ゴーン・ショック! 事件の背後にある国家戦略と世界経済の行方

著者 :
  • 徳間書店
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198647674

作品紹介・あらすじ

カルロス・ゴーンの逮捕は、なぜいまだったのか。今後の自動車産業、ひいては世界経済に何が起こるのか。ゴーンが狙っていた絵画による報酬受取という租税回避手口から、フランス政府と日本の経産省・日産との激突、その裏にある米仏の対立とアメリカによる口座監視体制、フランスでの暴動、さらには各国で進むファーウェイ排除の動きとの関連性まで、ゴーン失脚を取り巻くさまざまな状況を解説、今後の世界的企業再編や経済変化を読み解いていく。

感想・レビュー・書評

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  • 圧倒的な取材量、非常に読み応えのある本だ。

    本のあとがきに、「ゴーンショックは終わっていない」という表現があるが、ゴーンが実際に私利私欲をはかるために犯罪行為を行ったのかどうか(何らかの犯罪的行為があったと思うが)は、日本で本人の裁判が開かれないであろう現状から考えると、真相がクリアになることは今後ないと思う。
    それでも、本書は「ゴーンショックは終わっていない」と言っており、それはうなづける。

    日産自動車は、本件に関して、一貫してゴーン個人の犯罪であり、日産はその被害者であるという主張をしている。ある面でそうだと思うが、会社の最高責任者が、会社の機関を通じて、そのような犯罪行為に手を染めることが出来る会社の統治、ガバナンスに大きな欠陥があったということだ。日産は、このようなことが起こった理由の一つに、ゴーンへの権力の集中をあげているが、そうならないような仕組みをつくることを企業統治、コーポレートガバナンスと言う。日産は、確かにゴーン逮捕後、ここに手をつけたが、ゴーン在任中にそれが出来ていなかったことは、日産のステークホルダー、例えば株主からすれば、許容出来ないのではないか。
    ゴーンが、日産の実質責任者となり、有名なリバイバルプランを作ってから、約20年が経過している。企業破綻の瀬戸際まで追い込まれてからの、鮮やかなV字回復は記憶に強く残っている。その後の日産は、順調に経営を続けていたと言う印象を持っていたのだが、ゴーンが去った後の2019年度決算は大幅な赤字。一時的なものではなく、構造的な要因が窺われる。結局は、20年前に逆戻りなのか。

    私自身は、こういった、日産という会社のコーポレートガバナンスや経営そのものにゴーンショックが続いていることを感じる。
    日本の司法制度のあり方なども論点。

    と言ったようなことを考えさせてくれた本。分厚い本なので、読むのに骨は折れるが、お勧め。

  • 今(2020.4.11)の話題は世界中で新型コロナ感染の一色なので、今年初めにあの、カルロス・ゴーン氏が逃亡してしまったことはニュースにもならなくなりました。大きなニュースでも、より大きなニュースがでると簡単に消えてしまうものなのですね。

    この本は、彼の逃亡がニュースで取り上げられて、感染の話題が持ち上がるまでの今年(2020)1月下旬に読み終えた本です。私はゴーン氏がルノーからやってきて大胆な改革を行って日産を立て直したのを社会人として見てきましたので、その経営手腕も凄いと思ってきましたが、彼が捕まったときの罪状をニュースなので見る限り情けないなと思いました。

    この本では、ゴーンショックとは何を意味するのか、これから世界はどうなっていくかを解説された本で、今後の世界が変わっていくことが目に浮かぶような気分になりました、覚悟が必要ですね~

    以下は気になったポイントです。

    ・今回の事件で逮捕者がたった二人だったのは、日産と東京地検特捜部の間で司法取引があったため、日本も2018年6月から導入した、日本では制度導入後二例目であった(p20)

    ・ゴーンが日産をV字回復させることに成功した要因は、組合潰しと、徹底したコストカット(5つの工場閉鎖、全従業員の14%:2万人を削減、系列破壊)であった。(p29,30)

    ・全世界で販売台数2位だった2017年の日産の日本市場での販売シェアは、10.2%(1976年には31%、トヨタ37.7%)であり、トヨタの30.7%との差が大きい(p36)

    ・筆頭株主とはいえ、15%しか保有していないフランス政府がルノーの経営に介入できるのは、オランド前政権のもと、2014年に株式を2年以上保有する株主の議決権を2倍にするという、フロランジュ法が制定されたから(p38)

    ・フランスは株式会社化や民営化されたものの、政府出資が残っており政府による関与が強い、ルノーもそうであり他国の民間企業はインフラを支配する構造になっている。(p64)

    ・フランスのヴェオリア、イギリスのスエズは世界二強の水道会社であり、120か国で水道事業運営を受注して、両社とも世界シェア10%を超えている(p66)

    ・アメリカでは2018年8月に「外国投資リスク審査近代化法」にトランプ大統領が署名して成立した、中国企業による容易な買収を防ぐもの(p74)

    ・アメリカがイラク・フセイン政権を潰したのは、フランスが原油のユーロ決済を持ちかけたから。もともとイラクはドル決済をしていたのでフセイン政権を支援していた。フセインはスンニ派(2割)であり、アメリカのCIAはフセインを支援してスンニ派国家を作った(p83)

    ・ゴーンの逮捕が象徴しているのは、グローバリズムの終焉である。イギリスのEU離脱、トランプ大統領の誕生も反グローバリズムから起きている。オーストリアでは極右政党が政権入りした(p89)

    ・2018年10月18日、トランプ大統領は万国郵便条約から離脱する意向を表明した、中国からアメリカへ小包を送る料金のほうが、アメリカから中国、アメリカ国内の輸送料よりもずっと安く抑えられている、その差額分をアメリカ企業が負担している(p95)

    ・習近平政権は、国有企業のみならず在中国の外資企業にまで中国共産党の支部の設置を義務付けていて共産党による企業支配を強めている(p96)

    ・アメリカでは1980年代の冷戦終結による左派勢力の破綻により、民主党側にいたリベラル派がネオコンとして共和党に入り込んできた。彼らこそがグローバリズムを推進してきた新自由主義者であり、共産主義と非常に親和性が強かった(p104)

    ・現在の世界が置かれている状況は、まさしく第一次世界大戦の直前と非常に類似している、イタリアで勢力を伸ばしている「同盟」がEUから出ていくと言い始めている、2018年11月のAPECではアメリカと中国の対立により首脳宣言が出されなかった(p105)

    ・世界の債権の6割がドル建てとされており、外貨準備に占める割合も6割を超えていて、ユーロの2割と比べても優位にある。(p129)

    ・日本とアメリカでは1929年の世界恐慌の影響で、銀証分離原則があるが、欧州ではこの原則が採用されていない。なので商業銀行が行なう信託業務を「プライベートバンキング」といっている、これが欧州をゆるがす金融危機の原因となっている(p131,142)

    ・第二次世界対円直前、各国が上海に租界をつくったが、これは各国の海外における出先所で、治外法権があり免税特区でもあった。イギリスは上海租界と、香港、シンガポールを金融センターとあしてアジア進出の橋頭堡としてきた(p133)

    ・リーマンショックが起きた原因として、クリントン政権において1999年、グラム・リーチ・ブレイリー法が制定され、商業銀行・投資銀行・証券会社・保険会社の統合が許可されたから(p143)

    ・ドイツ銀行危機の背景には欧州金融機関が抱える構造的な問題がある、リーマンショック直後の2008年10月、欧州金融機関は会計基準の変更を行った。保有する債券を、満期目的と「その他」に再分類し、満期目的については取得原価をベースに資産計上ができるようにした、これによりドイツ銀行は8憶ユーロ以上にのぼる評価損を、8憶ユーロ以上の黒字に転換させた(p152)

    ・G20で明らかになったのは、日本・イギリス・アメリカの関係強化と海洋国群vsユーラシア(大陸国家群)という構図であった。中国・フランス・ドイツが接近した。メキシコ、ブラジルはアメリカについた。アルゼンチン、オーストラリアもアメリカについたが、ハイブリッド国であるカナダはフランスについた(p176)

      2020年4月12日作成  

  • 一時期名経営者として持ち上げられた、カルロス・ゴーンの逮捕とその背景を国際的な政治体制まで含め分析した良書。

    タイトル惚れだったのだが、内容としてはゴーン逮捕の社内背景は初めの一章だけであり、残りはさらにその背景にあるグローバリズムとその終焉、それによって始まる世界のブロック経済化、米中対立や大陸国家対海洋国家という様々な視点から説き起こされる世界情勢の分析が秀逸だった。

    ただ残念なのは、この書籍が逮捕直後の発売であること。つまり、楽器ケースに入る前なのである。逮捕後も様々な物議を醸し出す、カルロス・ゴーン。是非続編をお願いしたい。

  • ゴーンショックに大陸国家vs海洋国家の対立を見る、というのは深読みすぎじゃないかと思うが、一つの可能性としては想定しておいたほうがいいだろう。

  • ゴーン逮捕が、11月19日。
    その背景と意味を詳しく分析する本が、もう出版された。
    注文したら、その日のうちに届いた。圧倒的なスピード感。
    ニュース、ネットで書かれているゴーン逮捕を
    より総合的な視点で、解説している。本もすごい時代になったね。
    ニュースやメディアで報道されているゴーン逮捕の
    グローバリズムと反グローバリズム(ナショナリズム)の視点で
    詳しく分析しているので、世界的な構図がわかりやすくなる。
    フランスのマクロンの狙いが浮き彫りになり、
    アメリカと中国の貿易戦争の中で、日本、ドイツ、フランスの
    立ち位置が 見えてくるのが面白い。
    実に、いい本だった。勉強になった。

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著者プロフィール

1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。海外の経済情勢に精通すると同時に内外の経済・政治状況のリサーチと解析に定評があり、2009年に出版した「本当にヤバイ!欧州経済」(彩図社)で欧州危機を警告してベストセラーになる。
近著「山口組分裂と国際金融」「パナマ文書」(徳間書店)「トランプ! ~世界が変わる日本が動く」(ビジネス社)「貧者の一票」(扶桑社)など。

「2017年 『平和ボケ お花畑を論破するリアリストの思考法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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