- Amazon.co.jp ・本 (493ページ)
- / ISBN・EAN: 9784198642969
作品紹介・あらすじ
世界的ベストセラー『鱈――世界を変えた魚の歴史』『塩の世界史』のマーク・カーランスキーが手掛けた「紙」の歴史。紙が最初につくられた中国から、イスラム、スペイン、イタリア、オランダ、イギリス、フランス、アメリカ、日本まで、まさに「紙」を通して世界史を概観する骨太の歴史書。経済、芸術、宗教、生活様式等、紙が人類に与えた影響を多角的な視点から解説。知のカリスマ・佐藤優氏推薦。
感想・レビュー・書評
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紙というテクノロジーを例として、「テクノロジーが社会を作るのではなく、社会がテクノロジーを作る」ことについて語られていた。
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●副題に「歴史に突き動かされた技術」とある。紙の世界史とは、文化や思想の発展に伴って紙が要請されてきたのであって、紙がなければ宗教改革やルネサンス、産業革命も起こらなかったとする歴史観に筆者は異を唱えている。
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読む前に想像していたよりもずっと面白い本だった。というのも、たんなる紙の技術史であるのみならず、さまざまな分野への広がりがあるから。
これは、紙というフィルターを通した芸術史(美術史・文学史など)でもあり、出版史・メディア史・印刷史でもあり、さらには宗教史・政治史でもある。
芸術や宗教などの歴史に、紙と印刷技術の誕生・発達・普及がいかなる役割を果たしてきたか――それが詳述される点が、興趣尽きないのだ。
目からウロコのトピック満載。たとえば――。
木材パルプが登場するまで、紙の原料は古布であり、米国の南北戦争時代には死んだ兵士の衣服を剥ぎ取るハイエナのような製紙業者が横行した(!)という。
いまでこそ素晴らしい日本文化の一つとして認められている和紙は、ある時代までのヨーロッパでは粗悪な紙と見做され、軽んじられていた。
ヨーロッパで和紙の優れた価値をいち早く見抜いたのは、画家のレンブラントであった。彼は、エッチング版画に日本から輸入された和紙を用いたという。
活版印刷技術を発明して世界の歴史を変えたグーテンベルクは、その技術を富に変えることができず、貧窮のうちに没したという。
膨大な文献を渉猟し、世界各国を取材して書き上げられた、重厚な歴史ノンフィクション。
第18章「アジアへの回帰」では、著者が日本で取材した和紙業界の現状が、かなりの紙数を割いて詳述される。日本人にはここだけでも一読の価値あり。 -
テクノロジーが社会を変えるのではなく、社会が必要なテクノロジーを生み出す。言い換えれば、新しく現れたテクノロジーが生き残るのは、社会がそのテクノロジーを必要とする地点に到達している場合に限る。…というのが本書を貫く基本の考え方。この考え方に拠ることで、紙という工業生産物を通じて歴史を振り返ることが可能になる。
紙の歴史、イコール出版史、イコール文学史のような安易なイメージがなんとなくあったが、それ以外の紙の側面についてもいちいち取り上げている。たとえば紙が安価になってメモを取ることが可能になった結果のデッサンや数学の発達。折り紙。製紙の工程の発達。建築への利用。
2014年に和紙がユネスコ無形文化遺産登録された際、中国の書家にして製紙業者である人物が「面目を失った」と感じたというエピソード(p423)。なお和紙作りの話はp425以下に詳しい。 -
かなりざっくりしたナナメ読み。
「テクノロジーが社会を変えるのではく、社会の方が社会のなかで起こる変化に対応するためにテクノロジーを発達させている」
ことが府に落ちる。
「新たなテクノロジーが古いテクノロジーと完全に入れ替わるといことは歴史ではめったに起こらず、たいていは有効な選択肢がひとつ増えるにとどまる」
なるほど。
「コンピュータは計算やデータの保存という発想で生まれた」
「コンピュータは本や紙の代わりをするべく開発されてきたのではなかった。情報をより収納しやすく取りだしやすい方法として考案された」
なるほど。
現代は、歴史上で突出したイノベーションは起きていなくて、戦略的なマーケティングによって起こされた錯覚なのかも。
とりあえず、紙はまだなくならない。 -
サブタイトルは「歴史に突き動かされた技術」で、著者は「鱈―世界を変えた魚の歴史}(飛鳥新社)、[塩の世界史―歴史を動かした小さな粒」(中央公論新社)、「1968―世界が揺れた年」(ヴィレッジブックス)などの作品を出している、ニューヨークタイムズ・ベストセラーリストの常連。
テクノロジーが紙をはじめとする社会に与える影響について、著者は以下のように述べている。
「テクノロジーは促進策にすぎない。変わるのは社会であり、社会の変化が新たな需要を生む。それが、テクノロジーが導入される理由である」
卵が先か鶏が先か。たとえ、コンピュータやタブレットが出回っても紙の需要がなくなるとは限らない。
紙が世界で使われるようになって社会にいろいろな変化を起こしている。印刷技術の進化であの宗教改革に影響をもたらしたり、紙幣の登場でやり取りが容易になったりした。
終章では、変化し続ける世界としてこれからの紙の存在についていろいろ述べられている。紙はこれからどうなっていくのか。今後登場してくる様々なテクノロジーとどう向き合っていくのか気になるところだ。 -
===qte===
紙の世界史 マーク・カーランスキー著 「記録」する人間が多様に活用
2016/12/4付日本経済新聞 朝刊
「タラ」や「塩」を入り口に知られざる歴史の一断面を提示してきた米国の作家が、次に手がけたテーマは「紙」。初めて紙が作られたという中国からイスラム、欧州、米国、日本まで、紙を通じて世界史を概観できる歴史書だ。
古代ギリシャ時代の叙事詩は吟遊詩人が朗読していた。当時は書物がなく、あったとしてもパピルスの上に書かれた写本だった。一般の人間が手に取れるはずもなく、多くの人は詩人らが暗記したテキストが語られるのを聞いていた。つまり口承によって物語が広がっていた。
しかし、記憶には限界がある。そして人間には他の動物にはない「記録」するという特質があったと著者は説明する。石や粘土、板や獣皮など紙以前にも記録の道具はあったが、紙が生まれると他を圧倒した。人間は儀式、紙幣、書物、芸術、革命などに紙を使った。紙の波及や変化をたどりながら、本書は文明の変遷を鮮やかに描き出す。
デジタル時代の今、紙は消滅するのか。著者は「口承文化が今も生き残っている」ことを思い出すべきだといい、また顔文字や絵文字は「象形文字への回帰」だと指摘する。「変化と変化に対する抵抗はつねに手を取り合って進む」からだという。紙は今後も人間の身近な存在であり続けそうだ。川副智子訳。(徳間書店・2400円)
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