- Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
- / ISBN・EAN: 9784198643454
作品紹介・あらすじ
手が好きなので、あなたの手を見せてください!――不思議なノリで盛り上がる、深夜の掲示板。そこに集う人々は、日々積み重なっていく小さな違和感に、窮屈さを覚えていた。ほんとの俺ってなんだ――「小鳥の爪先」女という性になじめない――「あざが薄れるころ」不安や醜さが免除されている子はずるい――「マリアを愛する」社会の約束事を無視するなんて――「鮮やかな熱病」俺はいつも取り繕ってばかりだな――「真夜中のストーリー」連作短篇集。
感想・レビュー・書評
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心の不安・悲しみ・寂しさがある人は手に取ってみると、もっと楽に物事を見つめ考えることができるのでは・・・と、思う作品でした。読みやすく面白い短編集でした。
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やっぱり彩瀬さん、連作短編が巧いなぁと改めて思った。
様々な世代の男女がそれぞれにコンプレックスを抱え、周囲に受け入れられない息苦しさを感じながら日々をやり過ごしている。
彩瀬さん独特の湿度を持った文章が、柔らかく時に鋭く心の裏側を抉る。まさに「眠れない夜」は本当の自分が現れるとき。はみ出してしまった醜い感情を浄化させ、一歩を踏み出させる彩瀬さんのさり気ない優しさが今作でも心にしみる。この、そっと寄り添ってくれる距離感がいつも丁度よいのだ。その程よさに救われる。
5つの短編に共通して登場する、ネットの掲示板。「手が大好きなので、いま起きている人の手の画像を下さい!」というスレッドが、それぞれの登場人物達の心をざわつかせる。肯定されたり、否定されたりのスレ主の少女は一体何者?とこちらまでざわざわする。
最終話での見事な伏線の回収には驚いた。全体的に漂うしっとりした空気感は好みが分かれるかもしれないけど、私はいつも、彩瀬さんの作品を読むと少し呼吸するのが楽になる。読む前はタイトルにピンとこなかったのだが、読了後、「体を脱いで」の意味するところがよくわかる。深いです。 -
自分という生き物とうまく付き合えなくて、自分でいることに窮屈さを覚える。
どうして自分はこんな風にしか生きられないのだろう。という自己嫌悪に陥った経験を持つ人は、持たない人よりも多く存在すると思う。
別の誰かになることは叶わない。それならばこの自分という厄介な生き物と、どう付き合っていけばいいのか。
そういった想いを抱えた登場人物たちが織り成す、5つの短編集。
美しい容姿に生まれたことを窮屈に感じている男子高校生や、女性という性に少なからず違和感を抱えながら生きてきた中年女性など、自分のコンプレックスが何であるかをはっきり認識している主人公もいれば、真面目すぎて物事をまっすぐに決め付けてしまうことを周りに疎まれながらも、自覚は出来ていない老年の男性が主人公の物語もある。
いずれにしてもどこか“上手く生きられない”人たちが主役であるところが、身近に感じてとても愛おしくなる。
5つの物語の共通点はインターネット上にある1つの掲示板のスレッドで、若い女性が立てたらしい「手が好きなので、いま起きている人の手の画像をください!」という内容のもの。
5人のうち4人の主人公はそのスレッドを偶然見つけ、ほんの一時軽く関わる。そして残りの1人は…という少しの謎も楽しめるつくり。
みんなスレッドとの関わり方はほんの浅いものなのに、不思議とその存在が心に残る。偶然見つけてふと立ち寄って書き込みをするのだけど、その内容が主人公たちの悩みやコンプレックスにとても沿っているところが興味深い。
普段悩んでいることや考えていることが無意識に現れる瞬間の小さな恐ろしさのようなものを感じた。
私はとくに「小鳥の爪先」と「マリアを愛する」が好きだった。主人公たちのコンプレックスを理解出来るせいかもしれない。
ネット上に居場所を求める人間が数多いる今の世の中。不健全だと責める人もいるかも知れないけれど、それによってどうにかバランスを保てている人も確かに存在する。
そこに血の通ったような温かさを感じることも、きっと不可能ではないのだと思う。 -
最後の話が一番好き
体を脱いだら心だけが残る。体という属性を排除して心だけになれたら、自分は何を考えどう振る舞うだろう。今の自分とは変わるだろうか。 -
2時間邦画を見ている感じ!
色んな短編が緩やかに繋がりを帯びている。
マリアを愛する が一番好きかなぁ。
恋してる女の子のトロンとした柔らかさって可愛いよね。
51/100 -
イケメンであることがコンプレックスな少年
50代独身で合気道の黒帯取得を目指す女性
彼氏の元彼女だと勘違いしていた女のコが幽霊となってあらわれる話
金融機関の管理職の男性から見た家族や美人社員、これからの生き方
ネットゲームで女のコになりすまして遊んでいたおじさん
様々なコンプレックスを抱えながら、迷いつつも必死で生きる人たちを描いた連続短編集。
身体と心の動き、描写がとても素晴らしく
言葉の紡ぎ方?がとても美しい。
が
途中で飽きてしまったのが正直なところ。
新しい価値を不快に感じるのは、それまでのルールに上手く乗ってこられた奴だ。 -
手をキーに緩く繋がった連作短編集。鮮やかな熱病、がとても心に残った。
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こんなにタイトルがしっくりきて
余韻を残す作品は初めてだな。
ちゃんと生きている人たちがそこにいて
嫌なところもあるけれど、優しくて
見えていなかったものや、見る気のなかったものに
触れて強くなっていく柔らかな希望が広がっていく
物語だった。好きだなー。
希望に当てられて、しんどくなることもあるけれど
この作品の希望はほんのりと灯る光のようで
苦しさをもたらさなかった。