刑罰0号 (文芸書)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198642211

作品紹介・あらすじ

罪を犯した者に、被害者が体験した記憶を追体験させることができる機械、「0号」。死刑に代わるシステムとして開発されるが、被験者たち自身の精神状態が影響して、なかなか成果が上がらない。その最中、開発者、佐田博士が私的な目的で使ったために研究所から放逐される事態に。研究は、部下の江波はるかが密かに引き継ぐことになったが……。人の心の機微を描くことに定評のある著者が、近未来を舞台に描く、渾身のヒューマン・ドラマ。

感想・レビュー・書評

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  • 市井物時代小説作家のイメージで手にしたこの作品、タイトルからして"時代小説"でないことは分かっていたが……。いま(2023年末)この時期に読んで、あまりにも現在の世界情勢に合っていて、フィクションとは思えないような内容だった。第二次世界大戦末期、広島・長崎に落とされた"原爆"から始まる物語は、全世界の人々にその悲惨さを体験させる『刑罰0号』の凄さがとても印象に残る作品。私的にはとても印象深く、読み甲斐のある作品だと思った。

  • 西條奈加がまさかこんな近未来のSFチックな話を書くとはビックリです。
    死刑囚の脳にチップを埋め込み被害者の記憶を入れた実験「刑罰0号」は失敗に終わるが、開発者の佐田は個人的な理由である少年に実験をする。

    最初こそ犯罪者の抑制、死刑制度廃止だがどんどん話が膨らんでラストは核廃絶までに…
    最先端の脳科学とか全く無知なので、こんな近未来ありえるだろうなぁと_φ(・_・

    ラストまで面白く読んだし結末も上手く着地となりましたが…やっぱり西條さんは人情ホロリとするような時代物、そんな作品の方が好きかな。


  • 罪を犯した者に、被害者が体験した記憶を追体験させ事ができる機械「0号」。
    死刑に代わるシステムとして開発されるが被験者たちの精神状態が影響して、
    なかなか成果があがらないーー。

    佐田洋介は記憶中枢分野でのスペシャリスト。
    死んだ人間の脳から記憶にかかわる部分をとりだして再合成することに成功。
    亡くなった人の記憶を、まるで映画の様に視覚と音で
    他人が見る事ができるシステムを開発した。
    さらに合成した記憶を他人の頭の中で再生できないか、
    法務省から依頼されたプロジェクト0号。
    罪を犯した者に、被害者が体験した記憶を追体験させることができる機械。
    しかし、実験は失敗に終わる。0号そのものに瑕疵はなかったが、被験者たちの精神が脆く、
    その負荷に耐えられなかったのだ。
    開発者の佐田洋介教授は、それでも不法に実験を強行し逮捕されてしまう。
    助手の江波はるかは、さる企業のバックアップのもと、密かに研究を続けるが…。

    物語の始まりは、日本の死刑囚に施す…。
    佐田の父親を見殺しにした少年に違法に施す…。
    その少年の十年後の姿…と、小さな出来事だった。
    小さいけどその辺りはとても興味深くどうなってくのだろうかって、
    ワクワク楽しんで読んでいた。
    しかし、物語のスケールがとんでもなく大きくなり、壮大な展開となった。
    アフリカでの聖戦の章は読むのが辛かった。
    そして、最後には地球全体を巻き込む…。
    テクノロジーの使い方次第で人類を幸福にも不幸にもできる。
    使い方って本当に怖いって痛烈に感じました。

    死刑制度の反対・テロや戦争の反対・核廃止…問いも重いテーマを含んでいましたが、
    決して重くならずにサクサクと読めました。
    展開が面白くって、こんなに壮大な物語になったのに上手く纏められたと感じました。
    ラストの落としどころも良かったです。
    読後感も良かった~(*´▽`*)

    • ロッキーさん
      惨い殺し方をされた方のニュースを見る時、犯人に同じ思いをさせてやりたい、と思う事があります。
      それが出来るのが、この機械なんですね。
      ...
      惨い殺し方をされた方のニュースを見る時、犯人に同じ思いをさせてやりたい、と思う事があります。
      それが出来るのが、この機械なんですね。
      確かに、その報復するという思いは叶うけど、それに耐えうる精神力を持っている人はほとんどいないから、みんな壊れてしまうと思います。
       それが地球的な規模になったら、どんなことになるのか?
      想像がつかないです。
      でも、読後感が良かったという事なので、平和的に解決するのかな?
      そうなって欲しいという思いも込めて、これも読んでみたい作品です(*^-^)
      2017/03/19
    • しのさん
      うんうん、他人事ながら私もそう感じる事が多々ありますし、人の心の痛みや勿論実際の痛みを全く理解出来ない人がいるなぁって感じています。
      異常...
      うんうん、他人事ながら私もそう感じる事が多々ありますし、人の心の痛みや勿論実際の痛みを全く理解出来ない人がいるなぁって感じています。
      異常な人が多いですよね( `ー´)ノ
      実際にこんな機械が発明されると良いんじゃないかって思ったりしました(;'∀')
      地球規模のテロはまた違ったものなのですが、人間実際に経験してみないと切実に感じられないんだなぁって痛感しました。
      でもこれは現実に起こりそうなテロで怖かった。
      読み易かったのですが、感動もその分少なくて★は3つとなりましたが、良かったら読んて下さいね(#^^#)
      2017/03/19
  • 人情物の西條奈加と思っていたが、思いもかけないSF小説を書いたものだ。死んだ人間から記憶を取り出し、生きた人間に埋め込んで疑似体験をさせるという話だ。こういうアイデアで、一体どんな話を展開していくのか。悲惨な記憶だったら、どうなってしまうのか。記憶は人格とどう関わって来るのか。最初から、広島の原爆投下が重い影を落としている。イスラム過激派、キリスト教世界の傲慢さ、核の不安などに上手くこのアイデアが直結してくるのだ。こんな目に会いたくないが、しかし目を背けてはいけないのではないか、と考えてしまう。
    人物の描き方は、さすがに上手い。それぞれに魅力があるのだ。それにしても、野末眞のことが、ちょっと中途半端なような気がするが。

  • 犯罪被害者の脳から記憶データを抽出し、犯罪捜査に役立て、さらには非業の死を加害者に追体験させることで贖罪を促すことを目的に開発されたシステム『0号』をめぐる物語。


    『まるまるの毬』から読み始め、人情時代小説の書き手としてとらえていた西條奈加さんのSF?と、期待と不安半々で読んだが、嬉しい事に期待以上に面白かった。

    被害者は、遺族は、加害者に何を求めているのか。
    現実と妄想、記憶と記憶の上書き、仮想現実。
    性善説、性悪説。少年法の是非。
    原爆と、同時多発テロ。
    宗教や価値観の対立。
    テロリストによる支配は、正当化されうるのか。
    すぐそこにある現実に直結した様々な問いかけを、『0号』で繋いで、ぐいぐい読ませる。

    開発途上で研究が中止となっても、応用や改善で粘り強く研究を続ける江波と、その助手二人、殊に金色のソフトクリーム頭のサルくんがいい味。

    脳から記憶を抽出する、データを上書きするといったアイディアは特に目新しいものではない。
    けれど、それを贖罪に使うというのは、もっとソフトに使えたら、“相手の身になって考える”システム?
    もしかして、イジメを無くしたり、差別を無くしたり出来るかも…と妄想。


    もっと昔から妄想しているのは、お医者さんが患者の苦痛をポチッと接続できたら、乳幼児や意思疎通の出来ない人の診察でも『この痛みは尋常じゃない』とか『ココが苦しいんだ、辛いんだ』と体感して、患者本位の心のこもった治療が出来るのではないかということ。

    誤診で見当違いの薬を処方されて、症状が悪化して痛みにのたうちまわった経験を、ろくに患者の顔も見ずに対応したあの医者に経験させてやりたいものだ。

    いや〜、そんな仕事になったら、医師のなり手がいなくなるか…

  • 今まで読んだのは時代物ばかり。初めての現代(近未来)物…私にとっては荒唐無稽とも思える内容でしたが、読後も頭をグルグルかき回されてる感じで、これからじわじわ滲みてくるでしょう。
    以下、ネタバレありです。
    記憶って、その持ち主だけのもののはず。それを他の誰かが読み出したり、他の誰かに書き込んだりできるようになったら、自分が自分であることの意味や価値はどうなるのでしょう?
    犯罪加害者に被害者の記憶を追体験させることが、死刑の代わりになるでしょうか?
    私は否と言いたいです。そんなことしなくても、他者の気持ちを想像することが、人間にはできるはず。贖罪とは、そう言うことだと思います。同じ目に合わせて、「ね? あなたのしたことは、ひどいことなのよ?」と思い知らせても、素直に贖罪の気持ちが生まれるとは思えない。実際、下沢俊もそう描かれています。
    私の記憶は私だけのもの。誰にも見られたくないし、誰のも見たくない。

  • もし犯罪者に被害者の諸々を体験をさせる事が可能になったとしても、
    共感力が低いから歯止めのきかない人達に
    反省を促す事には繋がらないように思えてなりません。

    実際やってみないと分かりませんけどね。

    でももし本当にこの作品に出て来るシステムのようなものが作られたら
    犯罪者よりも自殺志願者や何らかの理由で生きる事に苦しむ人の為にも使えるように思う。

    未来っぽい話は色々想像できる余地があるのが良いな。

  • 刑罰0号。
    死刑囚に被害者の体験を追体験させる。
    その発明がらどんどん話がふくらんでいく。

    始めの実験で、被験者は自身の罪に暴力的なまでに直面化させられる。そのあまりの重さに耐えられずに、元には戻れなくなる。そういった罪を犯す事自体が弱さの現れであり、自身の罪を認められないが故に逃避している。

    贖罪とはなにか
    何が正しくて何が間違っているのか
    考えさせられる1冊。

  • 西条奈加さん2作目。

  • 予想よりスケールの大きい話だった。まあ、被害者の記憶を加害者に追体験させることで贖罪の念を促す、という0号の性質からすると、そういう展開もあるか。しかしいろいろと盛り込みすぎのような気もした。テーマをどれか一つに絞れば、もっと濃い物語になったかもしれないなあ。

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著者プロフィール

1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。12年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞、15年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞、21年『心淋し川』で第164回直木賞を受賞。著書に『九十九藤』『ごんたくれ』『猫の傀儡』『銀杏手ならい』『無暁の鈴』『曲亭の家』『秋葉原先留交番ゆうれい付き』『隠居すごろく』など多数。

「2023年 『隠居おてだま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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