バランスシート不況下の世界経済 (一般書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (483ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198637224

作品紹介・あらすじ

大きなバブル崩壊後の不況をバランスシートの毀損によるデフレ・ギャップの拡大という観点からとらえたバランスシート不況の理論をさらに進め、陰と陽の二つの局面から経済を捉えたクー経済学の集大成。英語版として2008年に刊行されるや、一大センセーションを巻き起こし、クー氏は米上院金融委員会の参考人として証言するまでになった。最近、かつての論敵ポール・クルーグマンが絶賛し、全世界注目の本の日本語版をついに刊行。

感想・レビュー・書評

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  • 自分は経済の専門家ではないので、著者の経済学会等での評価は分からないが、このバランスシート不況論は日本だけでなく、欧州のこれまでの状況も含め、的確に表現できていると感じた。特に金融政策に各国の自由度がなくマーストリヒト条約という財政規律があるEUについての分析は目から鱗が落ちた。日本の現在の政策(3本の矢)を理解する上でも非常に有用な書だと思う。

  • バランスシート不況という概念は著者の前書で勉強して感銘を受けていましたが、本書もそのフレームワークを使って世界経済を明快に解説されていると思います。本書を読んで改めて思うのは、物事を単一面から見るのではなく全体的に見ることの大事さ。例えばある国の財政赤字だけを見るのではなく国全体としての資産・負債を見ると、実はスペインやイタリアには財政赤字以上に民間貯蓄が国内にある、という事実。つまり財政赤字だけを見てそれが巨額だからまずいと騒ぐのではなく、国内の民間貯蓄も含めた全体像で見よということです。またバランスシート不況についても経済の好不況を普通のエコノミストはGDP統計だけを見て議論しますが、これは国の損益計算書に相当するもので、クーさんの指摘は、バランスシート(貸借対照表)も見て全体的に議論することの大事さです。

     またクーさんの本を読んでいると、幅広い知識と現地現物の情報の大事さも痛感します。日本のマクロ経済学者の多く(ほとんど)は経済学しかバックグラウンドになく、ファイナンスや会計の知識が皆無なため、損益計算書と貸借対照表の読み方すら知りません。知っているとしたらソローやローマーによって発展した成長会計(経済成長を資本、労働、技術進歩に分解して説明するモデル)くらいのものでしょう。また投資家との接点もなく、理論の知識しかないので、自分たちが学んだ経済理論と現実世界が違うと「現実世界が間違っている(歪みが起こっている)」という言い方をします。つまり自分たちが正しいと思っていた理論が実は欠陥品だったという可能性は排除する傾向にあります。

     経済のアカデミックな知識と実務経験、さらに現地現物の情報(各種経済主体との意見交換)を備えたクーさんの本は極めて説得力があり、ぜひ日本発の経済理論になってもらいたいと願っています。

  • 世界金融危機以降に、アデア・ターナー、マーティン・ウルフと云った海外のエコノミストに再評価されている、リチャード・クーのバランスシート不況論を述べてるのが本書である。

    バランスシート不況は、借金でファイナンスされたバブルが全国的に発生し、バブルが崩壊した時にのみ発生する稀な不況である。企業は抱え込んだキャッシュ―フローを使って、一斉に債務を最小化しようとする。このため、キャッシュフローを投資に回さない、家計の貯蓄を借りて使われなくなるので需要が失われる。また、民間の未借貯蓄が国債市場に回り、国債価格が上昇して、その利回りが下がる。バランスシート不況時には、政策金利や預金金利が低いにも関わらず、民間が大幅な資金余剰になる。

    バブル後の日本、世界金融危機以降のアメリカ、EU、中国といったさまざまな地域の経済状況の分析がされており、内容は多岐に渡るが、一番うまく説明できているのは、EUの経済分析である。欧州ソブリン危機を引き起こしたのは、ドイツとECBの経済政策が遠因だと説明されている。概要を述べると、90年代末のITバブル崩壊で、深刻なバランスシート不況に突入したドイツは、本国に資金需要がないにも関わらず、財政赤字の拡大を嫌い、その代わりにドイツ経済を救うために、ECBは低金利政策を行なった。ECBの低金利政策はユーロ周縁諸国に住宅バブルを齎した。EU周縁諸国に輸出することで、ドイツはバランスシート不況を脱出したが、資産バブルに沸くヨーロッパ周縁国は、アメリカのリーマンショックの煽りを受けてバブルが崩壊し、それが今日まで続くEUの経済低迷につながっていると結論している。

    EUは制度上で、二つの大きい欠陥がある。それは、①マーストリヒト条約が財政赤字の上限を設けており、バランスシート不況に陥った場合に大規模な財政出動ができない。②ユーロ圏内の国債市場間で発生する、極めてプロシクリカルで非生産的な資本移動が許容されていると云ったものだ。クーは解決案として、①マーストリヒト条約の財政規律条項の改正、②自国債と外国債に違うリスク。ウェイトを設け、自国債を購入した場合のリスク・ウェイトを低い水準に抑える事を提案している。この解決案はいい線を行っていると思う。

    クーの提唱するバランスシート不況論はかなり有力な説であり、バランスシート不況を知るには最適な本だろう。本書の欠点としては、やたらクーの自慢話が多くて霹靂した点、一般向けの経済書であるために、同じ内容が繰り返して書かれており、そのために内容の割にはページ数が多い点だ。内容を2/3ほどに圧縮して、もう少し内容を煮詰めれば、改善されるだろう。アベノミクスの評価と中国経済分析が書かれた章は凡庸。中国経済に対しては相当楽観視しているし、自分がブレーンを務めた麻生太郎の過大評価はどうなのかと思った。麻生太郎、そんなに優れた政治家には思えないのだが…

    評点: 6.5点 / 10点

  • 良書。従来の経済学では教えられてこなかった「バランスシート不況」という概念を分かりやすく説明している。専門家でなくとも割りと理解し易い内容と感じた。財政出動と財政再建の関係は目から鱗であったし、一般のマスコミや評論家の言に踊らされてはいけないと改めて感じた。

  • ○バランスシート不況の基本概念

    各国の中央銀行が金利を下げ、量的緩和をしても、マネーサプライと民間向け信用はほとんど増えていない。
    バブル崩壊で資産価値が暴落する一方で、資産を担保に得た借金が残り、バランスシートが大きく毀損した。
    B/S毀損時の企業は自己防衛のため、債務の最小化を最優先課題とする。
    このため中央銀行が金融機関に資金供給しても、借り手不在のため資金は循環せず、金融政策の効力は激減する。

    よってバランスシート不況には財政出動で対応すべきであり、金融政策は無駄になる。
    上記よりB/Sシート不況時に緊縮、構造改革を行うとGDPを毀損する可能性大。

    ○ユーロ危機の真相
    ドイツを救うために行ったECB利下げが周辺国に住宅バブルを発生させた。バブル崩壊の結果信用不安に陥ったが、放漫財政だったギリシャ以外は国内預金で国債償却出来るため、実は問題なし。ドイツが原因とも言える。
    EU内で国債購入は自国民のみ可能とするルール整備を行えば問題は解決するはず。

  • 従来の経済学理論に欠落していた「バランスシート不況」の概念。 クー氏は十年以上前から訴え続けていたが、世界規模で徐々に理解されつつある。 実際に起きている現象で立証。クー理論は空理空論に非ず。 日本と米国に於ける財政出動の成功例と財政再建の失敗例から学ぶことは多い。 また、中国のリーマンショック後の回復も、財政出動に成功した例として着目に値する。 今後の課題はユーロ圏の回復。ユーロ圏の経済界に対し直接現地に向かい「バランスシート不況」の概念を説き、その重要性の理解の為に奮闘するクー氏の今後の活躍に期待。

  • 自慢話と同じ話の繰り返し。
    書いていることに説得性があるのに、根拠の説明が出てこない。
    途中で脱落してとしょへ返却。

    デフレで資産から借金返済をするため、銀行から低利息でも借り入れる企業はない。そのため低金利でも市中にお金が回らずデフレが解決しない、と言う説明。

    もう少し説明を豊富に、同じことは省けばもっと良い本になる?かも

  • 氏の一貫した考えに共感して氏の新刊が出る度に買い求めて読ませていただいている。バランスシート不況論は、まだまだ世に認知されてはいないが納得できる。

  • 氏の持論である「バランスシート不況」論に対する評価はいろいろあるんだろうが、それは持論なのだから、それを軸に展開されている事に文句を言っても始まらない。でも、私には結構自然に理解・納得出来た。1つの説明として筋が通っているように感じてしまうからだ。経済は音痴なので、どこかに抜け穴があるのかどうかはわからないが。この際、フィッシャーが同じ事言ってたとか、そう言う批判は関係ないと思う。現代を理解する枠組みとして、説明能力が高いのであれば、評価すべき考え方なのかなと。

    内容は多岐にわたるが、現代の世界経済が抱える問題(量的緩和の罠など)や、米国・日本・欧州・中国の経済のそれぞれの最新の分析が詳細になされていて、正直とても勉強になった。散りばめられているファクトを確認するだけでも、世界経済にかなり詳しくなった(ような気持ちになれる)。

    「バランスシート不況」論は、バランスシートが悪化した企業は、金融緩和してもお金を借りないので金融政策は効かず(マネタリーベースは増えてもマネーサプライは増えない)、それが解消するまでは政府が代わりに借金をして財政出動するしかないというもので、財政規律派からはケインジアンなどと批判されているわけだが、氏の考えによれば、例えば教育機会は一生に一度のものだから、財政出動をせずに一度経済が落ちるところまで落ちてしまうと、現役世代の教育機会が失われたりすることは取り返しが付かないから、そうした将来にわたる負担は財政赤字という将来世代に対する負担よりももっと深刻だという考え方に思える。

    全般的に、日本のバブル後の経済政策や財政出動に好意的で、米国の量的緩和(の出口)には厳しい。欧州はマーストリヒト条約の楔によって、財政出動の自由度が低いのでかなり苦しいという評価。中国経済に対しては、ルイスの転換点を過ぎたから厳しいという指摘はあるものの、驚くほど楽観的な見通しをしている。

    他にも、日本はデフレ時代を長く過ごしたからこそ、インフレを気にすることなく時を過ごす事が出来たというメリットは大きい、と評価したり、中国がリーマン・ショック後に大型の公共投資で乗り切った事を、ゴーストタウンが生まれたコストよりも、それを作らなかった時のコストを思えば安いものとか、マンションじゃなくて原子力空母じゃなかっただけ良かった、などと高く評価している。


    こうした分析を読んで感じるのは、エコノミストや経済学者にとっての過去の経済政策の評価は、「もし」他の政策をとっていたとした時との比較になるので、たとえ不況に陥ってしまったとしても、他の政策をとっていたらもっと悪かったと言ってしまえばいくらでも高評価できるような気がしてしまうことだ。

    そして、同様の政策をやるにしても、その当時の目標設定や説明の仕方に非常にこだわっているのも、当たり前のようで不思議な感覚がある。(FRBのQE1とQE2の目的の違いなど)

    利益をかっさらった「投資ファンドの連中」に対しては、不利益を被る政策は正当化され、真当な資金運用をした「投資ファンドの方々」に対しては、利益を享受させるとか、「民間の失敗」を「政府が尻拭いする」といった表現は、究極の所責任論であって、社会の公平感に対してどのような態度をとるかという問題だが、そうした議論から経済政策論が不可分なんだなということを新ためて思い知らされた。「正しい」経済政策をやっていれば、競争力を高め、生産性を向上し、皆がハッピーになる、というわけでもないのであると。

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著者プロフィール

リチャード・クー
野村総合研究所 主席研究員、チーフエコノミスト
1954年、神戸市生まれ。76年カリフォルニア大学バークレー校卒業。ピアノ・メーカーに勤務した後、ジョンズ・ホプキンス大学大学院で経済学を専攻し、FRBのドクター・フェローを経て、博士課程修了。81年、米国の中央銀行であるニューヨーク連邦準備銀行に入行。国際調査部、外国局などでエコノミストとして活躍し、84年、野村総合研究所に入社。現在、同研究所研究創発センター主席研究員。


「2019年 『「追われる国」の経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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