雲上雲下(うんじょううんげ) (文芸書)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198645595

作品紹介・あらすじ

「草どん、語ってくれろ」どこからともなく現れた子狐は、目の前にいた草に話しかけた。物語をせがむ子狐に、草どんは重い口をひらく……。
子狐に山姥、乙姫に天人、そして龍の子。民話の主人公たちが笑い、苦悩し、闘う! 
「俺たち、本当に存在しているんですか?」
やがて物語は交錯し、雲上雲下がひずみ始める。物語が世界から消えてしまうのか?
不思議で懐かしい、ニッポンのファンタジー。

感想・レビュー・書評

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  • いいなあ、昔話
    様々な民話をつないでストーリーに仕立てている
    朝井まかてさん、すごい
    懐かしい登場人物ばかり
    昔から庶民が大切に語り伝えて来たもの
    それを私たちは忘れ去ろうとしている
    その危機感がラストに

    草どんと子ぎつね、山姥
    深く味わいました

    ≪ 雲上と 雲下の境 物語る ≫

  • 物語ることで、雲上の神々と雲下の民が繋がる。そもそも民が語ることが、神々を存在させていたのだという。
    物語自体がおもしろい上に、深い。
    草どん、子狐、山姥、登場人物が愛しく、切ない。昔話のあの人、あのものを、こんな形で一つのお話に登場させるとは…おもしろい!

  • 子供の頃によく大人から読み聞かせをしてもらった昔噺。
    やがて私自身も親となり娘達に絵本の読み聞かせはしたけれど、そういえば昔噺はあまりしたことがないかも。

    宵っ張りの子狐にせがまれて、眠る前に昔噺を優しく語る「草どん」。
    初めは面倒くさがっていた「草どん」もいつしか楽しみになっていた。
    いつからここにおるのか、何故草の姿をしているのか、己のことは何一つ思い出せないままなのに、何故か数多の物語は溢れ出てくる。

    「おらたちの話を、もう誰も聞きたがらない。忘れてゆくばかりなんだ」
    昔噺に登場する狐や狸、兎、亀達の嘆きの声が胸を抉る。
    聴き手がいてこその語り手。
    両者を繋ぐ「物語」の存在意義について考えさせられた。
    現実しか見ようとしない想像力も乏しくなってしまった現代を生きる若者達への警告のような物語だった。
    未来に残すため、語り伝えていかなければならない「物語」は沢山ある。
    我々大人達の果たすべき使命の一つだと思う。

  • 読み終えて寂しい気持ちになった。
    このお話にあるとおり、
    古いものはどんどん忘れ去られていく。
    それを誰かが伝えていかない限り。
    わたしはその生き残りのひとりなんだなぁ。

    ちょっと生意気な子狐と、
    正体不明な草どんとのやりとりが
    かわいらしくて和んだ。

  • 草じいが、子狐や山姥に語る昔話。
    やがて判明する草じいの正体と大事な役目とは?
    雲上と雲下の関係を描く、ファンタジー。
    章ノ一 小さき者たち・・・草じいが語る昔話は、団子地蔵、
           見るなのタンス、田螺長者、猿の生き肝、猫檀家。
    章ノ二 勇の者たち・・・小泉小太郎(龍の子太郎の原型)
               貧乏神や笠地蔵も登場。
    章ノ三 物語の果て・・・つつじのむすめと山姥。
           語りから明らかになる草じいの正体と雲上の話。
           そして、その役目が重大であったことに気づく。
    参考文献、献辞有り。
    草どんが子狐や山姥に語る形式の、創作昔話が中心で物語が
    進行します。松谷みよ子さんへのオマージュかとも思いましたが、
    この物語では人の抱える問題が露わに表れています。
    パワハラ、セクハラ、いじめ、猜疑心に忖度・・・現代社会と同様。
    それでも、小太郎の物語のような、切なさが心に響く佳品もある。
    だが、語りで生き長らえた、あまたの昔話に登場する者たちの
    出現によって、話の様相は変わります。草じいとは、何者か?
    雲上での、雲下の民草の間で語られる物語を集め、
    神々に披露する、お役目。物語こそが雲上と雲下を繋ぐ。
    物語を紡いでいるのは、人々の心。
    物語が語られなくなることの危機感、独特の神々の世界観等、
    独創的なファンタジー作品だなぁと思いました。
    語り継がれる大事なものが失われつつある、現代日本。
    伝統や知恵等、その危機感を昔話に例えて、知らせています。
    そして最後、まったく無くなったわけではない。
    まだまだ物語を語る・・・受け継ぐ心があるという、
    そんな希望を感じました。

  • 昔話を知らない人には凄く面白いのでは。
    知ってる人にはどうだろう。あまりリアルに語っては昔話の良さが薄れてしまう気もする。龍の子太郎は表紙になっているだけあって面白かった。昔話をまるでファンタジー大作みたいにしてあった。恋愛要素もあるし。
    つつじの娘はほぼまんまで、丸木俊の絵を思い出した。あれと『ほうちょかけたか』はホントに怖かったなあと思い出す。
    猿の生き肝は、くらげ骨無しになるから面白いんで、ちょっと作りすぎと思った。
    昔話自体に力があるので、面白くて当然なのである。
    現代の風刺と希望を残したところがオリジナル。
    しかし、読み聞かせは大事って、若い親もやってる人が多いけど、昔話を耳から聞くってことは本当に減ってしまった。私も本で読んだ方が多い。が、語りを聞いた時の経験は忘れがたい。特にその土地の人がその土地の言葉で語るのを聞いた時の衝撃は。
    そういう体験の重要性をこの本が気付かせてくれるのではないかと期待する。
    ジブリとかがアニメにしてくれないかな。

    昔話はもっと知られるべきだし、語りの文化を絶やさない努力をしなければと思った。

  • 朗読したいと思わせる本! 草どんが子狐に聞かせる昔語り、語呂合わせやリズムが心地良い調べでぐいぐい引き込まれていった。妖精や魔法使いの替わりに山姥や田螺、猿、亀、龍などが登場する日本独特のファンタジーの世界だ。外国のように美しくきらびやかではなく地味だが、ほのぼのとして日向ぼっこしているような温かさがある。目下傾倒している森谷明子さんが描く世界観に近い印象を持った。
    幼い頃、見聞きした昔話がたくさん語られたが、私が見知った昔話はすでにダイジェストされたものだったのだろうか。本作で取り上げられた昔話は長編だった。それは作者が更に肉付けを施したものか、それとも本の最後に提示してある語り部の方々が伝えられているものなのかと興味深かった。小さい頃は半ば退屈しながら読んだのに、お話を聞いている子狐みたいに「話の先はどうなるの?」とドキドキしながらページを繰った。
    だからだろうか?
    三章『物語の果て』は理屈っぽくなり、せっかく楽しんでいた物語の世界から現実に引き戻され残念だった。
    たぶん、昔話に耳を貸さない親や子供たちが増えている昨今を憂えてのことだろうが・・・。昔話に登場する者らの姿が消えかかり消滅寸前となる。そこで草どんは草だったのではなく、昔は天上に住んでいてお話を語る福耳彦命だったと話はしめ繰られている。
    特にP14の春の風は鈍物で、夏の風は計算深く、数奇者を気取る秋風、冬の風は話にならない~と、1ページに渡る描写は巧い。
    以前、朗読会で披露した「つつじのむすめ」も懐かしい。私が語ったのは松谷みよ子さんの絵本で、本作で取り上げたのと少し異なる。
    しかし、毎夜訪れ葬られた娘を不憫に思うより「あれじゃあ男も怖かっただなぁ~」と、山姥がふっと洩らし、私も回を重ねるごとに同様に感じたのを思い出しくすっと笑ってしまった。

  • 最近は、人の口で伝えられる懐かしい昔話をとんと聞かなくなったような気がする。本屋に並ぶ本も、やたらに感動を衒っていたり、子供が安易に喜びそうなネタに迎合しているものばかりで、そんなものが果たして、どれだけの事を読み手の心に残してくれるんだろうか。
    世代を超えて親や祖父母から語り受け継いで来た、この世を生き抜く様々な知恵を、子や次世代へ手離してゆくことが私達の社会にとってどれほど大切であるのかを、この本で学んだ。

    「親や祖父母は夜、膝に抱えた子どもにそんな噺を語りきかせて寝かしつける。知恵者に育てと、笑い話に託して。でなければ、痛い目に遭うぞと。あるいは、胸の踊る冒険譚によって、勇気の何たるかを教える。人の心の狡さや恐ろしさを注意深く伝えながら、励ますのだ。生まれたこの世を生きて生きて、生き尽くせと。」

    小さい子を持つ親にこそ是非読んで欲しい本。ただの小説であることを超え、昔話で語られる主人公達が、人が強く行き抜いてゆく為に大切な事を教えてくれる、素晴らしい作品だった。

  • 日本昔話をモチーフにした不思議なファンタジー作品。
    物語が消える=日本の良き伝統や文化が消えると言う、痛烈かつ戒めがメッセージかと思う。残すべき物語(心)とは何かを考えさせられる本。

  • 昔話か・・・と思いながら
    読み進めていくうちに ぐいぐいと心に響いてきます
    いつの間にか 猫寺を読みながら泣き
    小太郎の母探しの道の遠さに
    母を慕う心に苦しくなります
    こんなに民話って心に響くんだ
    と改めて感激します

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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