戦火の三匹: ロンドン大脱出 (児童書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198640507

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  • 第二次世界大戦初期のイギリス。二匹の犬と一匹の猫が、飼い主兄妹の疎開先を目指して旅に出る。
    タイトルと粗筋から、三匹のロードノベル的な物語なのかと呑気に思っていたがとんでもなかった。戦時下のシビアさ…疎開先でのロバート・ルーシー兄妹を取り巻く環境の厳しさ、安楽死を余儀なくされるペット達の末路など、丹念に描き出す。今更ながら知る当時の状況に愕然とし、いつの時代も人間の都合でペットの命は軽んじられるのか…とうなだれる。
    とはいっても物語自体は決して暗くはない。三匹のキャラが立っていて、とにかく犬らしく猫らしい。動物の生態をよく知っているからこそ描ける生き生きさ。一体どうやってロンドンからデヴォンまでの長い距離を移動できたのか…そこは彼らの勇気と知恵、そしてさり気なく彼らをサポートしてくれる人々との出会い。そんな出会いを引き寄せたのも、ひとえに彼らの人柄…ではなく犬柄?猫柄?ゆえだろう。様々なピンチを乗り越え逞しくなっていく三匹の姿に、胸が熱くなる。
    様々な伏線が回収されていくラストは気持ちよかった。苛酷な状況下だけど、そんな中でも互いを思いやる家族、友情の絆の強さにぐっときた。
    ウェットすぎず、重すぎず、ほどよく明るくて物語としてきっちり面白い。でも、問題提起をしっかりしてくるミーガン・リクス作品にすっかり魅了された。未訳の作品も、早く日本で紹介して欲しい。

  • 1939年イギリスがドイツに宣戦布告するとロンドンから子どもたちを疎開する人々が増えた。ロバートとルーシーのふたりも祖母の元に疎開することとなり、両親も戦争に備え空軍基地や船上病院での勤務につくために、ペットの三匹を近所に預けることとなった。しかしそこの主人によってペットたちが処分されそうになった時、三匹は命からがら逃げ出すのだった。

    第二次世界大戦下でのイギリスの様子を、疎開する子ども、都会に残る子ども、その親たち、そしてペットの動物たちの目を通して書かれています。そこには戦争を前にして40万匹以上のペットが安楽死させられたという史実があります。
    逃げ出した三匹ジャックラッセル犬のバスター、ボーダーコリー犬のローズ、猫のタイガーはローズの帰巣本能を元に旅をすることになるのですが、この三匹の個性が物語を引っ張っていきます。
    イタズラ好きで好奇心いっぱいのバスター、真面目で慎重なローズ、マイペースなタイガー。それぞれの見せ場も用意されており、三匹の旅を彩っています。三匹は擬人化することなくあくまで犬猫として書かれています。そこは描写の巧さと言いましょうか三匹の内面に入り過ぎず、少し離れた位置から三匹の様子が書かれているのです。そんな三匹の行動から三匹の気持ちが想起され共感を生むことになります。そして読者も三匹と共に旅をすることになるのです。
    そんな三匹と並行して人間の様子も描かれます。疎開先での人間関係、先の戦争の悲しみのために奇行を繰り返す祖母、戦争のために犠牲となる動物とそれを助けようとする人の活動。それらが組み合わされ戦争という重いテーマを扱いながらも温かさとユーモアにも溢れた作品となっています。

著者プロフィール

1962年ロンドンに生まれる。学習障害児の教育法を学んだ後、教職につくが、その後アメリカ、ニュージーランド、シンガポールなどで暮らす。現在は英国東部在住。

「2015年 『戦火の三匹 ロンドン大脱出』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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