• 徳間書店 (2018年7月21日発売)
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本棚登録 : 249
感想 : 39
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  • 本 ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198646547

作品紹介・あらすじ

紀州雑賀崎を発祥の地とする一本釣り漁師船団。かつては「海の雑賀衆」との勇名を轟かせた彼らも、時代の波に呑まれ、終の棲家と定めたのは日本海に浮かぶ孤島だった。日銭を稼ぎ、場末の居酒屋で管を巻く、そんな彼らの生を照らす一筋の光明。しかしそれは崩壊への序曲にすぎなかった――。
第1回大藪春彦新人賞受賞者、捨身の初長編

感想・レビュー・書評

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  • 紀州雑賀沖の無人島に住み、鯖の一本釣りで生計を立てる男たち。彼らは皆、陸の生活になじめずに流れ着き、地元の漁業組合にも属さない孤高の集団だ。そんな彼らに中国人のビジネスウーマンが目をつける。彼らの独特の漁業方法と所有する島を使った一攫千金の大事業が計画される。

    社会からはみ出した個性的な漁師たちと、中国人事業家アンジー、それぞれの野心と狂気がぶつかり合うハードボイルド小説。後半、最初の死人が出たところから物語は一気にヒートアップする。

    そして、本作は主人公の35歳童貞漁師、シンイチの成長の物語でもある。彼がしだいにダークサイドに堕ちていく過程は実にリアル。人間の弱さとズルさが痛々しく描かれる。

    作者の赤松利市氏は62歳でデビューした住所不定作家。漁師の経験はなかったようだが、様々な修羅場を通過した作者の経験が、この物語にかなり活かされているのだろう。これから、追いかけたい作家だ。

  • 後味がものすごく悪い…

    物語は実質、アンジからの新一への「シンイチと呼んでいいわね」というセリフから始まる。そこからのジェットスターのような展開。グイグイ惹きこまれるようにして読んだ。

    『鯖』というタイトルが示す、もちろん素人にはまったくわからない、しかし物語の重要な構成要素である一本釣り漁の知識の有無を問わない驚異の筆致だ。

    主人公の変容を表す表現の上手さ、卓越した人物造形、伏線回収の巧さなどが相まって、極上のエンターテイメントたらしめている。

    しかもリーダビリティが高く、次のページをめくる手が止まらない。読み終わるのがもったいない。誰が読んでもそう思うだろう。

    第三章の途中までは今年の心のベストテン第一位だった。

    しかし第四章を読みながら、きっとこうなってしまうんだろうなという予感がだんだんと膨れ上がってくる。そして予想通りのバッドエンド。

    しかし読了後の気分は、後味が悪いの一言に尽きる。
    ここまで計算づくなんだろうな。

  • 途中から主人公のサクセスストーリーを期待してしまって読んでいたので、読後のあと味の悪さがすごい!
    日本海側の雲の厚みと薄暗さ、、、
    とにかく描写がリアル。

    激しい心の浮き沈みを求めるなら、良かったかも。

  •  絶海の孤島に住み着いた荒くれ漁師たち。
     男同士、孤島、共同生活。
     何も起きないはずがなく。

     一気読み。
     底辺の中にも序列があり、一位から転落するともはや群れには残れず食われるしかない。
     まさに獣の群れ。
     そんな獣たちがビジネスに巻き込まれる。
     一本釣りの鯖が金になり、カネに心がおかしくなっていく。
     
     これは、群れの中で卑屈に生きている青年の、ある意味では成長譚である。
     その先の破滅へと突き進んでいることに、本人だけが気が付かない。

     
     和歌山県雑賀崎、ここから日本の漁法が広まったといわれる時代もあった。
     しかし、現代では主流の網漁に対して一本釣りでは暮らしていけない。
     普通の生活では生きていけない漁師が集まり、日本海の孤島をねぐらにした。
     ここに住み着いた5人は、浜の料理屋を相手に商売をしていた。

     そこへ、一本釣りの鯖に目を付けた中国系カナダ人、アンジが彼らに取引を持ち掛ける。
     鯖のへしこは中国で売れる。
     この島を鯖の一本釣りの一大拠点にする。

     その計画に乗った漁師たちだったが、取引額に目がくらみ貧困は暴力へと暴走を始める。

     
     鯖のへしこ旨いよね。
     福井でへしこつまんで梵呑みたい。

  • めっちゃゲスい!
    漁師たちの体臭と魚の生臭さと欲望の腐臭で息が詰まるような物語。
    時代の波から取り残され一本釣りでその日の糧を稼ぐ漁師たち。
    彼らの釣る鯖に目を付けたベンチャー企業。
    そこに更に喰らいつき荒稼ぎをもくろむ中国人の美魔女。

  • 細々と漁で暮らしを立てていた一本釣り漁師の仲間たちが、中華系カナダ人の美女にビッグなビジネスを持ちかけられ、段々と歯車が狂っていく・・・。もてない男は結局金と女が身を滅ぼすってことか。荒削りだし、荒唐無稽だけど、漁のディティールとかやたら細かくて、知識がなくてもイメージできる。不思議な魅力のある話。

  • 「鯖」というインパクトあるタイトル。
    どういったお話が展開されるのか皆目見当がつかなかったけれど
    お金を手にするとこうまで人間は転落していくのか。
    悪にまみれたアンジが怖すぎた。冷静沈着なのだろうけど、彼女に翻弄される男性陣が虚しすぎる。
    漁師を題材とした物語もなかなか味があってとても面白い。だけど個人的には後半の転落劇はいただけなかったかな。

  • 2月-18。3.5点。
    和歌山雑賀の一本釣り猟師たち。極貧の中、京都外れの料亭へ魚をおろす。
    成金と中国女性が、新規ビジネスを持ち込むが。

    ひとりの男の変わり様を上手く描いている。
    一気読みした。次作も期待。

  • 3.72/207
    内容(「BOOK」データベースより)
    『紀州雑賀崎を発祥の地とする一本釣り漁師船団。かつては「海の雑賀衆」との勇名を轟かせた彼らも、時代の波に呑まれ、終の棲家と定めたのは日本海に浮かぶ孤島だった。日銭を稼ぎ、場末の居酒屋で管を巻く、そんな彼らの生を照らす一筋の光明。しかしそれは破滅への序曲にすぎなかった―。第1回大藪春彦新人賞受賞者、捨身の初長編。』

    冒頭
    『正月五日――。
    北海道北西沖で急速に発達した低気圧の影響で日本海は大荒れだった。
    太平洋側の高気圧に阻まれた低気圧は、もう一週間以上も、発生した場所に居座ったままだ。島より北に位置する日本海沿岸各地では豪雪も報じられている。
    ぼくたち五人は、ひと間しかない小屋の、六畳足らずの、垢と汗の臭いが澱む部屋で枕を並べ、なすすべもなく湿った蒲団を被っている。』


    『鯖』
    著者:赤松 利市(あかまつ りいち
    出版社 ‏: ‎徳間書店
    単行本 ‏: ‎408ページ

  • 物語は時に穏やかに、豊かに。ところが突然大波が起きて荒々しく逆巻いたり、海のように表情を変える小説。

    1章 海霧の中を行くような息苦しさと共に話が進む。
    2章 のんびりと穏やかなシーンが続く。正直この調子で最後までいくのか不安がよぎる。
    3章 あまりの急展開。
    4章 前半とは違う本を読んでいるかのような生臭さ。

    まさに「鯖の生き腐れ」の通り、“海の雑賀衆“は短期間で、だが着々と腐敗は進んでいたのだ。

    漁師という擬似家族が狭い船の中で過ごすという一般的には知られざるテーマをこんなにもリアルに描けるのは何故なんだろう。 


    1刷
    2021.5.15

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著者プロフィール

赤松利市
一九五六年、香川県生まれ。二〇一八年、「藻屑蟹」で第一回大藪春彦新人賞を受賞しデビュー。二〇年、『犬』で第二十二回大藪春彦賞を受賞。他の著書に『鯖』『らんちう』『ボダ子』『饗宴』『エレジー』『東京棄民』など、エッセイに『下級国民A』がある。

「2023年 『アウターライズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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