパガンダ、広告(認識形成)
    「美人コンテスト」by ケインズ

    【IMFの罪】p270
    経済が下降局面にある国々にIMFが緊縮財政を押しつけてきたことを説明し、IMFの"構造調整"政策ーすなわち民営化と自由化の強制がしばしば、成長の代わりに苦難を、とりわけ貧しい人びとにもたらした。p270 Cf. 『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』

    アメリカでは、買収行為はより高いレベルで行われる。買収されるのは特定の判事ではなく、法律そのものだ。この買収は、"アメリカ型汚職"と呼ばれるようになった汚職行為の一環として、選挙戦への寄付やロビー活動を通じて行われる。p297

    <メモ>訴訟とポーカーの類似性。富めるものがゲームの主導権を握る。
    ⇒いまのアメリカでは、"万人のための正義"という誇らしき宣伝文句は、"お金を払える人々のための正義"というもっと控えめな宣伝文句に取って代わられようとしている。そしてお金を払える人々の数は減少しているのだ。p305

    「均衡予算乗数」:もし政府が税金を増やすと同時に歳出も増やすとしたら(その結果、現在の赤字は変化しない)経済は刺激される。もちろん、増税そのものは経済を鈍らせるが、歳出が経済を刺激する。分析によると、刺激効果のほうが減退効果よりもかなり大きいことに疑いはない。p320

    税制の累進性を高めれば、不平等が緩和されるだけでなく、経済も刺激される。トリクルダウン経済が機能しないときでも、トリクルアップ経済は機能しうるのだ。p321

    マクロ政策ー通貨政策と財政政策 p330

    【緊縮財政はうまくいかない】p336
    不況は需要不足ー需要全体が経済の生産能力よりも低いことーによって引き起こされる。政府が支出を切り詰めると、需要はさらに低下し、必然的に失業率が高くなる。

    【グローバル化の負の側面】p399
    大量の短期資金(ホットマネー)が国内外を激しく行き来する状況は、多くの国に破滅的な結果をもたらしてきた。具体的にいうと、経済危機と金融危機が大混乱を引き起こしたのだ。国境を越える資本移動、とりわけ投機的な短期資金の流れには、規制をかける必要がある。

    格差の深刻化⇒持てるものと持たざるものの隔絶⇒二重経済 p414

  •  アメリカの格差社会に関して書かれた一冊。
     アメリカの格差は、上位1%層が、政治を上手に使い、格差を拡大させるシステムを政治的に導入させてきたことで広がったとしている。
     一方、日本でも、アメリカに比べて、少ないかもしれないが、格差が広がってきたと言われている。
     日本においても、いま、景気回復やグローバル化による競争力強化という名目で、例えば、法人税減税や金融緩和といった施策が実施されようとしている。
     本書からいえば、法人税減税は、純利益を拡大することで、上位層や金融機関が多く持つ株式配当や、役員報酬を増やす結果となり、格差が拡大する施策といえる。
     たとえば、同じ企業収益を増やし、さらに労働者の手取りを増やすなら、社会保険料負担を減らすほうが、消費にも効果がある施策とみえる。
     政治と経済は切り離せないとも言っており、日本でも、アメリカ同様に、グローバル化を訴える経済界による静かなる政治誘導が効果を発揮しはじめてきたのかもしれない。

  • 題名の通り、現在の経済システムは99%を犠牲にして、1%が富を吸い上げるシステムになっていることを批判し、そうなってしまっている原因を明らかにした上で、いかにして公正な経済制度を構築すべきかということについて述べられている。
    感想としては第一にクエスチョンと議論が綺麗に整理されてわかりやすく、またその主張も一貫している。第二には、公的機関で働く上で重要な教訓も知ることが出来た点で有意義だったと思う。具体例の一つとしては、補助金を交付しても本来それを必要としている人に対して届いているか検証することの重要性が挙げられる。
    議論自体は明快でわかりやすく、読みやすいので、学説の妥当性は置いておいて、星五つとした。

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